表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
三章 仲間を探して
62/131

六十二話 伝説の回想



「アリス、ここに居たか。少し気が早いんじゃないか?」


草臥れた神殿の屋根の上に、如何にも戦士という風貌の青年が登って来た。

彼の目当ては先客である金色の髪を靡かせて遥か地平線の向こう側を見つめる少女。


「うん。焦っても仕方ないってわかってるんだけど、何かしてないと落ち着かなくて」


青年が隣に立つとアリスと呼ばれた少女は青年に体を預ける。


「怖い……」

「その時に為れば、そう思う暇もなくなるさ。南国の最後の防衛部隊からの伝令が途切れた。もうすぐ、ここが戦場になる」

「もし負けたら終わり……なのね。なんとかならないのかな?」

「ここで勝つ事はできる。けど、ここで負けたら取り返せないだろうな」


二人は、ほんの数週間前に異世界から召喚された別次元の人間。

本来なら、窮地に立たされた国を救う為の魔法であったが、それは数人の異世界人を召喚するに留まった。


数ヵ月前に突如現れた不死の王を名乗る人種は、後に魔物と呼ばれる未知の生物を解き放ち、混乱の隙を広げて瞬く間に南の国を壊滅させた。


そして今は東西の国も領土の半分が戦場になっている。

これ以上押し込まれれば、唯一無事な北の国が麻痺し補給が滞り、人類の敗北は必至である。


「すまない、アリス。頼りにしてる」


青年はアリスの頭に手を乗せて、申し訳なさそうに呟いた。

対してアリスは、手で目元を拭うと笑って答える。


「大丈夫だよ、シグルド。私は、大魔法使いだもん」


勇者達に一番、大変だった戦いは?と聞けば揃って「不死の王との最終決戦」だと言うだろう。

なら、その次は?

それも、全員一致して答えるに違いない。

それが、数日後に始まる神殿防衛戦。それほど、この時、人類は追い詰められていた。



そして人類の反撃は始まる。







「わ、本当にすごい数……狙う必要無いじゃない、これなら」


アリスが以前と同じように神殿の上から地平を見渡す。

ただ今回は、地平線は見えず、見えるのは夥しい数の魔物。


奥では魔人が、数人いるのだろう。


「大丈夫、私は大魔法使いだもん。シグルドを守らなくちゃ」


アリスは自分に言い聞かせるように呟くき、詠唱を開始する。

彼女の頭上に産み出されるのは、彼女自身よりも大きな火の玉。

しかも、それが四つ。


普通の魔法使いなら、一つでも全ての魔力を消費してしまうだろう。


これが為せるのは、この世界に来た時に身に付いた特殊能力のお陰だ。


魔力を消費しない。


この能力により彼女は自分が使える魔法なら何発でも放てるのだ。


「行け!フレアストライク!」


アリスの号令と共に、真っ赤な炎の塊は敵前線部隊に向かって飛んでいき、まるで溶岩の様に弾けた。

擦りでもすれば、大火傷は必死だ。


「まだまだぁ!フレアストライク!」


アリスは次々と大魔法を連射する。

幾ら魔力が減らないとは言え、少女の体力は急速に消耗していく。

それでも、大魔法を打ち続けるアリスに魔軍も驚異を覚える。


だが地上を進んでも、アリスの放つ灼熱の炎に焼かれるだけである。


彼女には、機動力が高く自由の効く空を飛ぶ魔物が差し向けられた。


「やっぱり来た!」


しかし、火力役を優先的に潰しに来るのは今までの戦闘でも明らかだ。

人類とて何も考えていなかった訳ではない。


「皆さん、お願いします!」

「良く狙え!一匹足りともアリス様に触れさせるな!一斉掃射!!」


神殿周辺に潜んでいた兵から一斉に矢が放たれ魔物は落ちて行く。

全ての弓兵をアリスの護衛に当てていたのだ。


アリスは一人で全弓兵と凌駕する火力を発揮する。

それならば、射程、属性に優れるアリスを守れば良い。


「良くやった、アリス!引き続き援護を頼む!!」

「アリス様!我らの勇姿、見ていてください!」

「アリス様が勝機を切り開いてくださった!全軍前へ!」


勇者シグルドを先頭に連合騎士団特攻隊が敵陣に駆け込んで行く。

彼らはアリスの作った綻びを広げ、もう少しで来る本隊を有利な状態で戦闘に入らせるのが目的だ。

本来なら、決死の覚悟すら必要な過酷な部隊だが、シグルドは能力を頼りに味方を導いて行く。


勇者シグルドを戦闘に連合騎士団特攻隊が敵陣に駆け込んで行く。

彼らはアリスの作った綻びを広げ、もう少しで来る本隊を有利な状態で戦闘に入らせるのが目的だ。


「正面から敵の後詰めが突っ込んで来るぞ!左側が薄い!左だ!一気に駆け抜けて回避するぞ!」

「うおおおおお!!」


近辺にいる魔物の動きを把握する。


一見、地味だがシグルドには奇襲すら通じず、逆に戦場の全てをリアルタイムで見据えられている。


「シグルドさん!本隊がもうじき戦闘に入ります!騎馬隊が、先行して突っ込んで来ます!」

「これ以上やると被害が大きいか……。引くぞ!一度、引いて体制を立て直し、本隊と合流して戦う!」


嵐の様に敵陣を荒らしたシグルド部隊は、波が引くかのように撤退を始める。

魔物もそれを追撃しようと追うが、魔物達が追い付きそうになると、空間に闇が広がっていた。


深淵のファリス。

勇者パーティーの一人にして、その能力は闇の使役。


攻撃も防御もできない能力だが、使い方次第では絶大な援護効果を産み出していた。


シグルド達は仲間の能力である闇に躊躇なく飛び込むが、魔物は一瞬とはいえ動きを止めてしまう。

正体不明の暗闇に飛び込むというのは、そう安々とできる事ではない。


「自軍の撤退を確認……一斉放火」


唯一、闇の手間にいたファリスは、そう良いながら闇に隠れていく。


そして入れ替わるように現れたのは、火水雷土風光と様々な属性の攻撃魔法。


凡そ狙いを定めたとは思えない命中率だが、その段幕の前に魔物達は後ろに下がって行く。


「連合魔法隊……流石だな。怪我人は、神殿後方まで下がれ。治癒が効かない怪我をした者は勇者を頼れ」


闇の中に潜んでいたのは、大陸中から集めた魔法使い。

皆、この戦争を今まで生き抜いてきた一級の戦士達。


ファリスは、闇を解きサーベルを構え敵を見据える。


「本隊と共に……戦線を押し上げる。怪我人は、神殿後方の治癒術隊の所へすぐ下がれ。……不老不死すら可能にするヒーリング使いもいるんだ。恐る事はない」


再びファリスの前方を大きな闇が包む。

これにより敵は、魔法部隊の位置を正確には掴めず、混乱してる間に本隊に制圧される事となった。


「フン、現地人を調子に乗らせ過ぎたか」


魔軍の陣営から、現状を見て一人の男が戦闘に立つ。

この戦争に置いて、数で攻めてくる魔物は厄介だったが、所詮は烏合の衆。

真に難敵だったのは彼らだ。


連合軍の前線の兵士が、彼の姿を見て次々と叫ぶ。


「か、風の魔人だ!」

「下がれ!距離を取るんだ!」

「下手な威力じゃ剣も魔法も通じないぞ!牽制しつつ後退するんだ!」


幾つかの攻撃魔法が魔人に飛ぶが風の魔人と呼ばれた彼は、身に纏う風で全てを吹き飛ばしながら、近づいて来る。


連合軍が、ここまで敗退を続けた理由は、圧倒的な強さを持つ魔人が、魔物を束ねていたからである。

今度も撤退している部隊に魔物を突っ込ませれば、陣形が崩れ部隊は本来の力の半分も出せない事だろう。


魔人も、それをわかっている為、敢えて自らが戦闘に立ったのだ。


その魔人の前に撤退していく人々とは反対に歩み出ていく者がいた。


「お前で何人目かな?風に守られた俺を相手に勝てるハズないぞ?勇敢なのか、無謀なのか……」

「うるせぇな。とっとと終わらせるぞ」

「終わるのはお前だけどな」


過去にも風の魔人に挑んだ者は何人か居た。

結果は散々な物で、それが、この魔人に自信を与える事になった。

対した男は大型方刃の剣を構える。

とは言え、多少武器が攻撃力に優れていても風の鎧を貫く事はできない。


「行くぞっ」


男は剣を大上段に構え振り下ろす。

魔人は本来なら特に防御する必要すらないが、余りに単純な攻撃だった為、敢えて片手で受ける仕草をした。


「やれやれ、何故無駄だとわから……な……」


そこまで言ってから、魔人は自分の右腕の間隔が無くなった事に気づく。


「能力に頼ってるから、そういう事になんだよ」


男が更に剣を水平に二回振ると魔人はあっけなく倒れた。

きっと何が起きたかすら、わからなかっただろう。


「能力以外は雑魚じゃねぇか。能力が効かない相手の事も想定しておくんだったな」


倒れた魔人を越え辺りを見回すと、周囲の魔物は彼が戦闘に入った瞬間に、転進し再び攻めに転じた味方が制圧しつつあった。


「良くやった、アウル!!これで、この戦いは大きく連合に傾いたぞ!」


後ろから馬に乗ったシグルドが声をかけてきた。


「油断するのは早い。まだ魔人がいるかもしれないからな。それらしい奴が居たら教えてくれ」


魔人を倒した男、アウルが手にした剣は魔法を無効化する力がある。

彼の前では風の鎧は無力だったのだ。


「俺の能力の範囲には、それらしい敵はいない。魔物の動きも統制を欠いてるしな」


そして、アウルが手早く魔人の前に出てこれたのは、シグルドの能力のお陰だった。


この二人は、これからの戦いで大きな戦果をあげて行く。


「さぁ、残党の掃除と行くか」

「あぁ、頼むぞ。みんな!敵の魔人は倒れた!!今こそ好機だ、魔軍に反撃を開始する!」







あれから、どれくらいの時間が流れたかなんて自分でも覚えちゃいない。

最終決戦で死んだハズの俺は数千年たった今でも、ここにいる。


「アウル、来ましたよ」


隣にいるナギがそう言うと部屋の古くさい扉が音を立て開き、灰色の髪の青年と黒髪の少女が入ったきた。

黒髪の方は風貌からして魔法使い。

魔剣士は男の方か。


何にせよ魔剣使い自体が数十年ぶりだ。

ここは退屈すぎる。

少しは楽しめる奴等だと良いんだが。


隣にいるナギが、静かにため息を吐く。

いつもながら、勝手な剣に呆れているのだろう。


まぁ、やる事はかわらねぇ。


新しい魔剣士に俺の経験と技を教えてやる事にするか。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ