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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
三章 仲間を探して
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五十八話 100への伝言


辺りを囲っていた騎士達がざわめき出す。

カムイさんとコガ兄さんも事態を把握したように後ろに跳び距離を取って構え直す。


そして、訳がわからず離れて静観してたギャラリーすら口々に、その言葉を紡いでる。



傾国の魔女。



本当にミナは有名人だなぁ。


オレも一応は勇者だし、そこそこ名前も知れているんだろうけど、ミナは段違いに有名だ。


今代最強と言われる勇者であり、実際に城を半壊させたのが大きいんだろう。


そして、その夜空のように黒く流れる長い髪は目立ちすぎる。



「ハァ……。魔女がいないから好機かと思ったら、荷台に居たとはな……」


コガ兄さんが、疲れたと言わんばかりに声を出す。

カムイさんは額に汗を浮かべ、剣を片手で構えている。いつでも、聖殿の盾を使えるようにだろう。


「どうして私達が襲われてるのか教えてくれないかしら?」

「傾国の魔女を襲う気はないさ。ちょっと聞き分けのない弟に拳骨をかまそうとしただけさ」

「弟?」


コガ兄さんは肩を竦めて見せ、ミナは怪訝そうにオレを見る。


「……本当だよ。一応、血の繋がってる兄弟だ」

「一応って何」


声が淡々としてて、恐いんですが。


「家を勘当されてる」


そう言うと一応、納得したのか、ずっと掴みっぱなしだった襟元をようやく解放して貰えた。


「それで、騎士様が私達に何のよう?まさか、弟を殴る為だけに、これだけの人数を動かした訳じゃないでしょう?」


ミナはそう言うけど、兄さんは近衛騎士の団長。

その気になれば、このくらいの数は動かせるから恐い。


ただ今回は真っ当な用があるらしく、剣を下げて話しだす。


……手に持ってる限り戦闘意思は有るんだろうけど。


「オレ達、王女騎士団の目的は勇者の援助だ」


なんつー名前の騎士団だ。


「取り急ぎは、救国の剣王と傾国の魔女を聖殿まで護送する事だ」


聖殿……そういえば、王様からは行けって言われてたっけ。

そう考えると追っ手が来るのも予測できた訳だけど……。


「なんで、そんなに聖殿に拘るんだ?あそこには魔剣アウルが保管されてるだけじゃないのか?」


正確には聖殿は北東西連合からなる軍事拠点であり、南の魔人、更に言えば魔王の進行を退ける為の最前線だけど、この際、これは関係ない事だろう。


「俺達にも、ほとんど教えられてないから詳しい事はわからない。が、魔剣の能力を持つ勇者は聖殿に連れていく習わしがある」

「なんだそりゃ……」


一応の理由はあるんだろうけど、予測がつかない。


「リュート、どうするの?」


横で話を聞いていたミナは完全にオレに任せる気の様だ。

まぁ、それはそうか。


「ランディとコレットを探したいって言うのが本音だけど……」


生憎、手掛かりがなくどうしようもない。


「諦めろ、リュート。いくら勇者二人でも、この人数相手に勝ち目はないだろ」


兄さんは兄さんで好き勝手言う。

ってか、そりゃオレが二人居ても勝てないだろうけど……。


「ミナ、どうだ?」

「ん、手加減はできないかな」


なんて余裕そうに答える。


「構えろ」

「おい!兄さん何やってるんだ!」


コガ兄さんの一言で回りを囲っていた騎士達が攻撃体制に入る。

とは言っても近距離戦ではなく、魔法を打つ構えだ。


「お前に関しては護送中にでも、たっぷり説教をしてやる。傾国の魔女、君は少し好き勝手しすぎだ」

「勝手に呼んだのは、そっち。今では感謝したいくらいだけど」

「なら大人しく聖殿へ来て頂きたい」

「リュート次第」


それが合図となりコガ兄さんが魔法を唱え回りの騎士もそれに連れて詠唱を開始する。


「炎よ!その力にて我が敵を打て。ファイアボール!!」


その言葉と共に八つの火球がミナ目掛けて飛んでくる。

それに騎士達の放った様々な属性の魔法が続く。


それに対しミナは地面に刺さる数多の魔剣を抜き右手と左手に一本ずつ構える。


『身体強化、速度、視力』


たまにミナが使う別の世界の言語。

極短い間に詠唱は完了したようだ。


そこからは一瞬だった。


地面に刺さっている魔剣は胸程の高さがある。

多くの魔法は、それに衝突し勝手に消えた。


地面の魔剣に当たない高めに放たれた魔法は全てミナが二刀流により切り払う。

くるくる回るその姿は、踊っているかのようだ。


全ての魔法を消滅させた後、ミナは片手の剣を降ろし、もう片方を肩に担ぐ。


「ふぅ。終わり?」


恰好は魔法使いなハズなのに、どうみても剣士にしか見えない。


余りの出来事に騎士達は何が起きたのか理解できずに戸惑っている。


その中でカムイさんがなんとか言葉を絞り出した。


「まさか……それは全部、魔剣なのか?」



周囲がざわめき、ミナも少し驚いた顔をしる。そして短く、声をあげた。


「あ、知らないんだっけ?」

「……まぁ、魔剣はオレの能力って事になってたからな」


コイツ、自分の能力を秘密にしてたのスッカリ忘れてたな。


いや、助けて貰った手前、文句なんて言えないんだが……。


「そういえばリュート殿は魔剣の名を『ミヅキ』と名付けていたな」

「リュート……まさか、お前の魔剣は継承魔剣なのか?」


継承魔剣。その名前の通り他者から譲り受けた魔剣だ。

勇者シグルトがアウルに魔剣を授けられた際に使われた言葉だが今と成っては余り使われない言葉ではある。


まぁ……誤魔化しようがないよな。


「そうだよ。元々、魔剣召喚はミナの能力だ」


ざわめいていた騎士達の間に明らかな動揺が走る。


当然と言えば当然だろう。


別に魔女と呼ばれるミナに勝つ必要なんてない。

今の魔法もアレで勝てるとは思ってなかっただろう。


ただ、オレとミナにリスクを背負わせれば良かったんだ。

ここで負けても別に聖殿で数日過ごすだけなんだから。


しかし現実はどうか?

牽制として放った魔法は全て消滅させられた。

自分達の魔法は届かない。

一方的に魔女に狙い打ちにされる。


いや、実際には魔剣も欠点はあるんだけどな。

ただ、それは使ってるオレとミナの視点であって他の人からは伝説に出てくる武器。

そのプレッシャーはかなりの物だろう。


コガ兄さんさえ、次の指示を出せないでいる。


「まだやるって言うなら……手加減できないわよ?この人数」


ミナが冷たく言うと辺りの騎士達が少しだけ下がる。


はは、あの程度の冷たさで下がるなんて温いな。オレなんてもっと冷たくされてる。


「やれやれ、一旦引いた方が良さそうだな」


溜め息を吐いてコガ兄さんは続ける。


「リュート。女王騎士団は明日の正午まで宿を出ない。それまでに返事を決めておけ。次は、退けないぞ」


そして、騎士を引き連れ街へと戻って言った。


「リュート。明日、戦うの?」


騎士がぞろぞろと街中に入り見えなくなるとミナが心配そうに話しかけて来る。

なんだかんだ言って、人とは戦いたくないんだろうなぁ。


「大丈夫だよ。明日は戦わない」

「聖殿に……行くの?」

「正直、それも悪くはないんだが……」


目的地もわからないし、長期間拘束される訳でもないだろうし。

ただ、その必要もなさそうなんだよな。


「コガ兄さん……向こうの騎士はこう言ったんだよ。『国の騎士は逃げる訳にいかないから、行きたくないなら、そっちが昼までに逃げろ』ってさ」


無駄に戦って犠牲を出すのも馬鹿らしいから、それっぽい言葉で包んで伝えてくれたのだろう。


「えっと、じゃぁ……」

「うん、戦う必要はない。けど、明日は早めに出なきゃな」

「……そっか」


最近、ずっとバタバタしてて、またゆっくりできないのに、ミナは安心したように笑う。


人との戦いに慣れてないんだろうな。


……この世界を旅していたら人との戦いも少なくはない。

金品目当ての強盗や、奴隷目当ての誘拐団が主な相手だろう。


その時……ミナは戦えるんだろうか?


「どうしたの?リュート」


余程、深刻な顔をしていたのか、ミナが心配そうに覗きこんできた。


「ん、考え事。大丈夫だよ」

「そう?大丈夫ならいいけど……。これからはどうするの?」

「そうだなぁ」


物騒な考えは後にしよう。

ケルロンとオレが居るなら、そうそうヤバイ事にもならないだろ。


とりあえず、今すべき事は……。


「納金だな」

「納金……?」


ミナはよくわかっていないようで、首を傾げていた。

そりゃそうか。







「はい。確かにお預かりします。苦難を無事に乗り越えられたようで、何よりです」

「それも援助あっての事。ありがとうございました」


受付のお姉さんと軽く社交辞令を交わして、銀貨を数枚渡す。


それは商人全員への援助であり、自らが窮地に立たされた時の保険だ。


商会。


この国どころか、大陸の商人の凡そ半数が加入してる。

特に危険が多い旅商人は、ほとんどが加入している。


加入の条件は簡単だ。

収入の1割程度を納金すれば名簿に加えて貰える。

馬鹿にできない金額だが、利点も多い。


商会を通じて、取引が来る事もある。

商人同士の情報が入りやすくなる。

そして、以前オレも世話になったが、非常時に商売が再開できる程度の援助が貰える。


命さえあれば、いつでも復帰できるって訳だ。


そう考えると高い加入費とも思えない。


「……生命保険みたいな物ね。ちょっと高いけど」


ミナは横でぼやいている。

彼女の世界でも似たようなシステムはあるらしい。


「あ、リュート様。伝言が入ってます。こちらですね」

「伝言?」


受付のお姉さんから紙を受け取り目を通す。


内容は傭兵募集。


なんで商人にこんな伝言を寄越すんだ?

最初は、そう思ったが期限を見てみると、すでに過去の物だった。


「送り主は?」

「商会に加入してない方の名前は控えていないので……」

未加入……商人って線は無さそうだ。

貴族も金銭を幾らか払い正式な依頼にしてくるから無し。


「討伐内容は……森に住む魔物か。炎の魔獣を見たという報告もって、アンノウンかよ……」


アンノウン。つまりは敵の詳しい情報無し。

熟練者が最もやりたがらない仕事だ。


「何見てるの?」


ミナが横から傭兵募集の紙を引っ張って覗き込んでくる。


「伝言らしい。けど、依頼期限も切れてて訳がわからん」

「炎の魔獣って何?」

「魔獣ってのは沢山いるからなぁ」


数が多く実害が大きい魔獣ほど有名になるが、希少だったり辺境にいたりする無名の強力な魔獣もいる。


昔、公爵の依頼でソレっぽいのを狩ったけどアイツは溶岩の中を泳いで岩を喰う。

森にいるとは思えない。


「誰か受けたのかな。この依頼」

「アンノウン混じりとは言え、条件は悪くないから受けた人はいるだろうな」


多少、距離があるが金払いは悪くないし、アンノウン以外の敵は数だけだ。

でも、オレに伝える意味があるか?


そう考えた所で一つの可能性が思い浮かぶ。


「まさか、ランディか?」


にしても、何でこんなわかりにくい……。

しかし、それ以外の可能性は思い付かない。


「ランディなの?これ受けたの」

「それ以外に心当たりがないって言うだけだがな」


場所は国境。と言うより最前線付近の村。

人は少なく魔獣の出現率も高いが資源の豊富な場所だ。


商会の地図を見て、道を確かめる。

勿論、自分自身の地図もあるけど、商会の地図は、その都度情報が更新されている為、非常に重要だ。


「って、なんだこれ……」

「どうしたの?」


地図を見ると丁度、この街と目的地を結ぶ道を赤いラインが大きく横切っていた。


「赤いラインは立ち入り禁止。少し迂回したら黄ラインになってるだろ?これは危険地域」


別に立ち入り禁止と言っても強制力はない。

ようは「死にたくなければ近寄るな」って事だ。


「あの、この立ち入り禁止ってどうしたんですか?」


先程まで話してた受付の人がまだ暇そうだったので聞いてみる。


「そこは、えっと何やら見慣れない魔獣の大軍が出たって話です」

「見慣れない魔獣……?」

「はい。見た目はウェアウルフらしいのですが、どうにもアンデット化して徒党を組んでいると……」

「魔獣の大軍か……。危険地域は魔獣が移動する可能性の高い場所か」

「はい。何分、初めての事態なので大きめに範囲を取らせて頂いてますが、近寄らない方がよろしいかと……」


オレは地図を見ながら頭を抱える。

確かに近寄りたくはない。

が、黄ラインまで迂回したら、かなりの遠回りになってしまう。ケルロンとは言え、数日では効かないだろう。


「倒して行けないの?」

「ミナが居ればいけると思う。が、なるべく危険な道は避けるべきだ」


今回うまく行ったとしても、そんな事を続けたら、いずれ小さなミスで死ぬ事になる。


「せめて、もっと人数がいたら……」


禁止地域を避けるとしても、危険地域へ行く傭兵を雇うには、相応の金額が必要になる。


せめて同じ目的の、南に行きたい冒険者や傭兵が居ればいいんだが……。


………………いや、いるじゃないか。


少し時間は取られるだろうけど、遠回りするよりは余程早い。

そうと決まれば話は早い方が良い。


「ミナ、行くよ」

「……どこに?」


ミナの手を取り商会を出ると彼女は少しだけ頬を赤らめて声をあげる。


「ちょっと説明くらいしなさい!あぁ、もう、放せ!」


本当に、このミナの口調に遠慮がなくなってきたな。

……まぁ、握った手は振り払われてないし、いいか。





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