八十五話 1とネックレス
随分長くなってしまいました。
とは言え、途中で区切ると単純に後味も悪く中途半端になりそうで……orz
当初のプロットからほとんど変えてない話なので今見るとやっぱり陳腐な内容かもしれません。
ただ、今後はそういった事も意識して書かないとなぁ、と思い直す事もあった為、無駄ではない、、、と信じたい。
誤字脱字あればご指摘くださると嬉しいです
朝、目が覚めた。
なんて事の無い目覚め。
いつも通りに慣れないベッドで寝て、日が昇ってから自然に起きただけ。
なのに、私はとてつもない喪失感に襲われた。
「……何よ、これ」
今まで感じた事のない空白。
走り出したくなるのを、呟く事で抑えた。
まるで、私の一部分が勝手に何処かに行ったかのようだ。
……っ!
そうだ、わかった。
リュートが近くに居ないんだ。
喪失感の正体がわかり私はホッとする。
……どうやら、私は魔剣がある程度離れると不安感に襲われるらしい。
それが、リュートが傍に居なくなったからか、自分の一部である魔剣が遠くに行ったのかはわからないけど、離れている事はわかるらしい。この感覚からして街の中には間違いなくいない。
「……うそつき」
理由があったのかもしれないが、それで大人しくしてる私じゃない。
急いで着替えて階段を降りるとケーファーとルーシーが宿の一階で朝食を食べていた。
「ケイ、ルーシー。ごめん、今日の売り子任せて良い?」
「うん。いいけど、どうしたんだい?」
「ちょっと、リュートの所に行って来る!」
「いってらっしゃい~」
呑気なルーシーの声を後に私は宿を出る。
「ケルロン、おいで!」
リュートの事だ。
どうせ美味しいけど危険な話にでも乗ったんだろう。
思い当たるのは……そういえば、何日か前にリュートの知り合いの傭兵さんが何か狩るって言ってたっけな。
その辺は、見つけてからしっかり問いただそう。
街の門まで来ると、しっかりとケルロンが尻尾を振りながら待機していてくれた。
結構離れてたけど、私の呼び声は届いてくれたみたい。
「おはよ。朝からごめんね。少し走って貰えるかな?」
「がうっ!!」
「ありがと。えっと……ケルロン、向こう!」
私がリュートがいるであろう方角を指差すと、ケルロンは勢いよく走り出す。
リュートは歩いて行ったんだと思うし、すぐに追い付けると思う。
……なんだ、あれ。
なんか馬と人の集団がいる。
動く訳でもなしに、何してるんだろう?
誰か待ってるのかな?
……まぁ、いっか。
遠目に謎の集団を無視して走り続ける。
「が、ぐうぅ……ッ」
「……?どうしたの?」
ケルロンが少し呻き声をあげる。
まるで何かを嫌がっているみたいだけど……。
「グルルルルゥ!!」
ケルロンは敵を前にした時のように唸り声をあげ走り続ける。
止めようとも思ったけど、何があるのかわからないし、ケルロンの何か嫌がる様子は森の中に入ると収まった。
……なんだったのかしら。
そして、森の中に入った所で少し困った事になった。
目が覚めてから、あれほど強かった不安感があっさりと消えたのだ。
多分……リュートとの距離がある程度近づいたからだろう。
「どうしよっか、ケルロン」
平原ならともかく、森の中。
しかも、王都で離れて行動してた時の事を考えたら許容範囲はかなり広いと考えて良い。
「ガウッ!」
「ケルロン?」
ケルロンが吼えて歩き出す。
んー、大人しいけどケルロンは一応、魔獣みたいだし、私にはわからない何かがわかるのかな?
とりあえず、ケルロンに進んで貰おう。
そうして、森の奥に入って行くと私にも、ケルロンが何で、こっちに向かって来たかがわかった。
声が聞こえる!それも結構大人数の!
リュートが居るのも多分ここだろう。っていうか、他に心当たりがないから居てほしい。
さて、どうしようかな?まず、あの集団何なのだろう。
狩り……って言ったけどパッと見た感じ中から何人かの人が捕らえられて出てきてるように見える。
狩りというよりは、逮捕よね、あれ。
それとも、この世界ではアレの事を狩りと言うのかな?
まぁ、いいや。
そんな事より入る方法を考えないと。
正面突破……はできなくもないけど、大騒ぎになるだろうし却下。
素知らぬ顔で歩いていったらあっさり入れたりしないかな?可能性として無くはないと思うけど……。
「おい、誰か!炎の魔法使いはいないか!?香撒かれてやがる!」
洞窟から走って出てきた男の人がそう叫ぶ。
どうやら私にとって都合の良い展開らしい。
「私、炎の魔法も使えます!」
茂みからなるべく自然に出る。
怪しまれないか心配だったが、余程切羽詰った事態なのか袖を掴まれそのまま中に引っ張られた。
「助かった!アジトの中が意外と広くてな。魔法使いの仲間がどこにいったかわからなかったんだ」
「そうですか。所で……私は何をすれば?」
「香だよ!香!!このままじゃ、香守に逃げられちまうから香を焼き払って欲しいんだよ!」
男は何を当然の事を聞いてきているのかと言う風に叫ぶ。
私には訳が分からないけど、話を合わせて置いたほうがいいだろう。
洞窟の中は綺麗に整備されていて、まるで屋敷のようだ。
暗いゴテゴテとした出入り口からは想像も出来ないほどに煌びやかな内装になっている。
その中を少し進むと何やら壊れた扉があり、その中では少女と壮年の男性が炎の魔法で不自然に伸びた通路に炎の魔法を使っていた。
「なんだ、もう見つかったのか。応援いるか?」
「いや、二人も居れば十分だろう。後は時間の問題だが……追いつけるのか、これ……」
どうやら、もう他の人が先に炎の魔法使いを見つけていたらしい。
ただ。どうやら状況は余りよくないらしい。
部屋の中には鼻を突く嫌な香りが漂っている。
それは、部屋の中から不自然に伸びた通路から漂っていた。
見た感じ隠し通路よね、あれ。
そして、この香りのお陰で前に進めないのかな……?しかも、誰かに逃げられている、と。
状況は悪そうね。
「こりゃ中に入ってた兄ちゃんに期待するしかねぇかなぁ」
私が、どうでもよく佇んでいると後ろにいた重鎧の人がそう呟く。
……なーんか、嫌な予感がするんですけど。
「すいません。この香りの中を進んでった馬鹿がいるんですか?」
「馬鹿って姉ちゃん……。まぁ、毒香だから普通は無理なんだけど、歩いていった兄ちゃんがいるんだよ」
「道中で倒れてなければ良いんですけどね」
重鎧の人の言葉に若い女の人が続く。
間違いない。うちの馬鹿だ。
また不死の王を盾にして一人で行動してるんだろう。
「これって炎で焼けるんですよね?」
「あぁ。だけど、ちょっと時間がかかりそうだな」
魔法使い二人は炎を出し続けているが未だに香は濃い。
進めるようになる頃にはリュートはかなり奥に進んでいるだろう。
「その人、私のツレです。ちょっと迎えに行って来ます」
「おいおい。迎えにってどうやって……」
男の人が言葉を終える前に私の足元から炎が立ち昇る。
炎で焼けるなら私に香りが来る前に炎で焼いて仕舞えばいいだろう。
他の人は唖然として私を見送った。
多分、これも結構な難易度の魔法なんだろうなぁ……。
◆
……いた。
リュートともう一人の若い男。どこかで見覚えがあるような気がするけど気のせいだろう。
若い男はきっと香守りと呼ばれてる人だろうな。
その男が、片膝を付いたリュートに剣を向けていた。
どうせ死なないからって無茶しすぎだ。
「そろそろ終りだ。死ねよ」
「人の恋人、勝手に殺さないでくれる?」
私が声をかけると香守りは驚き後ろに下がった。逆にリュートは信じられない物を見たような表情だ。
「どうして……」
「それは、私の台詞。どうして私を置いていった。……まぁ、いいわ。後で覚えてなさいよ?今は……コイツね」
リュートは唖然として何も答えない。
問い詰めたいけど、取り合えず後。今は目の前の敵に集中しよう。
「火、飛べ!っ、コホッ、ケホッ!」
「おっと!?……ふん、どうやら、その炎を纏ったまま攻撃はできないようだな」
火の魔法を飛ばした瞬間、自分を纏ってる炎も弱くなり嫌な香りが漂い咳き込む。
攻撃魔法を加減しようとして、周りの炎まで弱めてしまったらしい。
どっちか片方だけど弱くするのって結構難しいのね……。
「ミナ!大丈夫か!?」
「少し吸い込んだだけよ。大丈夫。でも、魔剣も魔法も使えそうにないわね。細かいコントロールって苦手なのよね」
かといって炎の魔法を高威力で撃てば高確率で殺してしまう。
「結局、二人に増えても俺を捕まえる手段なんてねぇみたいだな」
リュートに文句を言いに来ただけなのにどうしてこうなってるんだか。
そのリュートは辛そうに立ち上がり剣を構える。
……どっちにしろ、私はリュートに助けられるのね。
でも、助けられっぱなしは嫌だ。せめて私もリュートを助けよう。
ケーファーが使った魔法を見て思いついたリュート用の防御魔法。まだ煮詰めていないけど、仕方ない。
「ねぇ、リュート」
「ん、どうした?」
「ちゃんと考えてあったのよ。私だけがリュートに守られるんじゃ不公平よね。だから、ちゃんとリュートを守る方法も考えてたの」
呆けるリュートを尻目に私は魔力をリュートに流す。
神威は攻撃を突き詰めすぎていて結局、今のような状況で役に立たない。
だから、次の魔法剣は防御寄りの汎用性の高い物と決めていた。
「魔法剣、炎竜召喚!」
そしてリュートの魔剣から炎が立ち昇る。
それは体全てを包み込み、リュートを守る竜の炎。
「……すごい」
リュートが感嘆の声をあげる。
規模こそケーファーの魔法より小さいがその分濃縮された魔力は物理攻撃すら弾く硬度を持った炎と化している。
そして、都合の良い事に炎は香を焼く。
この魔法なら焼き尽くすには過分なくらいだと思う。
それを裏付けるかのようにリュートは先程までの辛さは微塵も感じさせないで立ち上がった。
「さて、形勢逆転と行こうか!」
「くっ……!」
リュートが踏み込むだけで、炎の鎧は香守りを焼く。
剣を振れば炎の余波が辺りに広がる。
香守りは防戦一方になり追いやられていった。
まぁ、リュートがそうそう剣で遅れをとる筈がない。
「がああああぁっ!!何なんだよ!何なんだよ、その女はああ!?」
剣を振った腕をリュートに掴まれた香守りは熱さというよりは痛みで悲鳴をあげる。
今のリュートに掴まれるのはガスコンロの炎に手を突っ込むのと同じ事だ。
「お前の相手はオレだ!」
私を睨んできた香守りをリュートが炎の魔法剣で切り伏せる。
……けど、ちょっと浅かったようで香守りは傷口を押さえよろけながらも倒れなかった。
「ククク、ハハッ、アッハッハッハ!!」
突如、香守りが傷を押さえながら笑い出す。
……何、コイツ、怖い。
「お前が、どうしてそんなメチャクチャな女を連れてこなかったかが、わかったぜ」
……ちょっと待って。
私は、最初にコイツをどこかで見たような気がした。それは本当に気のせい?
「待てよ。お前が俺を殺すのと、俺が女を殺すのと、どっちが早いと思う?」
剣を構えたリュートの動きが止まる。
「お前、知ってるんだろう?俺が全奴隷を管理してるって」
その言葉で私は確信した。
そうだ、私はコイツに会った事がある。
それは、リュートと会う少しだけ前の話。
「お前、すごいな。この女が来ても慌てずに冷静に対処したんだからよ。首輪が貴族共の高級仕様になってるし、お陰で気づくのに遅れちまったよ、危ねぇ」
―犬避けの香が切れる前に逃げるぞ。そこの女には首輪をつけておけ―
その言葉が蘇る。
そうだ。コイツは私を浚った男の……リーダーだ。
「その奴隷魔法使いの首輪を作動させられたくなきゃ、俺の言う事を聞きな」
その言葉に血が凍る。
足が勝手に震えだす。
怖い、怖い、駄目怖い。
今までトラウマなんて意識した事すらなかったのに、目の前にした瞬間に震えが止まらない。
「とりあえず、その炎の魔法を解除しろ」
香守りはニヤニヤしながらリュートに近寄る。
馬鹿だ。私、馬鹿だ。リュートが私を連れてこなかった理由はコレだったんだ。
リュートは何も言わずに魔法剣を解除する。
「良い子だ。そら!」
「ぐっ……!」
香守りはリュートの肩に剣を刺すが、リュートは少し呻き声をあげただけで立ち続ける。
服で見えないけど、出血が異常に少ない所を見るときっと不死の王で傷は即効で治っている。
けど、私がいる限りリュートは手出しができない。
「余り痛めつけても仕方ないな。お前には足止めをして貰わなくちゃいけないしな」
「足止め……?」
「あぁ。お前のせいで大分時間を食っちまった。お前はここで、これから来る奴を足止めするんだよ」
「な、同業者を斬れっていうのか!?」
……最悪だ。
そんな事をしたらリュートまで罪人だ。
本当にいいの?
私は確かにリュートと一緒に居れればソレで良いと思ってる。
でも、リュートを罪人にして、逃げるように暮らして……しかも、それが私のせいで、本当にいいの?
……良い訳あるか!!
「その女の命と引き換えさ。安いもんだろ?」
リュートは何も言えない。
そんなの当然だ。
だから、私は香守りに近づいて話す。
「いいの?この距離で首輪を作動させたらアンタも危ないんじゃない?」
「は?貴族様ご用達の奴隷だぞ?その首輪が何の属性を発動させるかはわからねぇが、周りまで被害を及ぼす訳ないだろ?死ぬのはお前だけさ」
「そう。私は死んでもリュートは生き残れるのね」
どうせ、不死の王があるけど。
でもリュートが痛い目を見ないのは良かった。
「お前、度胸あるな。だが、死ぬつもりなら、刺し違えるつもりで俺を攻撃すりゃいいだけだ。お前も所詮命が惜しいんだろう?」
余裕ができたからか、香守りは気分が良さそうだ。
時間稼ぎをして、他の人たちが来ても私が死ぬかリュートが罪人になるかの結果は変わらないんだから当然だ。
さっさと始めよう。
「命は惜しいわよ。でも、リュートにそんな事させるくらいなら死んだ方がマシ」
「おい、ミナ!死んだら不死の王だって……!」
「大丈夫、リュート」
私はリュートの手を握りリュートがくれたネックレスに手をかける。
身体強化-防御!!
身体強化-魔法抵抗!!
リズと戦い学んだ、魔人の技。
「ミナッ……!」
「もし死んだらごめんね」
私は思いっきりネックレスを引きちぎった。
途端、強い電流が体に流れる。
なるほど。電流なら死ぬのは私だけだ。
飛びそうになる意識の中でそんな事を考える。
不死の王とは言え死んでしまえば効果はないだろう。
だからこれは一種の賭け。
自分の魔法で体を強化して……例えギリギリでも耐えれば不死の王が、リュートが私を守ってくれる。
痛い痛い痛い痛い……ッ、けど、死んでない!!
ふらついて前に倒れそうになるのを必死で踏み留まる。
身体強化が無ければ即死していたかもしれない電撃。流石に、甘い仕掛けではなかった。
私が助かる方法があったのはあくまで偶然だろう。違う仕掛けなら不死の王が発動する間すらなかったかもしれない。
だけど、痛みは一瞬で引いていく。
それこそが、仕掛けが高威力だった事の証明に他ならない。
私は、顔を上げて呟いた。
「魔法剣、炎竜召喚」