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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
四章 不死の王
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九十九話 1と大規模戦闘


光を極限まで凝縮した漆黒の球。それを、指先に起き、先行する部隊の左側に狙いを付ける。

人差指と親指を立て、ピストルの形にした手を前に突き出すと漆黒の光は撃たれるのが待ち遠しいとばかりにざわめき出す。


後は、ただ前方に向かって魔力を開放するだけだ。


「レーザー・カノン―――――バンッ!」


その台詞に特に意味はない。気分的な問題だ。それでも、私にとって魔法とはイメージであり、より鮮明であればある程、威力もコントロールも上がる。

しかし、これに関しては失敗だった。狙いを定めようと思ってピストルの形で撃ちだした光の奔流は、その通り正確に敵に向かっていったが少し、凝縮し過ぎたようで、敵の一部を撃ち漏らしてしまう。


「っと、もう一発撃っておこうかな」


一人言の様にそう呟く頃にはすでに、指先には漆黒の光は出来上がっていた。先程より小さい分、魔力の消費も小さく、溜め時間も短い。


「――――バンッ!」


その言葉と共に意識的に、弾かれた様に肘を曲げピストルを空へと向けると先程よりも、幾分か小さい光の奔流が残りの敵を飲み込んだ。

これで、私の仕事は一先ず終わり。これ以上の無闇に魔法を撃てば味方を巻き込みかねないから、リュート達が徐々に下がって来るのを待つだけだ。


先行部隊の数は敵の総数に比べれば余りにも少ないから、無茶をする事はなく少しずつ下がってくるだろう。そうなると、激戦になるのはもう少し後の事であり、まだ力を抜いていて大丈夫だ。

そう判断してのんびりと前を見る。今はリュートのお父さんが敵の先頭集団と接触した所だけど……それで私は自分の目を疑った。巨大な剣を振るう度に敵が数匹纏めて吹き飛び散らかされている。目を擦り、もう一度見てみるが、その光景は変わらない。


もしかしたら、この世界の人間という種族は私の居た世界の人間と少し違うのかもしれない。魔法は、こっちの世界に来た時から私にも使えたから世界側の問題だろうけど、あの怪力はありえない。ていうか、思い返してみたらリュートからしても身体性能が良すぎる。

そんな事を考えていると前線は見る見る内に後退してきて、後方から「射て!!」の号令と共に大量の矢が放たれた。それは、後退しつつある先行集団の頭の上を通り過ぎ、更には敵集団の先頭の上を通り、確実に味方の被害がでないであろう敵の後詰めに向けて雨の様に降り注ぐ。

その掃射の御陰で敵先頭集団を倒した直後に少しの隙間が出来、先行隊は此方の待機していた前衛部隊との合流を果たした。


「あの、私はどの辺りを援護したらいいですか?」

「あ、はい!魔女様は敵の数が多い場所に魔法を打ち込んでなるべく数を減らしてください!今なら……丁度、リュート様のいる辺りです!」

「わかった、ありがとう」


さて、残念な事に私は集団戦と言うものが根本的にわからない。これまでの小規模戦も殆どリュートの指示に従ってきただけだと、今更ながらに気づき、自分で考えれるようにならなきゃなぁ。と、思いつつも今ボヤいても仕方ないので、身近で指示を忙しなく飛ばしてる女性に聞いて見た所、結構丁寧に教えて貰えた。


自警団と言えど、軍には厳しいイメージがあった為、ちょっと安堵。


リュートの居る位置は確かに敵の密度が非常に高く……いや、きっと彼の事だから、また自分の命を軽視して、一番危ない所に駆け込んだのだろう。まったくもって仕方ない勇者様だ。


「ま、私がフォローするから良いんだけどね」


そう言いながら、私は空中を駆ける。

足元に次々と魔力を固定した足場を作り、身体能力を強化した上で魔力ブロックの上を鹿の様に跳ねていく。


「リュート、護衛お願い!」

「ミナ!?ちょ、馬鹿!!」


リュートの苦情を軽く聞き流し、彼の頭上をも通り過ぎる。目標は敵の真っ只中だ。

最後の魔力ブロックを蹴るり、地上まで数Mはあるかと言う位置から魔法……いや、正確には能力を発言させる。


「魔剣召喚!!」


そして、私を中心として現れる幾多の剣、剣、剣、剣。それは重力に従い、実体化と共に地上に規格外の破壊力を持った矢の様に突き刺さる。しかし、これはあくまでも、適当に召喚しただけだから、どうあがいても避けれない程の密度の場所もあるが、当たったはいいが仕留めきれない場所もある。そして、一番の問題が、運良く一本も魔剣が当たらなかった個体だ。

魔剣と一緒に地面に付いた私は、即座に次の魔法を詠唱するが、幾ら漢字を用いた高速詠唱でも私の周りに迫る数匹の獣型の敵を全て相手に出来る程の魔法は間に合わない。

ましてや、今準備しているのは、扇状に広範囲を攻撃する予定の魔法であり、間に合うハズがない……けど、大丈夫。


「少しは……オレの心配も考えろっ!」


そう言いながらリュートは降りしきる全ての魔剣をすり抜けて、私に迫る魔獣を切り落した。それは、彼のお父さんの様な剛剣にて、一振りで吹き飛ばした物ではなく、私の目には光の剣線しか映らぬ程の速度を持った連撃だった。


「大丈夫よ、信じてるもの」

「そういう事言われたら守らない訳にはいかないだろうが」


彼はさぞかし迷惑そうにため息を付きながら剣を肩に担ぐ。言葉とは裏腹に護衛はちゃんとしてくれるらしい。


「行け!アイスエッジ!!」


リュートが稼いでくれた時間ですでに詠唱は終わっている。

両手を地面に突き、その魔法の名を呼ぶと、幾つもの水中が飛び出し、敵を貫く。ケーファーと話していた時に魔力の圧縮が得意と聞いていて思いついた魔法だ。魔力を圧縮し、そのまま水鉄砲の様に打ち出す。圧縮された水が鉄をも切り裂く凶悪な刃になるのは知識で知っていた為に、そのまま槍の様に突き出し……凍らせる。

そうすれば、もし、致命傷にならなくても、動けはしないだろう。


でも……失敗ね、これ。


実は、レーザーカノン以上の魔法を作り出そうと思っていたのだけれど、明らかに射程も威力も貫通力も劣っている。唯一優れているとすれば、その広大な範囲か。私が手を付きた先数十Mまで扇状に攻撃は広がり多くの敵を仕留めた。


「すごいな、ミナ。また新しい魔法か」

「……失敗作を褒められても微妙な気分ね」


そう言って、少し頬を膨らませて視線を外すと、リュートは「これが失敗作!?」と軽く驚いている。そこまで驚いてくれるなら少しは作ったかいもあったのかもしれない。


「おいおい、二人だけでイチャついてんじゃねぇよ。俺の出番を取る気かい?」

「恋人とイチャついて何が悪い。残念だけど、アンタの出番はないよ」


リュートに悪態を付きながらガシャガシャと金属の擦れる音を鳴らしながら歩いてきたのは、彼の父親だった。大量の敵を一度に始末した事から前線に余裕が出来たらしい。


「ふむ。しかし、まだ生きている敵も多いみたいだな」


そう言ってリュートの父親は剣を頭上に上げて、そのまま地面に突き刺した。なんで、そんな大剣が地面に半分程刺さるのか聞きたい所だけど、生憎、まだリュートのお父さんと話すのは流石に緊張して、軽口は飛ばせない。

見ると、確かに水砲で貫かれた敵で動いていないのは半分程で、残りはどうにか氷の刺から脱出しようとしている。仕留めきれなかった場合、動きを止める事を考えた魔法なのだから、当然の結果なのかもしれない。けど、思えば、このコンセプトにした時から暴力的なまでの破壊魔法レーザーカノンには叶わない事が決定していたのかもしれない。


「おい、馬鹿!辞めろ!ミナ、逃げろ!!」

「へ?きゃっ!?」


リュートのお父さんが大剣を地面に刺したままニヤリと口元を歪めると、リュートが大慌てで私に抱きついて、地面に押し倒して覆いかぶさってくる。流石の私も、何が何だかわからず混乱し、まともな思考ができない。

何も、リュートが今ここで襲ってくるなんて思ってないけど、ここまで庇う……とも取れる行動をする意味もわからない。

そして、リュートのお父さんは、そんな私たちを気にした様子もなく魔法を行使した。


「閻竜の戯れ――――――喰らいやがれ!震激!」


その言葉と同時に地面に突き刺した剣を前方方向に向かって切り上げる。地面は半分程埋まった大剣に切り裂かれ、次いで……爆発した。

爆発といっても、炎を伴ったソレではない。地面が隆起し崩壊し砕け散った爆発であり、それは私の作ったアイスエッジすらも粉々に砕くほどだった。勿論、それを受けて尚まともに動こうとする敵はもういない。


「何、今の……?」

「閻竜の魔法を地面の中に放って地中をぐちゃぐちゃにした後に、力技で敵側へと向ける。その結果がアレだよ。局地的に崩壊して範囲内は酷い事になる」

「すごい……。で、この体制の意味は?」

「あの魔法、アイツ自身もコントロールできないんだ。現役時代、オレの知ってる限り二度、自分の所属してる部隊の足元をドカンとやってる」


それを聞いて私の背中に冷たい汗が流れるのを感じた。つまり、あの敵側で起きた事が下手したら私達の足元で起きていたと聞いては恐怖を覚えても仕方ない事なんじゃないかな?


「まったく、大丈夫だよ。99%は感でわかるから」

「感ってなんだよ!後、残り1%はやっぱ自滅じゃねーか!」


リュートが土埃を払いながら立ち上がり抗議の声を上げるが、私は「あはは……」と微妙な笑いを返す事しかできずにいた。

そこに、この作戦中、まったく姿を見せなかった魔人が空から降りてきた。


「お待たせ、リュート」

「おう。ちゃんと会えたか?」

「うん。ちゃんと貰ってきたよ。ちょっと試してくるからよろしくね。消費次第だけど、多分数分で魔力が切れると思う」

「了解。んじゃ、また後でな」


そう言って、ケーファーはまた空へと飛び立ち敵の中心へと向かっていく。そういえば、この戦いの最中にケーファーとルーシーを見かける事はなかった。

私は、弓掃射の一時中止を叫んでいるリュートにその事を聞いて見た。


「あぁ。今のケーファーにアイツらに対して有効な魔法がなかったからな。だから会いに行ってたんだよ。新しい竜に」

「新しい竜って、まさか……」


そう言った直後、敵側から身の毛もよだつ程の低い咆吼が聞こえた。

その声は、人間が本能的に持つ恐怖を呼び覚ますのに十分なもので、今まで同種の死すら構わずひたすら前進してきた、正体不明の敵もその歩みを止める程だった。


「おぉ、ありゃぁ閻竜召喚か?伝説にしか存在しない魔法だと思ったぜ」


リュートのお父さんが私の隣で関心した様にそう呟く。竜魔法は三種類に分かれていて、その龍の特性を持つ魔法、その竜の一部を顕現する「顕現」魔法、そして竜そのものを魔力で具現化する「召喚」に分けられていて、顕現でさえ使える人間は極少数だと言う。

敵の中心に現れた真っ黒く輪郭がどこかボヤけた竜は、間違いなくケーファーの閻竜召喚。召喚級の魔法を見たのは、私も、炎竜召喚以来だ。


ケーファーの閻竜の手が尻尾が足が敵に触れる度に、正体不明の敵は分解され跡形もなく消え去っていた。


こうして、数分のケーファーの大進撃もあって、私達はまたしても、奇跡的に一人の死者も出さずに正体不明の敵の撃退に成功した。

だけど、これはあくまで死者がいなかっただけで、怪我人はこれまででも最大規模だったようで……リュートや私達が居たにも関わらず過去最大の被害が出た戦いは、これからの戦いの厳しさを物語っていた。

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