七十四話 100と天使の作戦会議
母さん、お元気でしょうか?
オレが家を出てから随分経ちました。
そういえば、この前久しぶりに兄さんに会いました。
屋敷を出て以来の事です。
妹とはたまに会っていましたが、それ以外は屋敷を出て以来の話になりますね。
少しだけ報告があります。
最近、旅の仲間ができました。
長い黒髪が似合う魔法使いの女の子です。
ただ……
昨日から、なんか避けられてます。
青空を見上げながら一人、歩く。
別に手紙を書いてた訳ではない。
ただの現実逃避だ。
何かしたかなぁー、オレ。
と、考えてみるけど心当たりはない。
そもそも昨日の夕食時からいきなりだ。
それまでは、普通に喋っていたハズだ。
それが……。
「リュート!?わ、私、ちょっとコレットの所に行ってくるね」
と、そそくさと子供達の輪の中に入っていった。
さっきも……。
「ミナ、ちょっといいか?」
「あ、えっと、ごめん!今日はケルロンを洗うからちょっと忙しいの!」
「ん?じゃ、一緒に行くよ」
「へ?や、今日はちょっと大きい魔法も使って危険だから!」
と、言って走って村の外に出ていった。
どうしたものか。
「リュートー!今、時間あるかな?」
色々考えているとケーファーが小走りで寄ってきた。
時間は……ミナに逃げられてる以上、有り余ってる。
「どうした?」
「村長が僕とリュートに大事な話があるんだって。ちょっといいかな?」
「村長が?今からか?」
ケーファーは頷いてオレの手を掴み引っ張っていく。
大事な話……ね。
大体の予想はつく。
ケーファーが馴れた様子で家に入り、部屋のドアを開けると村長がどんよりとした顔をして待っていた。
……重っ!?
村長の纏う空気がとてつもなく重い!
少ししてため息と共に村長は話し出した。
「リュートさん。実は折り入って貴方に話がございます」
「はぁ……」
話の内容より空気の重さが気になる。
そんなに言い難いか。
どうせ魔王を一緒に連れていって欲しいとかそんなんだろ。
「こんな事を頼むのは筋違いかと思いますが……ケーファーさんを一緒に連れて行っては貰えませんか?」
「え?」
「いいですよ」
「ええ!?」
「……何、驚いてるんだ。話、通ってなかったのか?」
「うん。初めて聞いたけど」
流石にケーファーには話してあるものだと思い込んでいたが違ったみたいだ。
オレとケーファーは二人で村長に顔を向ける。
「申し訳ない……。村を救って頂いて置いて、こんな恩知らずな真似は言い出した難いくての……」
「いえ、良いんです。僕もいつまでも、此処に居れるとは思っていませんでしたから。でも……できたら理由を教えて欲しいです」
ケーファーがそう聞くと村長はまた押し黙る。
……はぁ、仕方ないか。
「魔王の味方についた村。そんな風に思われたら堪った物じゃないだろ?」
「あ、そっか……」
ケーファーが目に見えて落ち込むと空気がまた一層と重くなる。
「申し訳ない!ケーファーさんには感謝しておりますが……村も守らねばならぬのです!」
「そ、村長!?大丈夫です!頭をあげてください!」
村長も少なからずケーファーに好意は持ってるだろうけど、こればかりはどうしようもないだろうなぁ。
「せめて……ケーファーさんに理解のあるリュートさんにケーファーさんをお願いしたいのです。お礼はさせて頂きます」
「別に良いですよ」
「良いの?リュート。僕は魔王だよ?」
ケーファーは心配そうに訪ねてくるが、そこら辺は少し考えある。
むしろ、食料の方が心配だ。
ミナと二人きりの時より倍の人数になる。
天使や魔王の胃袋がどうなってるのかは、わからないけど、人波程度には食べるだろう。
今の備蓄でどこまでいけるか……。
馬車も大きい物にしたいな。
「村長、オレ達もまだ出立を決めてないけど、急がなくても大丈夫ですよね?」
「ええ、勿論です。リュートさん達が来なければ危なくなるギリギリまではケーファーさんにも、ゆっくりしてて貰うつもりでしたから」
少しだけ肩の荷が降りたとばかりに村長が軽く笑う。
ケーファーも、それを聞いて少し嬉しそうだ。
期限に余裕があるなら……また聖殿都市に寄ってから、王都か……いや、中央の方がいいかもしれないな。
◆
「ケーファー、おかえり!」
村長の家を出て、これからの事を話そうとしていたら、ルーシーが文字通り飛んで来た。
「おっと。ただいま、ルーシー。……そうだ。まだいつからかは決まってないんだけど、この村を出ていくのが決まったよ」
「また旅するの?ケーファーが居てくれるならいいけど」
「大丈夫。今度はリュート達も一緒だから」
「本当!?楽しそう!」
ルーシーがケーファーに抱きついて無邪気に喜ぶ。
ミナもこれくらい可愛げがあれば……駄目だ。想像できない。
ミナはアレでいいな。
……って、今は避けられてるんだった。
「……はぁ」
「リュ、リュート……やっぱり僕たちは迷惑かな?」
「ん?いや、そっちは大丈夫だ。行商だから同じ場所に長い事居ないが、それでも良ければ」
ケーファークラスの実力者が仕事を手伝ってくれると非常に助かると言う打算もあるしな。
「う、うん。それは嬉しいんだけど……なんかあったの?」
「大丈夫。こっちの問題だ」
「リュートー。これから一緒に旅する仲間なんだからルーシーで良かったら力になるよ~」
ルーシーが力が抜ける間延びした声で話しかけてくる。
個人的な内容だし、巻き込むつもりはなかったけど、その声はどこか人を安心させるみたいだ。
「仲間……か。いや、大した話じゃないんだが……」
その声につられてオレは昨日からミナに避けられてる事を話してしまった。
「うーん。僕が朝、会った時は普通だったけど」
「リュート、何か怒らせるような事したの~?」
「どうだろう……」
思い当たれば苦労はしないが、ミナが怒る理由がたまにわからない以上、断言はできない。
それにしても、その時は大抵殴られるだけで今回の様に避けられた事は初めてだ。
「昨日食事の前までは普通だったんだ。その後からなんだけど、話してすらないんだよ……」
「じゃあさ。約束を破ったとかは?」
「いや、何も約束は……いや、ちょっと待て」
そうだ。
そこまで考えて一つだけ思い当たった。
家族を見つけるまで。
オレは無意識の内に、この村を出て一段落したら、と考えてたけど、家族探し自体は終わってる。
「何かわかった?」
「告白の返事……してない」
「……。」
「……。」
オレもケーファーも何も言えずに固まる。
まぁ、まさかこんな結論だとは思わないだろう。
これで怒られてるとしたら……そりゃオレが悪いな。
「リュート。僕は魔人で人間じゃないけど、それはリュートが……」
「リュート!今すぐミナに返事しておいで!!」
ケーファーの言葉を遮ってルーシーが大声をあげる。
やっぱり返事はするべきだよなぁ。
「って、今すぐ!?」
「当たり前なの!ミナだって勇気出して言ったんだよ!」
そう……だよな。
それでなくとも随分待たせてる。
「……でもなんて言うべきか」
自慢じゃないが、そんな浮いた話は経験した事がない。
精々、リズに懐かれてるくらいだが、あの子には婚約者がいる。
「リュートはミナの事嫌い?」
「……いや、それだけはない」
「ミナと一緒に旅をするのは?」
「ちょっと心配だけど、居てくれて嬉しかった……な」
「誰でも良いの?」
……誰でも?
いや、オレは一時的にパーティーを組む事はあっても基本的に一人だ。
危ない仕事も多いのに他の人を巻き込む訳にはいかないし、庇って自分の命を落とすかもしれない。
一人なら何があっても自業自得だし、泣いてくれる人こそいるかもしれないが誰にも迷惑はかけない。
なのに……ここ最近はミナが居るのが当たり前だった。
ミナが強くて役に立つから?
理由の一つかもしれない。
けど、それだけで一緒に旅しようとは思わない。
魔獣に追われて仕方なく?
きっかけとしては間違いないだろう。
もし、ミナの怪我が治っても、あの事件が無ければ、オレはミナを家に置き旅に出たハズだ。
でも、落ち着いた今、なんで一緒に旅をしてる?
ミナが強くて隣で戦える。
どうしようもない事情で一緒に旅をせざるを得なかった。
結果的に……今のオレはミナに隣に居て欲しいと思っている。
一緒に旅をしたいと思っている。
彼女が、ここで旅を辞めると言うなら引き留めるだろう。
……なんだ。
よく考えたらベタ惚れじゃないか。
「ルーシー。ありがとな。オレ、ミナに返事しに行ってくる」
「うん。がんばれ、リュート!」
振り返って駆け出すオレをルーシーは笑顔で見送ってくれた。
ミナはケルロンの所にいるハズ。
ケルロンは村の少し西側で留守番してるから、そこだろう。
能力で強化して走り出したい気持ちを押さえて、村の外れまで行くと丁度、ケルロンを洗い乾かし終わったようで、ミナがケルロンに寄りかかっていた。
「リュート!?」
「逃げんな!」
実際に逃げようとしたのかどうかはわからない。
けど、驚いてるミナの手を引き肩を掴む。
「返事……するから。今」
「返事って、い、今!?や……ちょっと……」
頬を紅潮させ泣きそうにも見えるミナを見てると、申し訳ない気持ちと……少しだけ嬉しい気持ちが込み上げる。
「オレは自分の気持ちもよくわかってなかった……いや、今でもわからないのかもしれないけど……」
かなり恥ずかしい。
けど、それでもミナの顔を真っ直ぐ見て話す。
ミナだって……オレに自分の気持ちを伝えてくれたんだから。
「オレは、ミナが好きだよ」
ミナは、少し目を見開いた後に、さっきより真っ赤になって俯いた。
これが、最凶の傾国の魔女?
冗談じゃない。
「だからさ、ミナ」
魔女は何も言わずに見つめ返してくる。
「オレの…………婚約者になってくれ」
「リュート、私、嬉し……って、へ?」
そう伝えると彼女は何故か、泣きそうな嬉しそうな困ったような……予想外の事を言われたような複雑な顔になった。
真っ赤なまま。
ちょっと更新ペースあげようと思います。
いつも言ってる気がしますが、わりと本気で。
じゃないと物語が終わらなさそ……()
勝手に頑張れって話ですが、普通にやってもだらだらしてしまいそうなので、ここに書く事で、逃げ道を多少でも狭くしようと思いました。
次話は、リュートに話しかけられる少し前のミナ視点で!