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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
四章 不死の王
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九十七話 100と婚約者


久しぶりに実家の扉を開けると、以前と変わらぬ見慣れた光景が広がっていた。

屋敷自体は広いが、調度品は質素なもので、華やかさの欠片もない。その変わりと言っては何だが、歴史に名を残す先祖の壁画や、昔は名剣と呼ばれていた過去の栄光が飾られている。

名門としては明らかに色がない家ではあるが、これこそが代々強き騎士を輩出して来たオレの実家だ。


「しかし、まったく変わりがないってのもどうなんだよ。借金は全部返したんだろう?」

「元より強さに金などいらん。たゆまぬ鍛錬こそが重要なのだ。絢爛豪華な壺を買った所で剣の腕が上がる訳でもあるまい」


それもそうなんだが……。と、心の中で返す。


どうにも、この巨体な堅物は融通が利かなさすぎる。

コイツの振るう大剣は手数こそ少ないが、一撃の重さはオレをも凌ぐ。昔、魔獣を吹っ飛ばした大振りは今でも忘れられず、それどころか、オレ自身の対魔獣戦の剣技の参考にすらなっている。

それ程の剛力があり、腕も良いのだが、自分の納得した事以外は命令だろうと一切聞かず、その為に上に行けなかった程だ。

本人は、最前線で戦うのが好きだった為に立場に興味がなく何も後悔していないらしいが、今は亡き祖父は、その事を随分と嘆いていた。


そんな人間の住む家なのだから、当然、広い屋敷の中でも実用している部屋は少なく、活動範囲は小ぢんまりとして、この屋敷の中では一番華やかである大客間へもすぐにたどり着く。

不必要な程に大仰な扉を開くと、大窓からの日差しが部屋を照らし、大きなテーブルの上にも申し訳程度にだが花が飾られている。

流石に様々な人物を迎え入れる部屋だけは流石に気を使っているようだ。……いや、多分、母さんだな。

コイツにそんな殊勝な真似ができるとは思えない。


しかし、よく見ると申し訳程度に飾られた花の奥に誰かが座っている。


日差しを受けて輝く金とも白とも取れない中間の色合いを持った髪は肩よりも短く整えられているが、全体的に細めの体付きに整った顔付きは恐らく女性だろう。断定できないのは、その目が閉じられていて唇も固く一の字に絞められている為に、もしかしたらという考えも物色できないのだ。


だが、その瞳も来客に気づいてかゆっくりと開かれる。


「貴方がリュート=フェトムか?」


彼女は席を立ち蒼い瞳が此方を真っ直ぐと見据えてくる。


そこで初めて女性だと確信するが、赤色の地味なドレスを着ているにも関わらず、その印象は更に男性的……いや、まるで騎士で有るかのように凛としていた。


「今はただのリュート。リュートだ。良かったら名前を聞いても?」

「失礼した。私はパメラ。パメラ……いや、すまない。良かったら家名はなくても構わぬだろうか?貴方との関係は、察しの通りだ」

「構わないよ。よろしくな、パメラ」


そう言って互いに握手を交わす。彼女の言い分からして、やはりパメラが婚約者だろう。

ふと、違和感を感じて後ろを向くと、ミナが何やら非常に複雑そうな表情をしていた。ちなみに、事情を知っているケーファーとルーシーはミナの様子を見守っている。


「なんか、戦友って感じ……」


そう、ポツリと呟く。

確かに彼女は貴族のお嬢様と言うよりは、アティに近い気がする。


「戦友か。はは、中々に面白い事を言ってくれる。これでも剣を握った事はないが……まぁ、昔から気が強くて嫁の貰い手には困っているな」

「む……言っとくけど、リュートは渡さないわよ?」

「……ほう」


面白そうに笑うパメラに、ついにミナが危機感を覚えたのか、オレの片腕に抱きつきながらそう言う。

だが、パメラはそれすらも面白そうに、にやけている。

しかし、余談だが腕に当たる柔らかいとも断言できない感触はオレ個人にとって非常に貴重な物であり、普段からもう少しこういう態度を見せてくれても良いんじゃないかと思わざるを得ない。それとも、口では甘い事を言ってくれるだけ依然よりずっとマシと考えるべきなのか。


「まぁ、私としても家に決められた結婚だ。そう無理に奪うつもりもないが……リュートは少し気が合いそうだと思っただけに残念ではあるな」

「家の方は良いのか?」

「言ったでだろう?じゃじゃ馬で嫁の貰い手に困っているのだよ。うちの父親はどうにも名誉にこだわる節があってな。断られるのは、これが初めてと言う訳でもない」


そう答えるパメラは少しだけ困ったようにもしながら、本当に気にしていない様子だ。

その姿を見ると少しだけ忍びないが、生憎、ミナを裏切る訳にもいかない。どうしたものかと少し考えたが、不意にもう一人の兄弟を思い出した。


「兄さんの嫁になればいいんじゃないか?」

「ほう。そういえば、リュートは次兄だと聞いていたな。いや、しかし、そんな事……」


フェトム家は実は結構な立場のある家であり、その長男であるコガ兄さんは貴族や商家から見れば結構な上物だ。本来なら、相手は厳選して家に取って利益の多い所へ行くものであるが……。


「あぁ、コガか。そういえば、生きてたしな。怪我の為に療養に戻るって言ってたし、アイツでもいいんじゃないか?」


つまり、うちの親父はこんな奴なのである。







「さて、丸く収まったな」


家の無駄に広い庭に出て背筋を伸ばす。あの後、何やらパメラと堅苦しい話を少しした後に、見合いはコガ兄さんへとシフトした。向こうの家も、次兄ならなんとか……。と思っていた物が、まさかの長男になった訳だから文句もないだろう。


「まさか、ここまで簡単に終わるとは思ってなかったわ」


後ろから歩いてきたミナがオレの隣に並んで肩を落としながらため息を吐く。

その様子に緊張はなく、どちらかと言えば力が抜けたのだろう。話を聞いてから、内心かなり不安だったに違いない。

そのミナの頭を横から無理矢理押さえ込み、半強制的にオレに寄りかからせる。


「きゃっ!?ちょっと……」

「どっちにしろ、オレは家を出てる。家の言う通りの婚約なんてありえないさ」

「わかってる。頭ではわかってるけど、不安なものなのよ。私が読んだ話の中にも家の都合で別れざるを得なかった事とか多いの」


そういうと、恥ずかしそうに顔をオレの胸元に埋めてくる。甘えてくれるのは嬉しい反面、この体制だと、表情が見えないのも残念だ。

その頭を軽く触れるように撫でる。


「私……リュートに髪撫でられるの、好き……かも」


もし、ここが喧騒の中であれば、その声は掻き消えて聞こえなかっただろう。その程度の声で、しかし、はっきりとミナはそう言った。


「まぁ、イチャつくのは勝手ですけど。一応、人の家ですよ?ここ」

「……元、オレの家でもあるんだがな」


声が聞こえた瞬間、ミナは反射的にか慌ててオレから離れて距離を取った。その速さはまるで魔人の技で身体強化をしているんじゃないかと思える程、素早く見られた瞬間であれば、体を寄せ合っていた事に気づかれなかったかもしれない。

だが、この声の主、うちの妹……アティはわざわざ足音を消して近づいて来たあげくに、ひとりきり様子を見た上で話掛けてきたのんだろう。というか、オレでさえ近くにいるのに気づかなかった。


「アティ!?これは違!別に私、リュートに甘えてなんか……!」

「はいはい、ご馳走様です。別に良いですよ。ていうか、茶々入れる為に来たんじゃないんです、私も。むしろ……」


そこまで、ジト目で半分攻めるような雰囲気だったアティが、ふいに真面目な顔になり、言葉を続ける。


「邪魔をして、ごめんなさい。私、ミナさんの事は前回の戦いで結構認めているんです。だから兄の事よろしくお願いします」


アティは王都でのミナへの頑なな態度がまるで嘘だったかのように頭を下げる。ミナもそれを見て、呆気に取られ顔を赤くしたまま何を言えばいいかわからなくなっているようだ。

しかし、此方のそんな様子もお構いなしにアティは前髪をいじりながら、話し出す。


「魔界の浅い所にいたパーティーが、うちの領土に逃げてきました。原因は、例の正体不明です」

「あの道中の人型か!?」

「いえ、ちょっと違いますが……」


そこでアティは言葉を濁す。どうやら、あの正体不明の敵とやらは、人括りにできるものでもないらしい。


「兄さん、お願いします。手を貸してください。今、自警団の方々が準備をしていて私も先頭に立ちます。ですが、今まで犠牲が出ていないのが奇跡としか言い様がない程に戦いは厳しいものに……」

「リュート、どれくらいで準備できる?」


ミナがアティの言葉を途中で遮る。しかし、言葉の内容は、彼女の意思に賛同していて、あくまで少しでも時間が惜しかっただけだ。


「……ケルロンも連れて行く事を考えると10分」

「う……私は流石にもうちょっと時間欲しいな」

「ケーファーとルーシーにも聞いてみないとな。でも、あいつら二人は準備なんてなさそうだ」


そういうと、ミナは、そうね。と言って軽く笑う。


「あの……良いんですか?これ、お二人には関係のない事ですよ?」


余りにもあっさりと話を進めているからか、アティは心配そうに訪ねてくる。しかし、良いも悪いも妹が最前線に出ると言うのに、オレが後方で引きこもっている訳にも行くまい。


「未来の妹になるかもしれないアティを見捨てれる訳ないでしょ?それに、私たち、好き勝手やって来てるけど、目の前の人の危機は放って置かないわよ」

「そういう事だ。それより時間の猶予はどれくらいありそうだ?」

「えっと、正直、余りないです。と言いますか、パーティーがほぼ敗走状態だった為に、不明です。南に簡易的な防御施設を作ってあるので、そこで待ち構えれると良いのですが……」

「じゃぁ、急ぐか。ミナ、ケーファーとルーシーにはオレが声を掛けてくる。そっちの準備も済ませておいてくれ」

「ん、わかった」


短く交わして屋敷の中に入る。

武器は魔剣があるが、一応普通の剣も一本借りておこう。と思い、屋敷の中を走っていると、対面から親父が歩いてきた。

その姿は、分厚い甲冑に包まれていて、背中には身の丈程もある大剣を背負っている。戦闘時には、この大剣を片腕で振り回すというのだから恐ろしい。

向こうも、オレに気づいたようで、その口元を不敵に釣り上げる。


「アンタも出るのか。歳は大丈夫か?」

「ひよっこが。本当の強者と言う者を見せてやろう」




私信になってすいませんが、活動報告の方でコメントをくれた方ありがとうございます。大いに参考にさせていただきます。


が、もっと細かく書こうと思っても、活動報告の方って返信機能ないのですね……orz

ちょっと驚きました。

細々とですが、使っていくと思いますので、時間かかると思いますが、次の記事書く時に返信させていただこうと思います。


余り読者が多い話でもないので(いや、自分の中では十分すぎる程多かったりするんですが)、貴重なコメントをくれる方は本当にありがたい存在です。

本当に、お世話になってます。いつもありがとうございます。


誤字脱字報告は文章の向上にもなりますし、作者のモチベーションにも繋がっています。

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