表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

第2話 背徳の調教

聖騎士団が放った魔力弾は、未だ霧の空中に縫い止められたままだった。


それは、世界の理が暴力的に捻じ曲げられた、信じがたい光景だ。騎士団員は発砲した姿勢のまま硬直している。その指揮官――精悍な顔立ちのイケメン騎士は、額に冷や汗をにじませながらも、わずかに目を動かしてソラを睨みつけていた。


ソラは筆〈雲断くもたち〉を一度軽く振ると、停止した騎士団の列に向かい、ゆっくりと近づいていく。彼の腰に携えられた筆は、黒の本体に走る金色の線が、微かに赤く光ったままだった。


「いやぁ、あんたらええ顔しとるわ。渾身の力で熱く放り投げたのに、寸止め食らわされたみたいで最高やな」


笑いながらソラは、停止した魔力弾を指先で軽く弾いた。弾丸は動かない。


ソラはそのまま、列の最前列にいる指揮官のイケメン騎士の前に立った。騎士の甲冑は、本来、光魔法による防御結界に守られているはずだが、その魔力すら、ソラが描いた一文字の前では、ただの虚飾だ。


「特にあんた。騎士団長さんやろ? そのガチガチに固めた鎧の下で、あんたの心が今、どんな悲鳴あげとるんか、、、すごく興奮するわ」


ソラは筆の穂先を、騎士団長の完璧な甲冑の胸元、心臓の真上ギリギリに触れるか触れないかの距離で止めた。


「秩序を愛するあんたにとって、自分の意志とは関係なく、世界に強制的に停止させられるって、すごく屈辱的やろ? 渾身の衝動を止められて、あんた、今すごく…不完全な状態やろ? その満たされへん渇望の痛み、先生に教えてくれへん?」


「一筆入魂:ぬげ


胸に書かれた「脱」の字から赤黒い閃光が走り、騎士団長の装備は下着ごと自ら弾けた。


彼の全身から蒸気が立ち上り、周囲の空気が熱で歪む。鍛え抜かれた肉体には無数の傷跡が刻まれ、その一つ一つが彼の戦いの歴史を物語っていた。


「ええ肉体からだしとんやん。いっぺん今度楽しませてもらおか、美人さんも呼んだるで」


騎士団長は、肉体的な自由を奪われたまま、人生で感じたことの無い羞恥を与えられていた。彼は憎悪と羞恥に顔を歪ませるが、声は出ない。ソラは騎士団長の顎を優しく、しかし有無を言わさない力で持ち上げた。


「大丈夫や。あんたの熱い理不尽、先生が全部受け止めてあげるから。動かん身体で、たっぷり味わうとええよ」


この光景を背後から見ていたFランクの少年少女たちは、息を呑み、反射的に顔を背けた。ソラが持つ力の絶対的な恐怖に加え、そのドSで背徳的なユーモアが、彼らを純粋な嫌悪と畏怖の感情で固まらせていた。


ソラは生徒たちを一瞥すると、関西弁で陽気に言った。


「見てみい。こいつらは、ルールを支配できんかった敗者や。この世界のルールは、常に誰かに支配されとる。自分ら、いつまでも他人のルールの上で踏み躙られたいか?」


その言葉は、生徒たちの逃避行が、絶対的な力を持つ教師による、背徳的な調教の場と化したことを突きつけていた 。ソラの行動に対する本能的な拒絶反応は消えない。


「さて、このまま硬直させとくんも飽きるわ。静止した獲物よりも、興奮して暴れ回る獲物の方が、先生は好みなんや」


ソラは騎士団長から離れ、筆を再び空に構えた。次は、空間にどんな現象を描き出すのだろうか。生徒たちの間に、底知れない不安が広がった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ