八十一話 100とお弁当とお約束
ミナのデレが少ない。
そう思い念頭に置いて書いた!
……けど、やっぱり少ない気がしますね(笑)
誤字脱字報告感想等いただけると嬉しいです。
なんか前書き書いたの久しぶりな気がする
サラマンダーだった物のコアが、粉々になり消え去り、炎は神威の余波に消し飛ばされた。
ケーファーの言う通り、サラマンダーは勇者の能力の影響を受けていたんだろう。
……ただ何故、その勇者がこんな事をしたのかわからないが。
……どうでもいいか。
「泥だらけだな」
大雨が降った後の山の中で戦い、転がり、跳ね回ったせいで、全身酷い有り様だ。
直接サラマンダーと戦わなかったケネスの部隊はオレより随分マシだけど。
「すごい汚れ」
同じく泥だらけのミナが近寄って来て、笑う。
「人の事を言えた有り様じゃないだろ」
「リュートと一緒に転がったからね」
互いに互いの恰好を見て笑いあう。
が、いきなりミナがオレの肩に手を置き、胸に額を当てる。
「……助けてくれてありがと」
「おう」
顔は見えないが、真っ赤になっている事は容易に予想がつく。
思わず彼女の頭に手を乗せ……泥だらけでお気に入りの髪に触ってしまった事に気づいたが、振り払われる事はなかった。
「アハハハ、魔女がこんなに誰かに懐くだなんて信じられないね!」
……良いところだったのに。
案の定ミナは、慌てて真っ赤な顔をあげて声の主……ケネスに食ってかかる。
「は、はぁ!?誰が懐いてなんか……!!」
「いないのか?」
「……そういう訳じゃないけど……口でくらい否定させろ!」
ミナが話してる最中に肩を抱き寄せ、そう聞くと、ただでさえ赤く染まった顔を更に真っ赤にし、オレの肩をポスンと殴り、歩いて行ってしまった。
流石に付き合ったからといって、いりなり甘々な関係にはならないらしい。
それでこそ、オレの魔女という気もするが。
「さて、余り重い話ならミナに聞かせたくないし、これでいいか。で、見つかったのか?」
ケネスの顔は笑っていたが、目は笑っていない。
何かよくない物を見つけたと考えていいだろう。
今の状況でよくない物って言えば恐らくは……。
「いや、何も見つかっていないんだよね」
「……は?」
「だから、何も見つからなかったんだよ。あぁ、もちろん兵士の亡骸は幾つかあるみたいだけど、カムイの物じゃないから僕にはあんまり関係ないかなぁ~」
この規模の戦闘だ。
死者が出ない訳がない。
「見つからなかったって言うには早すぎるだろう。まさか山全部を探した訳じゃないだろう?」
「探した……ていうか、山全部を見たんだよ」
「……勇者か」
「うん。連れてきた勇者のうち一人は、見通しのいい場所を。もう一人は山や森なんかでの視界が広い人なんだよね」
「そういえば、二人連れてきたっていったか……。よく、そう付いて来てくれるもんだな」
「二人共、戦う力は低いから結構乗り気で付いて来てくれたよー」
サラマンダーとの戦闘中に魔獣の邪魔が全然入らないと思ったがそういう事か。
詳しい能力はわからないけど、森での状況が把握できれば、一方的に攻撃できる。
サラマンダーのような攻撃が効かない奴でなければ相当有利に事を運べるだろうな。
「二人が見つからないなら、それでいいだろう」
「心配じゃないのかい?」
ケネスは少し驚いたように聞いてきたが……あの二人だしなぁ。
山にいないなら、自力で生きて帰るだろ。
「そんな簡単にやられはしないさ」
「あははは、それもそっか」
ケネスも納得して笑い出す。
「とりあえず、僕たちは、帰るかな。援軍も来ないし」
「あぁ、オレ達も帰るよ」
しかし、時間的に今日は野宿か。
服、どうするかなぁ。
オレはともかくミナも泥だらけだしな……。
「リュート、帰るの?」
考え事をしながら歩いていたら、いつの間にかミナがいつも通りの姿で立っていた。
その姿は余りにもいつも通りで……。
「……綺麗だな」
「へ!?何いきなり……って、あぁ、うん。洗ったから」
ケネスと話してた間は数分程度だったハズたが、うちの魔女は、その間にすっかりいつも汚れを落としていた。
……魔法め。
◆
「リュート、あーん」
……さて、サラマンダーを倒したオレ達は道中で一日休み聖殿都市で食料を補充した後にストロノー牧場へと向かっている。
そして、今、オレは彼女と出会った以来最大級の謎にぶつかっている。
ミナがお弁当と思わしき物を膝に乗せ、おかずを箸で掴み、オレに向けて来ている。
言うまでもなく、顔は真っ赤だ。
しかし、いつも赤面してる時は、照れるか、怒るかしているが、驚いた事に満面の笑顔だ。
確かに、付き合っている男女ならあり得るワンシーンなのかもしれないが、あえて言おう。
オレの知ってるミナじゃない。
「……何よ、その顔」
やっぱり、無理をしてたのか、赤面したまま唇を尖らせ、拗ねる。
うん、こっちのミナの方がしっくり来るな。
「どうした。いきなり」
「……別に」
オレがそう聞くとミナは視線を反らす。
反らした視線の先を見てみると、そこにはイチャイチャしてるカップルがいた。
「ケーファー!見てみて、狼さん!」
「本当だね~。平和だね~」
魔王が何言ってやがる。
ケーファーはルーシーを後ろから抱き抱え、ルーシーはケーファーに寄りかかっている。
旅の道中というものは、特にする事もなく、オレとミナも退屈をもてあまし気味だったが、あの二人は実に楽しそうだ。
「……暇だったから」
彼女は目を伏せて小さな声でぽつりと漏らす。
「昨日、何をごそごそやってるのかと思えば……」
「……っ!気づいてたのね」
ミナの膝の上に乗っているお弁当を見る。
昨日の夜中に仕込みでもしていたのだろう。
手間も随分かかってそうだ。
「あの……さ。あーん、とかそういうのは置いといて、それ、貰ってもいいか?」
ケルロンの手綱を放しミナの方に向く。
ちなみに、手綱は、なんとなく握っているだけで、ミナに懐いているケルロンに必要はなかったりする。
「うん。食べて?」
ミナは上目使いで恥ずかしそうにお弁当を渡してくる。
……おぉ、すごいな。
ミナの料理は彼女が元の世界での知識を使い作っている物も多く、正直わからないものも多い。
……が、作る大変さがわからない訳ではない。
「いただきます。……うまい」
箸を口に入れると、そんな月並みの感想が自然と出てきた。
あまりに捻りのない感想だったが、ミナは嬉しかったらしく少し得意気に話し出す。
「ちょっと材料貰ったけど、冷めても美味しい物を作ってみたの。いつも昼食って味気ないじゃない?」
確かに、昼のうちに距離を稼ぎたいから昼食は適当に済ませる事が多い。
「リュート、らぶらぶだね~」
「こっちまで熱くなってくるよ」
「二人には言われたくないっ。ほら、ケーファーとルーシーの分もあるから」
「ほんと!?」
いちゃつくカップルにミナがオレの言いたい事を代弁してくれた。
ルーシーはミナからお弁当を受け取り嬉しそうだ。
「中身は同じか」
「うん、流石にね。……あーん、してあげよっか?」
ミナが悪戯な笑みを浮かべる。
これで本当に頼んだら照れるくせに。
「恥ずかしくて味がわからなくなる。勿体ない」
「そう。美味しい?」
「あぁ」
我ながら素っ気ない返事だったと思うが、ミナは満足そうだ。
「手間がかかるから、毎日はキツイけどさ。また、たまには作るから」
「ん、ありがたい」
ミナはお弁当を食べてるオレの隣に座り、一回り小さなお弁当を取り出す。
自分自身の物だろう。
「リュート、私を置いていっちゃ駄目だからね」
ミナは不意に寂しそうにそう言う。
「危険な場所でもついてく。ついていけない場所ならリュートも行かせない」
いつもより折半詰まった彼女の雰囲気に少し押される。
……が、オレ自身、ミナに傍にいて貰いたい。
「危険な場所でもオレが守る。守れない場所なら行かない」
ミナの髪を撫でながらそう言うと彼女は満足そうに笑う。
「うん」
昔のオレは必死だったから無理をしたが、家の借金を返してからは気ままに商人をやっているだけだ。
今までと変わりやしない。
そう思っていた。
しかしオレは、すぐにこの約束を破る事になってしまった。