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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
三章 仲間を探して
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六十一話 100と新しい技術

お久しぶりです。

四月は忙しく更新が滞っておりましたorz


五月に入り、むしろ暇になって来たので、またコツコツ更新させて頂きます。




何気に一周年です。

おめでとうございます、自分。


ここまで続けられてるのも一重に読んでくれている皆様のお陰です、本当にありがとうございます!




「王女様は聖殿に来ないのですか?」

「あぁ、今日はな。馬車の中はバカ勇者しか話し相手も居ないから公務は順調だったのだが、王都に届ける手配をせねばいけない。今日はロウムに任せる」

「うむ、儂が責任を持って案内しましょう。リュート殿、ミナ殿、どうぞ馬車へ」


正午より少し前、長旅で疲れが溜まって居たこともあり、オレ達はやっと活動を再会した。

目的地は大陸中央に位置する聖殿。……だが、王女騎士団の面々は今日は来ないらしい。


「ケルロンは?」

「聖殿の外までなら連れて行っても問題はありません」

「そう。ケルロン、馬車についておいで?」


ミナが撫でるとケルロンは尻尾を振りながら一吠えする。


聖殿か。


遥か昔、初めて魔王を名乗った人間が居て、それまで存在しなかった魔物を従え攻めてきた。そんな伝説の話。


実話を元にしているだろうけど、どこまで本当かは疑わしい。

けど、確かに、その時に最後の砦となったのが、この聖殿であり、中には勇者シグルドが魔王を倒した魔剣が安置されている。


今は要塞都市として大陸でも屈指の軍事力を持つ街だが、当時はただの神殿。

どれだけの絶望を抱えながら戦いに備えていたかなんて考えたくもない。


「この辺まで来れば良く見えますよ」


馬車の先頭で騎手をしているロウムさんが前を指差す。


「……大きい」


所々、ヒビが入ってたりするが、そこは昔の建物だ。

多少は仕方ない。一応、何度も補修はしているらしい。

しかし、その事を差し引いても聖殿はミナが感嘆の声をあげる程に圧倒的な存在感を放っている。


「昔は、もっと小さかったらしいけどな。補修や改装、砦として利用する為に増築を重ねていたら、巨大になったらしい」

「ふぅん。なんか修学旅行に来たみたい」

「しゅうがく……?」

「こっちの話よ」


とりあえずミナは楽しそうだ。


しかし、ここまで来ると見張りも多いな。


辺りを見回すと彼方此方に各国の兵士やら騎士やらが立っている。

名前こそ聖殿だが、実態は最強の軍事都市のシンボルなんだから当然だろう。

普段なら入る事すら叶わない場所だ。


って、言っても商売にはならなさそうだけど。

まさか、聖殿の壁の一部を欠片として持って帰る訳にも行くまい。


「ご苦労。ノースポーラ王国聖殿騎士団だ。予定通り魔剣の勇者をお連れした」

「あぁ、話は聞いています。どうぞ」


服装からして西の帝国の騎士だろうか?

重装備の騎士に道を開けて貰い馬車を降りる。


「中は薄暗いので足元に注意してくだされ」


聖殿の中は、小さな火の魔石が一定間隔で飾られていて、それが灯りになってはいたが確かに薄暗い。


「窓一つないんだな」

「うむ。どうしても知られたくない物があってな」

「……魔剣じゃないのか?」

「似たような物だがのう」


そもそも軍事要塞としてなら防壁がある。

ここは、なんなんだ?


今までは漠然と魔剣が安置されてる程度にしか思っていなかったけど、考えてみたら剣一本を守るには厳重すぎる。

そして中に入ってから、わかった事だが警備の厳重さに比べると建物の構造自体は普通なんだ。


ふと右腕が何かに引っ張られる。

見てみるとミナが袖を掴んでいた。


「……どうした?」

「別に」


……?

訳がわからない。


「ははは、リュート殿は本当にミナ殿に便りにされておるな!」


ロウムさんは何やらわかっているようで、豪快に笑う。

もしかして……。


「怖いのか?」

「ありえない」


即答で否定されたけど、聞いた瞬間、袖を掴んだ手がビクッとしたのに気づかないオレじゃない。

まぁ、確かに薄暗いしな。

人も少ないし無理もない……のか?


緩やかにカーブした道をしばらく歩くと一際大きな扉の前にたどり着く。

道自体は単純だな。

迷路になってる訳でもない。


剣を守ろうとするなら聖殿自体に防衛機能を付けて置きそうな物だけど。

どうにも何かを根本的にわかってない気がする。

しかし、考えても答えは出そうもない。


「ここからは、儂も立ち入りを許されておらぬ。二人で入ってくれ」

「二人でって……道は?」

「中は大部屋でな。中央に魔剣アウルが刺さっている。そこに行けばわかる」

「わかりました。ちょっと行ってきます」


目の前の扉が嫌なら音をたてながらゆっくりと開く。

中は不思議な淡い光に包まれたホールのようだ。


「行こう、ミナ」

「……うん」


袖を掴みっぱなしのミナに改めて手を差し出すとギュッと握り返してくれた。

情けない事にオレも緊張しているらしい。


「物凄い広さね」

「なんで、剣一本の保管にこんな……?」


まるで大きな闘技場のような部屋だ。

例え魔人同士でも、この部屋なら戦えるだろう。


「ま、彼に聞けば良いか」


部屋に入ってすぐには気づかなかったけど、人の気配がする。


視線を巡らせて見つけた青年に歩み寄る。

彼の後ろには青白く光る剣が台座に刺さっている。

恐らくは魔剣アウル。


青年の横には一人の女性がいた。

見慣れない赤と白の服装。ミナよりも更に長い黒髪。

彼女も勇者か?


しかし気になるのはやはり男の方だ。

オレが気配に気付いたのは女性が居たからだ。

この男は何か、恐ろしく気配が薄い。

皆無と言う訳ではないのが、また気味が悪い。


「よぉ、アンタ等が魔剣使いかい?何百年ぶりかねぇ」


こっちが、悩んでる間に青髪の男は飄々とした様子で話かけてきた。

何百……?何代前かの勇者か?

勇者なら多少寿命が長くても能力という事で納得がいく。


しかし、オレはコイツを知らない。


「……誰だ?王はオレも知ってる人が待ってると言っていたが?」


そう言うと青髪の青年は楽しそうに笑い出す。

それを、隣の女性に目で咎められると、楽しそうに話し出した。


「知ってるんじゃないか?この世界に生まれた人間ならな」


この言い様。やっぱり勇者か?

以前勇者であった者なら名前くらい知っている人は少なくない。

とは言え、オレはそこまで熱心に召喚の歴史を知っている訳ではないから、まったく心当たりないんだが。


だけど、次に男が名乗った名前は常識を越えていた。


「俺の名前はアウル。魔剣士アウルだ」


一瞬、思考が止まる。


アウル……?


その名前なら知っている。

いや、知らないハズがない。

世界を救った初代勇者パーティーの一人。


「待て。アウルは魔王との戦いで死んだハズだろ?」


魔剣士アウルは、シグルドに魔剣を継承したと同時に力尽きたハズだ。

それに魔剣が能力なら、先祖返りもない初代勇者には他の能力はあり得ない。


「あぁ、死んだよ。確かに俺は死んだ。今の俺は魔剣士アウルってよりは、魔剣アウルだ。剣の思念体っていった所だ」

「剣の……思念体?」

「あぁ。不死の王……初代魔王を倒した後、気付いたら、こうなってた。物に触れる事はできないが、考えてる事はできる。ちなみに、コイツはナギ。今の魔剣アウルの使い手だ」


アウルがそう言うとナギと呼ばれた女性は丁寧に頭を下げる。


「ナギと申します。よろしくお願いしますね、リュートさん」

「あ、はい。よろしくお願い……って、痛っ!?」


挨拶してる最中に手を強く握られた。


「何デレデレしてる」

「初対面だ!ただの挨拶だろ!?」

「まったく」


確かに綺麗な人だとは思ったけど、今のは流石に理不尽じゃないか!?

そうは思っても、ミナが聞かないのはよく知っている。


「ふふ、大丈夫ですよ、ミナさん。私は、ここにずっとアウルと一緒にいますから」


ナギが柔らかく微笑むとミナもぎこちなく笑い返す。

とりあえず、あれでいて社交的な子だ。オレ以外には。


「ナギは俺と違って普通の人間だ。だから魔剣を使えるんだけどな」

「魔剣使いを、聖殿に連れてくる理由は、アンタがいるからか……」

「魔剣に関しては俺達以上に知ってる人はいないからな」

「それなら、二人でナギが魔王を倒せば、すぐ終わるんじゃないか?」


半分冗談で、そう言ってみたがアウルは少しだけ真面目な表情で答える。


「残念だけど、魔剣アウルは、もう無効化ができないんだ」

「……なんだって?」


魔剣と言えば、魔力の無効化。

その能力のお陰で、初代魔王を倒せたんだ。

その能力がない?


「刃が欠けたのがいけなかったのでしょうか?途中から、一切魔法の無効化ができなくなって、しまったんです」


ナギが台座から剣を引き抜き、じーっと見ている。

確かに剣の中程が大きく欠けていた。


「召喚しなおせば治るんじゃないか?」

「生憎、俺がどんな原理で思念体になってるかわからん。魔剣を消した後、再召喚が可能なのか?俺は消えないのか?わからない事ばかりでな」

「……これまでに魔剣使いは何人か居たんだろう?そいつらはどうなったんだ?」

「死んだよ。戦争中に」

「え?」


言葉の意味は理解できたけど、思わず聞き返してしまった。

そうしてしまう程、アウルは呆気なく言ったんだ。


「それぞれの時代の魔王との戦争中に皆死んだよ」

「みんな……死んだの……?」


今まで黙っていたミナがアウルにそう聞いた。

彼の言うことが本当なら……いや、本当なんだろう。

つまり、魔剣使いは、全員魔王との戦いで生き残れなかった事になる。


「あぁ、死んだよ。なんでだと思う?薄々気付いてるんじゃないか?」


ミナは、戸惑っているが、オレにはなんとなく理由はわかる。

凄く単純な理由だ。


「魔剣は、勇者の能力の中では……弱い」

「その通り」


攻撃に使う分には、剣と変わらず。

防御に使うにしても、カムイさんの様な能力の方が強い。


「世間じゃ無敵の能力みたいに言われてるけど、案外もろい。だが、厄介な能力を持つ魔人相手には非常に効果的な武器でもある」


そう、例えば初代魔王の様な。


「本題だ。なんで魔剣使いが、ここに呼ばれるかの理由は二つ。まずは、俺が迂闊にここを動けないから来て貰う。二つ目は、これから魔剣の使い方を教える」


魔剣の使い方、それはオレやミナがまだ知らない領域があるって事だろう。


「魔法使いのお嬢ちゃん。魔力が何かはわかるかい?」

「……王城で習った程度なら。魔法を使う為の元。魔力を束ねて魔法を創造する」


……あー、うん。随分適当だ。

まぁ、ミナの事だから真剣に勉強なんてしなかったんだろう。

触媒を身につければ回復量が上がる事も知らなかったみたいだし。


まぁ、大体合ってる。

魔力というのは世界に、自然に、人体に当たり前に存在するし、少し練習したら誰でも操れるようになる。

それを魔法にするとなると途端に難易度は跳ね上がるんだが……。


一応魔力だけなら、血筋からして、オレも結構あるらしい。


そして、アウルの言葉は、近接戦闘を得意とするオレには、魅力的と言わざるを得なかった。


「そう、魔剣ってのは魔力の剣だ。それをもう一段昇華させる。言わば必殺技みたいな物だな。つまりは……魔法剣だ」


聖殿の中だと言うのに不意に強い風が吹く。

気づけばナギが魔剣を握っており、彼女の持つ剣の刃には風が纏わっている。


「相手の魔法は無効化しつつ、こちらの魔法は使える。射程距離こそ短いが中々便利だぜ?」


そう言うアウルの顔は子供が悪戯を成功させた時の様に無邪気で楽しそうだった。





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