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嘘を売る少女と24時間の願い  作者: お試し丸
2/5

第2話「嘘の現実、24時間の奇跡」

屋台の明かりは、夜風に揺れて小さな影を作る。

結城紅葉は、手のひらに残る淡い光を見つめていた。

――さっき少年・蒼月圭の願いを受けた嘘が、これから現実になる。


「――始めるね」

紅葉の小さな声は、夜の静寂に溶けていく。


懐中時計の針がひとつ進むたびに、空気が微かに震える。

まるで時間そのものが息を吐くように、街の灯りがわずかに揺れた。


やがて、圭の家の病室で、奇妙な静寂が訪れる。

父はベッドに横たわっている。呼吸は穏やかだが、表情は硬いまま。

「お父さん……」

圭が恐る恐る声をかけると、父の目がゆっくりと開いた。


「……久しぶりだな」

その声は、長年忘れられていた温度を持っていた。

紅葉は遠くから見守りながら、胸に小さな痛みを覚える。

嘘を紡ぐたびに、彼女の心には必ず“疵”が刻まれるのだ。


圭の父は、思ったよりも多くの言葉を口にした。

「元気にしてたか」

「学校はどうだ」

「……たまには遊びに来いよ」


それは、嘘として現実化した24時間の会話。

しかし、父の言葉には確かに“真実の気配”が混ざっていた。

――嘘は、願いを叶えるだけでなく、人の心を少しだけ変えることもあるのだ。


だが、外の世界では予期せぬ波紋が広がり始める。

圭の父が元気に会話していると、隣人たちは「奇跡だ」と噂し、病院には問い合わせが殺到する。

小さな町に、嘘が生んだ混乱が静かに忍び寄る。


紅葉は屋台の灯りの下で目を細める。

「……これは、やっぱり想定以上ね」

彼女の指先には、まだ淡い光が残り、心に小さな痛みが走った。


その痛み――“疵”――は、嘘の重さに比例する。

強く願う者がいるほど、現実化は安定するが、代償も大きい。

紅葉はそれを知りながら、今日も嘘を紡ぐ。


夜が更け、24時間の期限が近づく頃。

父の表情は、少し疲れたように見える。

「……もう少し、話したかったな」

圭の瞳には、期待と不安が入り混じる。


時計の針が零時を指す瞬間、空気がひゅっと冷たくなる。

嘘は静かに溶け、父の言葉は消える。

しかし、圭の胸には、たった一日の奇跡が確かに残った。


紅葉は屋台に戻り、深く息をつく。

「――今日も、終わった」

肩に小さな重みを感じる。

それは、嘘を叶えた代償の痛みだった。


夜の風が屋台を撫でる。

「でも……少しは救えたかな」

紅葉は微かに笑う。儚い光を指先で撫で、また次の依頼を待つ準備をする。


遠くの街灯が一つ、二つと灯る。

紅葉の目には、今日も誰かの願いを守るために必要な、静かな決意が映っていた。


――24時間だけの嘘屋の、二日目が過ぎる。

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