六十六話 1と100の魔法講座
お待たせしました!
完全にスランプでしたが、なんとか書き上げれました……!
過去の本文の加筆修正もやらないと……orz
「対魔法戦を教えてほしい?」
「あぁ……。俺の世界では魔法なんてなくてな。どうにも魔法が苦手なんだ……」
「私に負けるくらいだしな」
「うぐっ……そ、それで魔法に詳しいミヅキ殿ならと……」
珍しくカムイが真面目な顔で話しかけて来たと思ってたら、戦闘に関する事なら本気で悩むらしい。
でも、少し気になる。
「レーナ王女って、強いの?」
「王女たる者が無能では話にならない。城にいる魔法使いくらいと同程度には戦えるな」
……微妙。
けど、私に聞かれても少し困るな。
私は魔法を使う側であって、使われる側じゃない。
カムイとは逆の立場だ。
「リュートは?アイツなら、魔法使い相手の戦いに慣れてるんじゃない?」
「そうなんだが……。どうにも声を掛けれる雰囲気では……」
リュートを見てみるとジッと剣とにらめっこをしていた。
……魔法剣の練習なんだろうな、あれ。
リュートが魔法剣を使えないのには、理由がある。
アウルとナギを見ていて気づいただけだけど、多分間違ってないと思う。
その理由をリュートに教えないのは……私の身勝手なエゴだ……。
リュートに魔法剣を教える時に驚かせたい。喜ばせたい。
それだけの為に私はリュートに魔法剣が使えない理由を話してない。
うぅ……でも、私だって練習しても無駄だって、私が後で教えるって言ったんだから少しくらい聞いてくれてもいいんじゃないかな?
一心不乱に剣を眺めてるリュートを見てると本当にそう思うけど、それでも諦めないで練習してるからこそ、今のリュートの強さがあるんだろうけど……。
「リュート!バカ勇者が魔法対策を教えてほしいって!」
真剣な所を邪魔するのも悪いけど……気分転換にでもなればと思ってリュートを呼ぶ。
実際に、体を動かしていた訳じゃないけど少し気疲れしてるみたいだ。
「対魔法……?近寄って斬るしかないだろう」
余りにもシンプルな答えが帰ったきて、カムイと王女が固まる。
「いや、リュート殿。それができれば苦労しないのだが……」
こればかりは私もカムイに同意。
確かにリュートはそうやって勝ってるけど、言う程容易いとは思えない。
「できれば、リュート殿が戦っている場面を直に見てみたいのだが……」
「いいんじゃない?なんなら、私がリュートの相手に」
「やめてくれ。無理だ。死ぬ」
……なんだよー。
カムイの提案に乗ろうかなって、思ったらリュートに即座に否定された。
まだ言葉を言い切ってもいない。
「無茶言うな。魔剣使ったら参考にならないだろ?それでミナの魔法を避けて近づくなんてできるか」
「まぁ、ミヅキ殿はな……」
なんか二人して散々な言いぐさだ。
ちゃんと手加減くらいするつもりだったのに。
なんて私が少しだけ、いじけてると視界の隅で王女が遠慮がちに言った。
「良ければ私が相手になろうか?」
◆
「では、行くぞ」
「はい。いつでもどうぞ。レーナ様の魔法が合図と言う事で」
リュートとレーナが距離を置いて対峙する。
10Mほど離れた間合いは、一足に距離を詰めるには遠すぎるが、魔法使いにとっても安全圏とは言いづらい。
「ファイアーボール!行け!!」
ファイアーボールは、実戦でも良く使われる魔法の一つ。
燃費の良さもさる事ながら攻撃力と汎用性が両立している上に、発動も早い。
それを三つほど、作り出し一気にリュート目掛けて放つ。
リュートはそれを軽く横に飛び、体を捻りながら前へと避ける。
「アロー!」
「っ!!」
ファイアーボールを避けた所を王女はファイアーアローで狙い打つ。
低級魔法ではあるが、その分、発動までの早さは折り紙付きであり、隙も少ない。
そして、炎である以上、当たれば相応のダメージもある。
回避から回避へと体勢を著しく入れ換えていては、リュートも前には進めなかった。
そして、僅かな時間だが中距離に足止めされたリュートにレーナ王女は本命の狙いを定める。
レーナ王女の右手に空気が弾ける様な音をたて、魔力が集中する。
「むざむざ、負けるつもりはないぞ、リュート!」
レーナ王女が唱えたのは、雷の魔法。
彼女が使える魔法の中では、上位に位置する攻撃魔法だ。
ファイアーアローを発動させると同時に唱えた為に、端からは魔法攻撃を自由に連射しているように見えるが、間に低級魔法を挟んでいたからこそ、余裕ができただけで、レーナ王女自身に中級以上の魔法を自在に打つ力量はない。
が、低級魔法で足止めをし、的確に中級魔法を使うのは、流石、王宮魔術師と同程度を自負するだけの事はある。
「サンダーランス……って、え?」
雷の魔法は全属性中二番目に早い。
故に狙いを定められて避けるのは困難だ。
だから、王女もリュートが今いる位置に向け魔法を放った。
……が、レーナ王女が手を向ける前にリュートは体を沈め斜め前に踏み出した。
それはまるで、レーナ王女が予め、どこに魔法を打つか理解していたかのようで、レーナ王女のサンダーランスは僅か前にリュートが居た空間を貫いた。
絶対に当たる。
とは、思っていなかったが、完全に回避されるとも思っていなかったレーナ王女は咄嗟には動けず、その隙はリュートが剣の間合いに入るのに十分な物だった。
「まぁ、こんな所かな」
◆
「リュート!凄いではないか!やはり、魔王を倒すのはリュートだな!」
試合が終わった途端にレーナ王女が、リュートの首に抱きつく。
って、こら!
何をしてるの!!
って、怒りたいけど、ちょっと我慢。
リュートも王女相手に突き放す訳にはいかないだろうし、カムイが、勝手に騒ぐだろう。
……と、思っていたら、カムイは意外と気にせず……ん、違う。気づいてないの?
「リュート殿!なるほど、あぁ、すれば良いのか!見事な回避だ。特に最後のなど、まるで動きを読んでいるかのようだった!!」
「あぁ、あれは王女の右手にバチバチっと火花が散っていたからな。雷は直線的だから、来るのがわかっていれば避けやすいんだよ」
……バカ勇者は、対魔法戦に夢中みたいで、王女がリュートにくっついているのに、気づいてないみたい。
「なるほど。相手が何の属性を使って来るのかを見なければならないのか……」
なんだろう、なんか……。
「基本的には火だけどな。合間に違う属性を混ぜるとパターン化を防げるから」
面白くない。
いや、ただの嫉妬なんだけどね?
「リュート」
「ん、どうした?ミナ……いや、ミナさん?」
こっちを見た瞬間、リュートの顔が強ばる。
「雷の魔法って避けやすいんでしょ?」
ちなみに私の右手には王女が使ったのと同じ魔法が唱えられている。
「ちょっと待て、ミナのは、別次元だか……魔剣召喚!」
「雷、槍、散!!」
私が魔法を打つより一瞬早くリュートが魔剣を召喚する。
少し送れて数本の雷の槍がリュートに向かい飛ぶけど、その内の一本を斬られ、全て消滅する。
少しは落ち着いたかと思ったけど、私が大人の女性になるのはまだ先の事みたいだ……。
◆
夜、ベッドで髪を乾かしているとドアがノックされた。
お風呂からあがったばかりで、あまり人に見せたい姿じゃないけど、この時間に私を訪ねて来る人なんて一人しかいない。
「どうぞ」
「邪魔するよ」
「リュートから来るなんて珍しいわね。どうしたの?」
「んー」
リュートはドアの前に立ったまま少し言い難そうに続けた。
「明後日辺りに出ようかと思ってな。魔法剣もできる兆しが見えないし、ランディの事も気になる」
「そっか」
「あぁ、それじゃ」
「あ、リュート」
言うだけ言って部屋を出ていこうとするリュートを止める。
「……ごめんね」
私が、そう言うとリュートは笑って返してくれた。
「いいさ。どうせ手加減してくれてたんだろ?」
そう言われて私の顔が少し熱くなる。
「……うん」
「ま、気にするな。おやすみ」
そうして今度こそリュートは部屋から出ていった。
雷の槍は、もしあたっても多少痛く痺れる程度の威力にはしてあった。
リュートは私が言いたい事をわかってくれて。
ちょっと無茶しても本気じゃないのもわかってくれて。
甘え過ぎだとも思うけど、私は、それが嬉しくて恥ずかしくて枕に顔を埋めて今日は寝てしまう事にした。
……明後日か。
明日、ちゃんとあげよう。
まだ一つだけしか完成してないけど。
私が創った、リュートの為の魔法剣を。