七話 100と1
七話です。
なんとか今日中に投稿する事ができました。
ちょっと誤字脱字多いかもしれませんorz
お気づきあれば指摘してくれると嬉しいです。
オレは予定通り朝っぱらから闇市に顔を出していた。
王女はついてきたがっていたが彼女に見せるにはここは汚すぎる為、公爵の家に置いてきた。
代わりに公爵家で昼飯を一緒にすることになったが…。
レーナとリズ。美少女二人の寂しそうな顔で頼まれて断れる男なんていないだろう…?
「リュ、リュート!?生きていたのか!」
昔馴染みの店に顔を出すとなんか驚かれた。勝手に殺すな。
「はは、すまないな。カリッツォ達からリュートはケルベロスに襲われて行方不明になったってて手紙を鳥が運んできたんだ」
そういえば、そうだった。
旧セラ鉱山からいきなり姿を消したんだっけ。
カリッツォが慌てて伝鳥の足に手紙をくくりつける姿が想像できる。
ちなみにカリッツォとは一緒にいった商人三人の中で一番オレと仲がよかった奴だ。
「あぁ、なるほどな…心当たりはあるよ」
何にしても無事で良かったと背中を叩いてくる。
ちなみにこの商人も暗部の一人。
主に毒薬を扱っている。
もちろん国で禁止されているものばかりではあるが、一部の医者や魔物退治に出る冒険者も彼の毒をよく使う。
悪用されることも少なくはないが彼もまた国に必要な悪なのである。
「これは窓口に顔出したほうがよさそうだなぁ、死亡扱いされてたらたまったもんじゃない」
「お前の強さは知っているがケルベロス相手なら食われたと思われてもおかしくねぇからな」
暗部といっても悪いやつはむしろ少ない。
そういったヤツはほとんど商会に加入しないで単独で活動しているからだ。
窓口とはオレのような供給の少ないアイテムを扱う商人に依頼する場所である。
指名制の冒険者ギルドみたいなものだろうか。扱うのは討伐とかではなく売買だが。
商人に直接頼むよりも高くつくが、オレみたいなダンジョンに篭ってばかりいたり王都にいない商人を捕まえやすいという利点がある。
オレたち買い手の少ない商人にとっては確実に売れる為、いい客だ。
とりあえず彼とは別れ窓口目指して歩き出す。
◆
「あ、リュート様。無事だったんですね。丁度、リュート様に来た依頼をキャンセルしようとしてたトコです」
ここの受付はいつも冷たい気がする。終いにゃ泣くぞ。
にしても案の定死亡扱いされてるようだ。数年の付き合いだし、そんな簡単に淡々と処理しなてもよくない?
「まぁ、この通りさ。てか、依頼きてるの?珍しいな」
死亡届けはキャンセルしといてくれとだけ付け加え依頼の内容を書いた紙を受け取る。
「…ミスリル30K?随分大量だな。依頼主は……王宮!?」
なんで、王宮から依頼が……。
この依頼、いつ来たのか聞くと、今朝ですね。と簡潔に答えてくれる。
あー……なんとなく読めた。
昨日謁見の間で大臣が王に何か耳打ちしていたな。
その次の瞬間から王の態度が変わったんだ。
大方、オレなら兵の装備を全て新しくできるほどのミスリルを採掘してこれるとでも言ったのかね。
少し考えてみよう。
まぁ、旧セラ鉱山にあったミスリルなら30Kくらいは楽に採れるだろう。
商人連中が結構持って帰ってるだろうが、流石にあの量を持ち帰るのは常識的に考えて無理だ。
「ま、とりあえず一度家に帰ってからだな」
依頼用紙だけは懐に閉まっておく。期間は3ヶ月か。随分余裕をもってくれてる。
報酬が少なめに見積もられているが王宮に三ヶ月も軟禁されるような状況になるよりマシか。
受付嬢に、またな!と挨拶をして窓口を後にする。
……無視されたけど。彼女がデレる日って来るのだろうか。
とりあえず王都で最低限済ませる用事は終わった。後はニーズヘッグ公爵のトコでリズとレーナ様との食事だけか。
多少面倒だがあそこの食事はうまいから文句はない。
しかし、昼にはまだ時間があるし帰ったらリズとレーナ様が無意味なバトルを展開してゆっくりできそうもないなぁ。
普段は仲がいいらしいがソレ故にオレがいるとリズが嫉妬してからかってレーナ様が真っ赤になって反論する。
レーナ様、男慣れしてなさそうだしな。慣れてたら問題だけど。
何も考えずに闇市を歩き回る。
目に付くのは非合法な品から手に入らない希少物ばかり。
認可されていないのに王都の資産の半分はここに集まると思ってもいい。
そんな中、見知った顔を見つける。
闇市の中でも最も黒い部分に手を染める商人ハンス。
「ハンス!」
彼の名前を呼ぶと彼も嬉しそうにこちらに手を振ってくれる。
「リュート久しぶりじゃないか!旧セラ鉱山に行ったって聞いてたがこっちに帰ってきたのか?」
「まぁ、いろいろあってな。昨日、王都に来たんだ。とりあえず目的の品物は手に入れたし、ぶらぶらと観光さ」
「闇市を観光って…」
苦笑しながら彼は答える。
まぁ、闇市なんて目的の物がない限りは普通は立ち寄らない。
品物にしてもいくオレでも、そう簡単に買う決意はできないような値段のものばかりだ。
しばらくハンスと談笑していたが、ふと彼の商品に目が向く。
首輪を着けられ手と足を枷で繋がれた人々……奴隷。
ハンスは王都で奴隷商人を経営している。
もちろんこれはオレの商売と違って違法行為である。
しかし、闇市の中では利用している貴族も多く後ろ盾になっている強力な国籍を持たない武装集団の威嚇により国も取り締まれない王国最大の闇だ。
この事はレーナは勿論、リズですら知らない。
その為、二人にはニーズヘッグ公の屋敷で待ってもらっているのだ。
その奴隷の一人にぼろぼろの格好をした少女がいた。
ハンスはやっている事は真っ黒だが奴隷商人としては一流である。
質の高い奴隷を完全な手入れで数多くの貴族から好評を得ている。
「ハンス、珍しいな。君が手入れを怠るだなんて」
オレはハンスの店を何度か利用こそいているが奴隷そのものはあまり好きではない。その為「何の」手入れを怠っているかは言わなかった。
「あぁ……彼女か。最近、魔獣に滅ぼされた街があってね。そこの少女らしい。ごたごたに巻かれて誘拐されたらしいが、着替えたがらないんだ」
こっちとしても綺麗な服を着せてやりたいんだがな。とハンスは続ける。
売られた後はどうなるかわからないが、ハンスに売られている間はハンスは奴隷に無理強いはしない。
ふむ。とリュートは少女を見る。顔の右半分に包帯を巻かれ見覚えのない白い服に紺のスカートを着ている。
そして何よりも特徴的なのは、その長い髪であった。
「黒髪……しかも、これほど濃くて綺麗なのは珍しいな」
少女の髪は夜空のように美しい黒一色であった。
先祖帰りにしてもここまではっきりと出るのは珍しい。
「先代勇者の子孫なのかもなぁ。ただな……」
ハンスの声が暗いものになる。
彼曰く、彼女は右足が動かせず声もでないらしい。
黒髪という事で高値で買わされたが元値がとれるか微妙だとの事だ。
「顔はいいから、夜用で買い手はいると思うんだが……」
ハァ、と溜息を吐き出す。
彼が奴隷商人をやっているのにもそれだけの理由がある。
理由があったからといって許されるものではないが、ハンスには普通の仕事では賄えないようなお金が必要なのだ。
ちょっと見させて貰うぞ。とハンスに断りを入れ少女の前を移動する。
長い髪は見れば見るほど引き込まれるように美しい。
顔に包帯が巻かれているのは怪我だろうか。下がどうなっているかはわからないが、差し引いても十分可愛らしい。
「……?」
ちょっとまじまじ見すぎただろうか。うつむいていた彼女と目が合う。
「……!!!」
「おいおい、気持ちはわかるが、そこまで警戒しないでも」
気づかれた瞬間、冷たい目つきで睨まれる。
まぁ、警戒するのは当然だ。買われればどうなるかわかったものではないのだから。
それにしても怯えるのではなく威嚇するとは強気な少女だ。
ふむ。この子なら……いいかもな。
「ハンス!」
リュートはとある決意をしハンスの元に歩く。
「どうした?リュート。うちの商品が何か不備でもしたかい?」
「いや、そんなんじゃないよ、ただ……あの子はいつオークションに出されるんだい?」
ハンスが驚いた顔を浮かべる。
確かにリュートとは何度か取引をしていたが彼は奴隷を夜伽としては絶対に使わない。
だから、歩けず喋れない少女を気に入るとは思わなかったのだ。
「あぁ、明後日の総合オークションに出すつもりだよ。もう出品登録もしてある」
ふむ、明後日か。滞在できない期間ではないが余計な時間を挟みたくない。
だからといって彼女は欲しい。
「ハンス、今、彼女が欲しい」
「えぇ!?うーむ、いくらリュートの頼みでも無理だよ。わかるだろう?うちらは信用第一なんだ」
闇市に生きる人間としては顧客も危ない話を渡る事になる為、信用はとても大事である。
ハンスとしてもオレなら金払いは良いと知っているだろうがすでに出品登録した物を別に売るのは目をつけてた顧客の信用を少なからず失ってしまうかもしれない。
だから、オレはここから商人の交渉に移る。使う物は非常に単純だ。
商売をやる理由そのものを使えば良い。信用は確かに大事だが、例外はある。
「わかっているさ、ハンス。それを承知で言う。今、彼女が欲しい」
リュートは旧セラ鉱山で採れたミスリル結晶の一番大きい物をハンスに握らせる。
仲間を脅すような真似はしないが、弱みに付け込むくらいはさせて貰う。
「妹たちの学費大変なんだろう?あれだけ大家族なのに皆を学校に行かせようとしたら当然さ」
ハンスの目が見開かれる。
ミスリル結晶は彼が初めて見るほどの輝きを放っている。
これだけの大きさでどれだけの純度を持っているのか想像もつかない。
6人の妹を持ち皆にちゃんとした教育を受けさせる為にこの仕事をしているハンスにとって、そのミスリル結晶は良い手助けとなるだろう。
教育は義務ではない。ソレ故に1人あたりの費用も庶民には辛いのだ。
「信用代と……後は口止め料かな。どうだい、ハンス」
オレは静かに問う。
これだけの結晶があれば2人分程度の教育費は入学から卒業までまかなえるであろう。
「ふぅ……わかったよ。リュート、この事はくれぐれもお互い内密にしてくれよ?」
「流石、ハンス。話がわかるじゃないか!」
ハンスと硬い握手を交わす。信用が第一といえど闇市。こういった闇取引はたまにあるため、そこまで問題にはならないだろう。
「ところで彼女はどうするんだい?見ての通り変えの服は着てくれないし、そのまま連れて行くかい?」
希望とあれば無理やり着せ替えるけど、気は進まないなぁとハンスは言う。
リュートとしても、彼女にそこまで無理強いする気はない。
とはいえ、今の格好は余りにもボロすぎる。
とりあえず追加でハンスに金貨を10枚ほど渡し服の修繕を頼む。
「あぁ、後、お風呂にいれてやってくれ。ちゃんと女性の従者をつけてな」
あぁ、勿論さ。ハンスは答えてくれる。
昼食を食べたら戻ってくる趣旨を伝えるとハンスもそれくらいには終わるだろうと言ってくれた。
「じゃぁ、頼んだよ。ハンス。オレはこれからリズとお食事会にいってくるよ」
「相変わらず君は貴族に優遇されてるね、羨ましい限りだよ」
ハンスは笑顔で手を振り見送ってくれる。
あれで、奴隷商人なんてしていなければ、気のいい商売人なのだ、彼は。
「さて、馬の一頭でも買おうと思ったが彼女もいるなら馬車を買ったほうがいいかなー」
背を伸ばしそんな事を考える。退屈であろう帰りの旅路はもう楽しみなものになっていた。
少しだけとは言え、やっと本編でメインヒロイン出せました!
1話、2話で登場した彼女ですね。
ここまでちょっと読んでくれた方、本当にありがとうございます。
これからも読んでくれると嬉しいです。




