九十一話 1の休日
すいません、かなり短いです
短いですが、書く事がなくなり、無理に何かを付け足すよりはマシかと思い、そのまま投稿しました
という、言い訳orz
次回は多分、リズの婚約者のお話。
その後くらいに王都を出るかなぁ?
誤字脱字報告感想等、よろしくお願いします
「すいません。一つ、ください」
「はいよ。ありがとな」
露店のおじさんに銅貨を数枚渡して、代わりにシャルの実を一つ貰う。
皮のまま口にすると、相変わらず、林檎のような桃のような味がした。
うん、美味しい。
けれど、リュートに貰って初めて食べた程の新鮮味はなく、どこか味気ない。
良くも悪くも、私が、この世界に慣れて来たんだろう。
「……そういえば、アイスクリームとか暫く食べてないなぁ」
そんな事をぼやきながら、一人で王都の広間を歩く。
ちなみに、リュートは公爵家で、お昼寝。
昨日は、ニーズヘッグ公爵に付き合って、随分と遅くまで、飲んでたみたい。
リズも居ないし、暇潰しに散歩に出かけて来たけど……ちょっと楽しいかも。
牧場で仕入れた物は、もう手元にはなく、代わりに十数枚の金貨になっている。
つまり、仕事が何もない。
お陰で暇を持て余して……と、思ってたけど、そうでもない。
数日間、馬車に揺られている事に比べたら、王都の街中を見回るのは、なんて楽しい事なのか。
お金はリュートが管理してるけど、こういう時でも無ければ、私の出費はない。
こつこつ貯めているお小遣い程度の貯蓄も、結構な額になるから、少しだけ無駄使いするのもわるくないかな。
そう思って、露店を見回す。
それにしても……。
数多くある露店の、そこらかしこにチラチラと見える見覚えのある名前が嫌でも目に入る。
……あのバカ勇者、結構な人気あるんだなぁ。
当然と言えば当然かもしれない。
私とリュートは好き勝手にやってるし、二番目に至っては他国の軍に入っている。
つまり、勇者カムイのパーティーこそが魔王討伐に一番近い位置にいる。
……魔王は私達の傍にいるけどね。
このまま、平和的に終われば良いんだけど。
「あ、リュートのお人形だ」
傾国の魔女の名前は、リュートのパーティーに入ってから以前より存在感は薄くなった。
そして、リュートの名前が変わるようにして有名になっていった。
初の異世界出身ではない勇者と言うのも、期待が掛かっているらしい。
「代わりに、リュートとセットにされる事が多くなったかなぁ、私は」
リュートの隣にある黒い髪の人形を見る。
明らかに私より可愛いけど、リュートの隣にあるって事は私なんだろう。
うん、悪い気はしないな。
冷やかしも悪いし、せっかくだから、何か買おうかな、と並べられている商品を見ていると、小さな安っぽい指輪が目に映った。
きらきら光る硝子細工の指輪。
たった、銀貨一枚だけど……綺麗。
ぼーっと、指輪に見とれていたら、その隣に薄く金色に輝く指輪を見つけた。
それは二つセットのペアリングみたいだ。
「これは……?」
「おぉ、お嬢ちゃん、お目が高いね。ちょっと前に、竜の宝石を手に入れた貴族が居てね。ソイツを加工した際に出た粉を使って知り合いの細工師に仕立てて貰ったんだ。触媒としての効果はないけど、綺麗だろ?」
私の独り言が聞こえたのか店主の若いお兄さんは、丁寧に説明してくれた。
竜の宝石……って、事はリュートが私にくれた指輪みたいなもの?
確か、高額過ぎて売れないって言ってた記憶がある。
それなら……。
「高いんですか?これも」
「そうだなぁ。物は貴重なんだが、付属効果もないし、おもちゃはおもちゃさ。だけど、おもちゃにしては、高いかな」
そう言って、値段を見せてくれる。
う……、元の世界に居た頃なら、贅沢は敵!と、バッサリ斬り捨てていた金額だ。
でも、今の私には多少、手痛い出費ながらも問題なく買える金額でもある。
綺麗だなぁ。
それにペアリング……。
「竜の宝石は100年は暗闇の中でも魔力で輝くっていうし、いつ売れるかわからないぜ?前に出回ったのは数年も昔だしな」
……その言葉に負けて私はリングを衝動買いした。
いいよね。ほら、その、ペアリング……だし?
◆
「ただいま。起きてたのね、リュート」
「おかえり。いつまでも寝てはいられないって」
公爵家に戻るとリュートが何やら大量の貨幣を机にばら蒔いていた。
隣では、ケーファーとルーシーがくっついて、お茶をしていて、帰って来た私に、それぞれ挨拶をしてくれた。
「ミナ。ほいっ」
リュートは、そう言って小さな塊を私に投げてくる。
ゆっくりと放物線を描きながら落ちるソレを私は途中で掴みとる。
「……金貨?」
「あぁ。自由に使って良い。給料みたいな物だな。ほら、ケーファーとルーシーも」
「え、僕たちもいいの?」
「色々手伝って貰ってるしな」
そう言ってリュートは、それぞれに金貨を一枚ずつ渡した。
ちなみに金貨は、たった一枚で、私がしていたアルバイトの月給を軽く上回るくらいの価値がある。
宿や食事のお金は全てリュートが払っている事を考えたら、破格のお小遣いだ。
そして、机の上に積み重ねられている金貨の数は凡そ十数枚。
銀貨や銅貨も多い。
この中に、蝙蝠狩りの報酬が入ったいるとは思えないし、単純な行商で稼いだお金なのだろう。
一度、財産を無くしてからの期間を考えたら、かなり早いペースで稼いでるんじゃないかな……。
「そうだ。リュート、これ」
私は思い出したフリをして、リュートに先程買った物の片方を投げつける。
リュートが金貨を投げてよこしたのと同じように、但し、もっと強く。
勢い良く投げつけたつもりだったに、リュートは事も無げに右から左に手を動かし掴みとる。
「……リング?」
「露店で見つけたの。ちょっと気に入ったから」
「わぁ、光ってる!きれ~」
ルーシーが指輪を覗き込み目を輝かせる。
「……結構高かっただろう」
「別に」
私は腕を組み、リュートと目を合わせないようにしながら、答える。
本当は恥ずかしくてまともに顔を見れないだけだけど。
赤くなる。
絶対に赤くなる。
「ありがと」
リュートは短く、そう言って笑いかけてくる。
「いつも貰ってばかりじゃ、借りばっかり溜まっていくじゃない」
そう言いながら、後ろ髪を片手でかきあげるも、リュートは内心を見透かすようにニヤニヤしている。
……気に入らないなぁ。
恋人になったなら、もう少し甘い関係になっても良い様なものなのに、どうにもうまくいかない。
いや、多分、私のせいなんだけど。
ちなみに、私なりに、この関係を少しでも改善しようと今日の夜にリュートの部屋に忍び込んで一悶着あったんだけれど、それはまた別の話。
ただ、次の日の朝。
リュートが指輪を付けてくれていなかった事だけが、私には気になった。
……恋人のプレゼントなんだから付けてくれても、いいじゃない。