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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
四章 不死の王
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八十八話 100と門

「んっとね~。これがマクスウェルの螺時計で~、これがニーズヘッグの指輪かなぁ?」


もうすぐ王都に到着しようかというころ、馬車の中では、間延びした声と共にルーシーが次々と天界の武防具を披露してくれていた。

ちょっとした好奇心から、見せて欲しいと言ったが予想以上にエラいアイテムばかりだ。


仮に、売って良いと言われても値段が付けられない。


っていうか、ニーズヘッグの指輪ってニーズヘッグ卿の由来の物か?

あそこの歴史は深いし、下手をしたら千年以上前の伝説のアイテムじゃなかろうか。


「ねぇ、ルーシー。それよりもアナタ、どこから出してるの?」


アイテムの価値がわからないミナは、宝物よりも、ルーシーがアイテムを取り出している方法に興味津々だ。

いや、正直な話、オレも気になるんだけどさ。

さっきから、ルーシーが何もない空間に手を突っ込むと、もやもやした金色の出入口の様な物からアイテムを引っ張り出している。


「これは、アリスって女の子が使ってた異空間を作る魔法だよー」


アリス?

どこかで聞いた事がって、まさか……。


「便利そうね」

「ミナちゃんも覚える?この本に載ってるよ~」


そう言って、ルーシーは、また異空間に手を突っ込んで古びれた本を取り出す。


「これは?」

「アリスの魔導書って言って、大魔法使いアリスが使ってた魔法が使えるんだよ~」

「ちょっと待て!?」


オレの声にルーシーとミナが、こっちを向いて頭の上に?を浮かべている。

ケーファーは、オレの言いたい事がある程度わかるようで、苦笑してくれている。


いや、だって、アリスだぞ、アリス。

ほぼお伽噺になっている伝説の実話のヒロイン、大魔法使いアリスだぞ?


彼女の魔法は、ほとんど残っていないが、僅かに伝わっている魔法は、どれも上位魔法として知られている。

例えば、牧場で組んだギルド、銀翼の中にも上位魔法を扱える魔法使いは一桁だろう。


「……いや、良い。なんでもない」

「そう?」


オレがため息を吐きそう言うと、ミナは少し不思議そうにしたが、ルーシーからアリスの魔導書を受け取った。

少し考えたが……オレにできるのは、この魔導書が世にでないようにするくらいだろう。

流石にパワーバランスが一気に崩れる気がする。


「ルーシー。そういうの、余り外では見せないようにな……」

「……?わかった~」


わかってなさそうにルーシーが返事をする。

どうにも不安だ……。


「とりあえず、もう王都もすぐそこだ。ケルロン預かってくれる所を探さないとな」

「ケルロン?リズの所は駄目なの?」

「仮にも魔獣だしな。後で公爵の所にも顔を出しに行くつもりだけど、迷惑になるかもしれないし」

「公爵なら大丈夫だとは思うけど……それもそうね」


そうこう話している内に王都に着く。

馬車の重量が増えたから、ケルロンの心配もしていたのだが、頑丈になったお陰で、より早く王都につけた。

ボロ馬車を引くのは随分と手加減したらしい。


「とりあえず、行ってくるけど……ミナはどうする?」


人の街をよく知らないケーファーとルーシーは、とりあえず留守番だ。

後で、ちゃんと案内してやろう。


ミナは、てっきり着いて来ると思ったが……。


「ごめん、リュート。ちょっと、これ読んでたい」


そう言って、アリスの魔導書に視線を落とす。


「……たまには一人もいいか。じゃぁ、行ってくるよ」


そう言い残してオレは一人馬車を降りた。








「いや、助かったよ。これ以上、品薄になるなら数日店を閉めようかと思っていた所だ」

「いえ、此方もいつもより値段を少しだけ上乗せさせて貰っていますので」

「それでも、昨日までより安いからね。納品は明日で大丈夫かい?」

「はい。昼間でには」


馴染みの酒場で店主と話し終え外に出る。

馴染みと言っても客側ではなく、商人としてだが。


ケルロンを預けるのに随分と離れにある馬小屋まで歩いてしまったので、途中途中に飲食店に立ち寄ったが、ストロノー産の食材は、どこも品薄で歓迎された。

この分なら、市に出す分は無さそうだ。

その方が、オレのお客様も都合が良いだろう。


最後に城門近くの店に寄ったが、そこでも歓迎された。

明日は忙しくなりそうだ。

しかし、ケルロンに関しては本当にどうにかしないといけないな。

金はまだ良い。

ケルロンが居るお陰でそれ以上の収益は出る。

預ける手間が一番の問題だ。

今回も寄り道をした事を差し引いても、かなりの時間を割いてしまった。


「待ちくたびれてるだろうなぁ」


そう呟いて馬車を置いてある王都郊外へと向かう。

なんていうか……うん、また何かやらかしたな、アイツら。

まだ大分馬車から離れているが、ケルロンと馬車、それに外に出ているミナ達三人に……なんだ、あれ?

よくわからないが、人の背丈よりも大きな門が見える。


「で、今度は何やらかした?」

「あ、リュート、おかえりなさい~」


少し離れた位置からルーシーが笑顔で手を大きく振る。

ケーファーはいつもの苦笑い……苦労してたんだろうだなぁ。


「あは、リュート。あのね、世界……作っちゃった」

「……は?」


門の向こうは星空でした。


ミナ達に言われ、門を両手で開けるとまるで、夜空が一面に広がっているような光景があった。


「何、これ」

「んっと、アリスの魔導書にあった空間生成魔法。ルーシーが魔力を沢山注ぎ込んだら、空間が広くなるって言うから、やってみたら……」


ルーシーが、どこからか道具を取り出してたアレか。


「しかし……空間の果てが見えないぞ?てか、地面すらないんだが」

「見た目よりは広くないよ~、多分。ミナが思い浮かべた広い空間っていうのが、風景に出ちゃってるんじゃないかな。それと、普通に歩けるよ~……よっと」


ルーシーが星空が門の中に入って軽くジャンプして、見えない床があるかのように立つ。


「こんな感じにちょっと行ったら、壁があって先に進めないんじゃないかな。もしかしたら、空間が歪んでループしてるかもしれないけど」


ルーシーの使っている物に比べたら、大分大きいみたいだが、それでも巨大な物置きって所か。

少し驚いたが……ミナが今まで使ってきた魔法を考えると驚く程でもないのか?


「そうだ。この中にケルロンに入ってもらえれば、預ける必要もないんじゃないかな?」

「駄目。何かの拍子で門が壊れたら、もう一回ここに繋げれる保障がないの。結構適当に作ったから。……一応、私が居る側からは門の召喚送還はできるけど」

「……また微妙だな。荷物入れくらいには役に立つか」

「あ、後、ほとんど魔力使っちゃったから今日は魔法使えそうもないの」

「ちょっと待て」

「ご、ごめんね」


ミナが、ちょっと困ったような表情で舌を出す。

……まぁ、いいか。王都でそうそう戦闘があるって事もないだろ。


「とりあえず、門はしまえ」

「はーい」


目立ちすぎる。王都から多少離れた位置にいるにも関わらず、チラホラと見学に来てる人もいるくらいだ。

損失の可能性が有る以上、余り高価な荷は入れれないが、今回の食料程度なら異空間に放り込んでおいてもいいかもな。


「そうだ。リュート、これあげる」


そう言ってミナが本を手渡してくる。


「アリスの魔導書じゃないっすか。てか、ルーシーに返すべきじゃないか?」

「ん~、私が持ってても使い切れないし、リュートが使っていいよ~?」

「私、その中の魔法全部覚えたから、もういいの。その本使うと魔力の消費量がすごいし」


……ウチの魔女が更に危ない存在になりました。


まぁ、あれだ、その……それを差し置いても『魔法』というのは、オレにとって憧れでもあった訳で……。

結局、オレはアリスの魔導書を受け取ってしまった。

こんな危険アイテム、扱いには十分注意しないとな……。







「すみません、公爵。またお世話になります」

「良い良い。リズも喜ぶだろう。今回は客人が増えたようだな。食事の時にでも話を聞かせてくれ」


ニーズヘッグ家の門を叩くと公爵自ら迎えに出てくれた。

何やら諸事情で最近は休息をとっていたようだ。なんでも、交友のある騎士家の娘が来ているからだとか。

そんなつもりはなかった……とは、言え予想していた事だが、今回も屋敷に泊めて頂ける事になった。


「はい。……公爵、この二人の事、後でご相談させて貰ってもよろしいですか?」

「何やら訳ありか?ふむ……まぁ、悪いようにはせん」

「よ、よろしくお願いします!」


ケーファーがフードを被ったまま頭を下げる。

人と仲良くしたい。と思う魔王にとっては、これは、二度とない機会であろう。

危険な賭けではあるが、ニーズヘッグ公爵ならいきなり糾弾してくる事もない……と思う。

何れにせよ、どこかでリスクを背負わなければいけないなら、ここが一番良いだろう。


「あぁ、皆。入りたまえ。リュートの事だ。またすぐ旅に出てしまうのだろうが、それまではゆっくりと過ごしていってくれ。後ほど部屋を用意しよう」


そう言って、部屋のドアをあけてくれる。

客間の中では妹が優雅にお茶をしていた。


「あら、兄さん。おかえりなさい」

「ただいま、アティ。リズは?」

「お部屋にいます。兄さんが帰ってきたと知ったら慌てて降りて来るんじゃないかしら」


そう言ってくすくすと笑う。


「ちょっと、リュート」

「ん?どうした?」

「……ハァ」


なんか、いきなり、駄目だ、コイツ。と、ばかりに溜息を疲れた。

いつもの様に冷ややかな目ではなく、呆れているようだ。


「えっと、なんでしょうか」

「会話から大体わかるんだけどさ……。誰?その子」


ミナはそう言ってテーブルに座っているアティを指す。


……余りにも自然に話しかけられた物で、本気で気づかなかった。



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