表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
三章 仲間を探して
55/131

五十五話 100とクロウの依頼



ガタガタと軽快な音を鳴らし一台の馬車が平原を走っている。

ただし、その馬車を引いているのは魔獣ケルベロス。正確に言うなら犬車、又は魔獣車なのかもしれない。


恐らくは目的地である村も近くにあるだろう。

リュートがそう考えていると急に馬車が大きく揺れた。


「ギウャン!?」

「きゃっ!」


ケルロンの甲高い鳴き声とミナの驚いた声が聞こえた。

前でケルロンの手綱を握っていたオレは多少の揺れなら平気だが、後ろで機嫌良さそうに果物を食べていたミナは支えるものがなかったハズ。

無我夢中に手を伸ばしミナの服の端を掴む。


幸いにも馬車は横転する事もなく、振り回されただけで済んだようだ。ミナも、なんとか掴めたから振り落とされてはいない。


「何。いきなり」

「一応、必死に助けたつもりなんだけど」


何も考えず掴んで手繰り寄せたお陰で腰から抱く形になっていて、冷たく睨まれた。


怖い。照れ隠しだと信じたい。

事故で胸を鷲掴みにするなんて、ありがちな展開にならなくて良かったと切に思う。

ミナなら間違いなく攻撃してくる。

ついでに躊躇いや戸惑いもないだろうな。


「それで、どうしたの?」

「ケルロンが何かに足を取られて転んだらしい」

「ケルロン!?」


馬車はケルロンを中心に半回転しただけだ。

むしろ馬車に引っ張られた側の方が危ないが……。


ケルベロスだしなぁ。


上位魔獣が、その程度の事で、どうにかできる訳がない。


心配そうに駆け寄るミナをみて、ケルロンも、良い子にお座りして尻尾を振ってる。


「大丈夫?痛い所はない?」


ケルロンとしては、ミナに頭を撫でられ心配されてるせいで、むしろ機嫌良く見える。


……けど、ケルロンがケルベロスで良かった。本当に。


ケルロンの足に鈍く銀色に光る何かが噛みついている。

コレに足を引っ張られたせいで転んだんだろう。


ミナもケルロンの足に光るソレに気づいたようだ。


「リュート。コレって……」

「虎挟み、だな」


ケルロンが引っ掛かって引っ掛かって引っ張ったせいか半分壊れて使い物にならなくなっているが、鋭い棘が幾重にも、ついた金属の片側がケルロンの足に刺さっている。


普通の馬がコレに足を挟まれれば危ないなんてレベルじゃない。



なんで魔獣くらいしか通らなさそうな場所に虎挟みなんてあるんだ?


「リュート、ケルロン大丈夫?」

「ん?あー……」


大丈夫だと思うけど一応は刺さっている虎挟みの片側を外してみる。

すると少しだけ血が滲みケルロンがそこをペロペロと舐めだした。


「少しだけ血が出てるけど問題ないだろ。とりあえずケルロンには、ここで休んでて貰おう」

「ケルロンにはって……私達は?」


ケルロンを置いて行くのは馬車を置いて行くのと同じ。

着の身着のまま旅をするのは無茶だけど、近距離なら問題ない。


オレは一点を指差して答える。


「ほぼ予想通り。ミナ、あそこに小さな村があるだろ?」


恐らく、クロウとメリアも、そこにいる。


虎挟みを仕掛けたのも、あの村と考えていいだろうしな……。




















「流石はレグラス爺さんじゃ。これで、なんとか冬も越せそうだのぅ」

「ははは、まだまだウェアウルフ程度には負けんよ」

「わたしも若い頃に、レグラスさんと会っていたらねぇ」


あれから更に徒歩で一時間。

村の裏手についたオレとミナは、影から村の様子を伺う。


予想通り、老人しかいない。

ただ、なんというか……予想外に妙に活気がある。


あの爺さんなんて、ウェアウルフを担いでる。本物か?本物なんだろうな。ソレっぽい事言ってるし。


「こっちの世界のお年寄りって、あんなに元気なの?」


と、ミナが呆れているが、オレはソレに答えれなかった。


……考えてわからない事を考えても仕方ないか。

気を取り直して行動に移ろう。むしろ閉鎖的な村よりはやりやすいハズ!

目の前に元気に話してる村人がいるなんて好都合じゃないか!


「こんにちわ、みなさん」


少し無理矢理とも思える思考で自分を強制的に納得させて、笑顔で話しかける。

笑顔。それは商人の基本であり、奥義。


数人の村人は少しだけ驚いたようだけど、邪険にされる様子もない。

恐らくは村に若い人が来たのが珍しいだけだろうな。


「商人の方ですか?ここには物を買うだけの金はないですよ。もっと向こうに大きな街が……」

「いえ、人を探してまして。1ヶ月くらい前でしょうか。この辺りに馬に乗った四人が来ませんでしたか?内一人は子供なんですが」


そう聞くと南の方を指差して答えていた御爺さんが固まる。

周りの人も戸惑って、どう答えていいかわからないようだ。


そんな中、ウェアウルフを抱えて老人が、オレの前に立ちはだかる。


「あんたら、先生に何の用だ?」

「先生……?」

「クロウ先生は、今の村に必要なんだ。先生に何の……」

「やっぱり、クロウはここにいるんだな!?」


クロウの名前が出て思わず肩を掴む。

年の割りにガッシリとした体は、若い頃は腕良い冒険者や自衛団だったのだろう。


「っと、すまない。クロウに合わせてくれませんか?家族、なんです」


落ち着け、オレ。

老人もクロウを心配しての事なんだろう。


「……先生に危害を加えるつもりはないな?」

「もちろんです」

「はぁ、今先生を連れてかれても困るんだが……」

「そればっかりは本人と相談するしか……」


オレがどうこう言える事じゃない。


「まぁ、いい。ついて来なさい」

「あ、ありがとうございます!」


御爺さんの後を着いていくと、すぐに小さな小屋に案内された。

流石は小さな村だ。


だけど……村の中では中々できた家だな。


木材と藁を積み重ねたような家も多い中、それはちゃんとした木造の小屋だった。


「先生、お客さんです」


御爺さんがドアを開けそう言うと中からは聞き慣れた声が聞こえてくる。


「また誰か怪我をしたのかい?」


またオレの後ろで緊張からカチコチになってるミナがびくっと震える。

けど、まぁ、怯えた様子がない分、クレアの時よりマシだし大丈夫だろう。


「久しぶりだな、クロウ」

「……リュー……リュート!?」


扉を潜ると、そこには横になってるメリアと、それに付き従うようにクロウが居た。


「メリアか……お休み中か。大丈夫なのか?」

「あ、あぁ、うん。少し早いかもしれないけど元気だよ」


早い……って、言うのはメリアのお腹にいる子だろう。

まぁ、クロウが居れば大丈夫だろう。


「ランディとコレットは、ここには居ないのか?」

「……うん」


クロウが申し訳なさそうに頷く。

クロウでさえも薬剤の知識があるから、この村で重宝されているのだろう。

傭兵と子供を受け入れる余裕はこの村にありそうにない。


はぁ。予想通りの事とはいえ、やはり少し残念だ。


「ところでリュート、そっちの子は?」


クロウが角で佇むミナを指す。


……なんで、コイツ家族の前だと小動物みたくなってるんだ?


「ミナだよ。訳あって怪我は治ったんだ」

「もしかしたらと思ったけど、やっぱりミナちゃんか!いや~、良かったね~」


クロウは本当に嬉しそうに笑う。

前から怪我の事をどうにかしてあげたいとは思ってたみたいだしな。


だけど、ミナ。もう少し大きな声で喋ってやれ。


少し離れた場所で何か言ってるが聞き取れない。

まぁ、クロウは笑って頷いてるからいいけどさ。


「今はミナに手伝って貰って、国内を歩いてるんだ。当面の目的は家族……というか、ランディとコレット探しかな」

「ランディは、南にある街で傭兵の仕事見つけたみたいだけど、今はどこにいるんだろうなぁ」

「傭兵の仕事にコレットを連れて行くなよ……」


ここに住めない以上、連れてくしかなかったのかもしれないけど。


「ねぇ、リュート」

「ん?」

「ミナちゃんも……」

「はい?」

「旅に出る前にお願いがあるんだ。この村を……救う手伝いをしてくれないかな?」














「月光草。魔力を多く含んだ土地に生息する植物。豊富な魔力さえあれば、どこでも育つ生命力の強さと月光を浴びて青白く輝くのが特徴。昼間は雑草と見分けがつきにくい……ね」


クロウから渡された資料をざっと読む。

まぁ、そこそこ名の知れた薬の材料だ。


「高いの?」

「ううん。そんなに高価な訳じゃないんだけど、市場にはあんまり出回らないんだ」

「まぁ、月光草を取りに行くなら他のアイテムを狙った方が儲かるしな」


好き好んで取りに行く人は少ないアイテムだ。

何かのついでに見かけたら採集するくらいだろう。


「南の街で、ちょっとした感染症が出たんだ。この村でもね」


クロウは元々薬剤師である分、病の知識は豊富。その感染症とやらの薬も作れるのだろう。

問題は……材料か。


月光草が育つのは魔力のある土地。

魔力があると言う事は魔物、下手をすれば魔獣がいる可能性が高い。


「そんなに恐ろしい病気なのか?」

「ううん、放って置いても二週間くらいで治るよ。感染力もそんなに高くない」


頬杖をついた手がズルッと滑りそうになる。


「待て。放っておけ、それなら」

「でもね。ここの村は抵抗力の低いお年寄りばかりなんだ。そして、この時期……二週間も動けなくなったら、冬の蓄えができない」

「……あー、そういう事か」


さっき表でなんとか冬を越せそうとか話していたけど、まだ準備はできてないらしい。


「リュート。この村がなんでできたかわかってるよね?その割りには、みんな元気だと思わない?」


本来なら冬越えを諦めてもいいくらいだ。

大きな街ほど、楽で小さな村ほど辛い。


「僕らが来た時はリュートの想像通りの村だったと思う。ここの人たちは身寄りもないから……」


ゆっくりと緩慢な死を待つ。それが本来の選択肢だろう。


「でもね、僕らが来たから。僕とメリアと、その子供の為に、みんなもうちょっと頑張ろうって、気になってくれたんだ」

「なるほどな。わかった、わかった。どうせオレが行かなきゃ自分で行くんだろ?」

「魔物は怖いけどね」


そう言ってクロウは穏やかに笑う。


「いいじゃない。どうせ、子供が生まれても、メリアさんがすぐ動けるとは限らないんだし、この村は必要よ?」

「それもそうか……。ま、任せとけ」

「って、ミナちゃんも行くのかい?」


あぁ、そういえばクロウにミナが勇者って話はし忘れてたな。


ミナもソレに気付いたらしくクロウに笑いかける。


「大丈夫。私、リュートより強いから」


……真実を知らなきゃ冗談にしか思えないよな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ