五十四話 王女騎士団編成
いつの間にかお気に入り登録が1000件突破しておりました。
これだけの人に呼んで貰えてるのに正直驚いてます、感謝感謝。
とりあえず、前話で宣言した通りの番外編です。
早く投稿するという目的も達成できて少し嬉しい反面誤字脱字が多そうで怖いっ!
誤字脱字感想等、送った頂けたら嬉しいです。
「ファイアボール!」
「くっ……聖殿の盾!!」
「爆ぜろ!」
父上の手から放たれた複数の火の魔法。
対する勇者カムイは聖殿の盾で防御するが、四方八方で起きた爆発になす術もなく飲み込まれた。
まっかく……この馬鹿は本当に魔法に弱い。
カムイの扱う聖殿の盾は絶対的な防御力を誇る反面、その効果は一方向のみに限定される。
今のように複数方向からの攻撃には微々たる効果しかない。
爆風が私の白銀の髪を撫で、それが収まる頃には煙の中に、ぷすぷすと所々が焦げた馬鹿が倒れていた。
大変、不本意ではあるが……現時点での私の婚約者だ。
「大丈夫ですかー?カムイさーん?」
治癒術師の女の子が倒れてるカムイに近寄る。
はぁ。リュートはファイアボールを下にくぐり抜けて近衛騎士を倒したと言うのに……。
そして恐らくは父上の事もあっさり倒し、正式な私の婚約者になった事だろう。
魔法のない世界で戦い育ったカムイと魔法を前提とした戦いをしてきたリュートを比べるのは酷だが、今の戦いで王対カムイの戦いは王の五連勝。
レーナが嘆きたくなるのも無理はなかった。
そもそも何故、王とカムイが戦っているか?
それは武闘祭最終決戦の少し後まで遡る。
王女レーナとの婚約に受かれるカムイを見て、何か面白くなかった王が、こう言い放ったのだ。
「娘が欲しければ儂を倒してからにするんだな!!」
その結果が今に至る。
「俺は……また、負けたのか」
治癒術により目覚めたカムイが、ガクリと膝をつく。
「本当、強いのは接近戦だけ。リュートにでも対魔法戦を教えて貰うべきでは?」
「うむ……。しかし、それはプライドが……。だが、この際……」
適当に言ったが、どうやら本人もその事で悩んでたようだ。
リュートの迷惑にならなければいいのだけど。
「フン。まだまだ儂もやれるものだな」
ちなみに父上は、近衛騎士よりも弱い。
カムイは近衛騎士の平均よりは強いが、魔法が大の苦手で父上は魔法が得意だ。
もしかしたら私でも勝てるのでは?
そう思える程に勇者カムイは魔法に弱い。
「王!ここに居られましたか」
一段落したゆるい空気の訓練場に、凛々しく芯の通った声が響く。
一瞬、リュートかとも思ったけど、違った。
「弟が生存していたと聞き急ぎ帰って来ました。今、アイツはどこに?」
近衛騎士団団長コガ=フェトム。
リュートの実の兄。
鎧には近衛の証である紋章が輝いている。
そういえば、リュートが死んだって教えてくれたのはコガだ。
帰って来たという事は実家にでも行っていたのか?
「おぉ、よく戻ってきたな、コガ。リュートなら聖殿へと送る為に後で城に呼んでいる。長い旅路で疲れただろう?休んでいれば来るさ」
「そうですか……。まったく、アイツはいつもいつも心配ばかりっ」
ふふ、しかめっ面だけど、なんだかんだ言って弟が心配なだけだな。私は彼が、どれだけ弟を大事にしてるか知っている。
そして、弟を思うコガに空気を読まない声が飛ぶ。
「コガ……近衛騎士団団長のコガ殿か!頼む、俺と勝負をしてくれ!」
……またか、この馬鹿は。
「お手合わせ、感謝するぞ、コガ殿」
「一応、近衛騎士団が逃げたと思われても困るからな。でも、いいのか?リュートだって俺には一度も勝てていないぞ?」
バカカムイの進言は意外にもあっさり通った。
コガにしても近衛騎士団のトップにまで上り詰める人間。決して日和った性格はしていない。それが原因だろう。
でも、近衛騎士の層は厚い。
カムイが勝った近衛騎士とは比べ物にならない力はコガは持っている。
そのコガ相手にどこまで戦える?勇者カムイ。
「生憎、俺もリュート殿には勝ったんでな!行くぞ!!」
実質、負けたような状況で何を言ってる!?
私とした事が思わず声に出してツッコミそうになる。
流石は馬鹿と言った所か。
「それは楽しみだな。トルネードセイバー!!」
走り寄るカムイ相手に距離が離れた状態でコガが剣を振る。
しかし、その距離は目視できない風が埋めつくし容易くカムイを吹き飛ばす。
早いっ。
ほとんど呼び動作無しでの魔法攻撃。
カムイが聖殿の盾を展開する間もなかったじゃない!?
「なっ……?だが、この程度で!」
「終わる訳ないだろ?ファイアボール!」
カムイが体制を整える前に襲いかかる無数の火玉。
避ける術があるはずもなくカムイは左手を前に突き出す。
「爆ぜろ!」
なんか……さっきも見たような。この光景。
火球は炸裂して辺りを煙で包む。
先程は、この煙が晴れた時、カムイはぷすぷすと焦げていた。
「呆気ないな……。おーい、生きてるかー?」
「近づいたぞ!コガ殿!」
だが、その場にいた皆の予想に反してカムイは煙の中から飛び出す。
「なんでっ!?」
驚きの余りに思わず声が出る。
ファイアボールの数も個々の威力も父上よりコガの方が勝っていたハズなのに!
「ふむ。儂は聖殿の盾を無効化する為に拡散して放ったが、コガは威力を集中する為に前面に収束させている。結果、完全にとは言えずとも聖殿の盾で防げたと言った所か」
横で父上が答えをくれる。
コガが聖殿の盾について熟知していなかったからこそ掴めたチャンス。
カムイは今まで見たことないような真剣な、そして楽しそうな顔でコガに斬りかかる。
~~っ!馬鹿のくせに!馬鹿のくせに!
悔しいのが顔に出てたのか父上が肩に手を乗せてニッカリ笑った。
「コガは近距離でも恐ろしく強いぞ?」
意気揚々と刀を肩に担ぐカムイ。
しかし、楽しそうな笑みを浮かべていたのはカムイだけではなかった。
「そう来なくっちゃなぁ!」
一合目、カムイの高速の剣を真っ向から受け止めた。
二合目、袈裟に斬る一撃を下に流す。
三合目、切り上げる太刀を上に弾く。
カムイとコガは互いに武器を上段へと構えた型になるが、弾かれたカムイと弾いたコガでは次の行動に移れる早さが違う。
これが、王宮剣術……!!
たった三太刀だったが、軽い感動すら覚えた。リュートのも、すごかったが、コガはより洗練されている。
だが、カムイとて前世界では最強の武士であり、勇者だ。
コガが確信を持って切り下ろした一撃は軽々と聖殿の盾に防がれた。
「これが、聖殿の盾……噂に違わぬ防御力だな」
「近づけばどうにかなると思ったが……甘かったっ!!」
言い終えるのと同時にカムイは刀を振り下ろし、コガは前転により避ける。
あの馬鹿勇者が近衛騎士団団長相手に押している。
その事実に驚きを隠せない。
近距離での魔法は僅かな発動の隙が命取りになる事もある為、使いにくい。
あの距離でのカムイは本当に強いのか……。
ただ父上が冷静なのが気になる。
試合はカムイがコガに突きを受け流された所だ。
「レーナ。見ておくと良い。アレがコガが近衛最強と呼ばれている原因だ」
突きを払い懐に入るコガ。そのまま右手を開き突き出すが当然、聖殿の盾に防がれる。
しかし、それこそがコガの狙いで試合の終わりだった。
「カムイ。君はどうにも能力に頼りすぎる節がある」
「そういうのは破ってから言って欲しいものだ」
その瞬間、コガが勝ちを確信したかのように唱えた。
「竜魔法、閻竜の戯れ」
「なんだとっ!?」
瞬く間にカムイは聖殿の盾事、薄暗い球体に閉じ込められる。
竜魔法……?何、それ……。
「手加減はするけど、少しの間は動けなくなるぞ」
「な、動けない、だと!?」
「時崩」
コガが最後にそう呟くとカムイは小さな呻き声を上げ、球体が消えると同時に膝から崩れて倒れた。
「何、何なの……」
発動までのラグもほとんどなく、発動時に生じる魔力波も感じれなかった。
あんな魔法、知らない。
「竜魔法。その名の通り竜族の扱う魔法だ。効果は様々だが、どれも儂らが使う物より遥かに強い」
「竜族って……なんで、そんなものをコガが!?」
「竜と契約した人間にも扱える。フェトム家は時間を操る閻竜と昔から契約してるのだ。騎士になったと同時に竜魔法を覚える」
それなら、リュートも騎士になればアレを使っていたのか?
そんな、どうでも良い疑問が頭を過る。
「しかし、カムイか。儂に負けるからどうかと思えばコガに竜魔法を使わせるか。強いか弱いか判断に困る奴だな」
父上は、髭を撫でながら困った顔をしている。
そしてさらに、父上を困らせる問題が王宮城に運び込まれて来た。
「王!大変です!勇者フェトムは、朝方南に向かいすでに出ていってと目撃者が!!すでに王都にはいないようです!!」
「ですから!リュートは私が聖殿へ連れて行きます!護衛なら聖者パーティーがいるでしょう!?」
「ならん!救国の剣王と傾国の魔女ならともかく、カムイは儂にも劣るではないか!!」
あぁ、もう!父上は頭が堅い!
カムイだけならともかくアウゼルもロザリーもいるのに!
端でカムイが膝を抱えて落ち込んでるが、気にしていられない。
「俺が行きます。人が来てやったのに、あの愚弟……一言言ってやらねば気がすみません」
「近衛騎士団長を大した理由もなく外に出せる訳がないだろう」
「しかし……!」
相手が勇者とは言え、コガには私情が多大に混じっている。
父上が許可を出さないのもわかる。
けど、私は安全さえあれば。
コガは理由さえあればいいなら話はつけれる。
「コガ。王女権限で貴方の近衛騎士の身分を一時的に剥奪する」
「なっ、王女!?」
「レーナ!理由もなしにまた……!」
「理由ならありますわ!」
この手なら父上も断る理由もないだろう。
私にもコガにも!
「臨時に私の騎士……そうね、王女騎士団を設立する。副団長はカムイとコガ。依って近衛騎士の身分は一時的に剥奪。理由は私の旅路の安全の為」
「!!……なるほど!」
「俺が……王女の騎士に?」
角に居たカムイも顔を上げる。
忠義を重んじる彼の性格なら断らない。
「当面の目的は勇者の補佐。まずは勇者に叱るべき場所での訓練を受けさせる為に保護。コガ、各地に散らばった勇者の行方に心当たりは?」
「ハッ!ここから南に元自宅があった者が近くの街に滞在してると思われます、隊長」
「よろしい。カムイ、ロザリーとアウゼルにも声を掛けて置いて。他にも数人見繕うわ」
「御意に」
そして最後に笑顔で王様に話しかける。
「よろしいですわね?王様。勇者のサポートは国の急務ですもの」
王様は驚いたような諦めたような呆れたような……微妙な表情で疲れたように声を絞り出した。
「……もういい。勝手にしてくれ。正し、絶対に無事に帰って来い!コガ、わかっているな?」
「この身に掛けましてもお守りします。
これで後は準備するだけだ。
頭の中に面子は浮かんでいる。
「プリンセス・ナイツ、設立です!」
王女視点が書いてて一番難しいっ!
そう思える話でした。
ちなみに、コガの名前の由来はリュートが「竜」と言う事で「虎牙」と当て字で決めた感じです。
この世界に漢字という概念はないので作者の頭のなかでの話ですが(笑)
ちなみに魔王さんが使ってるのも竜魔法です。そっちの話はまたそのうち。
また次話もよろしくお願いしますm(__)m