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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
一章 傷ついた少女
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九話 100は有頂天

今回ちょっと短いです。


大体同じようなページ数にしたいのですが難しいものですね。

「リュート様、お口を開けてくださいな」

「なっ!?リュート!こちらのも美味しいですよ!」



昼時、オレは予定通りニーズヘッグ公爵の屋敷…というか半分城みたいな家で昼食を頂いていた。


…リズとレーナ様に挟まれて。



ニーズヘッグ公に助けを求める視線を送ってみたが寛大に大笑いされた。


リズは立場上、対等と言える友達が少ない。

レーナ王女とは仲が良かったけど、それでも付き合い方は堅苦しいものだった。


しかし、今の二人は明らかに立場など気にせずリュートの取り合いを楽しんでいるではないか。


ニーズヘッグ公はそれが嬉しくてたまらないようだ。


とは言え、オレも美少女二人に接待されて多少困りこそすれど良い気分にならないわけがない。


結局は二人の差し出した料理を口に入れて貰う。



「ふむ、リュート。何か良いことでもあったのかね?帰ってきてから随分と機嫌が良いではないか」


ニーズヘッグ公は机に肘を乗せ拳を顎にあてながら尋ねる。実にダンディーだ。


普段ならリズから食べさせて貰うのを恥ずかしいからと断っているのに今日は受けているんだから回りから見れば機嫌良く見えるだろう。実際、良いしな

女好きではあるけど、一応人の目も気にする。


オレは少し考えたあと当たり障りのない言葉を使って答える。


「えーと……少しハンスと取引をしてきたんです。それが楽しみでして」


ハンスは闇市では有名な奴隷商人である。

勿論ニーズヘッグ公も彼は知っている。


「ハンスか……君が彼と取引しているのは知っているし君のやってる事が悪だとは思えないが……関心はしないな」


そこはリュートも苦笑するしかない。

人をお金で買っている事には代わりないのだ。

リュートは奴隷を奴隷として扱いはしないが流通を助けているのは事実である。



「まぁ、リュートがそこまで機嫌が良くなるのだ。素晴らしい買い物だったのであろう」


ニーズヘッグ公はあまり問い詰める事はなく適当に会話を濁す。


しかし、それで騙されない子もこの場にはいた。



「……春画ですか?」


ブフゥッと飲んでいた水を吹き出す。

誰が?オレとニーズヘッグ公の二人が!


発言したリズはジト目でリュートを見上げる。

レーナはそれが何かよくわかってないようだ。


「レーナ様、春画とはえっちな絵の事ですわ」


リズが余計な事を言いやがる。


「リュート!貴方は国民を代表する勇者なのですよ!?不埒な行動は控えてください!」


リズが燃料を注いだせいでレーナ様が真っ赤になって爆発した!

ていうか、オレはそんなもん買ってねぇ!


「リュート様。こればかりは私もレーナ様に同感ですわ」


そしてなんかよくわからないうちにタッグを組まれる。


「ちょっと待て!オレはそんなもん買いに行ったワケじゃ…!」


慌てて反論するが二人の美少女は冷たい視線を送ってくる。

さっきまで、あんなに懐いてくれてたのに…。


オレはガックリと肩を落とす。

美少女二人からの蔑んだ目には耐えれなかった。


「クスッ」


笑ったのはどちらだったんだろうか。

ただ腕に抱きついてきたのは二人共であった。


「冗談ですわ、リュート様」

「リュートが少し私たちにデレデレしすぎてるからからかったのよ」


彼女達は両腕に抱きついたまま肩に頭をのせてくる。


すごく癒される……けど……。

……女ってずるい。







これをみていたニーズヘッグ公は王女と公爵令嬢を両手に花として持つなんて軽い国家問題ではないかと頭の角で考えたという。







二人に振り回された昼食も終わりリュートは南門に向かっていた。


レーナ様が見送りたがっていたがハンスと待ち合わせをしている為、次に王都に来たときに必ず王城へ行く事を条件に公爵家で別れた。


一段と仲良くなったリズと遊んでから帰るんだろう。




「ふむ……。少し早く来すぎたかな」


南門まできたが、まだハンスが来るまで時間はありそうだ。


ニーズヘッグ邸に行った瞬間待ちわびたように食事が用意されていたため思ったより時間がたっていないようだ。


南門は北国であるノースポーラ王国の正面玄関の様な物だ。

北は北で港町になっており別の賑わいを見せているが南門にはやはり及ばない。



暇なのて少し出店を見ていると見慣れた果実を見つける。


シャルの実だ。

真冬以外ではいつでも収穫できる生命力の強い果実。

少し遠出すれば野良の実を見かけるほど庶民的な果実である。


とはいえ一口食べてみればとてもみずみずしく甘い貴族にも人気のある実だったりする。


「お姉さん、10個ほどくれないか?」


「あら、嬉しい事言ってくれるね。一つ銅貨五枚だよ」


売り子のおばちゃんに銀貨を一枚渡す。

代わりに銅貨棒……銅貨をある樹液で10枚くっつけた棒を五個受け取る。

水をかけると簡単に剥がれる為、銅貨や銀貨は10枚ずつ棒状で持ち歩く事が多い。

ちなみに金貨はくっつかないらしい。


「お兄さんサービスだよ。11個入れといたからね」


シャルの実が入った袋を受け取り、お姉さん気前が良くて美人だなぁとお礼を言うと、あらやだ!と嬉しいそうに笑ってくれる。




よし、さっそく一つ頂くか。


広場で立ちながら皮ごとシャルの実にかじりつく。


食事後のデザートには丁度いい甘さだ。

回りを見てみると他にも何人かシャルの実を食べながら歩いている。


一つ食べ終わった所で手袋が随分と濡れている事に気いた。

シャルの実はそれほどまでに水分を多く含む。


あー……普段なら気にしないけど、これからあの子に会うんだから変えておくか……。



今日、ニーズヘッグ公爵と昼食を取る前……ハンスと取引した後すぐに小さな馬車を買った。

少しだけ身に付けていた荷物と予備の手袋や回復アイテムはその時に馬車に放り投げて停泊所に預けていたのだ。



もうそろそろハンスも来るだろうし馬車も出してくるかー。


オレは滅多に手袋を外さない。

幼い頃から剣を振り家を出てからはそれこそ毎日剣を振り回す日々だった為、手のひらがぼろぼろだからだ。

オレが騎士であればそれで何の問題もない。

しかし彼は貴族を相手にする事もある商人だ。

ぼろぼろの手を見られ荒くれものだと思われては商売に悪影響が出る。



馬車を持ってくるついでに買ったシャルの実も袋ごと中に投げ込む。




後は馬車を門近くに起きハンスと彼女を待つだけだ。



……やばい。時間がすごく長く感じる。


リュートはそのままとても長い体感時間を過ごした。

実際に待っていたのは精々10分程度だったのに、楽しみにしすぎるというのも考えものだ。




あぁ、もう一個くらいシャルの実を持ってくるんだった。

今からでも何か買いに行こうか?でも、その間に来たら……などと考えるのが三周くらいしたころ通りの向こうから黒い髪の少女がゆっくり歩いてきたのが見えた。

……あと、ハンスも。



「お待たせ、リュート」

「ありがとう、ハンス。無理言ってすまないな、ここまででいいよ」


軽くハンスと握手を交わし少女に視線を移す。

顔の包帯は無くなっている。ハンスが治癒術師でも呼んでくれたのだろう。

流石、一流と言われるだけはある。


包帯のなくなった少女は相変わらず綺麗な黒髪に、それに合わせたような黒い瞳が印象的だった。


多少つり目だが整った顔立ちは可愛らしい。

ただ何故かすごく驚いているようだ。



「いらっしゃい。これからよろしくな」


柄にもなく緊張するができるだけ笑顔を作って話かける。


彼女は少し戸惑っていたけど、やがて小さく頷いてくれた。



オレは嬉しくて彼女の手を引く。

彼女はやはり歩けないらしく転びそうになるから、そこは強引に抱き寄せた。



む、嬉しくてついやり過ぎた。



そのままお姫様抱っこをし馬車の前の席に乗せる。


荷馬車に乗せたりなんてするものか。

声は出せないだろうけどオレは彼女と話したくて仕方がない。


苦笑してるハンスに手を振り馬車を出す。

オレが馬の手綱を握り彼女が隣に座っている状態だ。


さて、まずは一番最初にやらなくちゃいけない事がある。

オレは彼女に紙とペンを渡す。


「…?」

「文字はかけるかい?君の名前を教えて欲しいんだ」


彼女は少し迷ったようだが、やがて二文字だけ紙に書いて渡してくれた。


「オレはリュート。ただの商人だ。よろしくな」


自分の顔がにやけるのがわかる。

オレは早くも随分とこの子を気に入っているらしい。

深呼吸して彼女の名前を呼ぶ。


「ミナ」




ミナはぷいっとそっぽを向いた。




読んでくださってありがとうございます。


十話もほぼ書きあがっている為、明日投稿しようと思います。

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