行かないで、そばにいて
咳で地味にHPを削られてゆく…
ゲフンゲフン(||´Д`)o
思春期をとうに過ぎて、しかも成人してから初恋を知った女ってどうしようもないなと今となれば思える。
私は当時、クライブへの恋心を募らせて、かなり面倒くさい女だったと思うの。
週に一度、彼が私の家に人参を使った料理を食べに来る。
そして週に一度、彼とカフェでスイーツをシェアして食べる。
私の生活はその二日間がメインとなり、あとはその日に備えるための準備期間として存在するようになった。
きっかけは自警団と商工会による形だけのお見合いだったけれど、どちらもお断りを入れずにいるということはそれなりに順調にお付き合いができているのだと、当時の私は思っていたわ。
そうやって何度かクライブを自宅に招いて食事を振舞っていたんだけれど、その当日に月のものが来て、激しい痛みと貧血でフラフラの状態になってしまった時があったの。
だけど彼に会うのを楽しみにしていたし、どうしてもその日ひとりではいたくなかった私は、鎮痛剤を服用して無理を押して料理を作った。
その日は人参のポタージュと縦長に切った人参にベーコンを巻いてソテーしたものと、人参のピューレを練り込んだパンを用意した。
滑らかに仕上がった人参のポタージュを鍋にかけて温め直して彼の訪いを待っていると、また下腹部痛を感じ始めたの。
(鎮痛剤の効きが悪いわね……。もうすぐ彼が来るし、なんとか保ってくれるといいんだけど……)
ポタージュがフツフツとしたので火を止めると、ちょうど玄関のチャイムが鳴った。
貧血のふらつきも感じつつ、玄関ドアを開けてクライブを迎え入れる。
『いらっしゃいクライブ』
『やぁこんにちは、ミルチア』
彼はそう言って、私の家を訪れる際にはいつも持参する小さな花束を手渡してくれた。
『ありがとう。今日はスイートアリッサムね。可愛い……』
私はさっそく花を花瓶に活け、料理をテーブルに並べた。
料理を見ながらクライブが嬉しそうな顔をする。
『今日も美味そうだ。いつも本当にありがとう』
『どういたしまして。それで?人参嫌いは克服できたのかしら?』
『もう完璧に。と言いたいところだけど、どうだろう?ミルチアが作る人参料理だから食べられるだけかもしれないからなぁ』
(それはつまり、私の料理は特別ってこと?)
なんて、恋する女の面倒くさい思考で私は内心喜々とした。
そうして食事を始めたけれど、痛みが増し始めた私はあまり食べられなかった。
それを見たクライブが怪訝そうな顔をする。
『どうした?食欲がない?』
『味見を沢山し過ぎてお腹がいっばいだから……』
『そう……?』
嘘をついてごまかしていたけれど、やがてそれも限界を迎えた。
食後の後片付けをしようとしたけど、痛みと貧血でその場にしゃがみ込んでしまう。
それを見て驚いたクライブが私のそばへと駆け寄った。
『ミルチア、大丈夫かっ……?』
焦った様子で私の隣にしゃがんで顔を覗き込んでくる彼に、なんとか微笑んで取り繕う。
『だ、大丈夫よ……大丈夫なの』
だから帰らないでそばにいて。
今日は、今日だけはひとりでいたくなかったから。
その日は祖母の命日で、冷たくなっていく祖母の手を握り、泣き続けた記憶が呼び覚まされる。
寂しい。
私をひとりにしないで。
逝かないで。
孤独と不安と喪失感と悲しみでぐちゃぐちゃになったあの日の記憶が思い出されて、この家にひとりでいることに耐えられそうになかったから。
だから不調でも無理をして彼を迎え入れた。
けれど……。
(私ったら……クライブの迷惑も考えずに……)
ひとりよがりの自分に辟易としながら、私の意識はそこで途絶えた。
どのくらい眠っていたのかわからない。
少しずつ浮上する意識の中で、耳が室内の音を拾う。
部屋の中で誰かが動いてる……?
食器どうしの擦れる音や水音が聞こえる。
(……誰?……なに?)
やがて完全に意識を取り戻した私は、自分がソファーに寝かされているのに気がついた。
身を起こしキッチンの方へと視線を向けると、クライブが後片付けをしている最中だった。
『……クライブ?』
私の呼び声が耳に届いたクライブが振り返る。
『気がついたか』
『どうして……?放っておいて帰ってくれてよかったのに……』
『そんな状態のキミを放って帰れるわけがないだろう。それに、ご馳走になったんだから片付けくらいは当然だ』
クライブはそう言って水を入ったコップを手渡してくれた。
『ありがとう……』
ソファーのそばにあるチェストの引き出しから鎮痛剤を取り出して服用する。
そして改めて彼に謝罪した。
『迷惑をかけてごめんなさい……』
『迷惑だとは思っていないよ。ただ、無理はしないでほしい。具合が悪いときはちゃんと言ってくれ』
『うん……そうよね。迷惑をかけて本当にごめんなさい』
そう謝ると、クライブは私の頭の上にぽんと手を置いた。
『何度も謝らなくていいよ。それに、迷惑だなんて思ってないから』
そう言って穏やかな笑みを浮かべる彼の双眸をじっと見つめる。
ああ……綺麗な瞳だな。
夜空と青空の瞳。
黒髪によく映える、漆黒と紺碧のヘテロクロミア。
どうしようもなく、彼が好きだと思った。
だから私は怖くなる。
彼がもし、私の祖父が国から嫌疑をかけられている人間だと知ったらどう思うのだろう。
かつて住んでいた街の住人たちみたいに、嫌厭するようになるだろうか……。
私の心はそんな不安に苛まれた。
明日も更新できるよう頑張る……!
( ᵒ̴̶̷᷄ωᵒ̴̶̷᷅ )و ̑̑




