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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
四章 不死の王
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八十三話 100のアジト奇襲

『それで、そっちはどうだったの?』

「ちょっと挨拶してきただけだよ。あぁ、ついでに市場の場所を貰った」

『ホント?良かったわね』


ストロノーさんとの依頼の話を終え、外に出たオレはルーシーから貰った羽根でセラフィックゲートを使っていた。

と言っても指一本通るか通らないかの小さな門だ。

移動そのものはできない。


でも、便利だよなぁ。

離れていても会話ができるって。

ミナの世界は随分と発達してるらしいが、魔法がない以上、これは真似できまい。


「リュート。こっちこっち!」

『リュート。こっちこっち!』

会話しながら歩いていると、今まで話していたセラフィックゲートと、後ろから同時にミナの声が響いた。

気づかないうちに随分と歩いていたらしい。


セラフィックゲートを閉じて後ろを振り向く。

実は小型のセラフィックゲートを開くだけでもそこそこの魔力を消費しているので、長い間は使いたくない。


「便利ね、これ」

「けど、少し魔力の消耗が大きいな」

「あ、そっか。私から掛けた方がいいね」


かける……?

魔具を使用する時に使う表現としては珍しいが……そんな細かい話は、どうでもいいか。


それよりも、この街に来た目的をはたさなくては。

オレはストロノーさんに貰った簡単な地図を広げ、ミナと後ろにいるケーファーとルーシーに説明する。


「この辺りが自由市。空いてる場所で適度に商売をして良い場所だ。こっちが指定市。決められた場所でしか店を開けないスペース。明日からは、指定市を使えるようにして貰った」

「指定市だと良い事あるの?」


ケーファーが地図を見ながら質問してくる。


「自由市は人も多いけど店も多くてごった返してる。沢山の人に見て貰えるけど……注目自体はされにくい。指定市は店の数こそ少ないが道も広いし、商品が目に止まりやすい。それに何より……楽だ」


狭いスペースでずっと商売してるというのは、かなり疲れる。

商人なら慣れなければいけないが、やっぱり楽をできる場所では楽をしたい。


「ぎゅ~っ!って、なったら大変だもんね~」

「なるほど。じゃぁ、今日は自由市で売るの?」

「そう思ってたけど、明日から指定市が使えるなら急ぐ必要もないし、休み」


どうせ少しの間は滞在しなきゃいけないしな。

そうだ、それも説明しなきゃいけないか。


「なんか街でゆっくりするのって久しぶりな気がする」

「悪いな。王都に戻ったら少しゆっくりしよう」


機嫌良さそうに両手を上に伸ばし背筋を伸ばすミナ。


「いいわよ。リュートに勝手について来てるのは私だし。それで、今回はどのくらい居るの?」

「その事なんだけど、ちょっと四日後に仕入れの約束があってな。その日は帰らないかもしれない」


なるべく自然に言ったつもり……だが、ミナの視線が少し鋭くなる。


「私も行く?」

「商人同士の集まりだから、今回は宿でゆっくりしててくれ。耐火粘土を売るの頼みたいしな」

「そう。街の外には出ないわよね?」

「……あぁ」


出る。と言えば、無理にでもついて来そうだ。

悪いが、ここは嘘を吐く。

今回ばかりはミナの知らない間に全部終わらせる。

……が話は、ここで少しズレた方向に進む。


「女?」

「……はい?」


ミナの顔をよく見ると眼は鋭いまま機嫌が悪そうだが、頬が若干赤く染まっている。


……嫉妬?


「な、何、ニヤニヤしてる!」

「してない!女もいるだろうけど、オレが面識あるのは男だけだ!」

素早く突き出されたグーをパーで受け止めると、非常に良い空気が乾いた音が鳴った。

魔法による身体強化を覚えてから、ちょっと洒落にならないです。


「あはは~、ラブラブだね~」

「見てるこっちが恥ずかしくなるよ」

「お前らが言うな!」

「アンタたちが言うな!」


からかうケーファーとルーシーの声にオレとミナがハモる。

まったく馬車で好き勝手にイチャイチャして。

お陰で魔王のイメージがガタガタだ。


「そんな訳でミナ、手」

「ん?」


素直に差し出されたミナの手のひらに金貨を一枚置く。


「なにこれ」

「帰らないって言っただろ?」

「お金なら私も持ってる」「それはミナが自由に使うお金。それにケ―……イとルーシーの分もある」

「……わかった」


渋々と……と言った感じではあるが、ミナは金貨を受け取る。

ケーファーとルーシー二人の分もあると言うのが聞いたんだろう。

「とりあえず、何か食べて行こう。そして宿でゆっくり……」


と、いいかけてミナが……というか、ケーファーとルーシーも固まっているのに気づいた。

……そういえば、三人はオレがストロノーさんに会いに行ってる時に何をしていたんだろう。


「え、えへへ、ごめんね?リュート。お腹いっぱい」


ミナが非常に似合わない台詞で可愛くそう言った。


……ここはストロノー牧場。食の街だ。


結局、あの後も買い食いしまくっていた三人は食事が入る訳もなく、オレも適当に露店で買うだけにし、宿を探した。


ストロノーさんに進められた宿はすでにオレの名前で予約が入れられており、滞りなく今日の予定は終了した訳だが……。


「どうしてこうなった」

「仕方ないじゃない。ルーシーがケーファーと一緒が良いって言うんだから。二部屋しか取らなかったのはリュートだし」


それはそうなんだけど。

いっそ部屋を四つ取るべきか?

いや、そんな高くつく行為は商人としてのプライドが許さない。


「ケーファーもルーシーも大変だったみたいだし、いいじゃない。ちょっと二人でゆっくりさせてあげても」

「……それもそうか」


ミナはすでに寝巻きに着替え終えていて、そのままオレが腰かけているベッドに寝転がる。

服装は向こうの世界の文化でパジャマと言うらしい。


「部屋は一つでもベッドは二つあるんですけど」

「いつもの事じゃない」

「いつもミナが潜りこんで……」

「最初に私が寝てたベッドに寝に来たのはリュートです」


……。

そういえば、ミナと旅に出た初日に疲れはてたオレはボーッとした頭で風呂あがりにそのままミナのベッドで寝たのが最初か。


「……そんな事もありましたね」

「よきにはからえ」


言葉の意味はわからないけど、ミナが機嫌良さそうだし、いいか……。


そうしてオレ達は数日程、同じような平和な時間を過ごす。

耐火粘土の売り上げも順調で依頼さえ終えれば名産を仕入れて王都に迎えるだろう。







そして、当日。

ミナが起きる前、オレは外に出る。

まだ日が昇る前だと言うのに街は殺気だっていた。

だが、この殺気はこれから移動し、朝にはいつもの平和な牧場に戻るだろう。


「おう、リュート。よろしくな。良かったら乗ってくか?」


道中、集合場所でエンブスと、そのギルドメンバーと顔を合わせる。

今回は全体指揮は銀翼兵団が取るらしい。

個人的にはエンブスの方が信用できるが王国でも屈指のギルドだし妥当な所だろう。


エンブスの言葉に甘え、馬の後ろに乗せて貰う。


夜の大人数での行軍と言うのは危険だ。

火の灯りは遠くまで届き、見つかれば奇襲の意味はない。

しかし、灯りもなく暗闇を進むのは危険極まりない。

だから、日が昇るこの時間に奇襲をかける。


過去にもコウモリに奇襲攻撃をかけた例はある……が、その全ては悲惨な結果に終わっていた。

あるギルドは、全員火事にあったかのような状態で全滅しており、とある街の自警団は襲撃をかけた翌日、何ヶ月も放置されたかのような状態で発見された。


異常であるとしか言えない。


このまま何もなく進めば良いんだが……。


そう思った瞬間にエンブスの馬の動きが止まった。


「おい、どうしたんだ?」


エンブスが手綱を引いても馬は前に進もうとしない。

回りを見てみると騎乗していた者は皆、同じような状態だ。


「エンブス。微かに甘い匂いがする」

「……っ!バレた……って訳じゃなさそうだな。用心深い奴だ」


この微か感じる匂いは、恐らく動物が嫌がる匂いなんだろう。

余り強い効果はなさそうだし、恐らくは念の為に撒いておいた程度の物だろうな。


銀翼の人達も同じように判断したらしく、次々と騎乗していた獣を降りて歩き出す。


……しかし、まさかこんなど真ん中に馬等を放置して置くわけにはいかない。

結局は各ギルドから数人ずつ残る事になる。


つまり、戦う前から欠員が出ているのだ。


面倒な事になったと思ったが、幸いにも罠に遭遇する事もなく林を潜り目立たない洞窟を見つける。

情報を知らなければまず発見できないだろうな。


一見ただの洞窟に見えるが見張りが二人立っている。

間違いなくコウモリの隠れ家の一つだ。


「すぐに騒ぎにはなるだろうが、できれば中に入るまでは気づかれたくないな」


茂みに隠れていると隣の屈強なおっさんがそう呟く。


って、銀翼のギルドマスターじゃないか。

オレでも顔くらいは知っている程に有名な人だ。


洞窟付近に隠れながら近づける場所はなさそうだ。

ここからは、普通に走って斬るには距離が遠いし、魔法は煩い。


ふむ。


「すいません。良かったらオレに行かせて貰えませんか?」

「お前は……?」

「銀翼の旦那。腕は俺が保証するぜ」


少し怪しがられたが、エンブスが口添えをしてくれ、顎に手を当てて考えている。


「先祖返りか。弓を射っても声を出される可能性も高い。よし、行ってこい。失敗しても致命的じゃねぇしな」

「ありがとうございます」


そう。

普通に近寄っても間に合わないが、オレには先祖返りのスキルがある。

身体能力を極限まで高める代わりに自らの肉体も壊してしまうが、不死の王が完成させてくれたスキルだ。

人前で不死の王は見せない方が良いが怪我をして治ったのがバレなければ問題はない。


見張りの自然に集中し、二人同時にオレ達が隠れていた場所を外れた瞬間に飛び出す。


「ふッ!!」


一呼吸で見張りが反応する前に一人を斬り伏せ、もう一人が此方に気づいた時には剣を振り上げていた。

この間に破壊と再生が行われたが、端から見て気づけるハズがない。


見張り二人が地に伏せると、数人が洞窟の前に出てきた。

その中の一人は銀翼のギルドマスターだ。


「お前、速いなぁ。よくやった。これで戦闘を有利に進められる。魔術師隊、詠唱開始」

「いつでも放てます」

「もう詠唱してたのかよ……。優秀な奴らばっかりで、おっさんは嬉しいよ」


銀翼のギルドマスターは呆れたように笑い、顔を引き締める。


「放て!!」

「はい。チェインフレイム!」

「ファイアボール!連続でいきます!」

「サンダーロッド!」


攻撃力の高い火と雷の魔法が洞窟内に打ち込まれる。

これで間違いなく気づかれただろう。


銀翼のギルドマスターも潜めていた声を大きく張り上げた。


「行くぞ!!コウモリ狩りだ!各部隊、順に入れ!!おい、若いの。お前は、俺達と一番槍だ。いくぜ!」



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