八十四話 100と炎の魔法剣
ストロノー牧場に入った辺りから非常にわかりにくい事になっていたと思います
わざとぼかして書いたのですが、この話である程度の全容がわかるようになってると思いますが、わかり難くかったらごめんなさいorz
次話はミナ視点
少し時間が戻りリュートが、出た後のお話です
誤字脱字報告感想等いただけると嬉しいです。
「うお!?死ねっ!」
「っち、邪魔をするな!」
角を曲がろうとした所で剣を持った男と鉢合わせる。
当然ながらコウモリの手下だろう。
振り下ろされる剣を右の手甲で弾き、逆の手で殴り飛ばす。
そして足がよろけた所を蹴り飛ばすと男は壁にぶつかり倒れた。
意識はあるようだけど、動けるようになる前には後続の人が捕縛しているだろう。
こんな小者には構っていられない。
オレの目的はコウモリ本人のみ!
王国は愚か大陸中に悪名を轟かせるコウモリだが、その分、金も持っている。
そして金さえあれば協力者というものは後を絶たない。
今回逃がせば、しばらくは姿を見せないだろう。
洞窟に入る前に魔法攻撃を放ったが、中は予想外に広く整えられていて効果は薄かったようだ。
まるで貴族の豪邸だな。
しかし、コウモリのアジトと言う情報自体が間違いな可能性も考えていたが……この規模ならほぼ確実だな。
ただの盗賊にここまでの金はかけられないだろう。
しかし、ここまで来るのに倒した人数は数人。
少なすぎるのが気になるが……。
と考えた所で終着点が見えてきた。
廊下が突き当たり、正面と右側にドアがある。
余り頑丈なドアではなさそうだ。
とりあえず、走っている勢いをそのままに足の裏で思いっきり蹴ってみると……あっさり空いた。
「ハァッ!!って、なんだ?ここは」
ドアを蹴破り入った部屋は……見た目は兵舎の食堂に似ていた。
というか、食堂だな、ここ。
「って、事はこっちは……」
廊下に戻り、もう一つのドアを開ける。
ドアには鍵もかかっていないようで、簡単に空き……目の前に炎の球が見えた。
「ミヅキ!!」
咄嗟に魔女の名を叫ぶ。
それはオレの魔剣の名前でもあり、手にした重量ゼロの剣で火球を消し去る。
「ひ、ひぃっ」
部屋の奥には男が一人。
コイツが魔法を使ったんだろう。
しかし、魔法もただのファイアボールだったし、戦闘が本職ではなさそうだ。
一足で間合いを詰め剣を突き立てると、男はあっさりと両腕を上げた。
「ま、待て!降参する。殺さないでくれ!」
「それはお前次第だ。ここは何だ?」
「何って……見りゃわかるじゃねーか」
だよな。
食堂の隣にあった部屋は予想通りキッチンだ。かなり大きくて使い勝手は良さそうだな。
このルートは敵が少なかったから、そうだとは思ったが……やっぱりハズレか。
となると他の人より早くコウモリを見つけるのは難しいだろう。
コウモリの確保でも依頼は達成、報酬は金貨百枚。
理想とは言えないけど、それでも目的は果たせるか。
どちらにしろ、ミナは自由になれる。
「な、なぁ。そろそろ剣を退けてくれねぇか……?」
「ん?そうだな、最後に……コウモリは何処にいる?」
「知らねぇ、本当だ。いつもは寝室だろうが、こんな騒ぎで悠長な事はしてねぇだろうからな……」
確かに、その通りか。
「よし。ありがとよ、っと!」
聞きたい事は全部聞いた。
剣の柄で殴ると男は床を転がる。
非人道的に思えるかもしれないが、後ろから魔法を撃たれても困るし、確保する時間も勿体無い。
それに悪事を手伝ってた以上、多少痛い目を見て貰っても良いだろう。
「さて、手遅れだろうが一応戻って……」
そこまで考えた所で、洞窟を揺らす程の爆発音が響いた。
この大規模の爆発なら少しくらい離れていても、魔力の流れがわかるハズだ。
それがない。なら、これは単純なトラップと考えるべきだろう。
場所は、そう離れていない……いや、壁を挟んで向こう側か?
廊下を走って戻る。
途中に幾つも分かれ道があったが、壁の向こう側なら、一つ前を曲がれば着く可能性が高い。
ミナが居れば壁をぶち抜いても良かったかもしれない。
そう考えると、以前は気にならなかった不便さを感じてしまう。
角を曲がると、すぐに壊れた扉の残骸らしき物と壁にもたれ回復魔法を受けている全身鎧の男とエンブスさんと、そのギルドメンバー数人が居た。
「エンブス。大丈夫か?」
「あぁ。運が良かった。ドアを開けたのがコイツじゃなきゃ死人が出ていただろうな」
エンブスは、そう言って重装備の男を見る。
苦しそうに呻き声をあげているが、命に別状はなさそうだ。
動き難くそうな鎧が守ってくれたんだろう。
「それで、ヤツは?」
エンブスは視線を下げて首を横に振る。
トラップが仕掛けてあったなら、ここに居る可能性が高いと思ったんだが……。
「まさか……」
「あぁ、逃げられたよ」
オレは慌てて壊れたドアの部屋に入る。
部屋は爆発で荒れていて、向こう側は、ぽっかりと穴が空いている。
「隠し通路……!」
どこに繋がっているかわからないが、追えばまだ……
間に合うかもしれない!
そうして一歩踏み込むと、甘いような痛いような奇妙な香りがし、オレの足は自然に止まってしまった。
「香……」
「恐らくは毒を含んでる。今、魔法師を呼んでいるが……」
香盛り。
香守り。
それが、コイツの名前の由来。
香りを操り、時には毒を混ぜ、使用してくるから付いた通り名。
炎の魔法で焼き払えば大分マシにはなるだろうが、それでは追い付ける可能性は低い。
……逃がす訳には行かない。
大丈夫だ。
オレは死なない。
「エンブス。オレ、追ってくる」
「正気か!?香守りの毒香だぞ!」
ある人たちは、火事にあったかのような状態で。
ある人たちは、長い間は放置されたような状態で発見されたという。
以前のオレなら諦めただろう。
でも、ミナと出会ったから。
惹かれあったから。
「コウモリを放置しとく訳には行かない理由があるんだ」
そう言い走るがエンブスは何も言わなかった。
隠し通路の中は、洞窟の中とは思えなかったアジトと違い、多少整備されてる程度の横穴だった。
鼻をつく香が、目眩や吐き気を引き起こすが走り続ける。
なんというか、緩やかな毒が一定量溜まる度に少し回復してるようで、気分は常時悪い。
が、その甲斐もあり、どうやら追いついたらしい。
「香守り……だな?」
そう訪ねると大分前を歩いていた青年が振り返る。
「驚いたな。人避けの香の中を走ってくるなんて。どうして生きてる?」
お前こそどうして生きてる。
そう尋ねたいが、それこそどうでもいい。
「オレには香なんて効かないんでね」
「強がるなよ。かなり体調悪そうだぜ?」
平気そうにしていてもバレバレか……。
香守りは余裕そうにショートソードを構える。
今の状態で倒すのは骨が折れそうだ。
「大人しくしていれば、死ななかったものを」
「死ぬのはお前だ!」
軽快に振り下ろされるショートソードを弾く。
ショートソードは重量自体が軽いから弾くのは難しくない。が、それは反面扱いやすさを意味する事でもある。
ショートソードを弾かれた香守りは、そのまま体を回転させ、横薙ぎに振ってきた。
当然、それも受け止めるが、今度はオレが弾き飛ばされた。
っち、体調が万全ならどうとでもなる相手なんだが!
どうやら、思った以上に自分の体を動かせていないらしい。
香守りがショートソードを振るう度にオレが不利になっていく。
「ほらほらほらぁ!どうした?高い金で雇われてるんだろ?そら、そこだぁ!」
「……っ!!」
ついには剣を避けきれなくなり、大きく後ろに跳ぶ。
お陰でダメージはほとんどなく、頬をザックリと斬られた程度だ。
「殺ったと思ったんだが、しぶといヤツだな」
「素の剣の実力はオレの方が上みたいだしな。そう簡単に殺られはしないよ」
「ほざいてろよ」
精一杯の強がりで口元を吊り上げるが、相手は本当に余裕そうだ。
どうする?
このままじゃ死にはしないが、逃げられる。
「そろそろ終りだ。死ねよ」
「人の恋人、勝手に殺さないでくれる?」
香守りが、ショートソードを構えると……後ろから、聞き慣れた声が響いた。
「どうして……」
「それは、私の台詞。どうして私を置いていった」
そう聞かれても間違っても今は答えれない。
香守りにだけは聞かれる訳にいかない。
ここにだけは来て欲しくなかった。
「まぁ、いいわ。後で覚えてなさいよ?今は……コイツね」
炎を纏ったミナが香守りと対峙する。
その炎で香を焼き払っているのだろう。
「火、飛べ!っ、コホッ、ケホッ!」
「おっと!?……ふん、どうやら、その炎を纏ったまま攻撃はできないようだな」
ミナは小さな火の矢を相手に飛ばしたが、その瞬間、自分自身の火の衣が揺らぎ、咳き込んだ。
「ミナ!大丈夫か!?」
「少し吸い込んだだけよ。大丈夫。でも、魔剣も魔法も使えそうにないわね。細かいコントロールって苦手なのよね」
ミナ程の魔力があれば、本来なら炎の衣と攻撃魔法の両立が可能なのだが、ミナはコントロールに関しては並みの魔法使い並みだ。
「結局、二人に増えても俺を捕まえる手段なんてねぇみたいだな」
……悔しいがミナは攻撃できない。
そしてオレは、この状態では香守りを倒すのは厳しい。
けど、オレが殺らなきゃいけない!
そう、香守りが気づく前に。
魔剣を正眼に構える。
とにかく、ミナから意識をそらさせないと。
「ねぇ、リュート」
「ん、どうした?」
「ちゃんと考えてあったのよ。私だけがリュートに守られるんじゃ不公平よね。だから、ちゃんとリュートを守る方法も考えてたの」
ミナの言葉にオレも香守りも固まる。
単純に何を言ってるかわからなかったんだが……そこで剣が紅く輝き熱を持っているのに気づいた。
「魔法剣、炎竜召喚!」
ミナが叫ぶと魔剣から業火が迸りオレの体を包んでいく。
それは炎の鎧となり、全身を余す事なく駆け巡り続ける。
「……すごい」
神威の時も驚いたが、これは別次元に突き抜けている。
炎の鎧は近づく事すら困難だろう。
剣を迸る炎により神威には及ばずながら攻撃力も強化されている。
ケーファーが、サラマンダー戦で使った魔法の縮小版といった所か。
それに……炎で香が焼かれているお陰で体が動く!
「さて、形勢逆転と行こうか!」
「くっ……!」
オレが踏み込むと辺りを炎が揺らぎ、近寄るだけで熱いのか香守りは、一歩下がる。
そのまま剣を振り下ろすと、ショートソードで受け止められたが、炎は止まらず、香守りに振りかかる。
「熱っ!?この野郎!!」
苦し紛れに振ってきたショートソードは軌道がまる見えでわざわざ剣で受ける程の物でもない。
オレは剣を持たない方の手で、その手首を掴む。
そして、全身が炎鎧になっているオレに手首を捕まれた香守りは熱さの余りに、叫び声をあげショートソードを落とた。
「がああああぁっ!!何なんだよ!何なんだよ、その女はああ!?」
そう。
これはオレの能力ではなくてミナの能力だ。
香守りも、それに気づきミナを睨み付ける。
「お前の相手はオレだ!」
手首を引きよろけた所を炎を纏った魔剣で焼き斬る。
これで……逃げられはしないだろう。
「ククク、ハハッ、アッハッハッハ!!」
突如、香守りが傷を押さえながら笑い出す。
待て、まさか気づかれたのか?
ミナは香守りの奇行を不思議そうに見ている。
「お前が、どうしてそんなメチャクチャな女を連れてこなかったかが、わかったぜ」
香守りの、その言葉に全身が凍る。
マズイ!早くコイツを殺……。
「待てよ。お前が俺を殺すのと、俺が女を殺すのと、どっちが早いと思う?」
剣を構えたが、即座に見透かされる。
「お前、知ってるんだろう?俺が全奴隷を管理してるって」
……だから、ミナを連れてくる訳にはいかなかったんだ。
「お前、すごいな。この女が来ても慌てずに冷静に対処したんだからよ。首輪が貴族共の高級仕様になってるし、お陰で気づくのに遅れちまったよ、危ねぇ」
香守りが勝ち誇ったように笑う。
いや、実際に、これがバレた時点でオレに勝ちはない。
ミナも……気づいたようだ。
怯えの色が目に見え、足が震えている。
「そこの奴隷魔法使いの首輪を作動させられたくなきゃ、俺の言う事を聞きな」