表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
一章 傷ついた少女
8/131

八話 1の不安と猜疑心

もう…元の世界には戻れないんだろうな。


ここは王都。

でも多分、日の光の浴びない部分だろうな。


私はここで奴隷として売られていた。

声もでない。満足に歩けもしない私を誰が買っていくというのだろう。


まぁ、女として買われる事ならあるのかもしれない。



ロクに恋すらしないまま、私の私としての人生は終わろうとしている。

いや、もう終わってるのかもしれない。




考え事をしていると気づけば目の前には灰色の髪の男性が立っていた。


「……!!!」


それに気づいた私は彼を睨みつける。

何もできない私の精一杯の強がりだ。


「おいおい、気持ちはわかるが、そこまで警戒しないでも」


男は笑いながらそんな事を言ってくる。

ふざけないで。

気持ちはわかる?私のこの惨めで情けなくて死にたいような気持ちが?

警戒するな?こんなトコに出入りしてるような人間がロクな人間であるはずがない。


彼は少し私を見ていたがやがて私を売っている商人のもとへ歩いていった。

私の出品は明後日らしい。彼もオークションに参加するのだろうか。



勇者として何度か会ったことがある貴族の中年に買われるよりは彼みたいな人に買われた方がまだマシかもしれない。



ふぅ……何考えてるんだろう、私。

そもそも買われる事、自体が最悪じゃない……。


元の世界の暮らしも楽なものではなかったが、ここではもっと辛い暮らしが待っていそうだ。


帰りたいからって無茶しすぎたかなー……。

少しそんな事を思うが今更どうすることもできない。


傾国の魔女とか言われても、所詮はこの程度かぁ。

考えも無しに突っ走って無様に負けた。

その結果がこれだ。自業自得以外のなんでもない。


「お嬢ちゃん、もうすぐご飯だけど、その前にお風呂に入ろうか」


沈んでいると商人が声をかけてくる。

言いなりになるのは気に入らないけどここで見世物になってるよりは湯に使っているほうがいい。

幸いこの国の入浴は私の国のお風呂と大した違いがない。

石鹸とかがないけど、そのくらいは我慢する。




いつもは大勢で入るお風呂だけど今日は何故か一人だった。

年配の女性の従者の一人もついてきている。

売られるのが近いからなるべくいい状態にするのかな。なんて考える。

駄目だ。状況が状況じゃ当然とは言え何を考えても気分が沈む。


桶にお湯を入れ頭から被る。

リンスもコンデショナーもないのが少し気にかかる。

これでも元の世界に居た頃は髪の手入れには気を使っていたんだ。


一応、お湯で念入りに流す。

どれだけ効果があるかはわからないけど、やらないよりはいいだろう。

体も軽く流しお湯につかる。


この後どうなるか想像はつかないが今このときだけはゆっくりしよう。


「貴方、運が良かったわね」


従者の女性が話しかけてくる。

運がいい?


「貴方の買い手が決まったのよ。法外な価格で今すぐ欲しいって」


……え?買われたの……?私。

今まで堪えてきたけど、少しだけ涙ぐむ。

従者の人がクスッと笑う。何、私のことが嫌いなの?この人。


「大丈夫よ。貴方を買ってくれた人はとても優しい人よ」


頭を撫でられる。

優しいって言われても人を売買しようなんて奴は信用できない。

私はぽろぽろと涙を流す。

泣いてるのに声がでないのがすごく腹立たしい。


「大丈夫よ、貴方は本当に運がいいの。あの人の家に行けばわかるわ」


彼女の言葉が本当ならどれだけ嬉しい事か。

それでも最悪の事態だけは免れたらしい。

私は彼女に頭を撫でられたまましばらく涙を流し続けた。





どれだけ泣き続けたろうか。

私は多分数十分はお湯につかり続けてた。


「ほらほら、落ちついたらそろそろあがるよ。いい加減のぼせてしまうだろう?」


ほら、顔を洗って。と女性は言ってくる。

確かに少し頭がぼーっとする。


私は顔をパシャパシャと洗うと女性に手を貸して貰って脱衣場に向かう。

座りながら体を吹いていると女性が手に何かをもってきた。


「ほら、アンタの服だよ」


渡された服は私が着ていたボロと違い綺麗なシャツとスカートだった。


元の世界から持ってこれた唯一の物だから着ていたかったな……。

ぼろぼろになった服ではあったが、間違いなく私を支えてくれていた服を無くしてしまった。


でも裸でいる訳にもいかず服を受け取る。

服……返して貰えるのかな……なんて考えながらシャツに袖を通した所で私は気づく。


「!?」


慌ててスカートも広げてみるがどちらとも多少デザインが変わっているが私が元の世界から来ていた学校の制服であった。


「アンタの御主人がこれまた大金を渡してきて、その服を修繕してやってくれって言ってきたのさ」


女性の言葉に私はスカートを抱き締めてまた泣き出した。


私を物扱いするような奴だけど、この事だけは本当に感謝しよう。


少しくらい変わっても、これは私の制服に間違いない。


「優しい人だっていったろう?まだやることはあるんだ。着替えて早く行くよ」


女性は言い方こそ叱っているかのようだが、その表情は柔らかい笑みを浮かべて少女がゆっくりと着替え終わるのを待っていた。


あ、包帯着けなくちゃ。

あまり酷くはないけど私の顔は今火傷している。

ウェアウルフの火球を弾いた時に負ったんだと思う。


「あぁ、それはいいよ。早くハンスさんのとこにいくよ」


でも包帯を巻こうとした手は彼女に引っ張られて脱衣場の外に連れ出されてしまった。


あまり強く意識したことはないけど私だって女だ。

顔の火傷くらい隠させて欲しい。


私は彼女の手を振り払う。

彼女はそれに対して少し驚いた顔をするがすぐに笑って言ってくれた。


「大丈夫大丈夫。ハンスさんのとこにいけばわかるから」


よくわからないけど結局私はそのまま商人……ハンスさんかな?のとこまで引っ張られてしまった…。




「お、きたか。お嬢ちゃん!」


彼は綺麗な女の人と話していた。

私が来たのに気づくと笑いかけてきたが私は睨み付ける。


「ははは、そんなに怖い顔しないでくれよ。ほら、この人は治癒術師さ」


流石に慣れているらしく私の睨みなんて軽く流された。

でも、治癒術師って?


「頼まれた事ではないけどね。君をなるべく万全の状態で彼に届けたいからサービスさ」

「はじめまして、可愛いらしいお嬢さん」


ハンスさんと話していた女性は私に笑いかけると椅子に座った私の顔と足を手で触り始める。


「ふむ、ちょっと失礼」


彼女がそう言って私の顔に手をかざすとポウッと白い光に包まれた。


「!?」


私は動かない足を引きずり慌てて彼女から距離をとる。


何をされたかわからないけど変な魔法をかけられて売られたらたまったもんじゃない!


「大丈夫よ、ほら、見て」


彼女は気を害した様子もなく私の前に鏡を持ってくる。


火傷が…消えてる!?


「足を直すのはちょっと無理だけど、その火傷くらいなら直せますよ」


驚いてる私に彼女は笑いかけてくる。


「足も……動くようにはできませんが、まだ大分痛むでしょう?その痛みを和らげるくらいはできますよ」


そう言うと治癒術師さんは私の足に手をかざすとさきほどと同じようにポウッと白い光が灯る。


今度は驚いて逃げたりしない。


「これで大丈夫だと思いますよ」


治癒術師さんの言葉に傍に置いてある杖を取って少し歩いてみる。


よたよたと数歩進むが右足はまったく痛まない。

さっきまで少し動こうとするだけでかなり痛かったのに。

相変わらず動きはしないけど……。


「さて、私にできるのはここまでです。ハンスさん、失礼しますね」


「いやいや、こんなところまでありがとうございます」


治癒術師さんはそういうとハンスさんから金貨を一枚受け取って去っていった。


金貨一枚。私の怪我を直す価値。

一般家庭の月の平均収入が大体金貨二枚分くらいだと聞いた事がある。

王都の人はもっと貰っているらしいが、それでも大金なのだろう。

ハンスさんも商人。

なら損をする行動をとるとは考えずらい。


私を買った人はそれだけの大金で出したんだろう。

なんで私なんかにそんな大金を出したんだろう……。


この服にしてもかなり丁寧な仕立で補修してくれている。


「さてお嬢ちゃん。お昼の時間だ。その後君を街の南門まで運んで君の主人に引き渡す事になっているけど……まぁ、彼を少しくらいまたせても構わないだろう。ゆっくり食べてくれ」


ハンスさんは私にいつもより少し豪華なご飯を持ってくる。


でも、私は……これも私を買った人のお金で出して貰っているのかと思うと食べる気には慣れなかった。



私を買った人はすごいお金持ちでオークションを無視して法外な金額で私を買った。


服を直して貰ったり怪我を治して貰ったり感謝してるところもあるけど、どうにも好きになれそうもない。



結局出して貰ったご飯には手をつけず困った顔のハンスさんに連れられて南門へ行く。



そこには、見覚えのある灰色の髪の男の人がいた。


「いらっしゃい。これからよろしくな」


あまりにも予想外な人物が待っていた事に私は思わず、こくんと頷いてしまい…それを見た彼は…



すごく嬉しそうに私の手を引き馬車に乗せてくれた。



久しぶりの1視点の話でした。


これから彼と彼女の物語は進んでいきます。


読んでくれてる方々は勿論、少数とはいえお気に入り登録してくれてる方もいて本当に嬉しいです。


ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ