第5話 レストランまでの逃走劇
霧の港の裏路地は、魔導灯 の光が届かない、真の闇だった。
ソラが全裸の騎士団長彫像をばら撒き、街中の住人と聖騎士団を混乱させてから、既に10分が経過していた。生徒たちは、ソラが発動させた「導きの金蛍」の金色の軌跡を追い、衛兵の死角を縫って駆け抜けている。
「おい、レン! 右だ! さっきの騎士団の配置は……ここからが魔素光子の範囲外!」
強気な少女、アインは冷静に指示を出した。彼女は情報収集の才能に優れており、聖騎士団が使用する索敵用の初級魔法や、衛兵の巡回パターンを瞬時に脳内で解析している。レンはある英雄の血を引くだけあって身体能力は高いが、まだFランク(ブロンズ)の域を出ず、緊張で彼の体は強張っていた。
「くそっ、見張りが多すぎる! 先生、どこまで行かせる気だ!」
レンが焦燥を露わに叫んだ。彼が求めていた「名誉ある騎士道」 とはかけ離れた、まるでドブネズミのような隠密行動だ。
ソラの声が、「導きの金蛍」を媒介に、二人の頭に直接響いた。
「おいおい、そんなピュアな動きしとったらすぐに騎士団に見つかるで? こんなんで見つかるんやったらドブネズミ以下やなぁ、レン」
「は?何で俺の名前、、、(てか心読まれてる?)」
「騎士団は、街灯の魔素残光頼みや。やから避けるばかりじゃなく、いっぺんわざと光の残影を引っ張って、デコイを作ってみい。わざと胸元のボタン開けて、期待させる清楚系みたいに、奴らのセンサーを敏感に反応させるんが逃走術のコツやで。」
ソラの指導は的確であり、彼らが衛兵の巡回を掻い潜るための唯一の答えでもあった。
不器用ながらも魔素残光を生かし、追跡してくる騎士団を撒き始めた。
そして、アインは気を耳に集中させ、周囲の状況を探り騎士団の位置を探る。
「衛兵の足音。30m先の交差点右方向からあと10秒で来る! レン、あの通気孔だ。早く!」
二人は寸前のところで騎士団の包囲網から抜けることに成功した。
◇
ソラの「導きの金蛍」に導かれ、彼らがたどり着いたのは、港の市場からさらに外れた、寂れた埠頭の裏路地だった。
騎士団も寄り付かない、非合法な取引業者や密漁師たちが集う場所。路地の奥には、木製の粗末な建屋が立っている。
ソラは建屋の陰から姿を現し、満足げに二人を見た。
「ようやったな。最高の食材は、誰も見向きもせえへん場所に隠されとるもんや。この廃屋こそが、今日あんたらが命懸けでたどり着いた、『港で一番旨いレストラン』やで」
疲労困憊のレンとアインは、廃屋の扉の前で立ち尽くした。
「ここが……レストラン?」レンは荒い息で尋ねた。
「せや。ここの店主は癖が強いんやけど、作る海鮮料理はこのベルナード港では一番やで。」
ソラは近くの木箱に腰を下ろした。
その時ドンッと扉が開き、赤色の長髪をなびかせた大女が現れた。
そしてそのたくましい腕でソラを地面にたたきつける。
「ソラァァァアァァァ!」
女の右手には赤い紋章が浮かび上がり、強力な波動がレンとアインに恐怖を与える。
凄まじい豪炎をまとった拳がソラに放たれた。




