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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
四章 不死の王
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九十五話 初代魔剣使いと不死の王

タイトル通り、アウル視点の話になります。


前の話より、少し日付が進んだ話になりますが、少し展開が早くなりそうなので、ここら辺で出しておいた方がいいかと思い乗せた話になります。

時系列的には、これの次の話より更に先の話になりますが、良ければよんでやってください。


後、ちょっと長いですorz

それはリュート達が実家に返り、今より数日たった少し未来の話。


聖殿都市に備えられた高櫓、それは高度を利用して壁の内側から壁の外側を攻撃する為に備えられた施設だった。

弓兵等を備えてもいいが、多くの場合はより強力な範囲攻撃を扱える魔法使いが配置に付く事が多い。

聖殿に魔族が攻めてくるのは長い期間で見れば、そう珍しい事もなく、その都度に櫓は多くの魔族を屠るのに役立ってきた。

そして、それは此度の戦争でも例外ではない。


「合わせろ!3,2,1……撃てぇ!!」


櫓下で叫ぶ指揮官らしき男の号令に合わせて多くの魔法が一斉に放たれる。

主な属性は炎。次点で雷が多く、その他の属性もちらほらとあるが、基本的には各々が得意とする魔法のなかで最も範囲攻撃に優れている物を敵集団に向けて撃っているだけだ。


敵の集団は、未知の白黒まだらの化物が主流であり、既存の魔獣は見えない。が、それとは別に後方に魔人がいるという報告が上がっていた。

白黒まだらの敵は、これまでの戦争には残っている記録を見た限り出てきた事はないが、少し前から魔界では頻繁に出没しており、その対策方法は人間側全員の頭に入っていた。


一見すると斬撃だけでなく高熱、零下、電撃等々魔法に強いように思えるが、一定以上の耐性はないらしく、それを超える魔力をぶつけると、あっさりと停止する。

遠距離から多数の魔法使いによる爆撃を受ければ、その個体の半数以上は前衛陣に到達する事は叶わない。

しかし、この敵の最も厄介な所は、その耐性ではなく統一性の無さだった。

ウェアウルフの様な犬型もいればオークの様な巨人型もいる。魔獣であれば同一の個体以外とは争い合う為に対策も練りやすいが、この敵に関しては複数の魔獣に対する対策を状況に応じて使い分けなければいけず、それが前衛陣の手を焼かせた。


壁の外に出ている近接戦闘部隊は壁上にいる弓兵と連携を取りながら、それらの敵を相手にしていたが、魔法部隊程の戦果は上げれずにいた。

そして、魔軍側にとってまだらの敵は時間稼ぎの為の使い捨ての駒に過ぎず現状で十分目的を果たしていたのだ。


「適当に作り上げた急造の実験体だが……中々役に立つではないか」

「不死の王、すみません。私共の怠慢故に……」


まだら部隊の後方。まだ魔法が届かない場所で不死の王とヨミは実験部隊の様子を見ていた。

不死の王の実験により動物が変異した魔獣類は当時こそ王の言葉を聞いていたが、長い年月を経た上に独自の進化とも言うべき道を歩んでいて、その種類は多様化し、王の言葉等見向きもしなくなっていた。

だからと言って、人間達が油断していた数千年前の様に一から魔獣を造るという悠長な事はできず、苦肉の策として魔獣の再利用とも言える実験の結果がまだらの部隊だった。


不死の王を蘇らせた勇者の能力を参考にした物だが、不死の王は満足している。


その様子に最初に気づいたのは櫓にいる魔法兵だった。

ゆっくりと歩く不死の王は上からは丸見えで何発も魔法が打ち込まれているように見えるが、その足は止まる気配がなく、ゆっくりと近づいてくる。


「隊長、魔人です!恐らく報告にあった魔王種かと!」


魔法兵は下にいる男に大きな声でそれを知らせると男は手に持った魔道具へと魔力を通す。


「……来ました。魔人です。魔剣を、お願いします」







雨霰のように降る魔法の中を不死の王は平然と歩く。

正確には、何度も致傷と言えるダメージを受けているにも関わらず、その都度回復しているだけだが、その姿はリュートと違い苦痛等まるで感じていないかのようだ。

隣を歩いていた蔓の女性、ヨミは残念ながら途中で焼け落ちてしまったが、人型の蔓は彼女の本体ではなく、言わば枝の一本でしかない為、魔界の奥深くに佇む本体には何ら影響はない。


しかし、その魔法の雨がふと止んだ。


人間の前衛集団との距離は少し空いており、まだ味方を巻き込む心配は少ないハズである。

何かある……。そう思うのが当然であり、不死の王の予想通り人間の集団の中から、白赤装束の女性と青い髪の男が歩いてくる。

その姿は不死の王にとっても懐かしい物であり、彼は珍しく驚きの声をあげた。


「ほう。どういう事だ?人の寿命は精々100年だと思っていたのだが、この世界の人種は長寿なのかな?」


まるで思ってもいない事を戯れて不死の王は懐かしの敵対者に語りかける。

一方、アウルとナギも、この相手は予想外だったようで驚きを隠せない。


「不死の王?そんな……あの時、シグルドさんが確かに心臓を貫いたハズです……!」


いつも物静かなナギが珍しく声を荒げる。

それも無理はない。二人にとって今までの魔王等、不死の王に比べれば、そこらの魔人と大差ない相手だった。

シグルド以外、誰も歯が立たなかった初代魔王、それが今目の前にいるのに、勇者シグルドは遥かな昔にこの世を去っている。

今残っているのは、アウルと彼の為にヒーリング能力を無理やり駆使し老化を停止している巫女カミナギの二人だけだった。


「魔剣か。それさえ無ければ俺を倒す手段はなくなると言って良い。よし、貴様等、ここで死ね」

「残念ながら俺はもう死んでいるんでね。お前も一緒に連れて行ってやるよ、不死の王」

「……っ!アウル、指示をお願いします!」


すでに実体のないアウルは魔剣を持つことすらできない。

代わりに魔剣を継承したナギことカミナギが剣を構える。が、カミナギの剣技はアウルやリュート、剣術の頂点に近い者には及ばない。

唯一、桁外れの初代魔王に対する有効な攻撃手段があるとすれば……魔法剣。

数千年前には無かった、必殺の剣技だけだ。


「神に仕える女がどういう訳か、この世の理から外れたか。俺が輪の中に戻してやろう」


不死の王がそう言うと姿勢を低くして一気に距離を詰めてきた。

その手にはいつの間にか片刃の長剣が握られている。


「今の私に、神に仕える資格はありません。ですから……この名のカミも捨てました。」


振り上げられた長剣を防御し、弾き飛ばす。

伝承では不死の王は最悪の化物のように綴られているが実際には弱点もある。その一つとして、彼は通常の状態では腕力はお世辞にも強いとは言えず、日々鍛錬と積み重ねてきたナギの方が上回る程である。

しかし、彼の名は魔王。その本職は魔法による戦闘だ。


それを示すように弾かれた剣は無理せず後ろに構え、左手をナギに向けている。


「まぁ、効かぬであろうな」


そう言いながら放たれた爆風は本来ならば後方の前衛部隊にも被害が及ぶ程の恐ろしい威力だった。

しかし、魔剣により防御された爆風は、その効果に従い霧散する。

リュートと戦った時は確かに無かった無力化の能力が何故、今ここで再び発動したのかはわからない。

それこそアウルには不死の王と戦う運命としか思えなかった。


爆風を切り裂き、今度はナギが不死の王に斬りかかる。

上段斬りから始まり、剣戟を重ねていく。間違いなくナギが押しているのだが、不死の王はまだ余裕を崩さない。

しかし、その余裕こそがアウルとナギに本来絶対に勝てるハズのない相手に付け入る隙を与えている。

不死の王がまだ人間のうちに確実に魔法剣を打ち込む事こそが、二人の考える勝利の流れだ。いや、それ以外に勝てる方法が見つからなかったという方が正しい。


やがて、その決定的瞬間が訪れる。

ほんの僅かな窪みに不死の王は足を取られ、同時にナギは不死の王の剣を打ち上げる。


「アウル、魔法剣を!」

「あぁ!終わりだ、不死の王……エアエッジ!!」


大上段に構えたナギの剣が風の刃を型作り不死の王に襲いかかる。

無力化の効果の付いた風の遠距離斬撃。幾ら不死の王と言えど、避けれるハズがなく、無効化により、その不死すら無視して殺すハズだった一撃。

それは、不死の王が無造作に振った剣により霧散した。


魔法剣に通常の魔法は通用しない。

つまり、これは単純に不死の王の腕力により打ち払われたというだけの事だ。その事実を受け止め、二人の顔は焦りの色が出る。

不死の王とは言え、元はと言えば人間。だが、彼を魔王とたらしめた技があった。


それこそが、魔人化。


自らの肉体を遺伝子レベルで強化するというミナより一歩先に行った身体強化。


数千年前と同じだった。最初は有利に戦いを運んでいるように見えたが、不死の王が魔人化した後は無様な物だ。

抗えたのは常人ならぬ反応速度を手に入れたシグルドのみ。

当然、今のアウルやナギに対魔用のスキル等ある訳もなく、二人にとって絶望的とも言える状況であった。


「さて、第二ステージと行こうか」


不死の王は口端を釣り上げながら剣を振り上げる。それこそ王が魔人化に絶対の自信があるという自信の現れだった。身体強化とは魔力量以前にどれだけ正確に体の仕組みと魔力の流れを理解しているかが鍵となる。

不死の王はそれを誰よりも正確にしっていた。大病を抱えていた彼は自らの治療の為に、人の体の事は知り尽くしていたのだ。

事実、その剣線はすでにナギに見える物ではなくなっている。


「くっ……!!痛っ!?きゃあああああ!!」

「はっはっは!どうした、巫女。これでは、あの時と差異がないではないか」

「ナギ、一旦距離を取れ!多少のダメージは覚悟しろ!」

「逃すと思ってか?」


最初の一撃こそ感で防御したが、二太刀目であっさりと腕を斬られたナギは、そのまま攻撃を目で捉える事なく浅く切り刻まれ続けた。

やっと、きたアウルの助言に従おうと覚悟を決めて大きく後ろに翔ぶが、それに対して不死の王の剣が追従し、彼女の横腹に大きく突き刺さる。


「うぐっ……!あああああ!……ハァ、ハァ」


一際大きな痛みが響くが、それを自らの勇者としての能力、ヒーリングで癒す。

ヒーリングを本来の用途で使っている時は、自己の老化が止められない故に、本来なら長い時間をアウルと過ごす事を考えると余り使いたくない能力ではあるが、そうも言ってられない。


「そういえば、貴様はヒーラーだったか。しかも、大層強力ではないか。しかし、それは……死んでもの効果のある物なのか?」

「アウル、同調お願い!!」


不死の王の剣が試すようにナギの顔に突き出される。

ナギの技術ではそれを避ける術はなかった。見えない攻撃を相手にどう対処をすればいいというのか。

だからこそナギはリュート達にも教えていない魔剣のもう一つの能力を発動させた。


「仕方ないか。同調するぞ!避けろ!」

「…………っ!!」


突き出された剣を首を捻っただけで避け、更に不死の王の腕を斬りつける。

完全に入ると確信していた不死の王は多少避けるのが遅れ、腕に傷を追うが、残念ながら軽傷のようだ。が、その顔はありえない物を見たように驚いている。


「ふむ。まさか、巫女程度に今の攻撃を良けられるとは……まて、貴様、その髪の色はなんだ?」

「私達の切り札ですよ。覚えていますか?アウルは非常に目が良かったんですよ」


そう言うナギの髪は元の漆黒ではなく青に染まっていた。その髪の色はまるで、後ろに佇むアウルのようだ。

魔剣による同調。

アウルとナギが発見した魔剣のもう一つの能力。それは単純に魔剣召喚者の能力を魔剣の持ち手に移す反則技。それにより、ナギはアウルの身体能力と目を得ている。

だが、そのアウルは数千年前と同じ力であり、不死の王が魔人化した今、状況は絶望的である。

それが分かっているのか、不死の王も髪の色の事を不思議には思いつつ、それ以上聞こうとはしない。


殺してしまえば、殺されてしまえば、それで同じなのだから。


「アウル……」


ナギの不安そうな声が響く。

が、アウルも、大丈夫だから。と根拠のない言葉を吐く事しかできない。

敵の強さは殺されたアウル本人が一番よく知っている。それなのに、目の前にいる不死の王に、殺された自分の能力だなんて時間稼ぎにしかならない。


その時、魔王の後ろを光の束が走った。

巨大な柱を横にしたような光の渦の辺りにいた、まだらの敵は飲み込まれていく。

そして、その中から魔獣ケルベロスが飛び出し、不死の王目掛け、それぞれの口から炎、雷、冷気を吐き出した。

不死の王は逃げる事もなく、それを受ける。

彼にとってこの状況は理解不能な物であった。まず第一に先ほどの光はなんだったのか?攻撃魔法の可能性を一番に考えるが、ありえないと結論付ける。あれほどの魔力をどうやって纏めればいいか、彼にすら検討がつかない。


思考をするのにケルベロス1匹に構っている余裕など皆無であった。


だが、その余裕は度々、不死の王にとって都合の悪い展開になる。

次の瞬間、不死の王に向け魔剣を向ける青年が、彼の目に入った。


早すぎる。


そう言う間もなく、リュートは不死の王の懐に潜り込む事に成功した。



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