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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
四章 不死の王
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七十八話 100と未知の武器

此方へと向かって来る軍隊と思わしき集団の先頭に立つ金髪の男……ケネスが片手を上げると後方の軍は足を止めた。


ミナの言う通りなら、勇者の一人のハズだけど……なんで軍隊なんて引き連れてるんだ?

ちなみに、この世界の髪の色と同じだから、金髪だと一目では勇者と解りにくいが、珍しい訳ではない。


ケネスが近づいてくるに連れ、ミナの起こす風も強くなり、この強風なら矢などロクに当たりはしないだろう。


ミナが此処まで警戒するのだから、注意すべき人物だろうが、いざとなればオレがミナの前に立てばいい。

幸い、死なないし。


ケネスは少し距離を取った所で立ち止まり……まぁ、この強風を前に目の前に来る奴もいないだろう。

そして、片手を上げて人懐っこい笑顔を浮かべた。


「やぁ、ミナ!久しぶり!いきなり城を飛び出て行って心配してたけど、元気そうで何よりだよ。あはははは!」


なんというか……張りつめた緊張感が台無しだった。


流れるような金の髪に、透き通るような白い肌。

それに加え、見る者を魅了する蒼い瞳は神秘的な雰囲気を醸し出していた。

ただ、なんというかノリが軽い。


「えっと……ケネス、でいいのかな?」

「あぁ!ボクはケネス。君は誰だい?というか、どうにかしてくれよ、彼女。ボクを見るたび睨み付けてくるんだぜ?」


ケネスは肩をすくめて笑いながら溜め息を吐く。

なんというか、雰囲気こそ違えどカムイさんに似てる。


「ケネス……!」


オレに笑いかけるケネスをミナが睨み付ける。

ミナがオレ以外に、こういう目をするのは珍しい。

いや、できればオレにも止めて欲しいけど、愛情の裏返しと考えるなら、ううむ……。


「アンタが、なんで兵士なんて引き連れてるのよ。ていうか、何?その人達が背負ってる物」


軽く思考が脱線しかけたがミナの言葉で改めて、彼らが背負う筒状の何かを見る。


弓に見えなくもない……が、弓とは思えないな。

帝国の新部隊には間違いなさそうだが。


「なんで?そりゃボクが帝国の仕官だからさ!背負ってる物は……ミナの予想道りの物だと思うよ?」

「勇者が帝国についたのか!?」

「アンタ、異世界になんて物を持ち込んでるのよ!!」


オレとミナが、それぞれツッコムが、その内容は違っていた。


「だって王国に付いても良い事なんて無いしね。勇者はどこ行っても優遇して貰える。帝国の方が僕の能力を生かしてくれるしね。それより……」


……確かに王国の言う通りに魔王討伐なんてしても意味はない。

オレとミナも、そんな事に興味はない。というか、魔王がパーティーにいるし。


しかし、だからと言って他国に付くのも……いや、今までもあったのか?

あっても教えようとはしないだろうしなぁ。

何にせよ、今回の召喚人数は過去最多。

それが悪い方向に進んでるとしか思えない。


「その馬車を引いてるのは……魔獣なのかい?」


ケネスがケルロンを指差す。


「魔獣ケルベロス。どういう訳かミナに懐いてな」

「早いのかい?」

「馬車を引きながらでも、そこらの馬よりは早いな」


ケネスは顎に手を当て小さな声で独り言を言いながら考え事を始めたようだ。

その顔は至って真面目で、先程までの陽気な雰囲気とは程遠い。


……なるほど。

さっきまで、へらへらしてたのは演技か。


商人をやっていると、こういったタイプの人間にたまに出会う。

へらへらと笑い、適当に行動してるように見えて、裏ではよく考えて行動する。

……警戒するべきだな。


「ねぇ、一つ頼みがあるんだけど。なぁに、魔女もきっと賛成してくれるさ」

「……?魔女じゃなくて、ミナな。話だけは聞こう」

「ありがと。ちょっと馬車に乗せて欲しくてさ。後、二~三人は行けるだろ」


何をいきなり言い出すんだ、コイツ。

確かに、一時的になら乗れない事はないが……。


「一応聞くが、理由は?」

「人助けさ!」


先程迄の、へらへらした笑いを浮かべケネスは楽しそうに言った。

人助け……内容にも寄る……のか?


「実は、とある部隊が魔獣討伐に出向いたんだけど、救援要請が出たみたいでね。魔法?未だに良くわからないけど、便利だね!」


救援要請って……余程立場のある人間じゃなければ、そういった魔具は持ってないと思うが。

よくある話ではあるし、いちいち関わっていたら身が持たないが、相手が相応の人物なら利益も……。


「いいだろ?ミナちゃん。王族に興味なんてないけど、護衛部隊に、あのカムイが居るんだよ」

「……っ!?それ、ホント?」


ちゃん付けすんな。

いや、それより……!


「カムイ!?ていうか、王女なのか!?」

「うん。他にすぐに動ける部隊がなくてねー。同じご飯を食べた仲間……カムイが危ないなら助けたいなぁって。どう?」


ミナに視線を向けると何も言わず頷いてくれた。


「ケー……ケイ、ルーシー寄り道してもいいか?」

「ケ……ケイって、僕?まぁ、いいけど……」


今、思い付いたがケーファーの名前を知っている人が居るかもしれない。

一応、名前も伏せておくべきだろう。


ケーファーの理解力が高くて助かった。


「ケネス。こっちは構わない。けど、どうするんだ?」

「ありがとー!正直、間に合わない可能性が高いと思っていたんだ」


そう言ってケネスは、オレの手をとる。

嬉しそうにしているが、すぐに真面目な表情になり話し出す。


「まず、見て貰えればわかるんだけど、うちの部隊にいる騎馬は十騎しかいない。本来なら、すぐに駆けつけたいけど、部下を無駄死にさせる訳にはいかない」


帝国の新部隊評価試験も兼ねてるしね。とケネスは笑うが、優先度は低いだろう。


「だから多少時間がかかっても部隊の半分……三十人いるんだけどね。を率いて、行こうと思ってたんだけど、間に合わない可能性が高いんだ。そこに君たちが現れた!僕と後、二人は君たちの馬車に乗って、騎馬兵十人と急行する。残りは当初の予定通りに歩いて後詰めに来て貰う。君たちも合わせれば、数も揃うし不測の事態にも援軍が約束されてる。それに何よりも……」


ケネスはミナを見る。

やっぱり、傾国の魔女の名前は伊達じゃないか。

ここでも、頼りにされてるみたいだ。


「どうだい?」


笑いながら、話しかけてくるが目だけは真剣そのものだ。


「あぁ、すぐに行こう」


王女とカムイが関わっているなら是非もない。

ここで、知れたのは運が良いとすら言える。


「助かるよ。君たち!今のは聞いてたね!騎馬兵は、馬車の周囲に展開して付いてくるように!……あ、ちょっと待っててね。今、同行者を連れて来るから」


そう言い残してケネスは自分の部隊に紛れて行った。







「リュートさん、初めまして。早いですね……この馬車」


馬車に乗り数時間、ケネスの部隊は聖殿都市について、すぐに救援作戦を受けたらしく馬車に乗るや否や、休眠を取っていた。

どうやら、目が覚めたのか一人の少年が話しかけきた。

髪は白い……が、所々に金色のメッシュが入っている。

珍しいな……もしかして、勇者か?


「疲れはとれたか?」

「はい。すいませんでした。挨拶もそこそこに寝だして」

「気にしないでいいさ。戦闘で足を引っ張られる方が余程困る」

「ありがとうございます……って、言っても、僕はあんまり強くありませんが」


少年は苦笑いをして答える。

ただ、この状況では謙遜にしか聞こえない。


「あれだけ居た歩兵から選ばれた二人が強くないハズがないだろ?」

「本当ですよ。でも、お役には立てると思います」


そう言うと少年は前髪を書き上げて、前方をジッと見る。


「…………かなり先ですけど、森がありますね。小規模ですけど、火事が起きてるみたいです」


……?

彼に倣い前を見るが森なんて見えない。

いや、遠くに見える山の事を言ってるのか?

だとしたら、ここから把握できるハズがない。


「君は……」

「はい。僕もケネスと同じ勇者です。能力は望遠。障害物が無ければどこまでも見えますよ」


少年は楽しそうに言った。

なるほど。

弱くとも、部隊や仲間の為には中々、便利な能力だ。

今回みたいな事態では尚更強力だな。


「君も帝国側か。もしかして、後ろの彼もか?」

「僕自身は弱いし、ケネスみたいな戦える理解者が必要なんです。彼も勇者ですよ。もう一人いるんですが、今回は援軍部隊でお留守番です」


最低でも四人は帝国に付いたって事か。

……すでにやられた勇者もいるし、もしかしたらまともに魔王倒そうとしてる勇者なんてほとんど、居ないんじゃないか?


「リュートさん!」


少し思考が脱線した所で隣にいる少年が声を荒らげる。

そして進行方向の斜め前を指差す。


「向こうで、馬車が魔物に襲われてます!まだ逃げれてますけど……赤い髪の人が屋根に乗って、迎撃してますね。馬車は屋根付きなので中までは見えませんが……」

「赤い髪……アウゼルか!」


高確率で王女の馬車だろう。

まったく、役に立つな、コイツの能力は。

ケネスが連れてきたのも頷ける。


「ミナ。聞いてたか?」

「ん。もうすぐ戦闘ね」


途中から話を聞いていたらしく、すぐ後ろから返事が聞こえた。

見てみるとケネスと、もう一人の勇者もすでに起きて準備をしている。


「リュート。僕達の武器は小銃といって少し距離がある所で最大の効果が出ます。あの馬車の進行方向で待ち伏せしたいのですが」

「ミナもケイも攻撃魔法があるし、そっちの方が都合がいいな」


そう言ってケルロンの進路を真横に変える。

馬車自体は見えないから、どのくらい離れてるかわからないが、間に合うだろう。


ケルロンのスピードを更に上げ、王女の馬車を待ち受ける。

オレは、これから始まる戦闘に緊張しつつも、帝国の新部隊の武装に少しだけ心を期待していた。





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