八十二話 100とコウモリ
新年明けました。
細々と続けてる小説ですが、読んでくれてる方が少なからずいるお陰でモチベーションを保ち年を越すことができました。
特に感想、誤字脱字報告してくださってる方は本当にありがとうございます。
皆様のお陰で幾分かマシな文章になってるかと思います。
なんか79話が2つあったのでこっそり修正。
よろしければ今年もよろしくお願いいたします。
「王国の中央は強さこそ大したことが無いが、何故か魔物が集まってくる。昔は放置してて中々の魔境だったらしい。そこに目をつけた貴族が魔物を一掃し、牧場を作った。当時は、管理が大変だったらしいが、巨大な牧場は便利で回りに人が集まり、やがて街になった。それが、此処、ストロノー牧場……って、聞いてるか?」
「リュート、ガイドさんみたい」
「聞いてください」
せっかく街についたから、説明をしていると自然にスルーされた。
「広い……」
ミナが感嘆の声をあげる。
ストロノー牧場は、王都とは比べ物にならないくらい広く建物も密集していない。
その分、王都の活気には及ばないが。
「人間の街ってすごいね……」
少し後ろに付いてきていたケーファーも驚いている。
ケーファーの姿は頭を含め全身ローブ姿になっていて、遠目に見れば怪しい魔法使いにしか見えないだろう。
しかし、オレの記憶にあるストロノー牧場は、もう少しのどかな風景だったハズだが……。
辺りを見回すと、甲冑を身につけた兵士や、持つ杖自体が濃厚な魔力を発している魔法使いがいる。
この辺りの敵は数こそ多いが弱いから駆け出しの冒険者は多く集まるが、どうみても熟練者だ。
「どうしたの?」
ミナが顔を覗き込んでくる。
「いや……なんでもない。せっかく街についたんだ。食事にでも行くか」
「……そう?うん、ご飯食べに行こっか」
ミナはオレの様子が多少気になるようだが、それ以上は何も言わなかった。
オレとしても、なんとなく猛者が多い、くらいにしか思わないから聞かれても困るが。
しかし、街の中では目立たなかった雰囲気も酒場の中では、異常と言える空気が充満していた。
「……何、この人たち。喧嘩売ってきてるの?」
酒場のドアを潜った瞬間にミナが、不穏当な事を言ったが無理もない。
明らかに空気がピリピリしている。
……何があるんだか。
どうやら、特別な時に街に足を踏み入れたらしい。
しかし酒場の連中も何があるかは知らないがオレ達に敵意があるわけじゃないだろう。
その証拠に、またざわざわと何かを話し合っている。
「何言ってるんだ、行くぞ」
「う、うん」
「大丈夫かい?ルーシー」
「なにがー?」
ミナの手を引き壁際の席に手を引く。
ケーファーはルーシーを心配そうに見ていたが、ルーシーは何も気にして……いや、気づいてすらなさそうだ。
実はメンタル一番強いんじゃかなろか。
適当な席につき、適当に注文をした頃には誰もオレ達の事は気にせず、何かを話し合っている。
「なぁ、マスター。何か、あったのかい?」
「んー、実は俺達も良く知らねぇんだ。何日か前から傭兵が集まりだしてな。どうも、ストロノーさんが雇ってるらしいんだが……」
「ストロノーさんが?」
牧場主が何故?
何か新しい食材でも仕入れるのか?
それにしても傭兵達の空気が悪い。まるで魔界の奥地に宝探しにでも行く前のようだ。
「おいおい、リュート!リュートじゃねぇか!!」
酒場のマスターと会話していると、髭面の厳つい男が話しかけて……って!
「エンブス!久しぶりだな、おい!!」
「死んだと思ったぜ!生きてるって聞いた時は嬉しかったが挙句にゃ勇者だぁ!?耳を疑ったぜ!!」
互いに持つグラスを強くかち合わせる。
割れるかと思うほど強く合わせたのは反省すべきだが、酒場全体に綺麗な音が鳴り響く。
エンブスは大手ギルドのマスターで、以前に一度オレと仕事をした事がある。
「なぁ、エンブスならこの状況知ってるんじゃないか?」
「ん、あー、知ってるっちゃぁ知ってるんだが……」
「良かったら教えて貰えないか?」
「一応、口止めされてるんだが……いや、リュートなら仲間に引き入れてみた方が得だろうな」
少し迷ったようだが、教えてくれるらしい。何やら厄介事に巻き込まれそうな気もするが、儲け話なら乗ってみるのも悪くないだろう。
エンブスはオレに近づいてきて小声で話す。
「実ははな……コウモリ狩りが始まるんだ」
「蝙蝠狩り?動物なんて狩って……いや、待て。まさかコウモリか!?」
「あぁ、まさかのコウモリだ。実はストロノーの旦那が話を持ちかけられたらしいんだが……旦那もコウモリには恨みがある。住処がわかった今、信用できる筋に片っ端から依頼を持ちかけているらしい」
コウモリ、この大陸に住んでるなら、その名前を知らないハズがない。
出現は局所的だがソレが出た場合の被害が魔獣に襲われるよりも大きい。
オレ自身、コウモリとは因縁を持つ人間の一人でもある。
「リュート、行くの?」
ミナが運ばれてきた食事に手をつけず真剣な表情でこちらを見てくる。
ケーファーとルーシーは早速食べて顔を綻ばせているが……。
オレは少しだけ考えて……こう答えた。
「いや、やめておこう。金にはなるだろうけど、危なすぎる」
「そっか。わかった」
「残念だなぁ。リュートがいれば心強かったんだが。それに今回は危険も少ないぜ?なんたって、うちのギルドの人員の半分、それに銀翼兵団の連中も来るからな!」
銀翼ってマジか。
エンブスの所もかなりの大手だが、銀翼兵団は名実共に王国で一位二位を争うギルドだ。
「ちなみに、依頼額はこんだけ。個人だとかなり下がるだろうけどな」
そう言って、エンブスは指を四本立てる。
おい、いくらだよ。
金貨40枚か?それとも400枚か?
両方ありえる数だから若干困る。どちらにせよ、大金ではあるが。
「今回は辞めておくよ。ちょっと売らなきゃいけないモノが多くてな」
「そうか、残念だよ」
本気で残念そうにしながらもエンブスは引き止めない。
これも、大手ギルドを率いる人間の才覚なのかもしれないな。
「けど、ストロノーさんとは面識があってさ。良かったら会わせてくれないか?」
「ん?おぉ、流石リュートだな。旦那とも交流があんのか」
「ちょっと前にパーティーで偶然知り合っただけさ」
「ははははは、また派手な事やってんな!!いいぜ、飯終わったらすぐでいいか?今、旦那は誰にでも会えるように取り計らってるらしいからさ」
「あぁ、頼むよ」
オレとエンブスの談笑で、酒場の空気も幾分和らぎ少しは食事のしやすい環境になったからか、ミナも満足そうに箸を運ぶ。
「でも、挨拶って何するの?」
「商人同士は顔合わせも大事なんだよ。うまく行けば、行商品を売ってくれるかもしれないしな」
「……難かしい話になりそうね」
「あぁ、オレ一人でいいよ。適当に宿を取っててくれ。待ち合わせ場所は……そうだな」
どこにしようか。そう考えていると、ルーシーが銀色に光る羽を一枚渡してくる。
「……何、これ」
「んっとねー、私の一部を使うとセラフィックゲートが使えるんだよ!」
「うん、それは知ってる」
てか、説明がすごくわかりやすくなってる。
けど、今度は新しい何かが抜けてる気がするけど。
「あはは、えっとね、リュートも魔力はあるよね?それを通す事によって小型のセラフィックゲートを作って喋る事ができるんだ」
「なんだと……」
なんて便利なモノを……。
音声をダイレクトで伝える魔具なんて高級品だぞ。
「ありがたく借りていくよ」
「うん、お仕事頑張ってね~」
ルーシーに見送られながら外で二手に別れる。
ミナは無愛想に小さく手を振っているだけだ、が……。
手を振ってくれている事、自体今までより大きな進歩な気がする。
どれだけ素っ気無くされてたんだ、オレは。こんな事で嬉しいと思うのが悲しくなってくるわ!
「なぁ、リュート。ストロノーさんに会わせるのはいいんだけど、なんて伝える?」
「あ、あぁ。悪い。こう伝えてくれ『コウモリ討伐に参加させて頂きたい』って」
「お前……いや、何も聞くまい。わかった」
◆
エンブスに仲介して貰い、ストロノーさんに会うと彼は快く承諾してくれた。
ギルドに払った金貨はなんと1000枚らしい。4ってのは桁の事だったのか……。
オレ達は残念ながらその1/10だ。それでも十分過ぎるほどの金額ではあるが。
「しかし、リュートさんが参加してくれるなら心強い。と、なるとミナさんも参加なさるのですか?」
「いえ……」
オレは首を横に振る。
ミナを連れて行くならミナに隠す意味なんてない。
「ミナは連れていけません。今回はオレ一人でお願いします」
ミナに嘘をついた罪悪感がない訳じゃない。
それどころか、オレはほんの少し前に交わした約束を破る事になる。
けど、今回の相手だけは……コウモリだけは……。
潰しておかなければいけない。
そして、ミナを連れて行く訳にもいかない。
コウモリだけは、オレの手で殺しておかないといけない相手なんだ。