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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
三章 仲間を探して
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五十七話 100の兄

投稿期間が少し空いてしまいました。

なかなか目標通りにはいかないです。


その代わりに?今回は少し長めになっています。


誤字脱字・感想等頂けたら嬉しいです。


「ケルロン。前の方に草むらがあるから避けて走ってくれ」

「ワウッ!!」


俺たちを乗せた馬車は、草の生い茂る場所だけを避けて次の街に向かう。

村人に聞いた話では虎挟みは草のある場所以外には仕掛けていないらしい。


自分で仕掛けて自分で引っ掛かっちゃ笑い話にもならないしな。


魔獣を捕獲しようとするのは、そう珍しい事でもないけど、あの年の人達が意欲的にやるのは少し驚いた。

まぁ、以外にも元冒険者は多いらしい。


ちなみにミナは後ろの荷台でぐっすり寝ている。

オレは慣れてるから平気だけど、月光草を採集してから今まで休まず動いていたから、疲れたんだろう。


だけど、まだ休む暇はない。

オレの腰にぶら下がっている商品の鮮度は、たったの一日しか持たないんだ。


話は少しだけ前に遡る。







「はい、リュート。これが月光草を精製した流行り病の特効薬。飲んで数時間も立てば楽になるよ」

「ありがとなー、クロウ」

「月光草はリュートが取って来てくれた物だしね。これくらいお安いご用さ。これで村も春は迎えれる。でも、どうするんだい?その薬」

「明日あたり街で売ろうと思ってる」

「え?その薬、劣化が激しいから明日には効果がかなり薄れるよ?」


正直、その言葉を聞いた時、オレとミナは固まった。


元から売れないならともかく、今なら売る事ができるっていうのが、なんとも性質が悪い。


一応、ミナに声を掛けてみるが、なんて帰って来るかは予想は容易い。


「やめとくか?疲れてるだろ?」

「……勿体無い。頑張る」


ミナも元の世界では、お金で苦労したらしいし当然の返事だよな……。


ふぅ。と溜め息をついてクロウに向き直る。


「悪いな、クロウ。オレとミナは、もう行くよ」

「あはは、残念だな。まぁ、リュートには家に連絡すれば、すぐ会えるか」


そう言ってクロウは苦笑いをしてくれた。


って、あぁ、そうそう。一つ大事な事を良い忘れてた。


「悪い、家壊れた」

「えぇっ!?」







以上、回想終了。

とにかく、こんな訳で早々と次の街に向かっている。


ちなみにオレと連絡を取るのは商会を通せば良いだけだから問題はない。


しかし、家かぁ……。


考えてみたらオレの家ないんだよな。

前程ではなくても、そのうち買った方が良いよなぁ。


「と、思ったよりも近いな」


ふと気づくと前には大きな街が見える。

隣の国との交流が盛んな街だけあり、かなりの大きさだ。


時間にして……三十分ちょいか。

歩いてこれると言われるだけあってケルロンなら早いな。


「よーしよし。着いたらなんか食い物買ってやるからな。もう少しだけ頑張ってくれ」


ケルロンにそう言うと返事こそなかったが、尻尾がパタパタと振れて、心なし速度が上がる。


さて、何事もなくランディとコレットの手掛かりが見つかれば良いんだけど。







「はい、奥さん。お釣りです」

「ありがとね~。助かるわぁ」


薬と引き換えに銀貨を受け取り銅貨を返す。


少し割高かと思える価格設定だったけど、売り上げは思いの外好調だった。

主な客層は子供を持つ貴族や商人、それに……。


「本当に運が良かったわ。旦那が一昨日から流行り病で寝込んでねぇ」


一家の大黒柱が掛かって場合だ。


幾ら感染力が強くないと言っても、それなりに流行ってる病気だ。命に別状もないから注目はされないけど、考えてみたら稼ぎ頭が二週間も休むのはキツイだろうな。


それに比べたら薬を買う方が、かなり安く上がる。


そんな理由で商売は繁盛。手持ちの薬も残り少ないし、すぐに売り切れるだろう。

ってか、こんな門を潜って、すぐの人がごった返した場所で無ければ、売り切ってる所だろう。


お陰で、よくこんな質問をされる。


「それにしても、なんで、こんなに人通り多い場所で売ってるのかしら?探すのに苦労したわ」


ですよね。

場所や人が入り乱れる正門近くは商売に向いてない。

禁止されてる訳ではないから、ちらほら見かけはするが、街中のマーケットの方が便利だし人も集まる。


ただし、そこに行くには馬車を預けなければいけない訳でして……。


「ツレが荷台で寝てるんですよ。最近、バタバタしてたので起こすのも忍びなくて」


と苦笑して返す事しかできない。


「あらあら、なるほどねぇ。でも、わんちゃんは、みんなと居れていいかもねぇ」


女性はケルロンを見て、そう笑いかける。

どうにも、この辺りは他の国に近いお陰で魔獣に対する警戒心が他より薄いようだ。


ケルロンも、警戒されるよりも気楽らしく、さっち買った骨付き肉を食べた後に寝転がっている。


「それに、今日は街の中が騒がしいから、ここの方がまだ落ち着くかもねぇ」

「騒がしいって……何かあったんですか?」

「それがね、王都の騎士団が来てるのよ。誰かを探してるみたいだけど」


王都の騎士?

こんな所まで派遣されるだなんて珍しいな。


余程、本気で、その誰かを探してるのかな。


その誰かに対して軽く同情を覚える。

しつこいからなぁ。王都の騎士連中は。


とりあえず、この話を聞いた時にすぐに逃げるべきだったと気づくのは、それからすぐの事だった。


何をしに来たのか、騎士らしき男が、目の前を通ると、驚いた様子で街の中に駆け込んで行く。


まぁ、オレの灰色髪が珍しかったのかな?

とか、その程度にしか考えなかったが、彼が去ってから数分。


街から騎士風の人が数人出てくる。


まさしく王国騎士の鎧なんだが……どうにも紋章が見覚えがない。

騎士とも鳴れば胸にある紋章で、どこの所属か大体わかる物だが、今集まっている騎士達の盾に剣がクロスして描かれてるのは見覚えがない。


相当、階級が高い騎士団ではありそうだけど……。



と、考えていると少し離れた所から非常に聞き飽きた……もとい慣れた声が響く。


「トルネードセイバー!!」


ちなみに、トルネードセイバーとは呪文詠唱の代わりに剣を振る魔法だ。

魔法とはイメージが重要だからこそ可能な芸当だ。

ただし、魔力の消費量に比べ威力は控え目だ。


それでも騎士や剣士に愛用者が多いのは、中距離で手早く攻撃を仕掛けられるからだろう。


不意を打たれたら人では反応できずに吹っ飛ばされる。


ただ、あくまで人間なら……の話だけど。


「ガゥッ!!」


ケルロンが小さく吠えた直後、バチバチッと弾けるような音がして、黄色い閃光が視認できない速度で走り、風の刃を迎え撃ち四散させる。


後ろを見るとケルロンが右の口を軽く開いていて、まだ少し放電していた。


「っと……ありがとな、ケルロン。助かったよ」


そう言うがケルロンはまだ気を緩めずに前方を見据え立ち上がった。


「魔剣召喚、ミヅキ!」


別に名前を呼ぶ必要はないが、呼んだ方がすぐ出せる。

まぁ、何度も言うけど魔法はイメージだ。


例外にオレの能力みたいな自動発動タイプもあるけど。


「少し灸を据えてやるつもりだったが……ケルベロスが助けに入るのは予想外だったな」


人を分け金髪の騎士がオレの前に出てくる。

ってか、どうみても兄さんだ。


「えーと、久しぶり。兄さん」


とりあえず朗らかに挨拶してみるものの相手は明らかに怒ってる。


何かしたっけ?オレ。

何もしてないよな。召喚された時以来会ってないし。


「死んだかと思えば生きてて、急いで王都に戻れば勝手に出立……少しは心配する方の身なれ、愚弟」


あぁ、会わなかったのが駄目だったんすか……。


まぁ、オレ死亡説がどこまで広がってるかなんて知らないんだけどな。


「いや、まさか死んだなんて噂……」

「口答えはいい。灸を添えてやる」


うわ、まったく人の話聞く気ねぇ!?


「昔からお前は好き勝手……商人になっただの勇者になっただの……たまにはキッチリ言いかせてやる」


そしてコガ兄さんは何やらブツブツ言い出す。

正直、嫌な予感がする。そして一秒後に予感は的中した。


「ファイアボール!!」

「街中で魔法なんか使うんじゃねぇ!?」


一度に放たれた六個の火球。


オレが兄さんに勝てなかった理由は魔法だ。


オレは剣に寄る近接攻撃しか手段がないが、コガ兄さんは、剣と魔法に寄る中距離からの攻撃にも優れている。


だが、今は魔剣がある!


重量がゼロだからこその剣速で全ての火球を斬る。


魔剣の特性は魔法や魔力の無力化。

ファイアボールは全て跡形もなく霧散した。


「ガルルッ!!」

「ケルロン、待てっ!」


ケルロンがお返しとばかりに真ん中の口を開く。

けど、ここでケルロンが本気を出せば街への被害が尋常ではなくなる。


……正規騎士だからと言って向こうは好き勝手やってるけど。


こういう時、流浪の身は不利だなぁ。


しかし、兄さんに殺される事はないだろう。それに魔剣がある今、そう簡単に負けるとも思えない。

元々、剣の腕だけなら互角以上にやれるハズだ。


「トルネードセイバー!!」

「迂闊なっ!」


コガ兄さんの放つ二回目のトルネードセイバー。

トルネードセイバーは剣を振らなければ発動できない為、軌道とタイミングが非常にわかりやすいという弱点がある。


オレは直線上に魔剣を置くだけでいい。

それだけで風の刃は、そよ風と化す。


「近づいたっと……!」

「腕をあげたな、リュート」


コガ兄さんはニヤリと笑う。近距離戦に持ち込みはしたけど、一手間違えれば距離を放されるし、油断したら逆にやられる。

有利と言えるほどのアドバンテージはない。


「武器の性能のお陰さ」


魔法を受け流した魔剣はバックハンドで持っている。

本来なら力が入りにくい為、あまり好手ではないけど、魔剣なら関係ない!


そのまま力任せの一撃で剣もろともぶっ飛ばす!



幾ら相手が近衛騎士団団長とは言え、人間としての限界がある。

この一撃を受け止めるにしても、流すにしても完璧には不可能なハズだった。

しかし、兄さんはオレが、まったく予想してなかった手を打ってきた。


実際に斬る訳にはいかないから剣の腹を向け振ったが、それを差し引いても、素手で受け止めれるハズがない。

なのに、魔剣が兄さんに届く前に、誰かの片手はオレの剣を受け止めた。


いや、よく見ると、魔剣は僅かに手に届いていない。

って、これは……!?


「聖殿の盾!?」


あらゆる攻撃を完全に防御する無敵の盾。

これを使えるのは知ってる限りで一人しかいない。


「カムイさん!?」


聖殿の盾と言えど魔剣の一撃は防ぎきれずカムイさんは尻餅をつく。


「魔剣はやっぱり防御できないか、いてて。よう、リュート殿」


何故カムイさんがいるのか?

そう自問するが、答えはでない。


でも、はっきりとわかっている事がある。



兄さんを庇った以上……敵だろう。


「悪いな、リュート殿。俺も二対一なんて真似は好きじゃないが任務とあらば仕方ない」

「任務……?」

「お前、王の聖殿に行けって言葉を無視しただろ?」


とコガ兄さんが言う。


あー…………そういえば、そんな話あったな。


「俺とカムイの目的はリュートとミヅキの拿捕。そして聖殿まで送り届ける事だ。何、大人しくしてれば魔女に危害は加えない」

「オレは!?」


普段なら任務重視の兄さんが大分、頭にきてるようだ。

昔から溜まりに溜まったのが爆発したんだろーなー。


カムイを見てみるがどうにも困った顔をするだけだ。


「すまないな、リュート殿。団長にコガ殿の好きにやらせるように言われているのだ」

「誰だよ、団長……」


怨むぞ。


しかしながら、向こうは完全に、やる気。

オレとしても一方的にやられる気はない。


気を取り直して魔剣を構える。


「さて、行くぞ」


まずは、そう言いながらカムイさんが前に出てくる。


防御力の高いカムイさんがオレを抑え、隙あらばコガ兄さんの魔法が飛んで来るのだろう。


なら、魔法を打てないくらいカムイさんに近づくしかない!


近距離で戦う味方に誤射なんて洒落にならない。


カムイさんと魔法を同時に捌くのは厳しいし、それしかないだろう。


踏み込む上段から切り下ろす。

あっさり避けられるが、聖殿の盾を駆使された前回より、よほどやりやすい。


「ライトニングスタッフ!」

「聖殿の盾!」

「なっ!?」


カムイさんとオレが、近距離にいるにも関わらず躊躇いなく打たれた雷撃の槍。

普通なら正気の沙汰ではないが、カムイさんは聖殿の盾で完璧に防御している。


小範囲に放たれた雷は的確にオレだけを貫いて行く。


肩、脇腹、左股。

右腕に当たった分は魔力を遮断する竜毛の籠手が防いでくれた。



やっぱり手加減はしてくれてるみたいだな。

大したダメージじゃない、けど……。


雷の魔法に打たれた部分はダメージだけではなく、痺れて動かしにくい。


麻痺効果。

こっちが本命だろう。


「その状態で、俺と勇者カムイの剣を受けるのは無理だろう?安心しろ、優秀な治癒術師を連れて来ている。多少の怪我ならすぐ治るさ」

「悪いな、リュート殿。まぁ、手加減くらい俺でもできる。安心してくれ」


コガ兄さんとカムイさんが、剣を構える。

人が動きにくいのを良い事に、右と左から挟み撃ちにするつもりらしい。


さて、どうするか。

兄さんは雷撃が当たった場所、全てが麻痺してると思ってるだろうけど、籠手に守られた腕は問題ない。


他は少しまずいな……。


ダンッ!!と地面を強く踏みつけると少しだけ麻痺が和らぐ。

足は動いてくれそうだ。


治して貰えるとは言え、斬られたら痛い。

それを喜ぶ趣味もないし、できるだけ抵抗はしよう。


頭に先祖帰りの能力が過るけど、斬られるより怪我をしそうだから、無視をする。


勇者の能力の事もよくわかってないし無駄な怪我は避けたい。


「結局、普通になんとかするしかないかっ!来いっ!!」


オレが武器を構えると同時に、二人は左右から斬りかかってきた。


あぁ、無理だ、これ。


本気ではないにしろ、自分と互角に戦う相手の挟み撃ちなんて、どうしようもない。


そして、オレがそう気付いた瞬間、後ろから別の声が聞こえた。


「魔剣召喚」


聞き慣れた声が響く。

次いで上空から、無数の黒い剣が降って来て地面に突き刺さる。

それは、オレを中心に歪な円を描いていて、オレ自身にも刺さっているけど、痛みはない。


兄さんとカムイさんは間に突如、現れた剣に対し冷や汗を掻いて、斬りかかる体制のまま固まったている。


目の前に剣の雨が降れば無理もないか。


「うるさくて、ゆっくり寝てもられないわね」


そう言いながらケルロンの後ろの荷台から少女が降りてくる。ってか、寝てたけどね?数時間。


「ごめん、リュート。気付いたら寝てた」


ミナ自身、悪いと思っているようで苦笑しながら謝ってくる。


「疲れてただろうし仕方ないさ」

「ありがと」


短い会話を交わすとミナは次にカムイと兄さんに向き直る。


「いまいち状況の把握が、できてないけど……何、やってんの?あんた達」


ミナは少しイラついてるようで、怒ったように言う。



さらに、オレの襟元を掴み引き寄せ、カムイと兄さんにこう言った。


「これ、私のなんだけど。勝手にしないでくれる?」



……なんかいきなり所有物発言されてます、オレ。




現在一話から順番に手直ししてます。


具体的には、ころころ変わる視点をもう少し統一。


三点リーダーを一つしか使ってない場所を修正。


今まで場移を改行の空白のみで表してたのを、わかりやすく ◆ を間に入れる。


文章の一部表現を変える。




こんな所でしょうか?全部の修正には少し時間がかかりそうです。


あ、本編はいつも通り更新します。


話の大筋は変わらないので、読み返す価値のある修正ではありませんが、少しでも読みやすくなったらと思います。



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