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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
四章 不死の王
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九十四話 それぞれの戦い

「ミナ、オレ達は的に囲まれない様に荒らし回る。ケーファーは数減らしに集中してくれ!」


魔剣ミヅキを構え、真正面に走り出す。

幾ら個体の力が強いとは言え、囲まれれば万が一という事もあり得る為、その状況を防ぐのがオレとミナの役目だ。


走るオレの背後から人程の大きさのある下級が通り過ぎていく。

しかし、敵にぶつかったそれは、敢え無く霧散し、後には火の粉と特に代わり映えのしない敵だけが残った。


「……ッ!!やっぱり、炎は効果が薄いのね。なら……!!」


そういえば、最初の1匹も炎の魔法を食らったにもかかわらずそのまま攻撃してきていた。

熱というのは何かと万能だが、それでも耐性の高い種族も少なくはない。


突き出された腕を横に避け、体を反転させながら斬りつけるが、先ほどと同じように妙な弾力と硬さに斬る事は叶わず叩きつけるだけになってしまう。

しかし、それで敵の動きは止まり、そこに何本もの氷柱が狙いすましたかのように、四方八方から突き刺さる。


順調……に見えるが、残念ながらオレとミナの役目は敵を倒す事ではなく場を荒らし回り、常に自分達と味方が動き回れる状況を作る事だ。


「もっと、派手に動きまわらないとな……」


横から飛びかかってきた敵を魔剣で突く。

斬るのに比べれば呆気ない程に刃は素通りし、敵の動きが一瞬止まる。

しかし、突くという行為は防ぎにくく、強力な反面、次の行動に映るまでに少し時間がかかってしまい、集団戦には向かない。


なら、どうするか?

突けるならば、少なくとも、斬れないハズはない。

もっと早く、もっと強く、もっと鋭く剣を走らせればいいだけだ。


「治るって言っても痛いモンは痛いんだけどな……!!」


先祖返りの獣人の能力を開放する。


「リュート、ケルロンと一緒に援護する!!」

「頼んだ!」


目の前の敵の胴体を一閃する。相手も同じ様な横薙をしようとしたらしいが、オレの方が遥かに早い。

続いて、横で様子を見ていた敵を縦に斬る。先程とは違い、斬りにくいなんて事はまったく感じれない。

しかし、幾ら早く動けても、その度に体に激痛が走るのはいい気分とは言い難い。


三体目を腕、胴体と切り払うと、後ろから雷撃と氷柱が雨あられと飛び、オレに集まっていた敵の塊を次々となぎ払う。

だが、それは主に氷柱に貫かれ、動かなくなっているだけで電撃は炎と同様に効果が薄いように見える。


炎と雷に高い耐性を持ち、斬りにくく、動きもなかなかに早い。

これを相手にするのは中々に骨が折れそうだ。道理で、父さんが領地を離れない訳だ。







「雷竜の嘆き!」


ケーファーが上空から雷を呼び寄せ辺り一面に通常では考えられない程の落雷を落とす。

土を焦がし、空中を伝播し、次々と敵に命中し、感電させていく、が……。


「……あれ?」


ケーファーは意外そうにそう呟く。

それもそのハズで人が当たればまず無事では済まない電撃を受け、敵は平然と立っている。

そして、まずい事にケーファーは雷龍をより効果的に使う為に、自ら敵陣に飛び込んでいた。


「ふ、風竜の息吹!」


慌てて、風の剣を召喚し、襲いかかってきた1匹を切り払う。

元々、魔力で強化された体に加え、鋭利な風の剣は敵をやすやすと分断した。

しかし、あまりに多勢に無勢。魔王とは言え、無敵の存在ではない。

自らにも馬鹿にならないダメージのある自爆技。ケーファーは、それを使う覚悟を決めたが、その瞬間、彼の横にいた数匹が呆気もなく吹っ飛んだ。


「ケーファー、大丈夫ー?」


いつもどおりの間延びした声を出すルーシー。

だが、その手から、その姿には似合わぬ程の凶悪な先に鉄球のついた鎖が何本も伸びていた。

その中の数本は、ケーファーの隣にだらしなく転がっている。無論、伸びた鎖と共に。


「えへへ~。これ、使うの初めてかもしれないなぁ。斬れないなら、叩き飛ばせばいいんだよね?」


ルーシーがそう言うと、鎖付きの鉄球の数個がまるで自分の意思がある蛇かの如く、襲いかかる。

彼女が持ってきた武器の中には、既にそれがなんなのかすら忘れられた武装が幾つかあり、この鎖付き鉄球の束というべき武器もその中の一つでった。

余りにも特異で使いにくい為、ルーシーとしても半分忘れていた武器である。


かくして、ケーファー側は属性攻撃が主体で正体不明の敵相手に決定打を持たないケーファーはルーシーの護衛に周り、天使であるルーシーが一件惨たらしい殲滅戦をする事になった。







一方で、アティの役割は馬車の護衛になっていた。

中の積荷はリュート達の生命線とも言える物でもあり、此方も疎かにできない。


「ハアアアアアァッ!」


全体重を乗せた突撃槍による突進は容易く敵を貫き、避けるついでに、大きくバックステップをする事により、槍を抜き、また直線で突き刺す。

そうして、彼女は既に5匹の敵を貫いていた。


一件単純そうな攻撃方法だが、元々速さだけはリュートにも勝るとも劣らないアティの考え出した今のところ、一番彼女の技能が引き立つ戦闘方法だ。

突きに特化する事により、速さを保ったまま、攻撃力と重さを飛躍的にあげた為に、女性である事、故の弱点を高いレベルでカバーしている。


そうして、6匹目を串刺しにした後、馬車の傍の敵はいなくなり、彼女は一息をついた。


「すごい……」


そうして冷静になった彼女が見たのは、兄とその恋人が互いに何をするかわかっているかのように、連携して敵を散らしていく姿と、魔人に全幅の信頼を寄せ、気ままに攻撃をし続け、すごい速さで敵の数を減らして言っている天使の姿だった。


父が率いる自警団は、それこそ全員の連携によりいつも必死で、正体不明の敵を撃退している。

今の所、防衛戦による死者が出ていないのが不思議なくらいだ。そして、突発的な戦闘での死者は勿論、多い。

それに比べ、このパーティーは自分を含めるたったの5人で、これだけの数の敵を押している。

それは彼女にとって驚くべき事であり、尊敬する兄を嬉しく思うと同時にどこか、遠くへ行ってしまったような寂しさも持ち合わせてしまう。


「まぁ、いいです。この分なら掃討も時間の問題でしょう。……私は自分の役割を果たせば良さそうですね」


そう言いながら、走って近づいてきた敵を真正面から串刺し、戦闘不能にする。


「それにしても、人型……ですか」


槍を引き抜き、前髪を弄りながら彼女は、ポツリともらす。


「初めて見たタイプ……ですね。どういう事でしょうか?」


その声は、他の誰にも届く事もなく少女の内側に秘められたままとなった。








「さて、終わったのか?」

「少しくらい残っててもいいんじゃない?」


粗方、片付け終わったリュートとミナが話しながら馬車へと戻ってくる。

ケーファーとルーシーも先に馬車の前にたっており、ケルロンはというと、すでに鞍の付ける位置にスタンバイしている。


「意外と手こずったね」

「あぁ。アイツら数が少なくなるとバラバラに行動しだして一網打尽って訳にはいかなかったしな」


戦闘自体は圧倒的だったと言えるものの、その討伐には馬鹿にならない時間を割いてしまった。

ケルロンの体力も考えると、森を抜けたら全員で休息をいれた方が良さそうだ。


「アティ。予定より半日くらい遅れそうだけどいいか?」

「はい。事態が事態ですから……父さんも納得してくれると思います。むしろ、よく半日で済みますね、あれで……」


アティは前髪を弄るのが癖になっていて、今もそれをしながら、オレと話している。

とりあえず、この森を抜ければ後は見晴らしの良い道を走るだけだし、これ以上遅れるような事はないだろう。


……そういえば、結局、野盗とやらには襲われなかったな。別に奴に襲われはしたが。






「アウル。魔軍がすでに壁から見える位置まできているようです」

「そうか。何度目だろうな、この戦争も」

「さて?いいではないですか、その代わりにこうして秘密裏に生かして貰えているんですから」


アウルが立ち上がると、それに合わせてナギも外に向かって歩き出す。

本来なら余程の窮地でもない限り、戦争には参加しない二人だが、今回ばかりは事情が違った。


魔剣の復活。


今まで、重さこそなくナギが扱っていた魔剣アウルだが、少し前からどういう訳か無効化の能力まで使えるようになった。

依然として、魔剣アウルの刃は一部が欠けたままであり、二人にもその原因はわからない。


しかし、本当に能力が復活したなら厄介な能力を持つ魔人だけでも倒して欲しいと三国から要請されたのだ。

なんでも、中には華奢な体ながらも全ての攻撃が通じない魔人がいるらしいとの事だ。


そして、二人は、恐らく、それが魔王だと考えていた。


外に出ると聖殿都市は、大きな活気に包まれていた。

ここに集まっている者は、目的はそれぞれにしろ、魔族との戦争の為に集まった歴戦の猛者である。

勇者だけではなく、彼らがいるからこそ、この数千年、人間側の敗北はなかったと言っていい。


しかし、今回の魔王は非常に強いとの話も聞いているし、正体不明の白黒の化物が出るという噂もある。

不死の王以来、有数の厳しい戦いになるだろう事は見て取れた。


「さて、頼むぞ、ナギ」

「はい、行きましょう。アウル」



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