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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
三章 仲間を探して
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六十三話 100と魔剣の修行



「魔法剣……。でも、オレは魔法自体使えないぞ?」


アウルの見せてくれた魔法剣は確かに魅力的だ。

単純な攻撃力の底上げは勿論、選択肢が増える。


しかし、それとオレが使えるかは別だ。

何せオレは普通の魔法すら使えない。


「大丈夫。魔法剣は魔法よりも扱いやすい傾向にある。俺も魔法は使えないしな」

「大事なのは、イメージです。リュートさん、まず魔剣を構えてください」


アウルとナギに諭され、とりあえず剣を召喚する。

ミナはつまらなさそうに腰に手を当て立っている。


「魔剣に魔力を送ってください」


言われるがままに手にした魔剣に魔力を送る。

ここまでは普通の魔具と同じだ。


「後はお前のイメージ次第だ。適当に属性を決めて声に出せ」


頭に自分の中で最強の魔法を思い浮かべる。

地平線の向こう側まで焼き尽くす光の奔流。


ミナの魔法……レーザーカノン。


二回ほど見たことがあるが、どちらも強烈に印象付いてる。


イメージには困らない!


その属性を叫ぶ。自分の新しい技を求めて!


「光よ!!」




……。

…………。


最初からミナの威力に追い付けるなんて思ってはいなかった。

けど、流石に、これも予想外だ。


「……せめて何か反応しろよ!?」


魔剣はオレの手に変わらず握られている。


そう……何も変わらずに。


「才能が、まったくねぇな」

「うるさいよ」


こうして、オレの初めての魔法剣は、清々しいまでの失敗に終わった。







「炎よ!大地よ!風よ!水!雷!闇!」


魔剣に魔力を供給しながら、ひたすら思いついた属性を叫ぶ。


あれから二時間ほど。

結果は散々なものだった。


「初めてのケースです。困りましたわね」

「今までの勇者は、威力は置いといて形はすぐできたからな」

「私、この世界来て、すぐに魔法使えたけど」


三人はもう魔剣の台座近くで寛いでいる。

一体、何がいけないんだ……。


「光よ!!」


と、叫んでは見るが結果は変わらず。


「うまくいかないとは言え、コイツを使えるかどうかで、生存率は大分変わるしな」

「そんなに違うものなの?」


アウルはどうしたものかと悩んでいる。

ミナは、いまいち重要性をわかっていないようだが、事実、オレは何度か死ぬような目に合っている。

今こうしているのは、ミナがいるお陰だ。


「近距離限定だが、飛び道具と属性攻撃ができるようになるからな。ナギ、エアエッジだ」

「はい」


ナギが魔剣を大上段に構えると、そこに先程と同じく風が集まってくる。


「リュートさん、剣を横に構えて頂けますか?」

「こうか?」

「はい。では、お力を入れてください」


ナギに言われた通り剣を握る手に力を籠める。

ようは、攻撃を受け止めろと言うことだろう。


「では、参ります。エアエッジ!」


そう言い高速で剣を振り下ろす。


「っ!?」


構えて魔剣に衝撃が走り、やがて消える。

それは、まるで距離を無視して本当に斬られたような感触だった。


「エアエッジ。射程は3M程だが、術者の斬撃とほぼ同威力の性質を持つ風の魔法剣だ。どうだ?中々の物だろ?」

「術者の斬撃と同威力って事は……」

「リュートが使えば、ナギよりも威力が上がるだろうな」


……射程距離こそ短いが、威力が自分の攻撃力と同等と言うことは、風を打ち飛ばすだけのトルネードセイバーより強いだろう。


「なんとしても、身につけてやる!風よ!!」


大切なのは集中力とイメージ。

そう自分に言い聞かせてひたすら試す以外に方法はない。


「例えば炎の魔法剣で今のはできないの?」

「難しいですね。風は強くなれば人を吹き飛ばす事もあります。それを応用して斬撃に変えて飛ばすのがエアエッジです。炎は、焼く事はできますが、人を吹き飛ばしたりはできませんから……」

「爆風とかは?」

「爆『風』ですから。言わば炎と風が混在してるだけで、吹き飛ばしてるのは風です」

「あ、そっか」


何やらミナとナギは、そこそこ仲良くなってるようだ。

彼女は順調に、この世界に馴染んで来てるなぁ……。


「リュート!剣を見ろ!」

「ん?」


アウルに言われ、魔剣を見ると、いつもは銀に輝いている刃が、赤く光っていた。


「これは……魔法剣!?」

「できたの?」

「あぁ!やっと……って、あれ?」


駆け寄ってきたミナに見せようと剣を構えたが、そこにあるのは、いつもの魔剣だった。


「……何も変わらないように見えるんだけど」

「あれ、おかしいな……」

「まぁ、慣れないうちは、そんな物だ。嬉しくて集中力を切らしたんだろ。とりあえず、リュートは炎の魔法剣と相性が良いらしいな。これからは、炎主体で練習するか」


結論から言えば、結局、この日に魔法剣が発動する事はなかった。







「やれやれ、もうすぐお前らを帰す時間か」

「帰す?後は勝手に修行しろって事か?」

「いえ、都市には留まって貰います。ただ、兵舎に泊まって貰いますので、騎士隊の皆様に迷惑にならないようにしますと……」


何時間、ここに居たか詳しくはわからないが、腹も減ってきた。夕食時か。


「魔法剣に関しては、どうなるかわからねぇけどな。最悪、習得できねぇかもしれねぇしよ」


アウルが、どうでも良さそうに言うが、わりと本気で凹む。


「んー、多分、大丈夫よ、リュート。気にしないの」


あれから、ミナはずっと何かを考えているようで、今も視線は合わさず言葉だけで励ましてくれた。


どうにか習得したいんだけどなぁ、魔法剣。


軽くため息を吐く。

と、アウルが、また楽しそうに笑う。

見透かされてるようで、余りいい気分ではないが、コイツがこの表情をする時は何かある時だ。


「まぁまぁ、リュート。魔剣の扱い方は何も魔法剣だけじゃねぇ。戦闘においてもお前達は魔剣の使い方を知らないだろ?」

「言っとくが、昔から剣には少し自信があるよ」

「剣じゃない。魔剣さ」


……?

魔剣は武器として使う場合、重量を感じない事を除けば剣と大差ないハズだが。


「言っても、わからないだろうな。ナギ、相手をしてやれ。そのくらいの時間はある」

「……リュートさんはまだ魔法剣を使えないのに良いのですか?」


ナギが、こちらに視線を向けてくる。

ナギも、ここで何年か剣を習っているのだろうが、オレだって剣を扱っている期間では負けないハズだ。


「あぁ、構わない。魔法剣も使って来ていいぞ」


そう良いながら魔剣を召喚し構える。

最初、この部屋は大きな闘技場のようだと思ったが、なるほど。模擬戦を想定しての作りなのかもしれない。


「わかりました。アウル、魔法剣を使う時は指示をお願いします」

「おう、任せとけ」


どうやら魔法剣のタイミングはアウルが指示するらしい。

確かに、アウル相手に年季で勝てるハズがない。これは少し厄介かもしれない。


「では、参ります」

「よろしく頼む」


お互いに剣を構え向き合う。

ナギの使う魔剣は普通の剣より少し細身で片刃のソード。

女性らしいかもしれないが、重量の感じない魔剣には関係ない事だろう。


ナギの右足が地面を這うように前に出る。

そこを急速に間合いを詰めて上段から剣を振る。


「きゃっ!?」

「おお、言うだけあって中々早いな」

「怪我しないようには気をつけるよ」

「ナギは優秀な回復魔法の使い手だ。手加減はいらないさ」

「アウルっ!?」

「そういう事なら!」


初撃は受け止められたが、そのまま力で押し込む。

ナギの身長は女性にしても少し低めだ。

男の力で上から押さえつければ、耐えれるハズがない。


「力勝負には……応じません!」


ナギが、身を捩って流そうとするが、オレだって剣は扱い慣れてる。そんな簡単に逃がすつもりはない。


「リュートさん、これが、もう一つの魔剣の使い方です」

「なっ!?」


不意にナギの魔剣アウルが、陽炎の様に歪んだと思ったら、魔剣ミヅキがすり抜けた。


「魔剣の魔力を抑制する事で、物質への干渉ができなくなるんです」


力勝負にこだわり過ぎると、相手が剣を引いた時に大きくバランスを崩しやすい。

そんな事はわかっているから、バランスは崩しはしなかった。


……が、明らかにオレよりもナギの方が一手早く動ける。


「ですから、こんな攻撃もできるんです!」


ハイキック!?


剣技からいきなり格闘技かよ!


剣を持ったまま格闘ができない訳ではない。

が、どうしたって威力は鈍る。

しかし、ナギの魔剣は、刃がまるで存在しないかのように地面をすり抜けている。


なんとか防御したは良いけど流石に威力は殺しきれない。


本気で……行くか!


ナギは再び魔剣を完全に顕現させ、真っ直ぐに斬りかかって来ている。

確かに、オレには回避か防御しか選択肢はない。


ただし、ナギは余り力は強くないようだ。

なら、振り下ろされた魔剣を切り上げ、弾き飛ばす!


切り下ろす方が圧倒的に有利なのは言うまでもないないが、普段から魔獣を相手に全力で剣を振ってきたオレなら、できない事はないハズだ!!


踏み込んで上からの魔剣を迎撃しようと魔剣をかち合わせた瞬間、ナギが少し申し訳なさそうな顔をしてるのが、見えた。


「貴方は確かに強いです。でも、魔剣の戦い方をまったく知らないんです」


ナギの魔剣アウルがまた陽炎のように揺らぎ、魔剣は何の手応えも残さず中空に振りきられた。


そして彼女が、言葉を言い終わる頃には、すり抜けた直後、再び顕現した魔剣は、袈裟懸けにオレの体を斬っていた。


「……なっ。がっ!?ぐっ……!!」


熱い!

痛いを通りこして、ロクに言葉がでない!

無様に叫ばなかったのを褒めて欲しいくらいだ!!


床に赤い水溜まりが広がって行くが、そんな事を気にしてる余裕も、ありゃしない。


「リュート!!」


目を見開いたミナが泣きそうな顔で近寄ってくる。

多分、大丈夫だから心配すんなっての……。


「リュート。これが、魔剣の戦い方だ。魔法剣もそうだが、透過と実体化を使い分ければ、今よりも使い勝手は数段あがる。って、そんな状況で言っても、頭に入らねぇか。ナギ、ヒーリングを頼む」

「はい」


ナギが小走りで、こっちに駆け寄って来る。

が、やはり予想通りだ。もう痛みはまるでない。


「大丈夫だ……。あーあ、すごい血だな」


以前、カムイさんとの戦いで、オレの能力は一定以上ダメージを受けたら回復する類いの物だと予想したが、やはりそうらしい。


「リュート!大丈夫なの!?って、あ、そっか……」


慌てていたミナも、思い出したようで、力が抜けたように、ぺたんと座り込む。


「ありがとな、心配してくれて」

「……損した」


ミナは、そう言って、そっぽを向く。


「これは……どういう事ですか……?」

「どうした?意外と浅かったか?」


何も知らないアウルとナギは、不思議そうな顔をしている。


まぁ、そうだろな。

アウルはともかく、ナギからしたら、確実に斬ったハズなんだから。


「詳しくはオレもわからないけど、一定以上ダメージを食らったら完全に回復するみたいなんだよ」


言った途端にアウルとナギが押し黙る。


……え、なんかまずい事言った?


「リュート。それは、小さな傷には反応しないが、大怪我を回復する時に小さな傷も治る類いの物か?」

「あ、あぁ。そうだけど。知ってるのか?」


カムイさんとの試合の時、骨にヒビが入った時はなんともなかったが、折れた時は、それも含め擦り傷まで全部治った。


「知ってる……いや、俺達はそれを能力だと考えていなかった」


……?


「過去に一人だけ、お前と同じ奴がいたんだ」


今回、召喚された勇者の人数は100人と例年より桁外れに多い。


けど、これまで召喚された勇者と考えられるなら、その数倍いるだろう。


「確かに、過去の勇者に同じ能力を持った奴がいても、おかしくないか」


正直、自分の能力の情報は欲しかった。

これは朗報だ。


そう思ったが、アウルは首を横に振る。


「違うんだ。その能力は……いや、能力の名前ではないんだが……。その能力を持っていた奴は、こう名乗っていた」


アウルが重々しく口を開く。


「不死の王ってな」


どこかで聞いた事がある名前だ。

心がざわつくのを隠せない。


「俺達が倒した……初代魔王の能力だ」




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