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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
三章 仲間を探して
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五十三話 100に手紙


リュートの家を出て数日、状況がわからないので戻るわけにも行かず、僕らは東へと進んでたんだ。


続く緊張からかメリアが体調を崩し、一先ず近くの街の宿でも借りようと地図を広げたのですが、現在位置がはっきりとはわからず、どうしようかと思っていた所、地図に乗ってない小さな村を見つけた。


今はそこにお世話になってるから心配しないで。

ちょっと今のメリアを動かすのは難しいから帰るのはしばらく後になりそうだよ。


お年寄りしかいない小さな町だけど、聞いてみたら歩いて行ける距離に少し大きな街もあるみたいなんだ。


どうか、クレアもリュートも無事でいてくれると嬉しいよ。




クロウ












「で、なんで昨日は見せてくれなかったんだ?これ」

「昨日見せたらリュート、今日行っちゃったでしょ」


今日も商売を終え、帰ったらクレアが一枚の手紙を見せてくれた。


ちなみに生魚は昨日の時点でほとんど売り切った為、今日はミナの料理を数品売る手伝いをしてただけだ。

当のミナは奥で洗い物をしてる。


「しかしクレアなら手掛かりくらいもってるかと思ったけど、居場所がわかるとはな」


無事なのが別れば儲け物だくらいに思っていただけに収穫は大きい。


確かにメリアは身重……あまり動かさない方がいいか。


「でも、ちょっと気になるのよね。地図にも乗ってないお年寄りばかりの町って」

「ん、たまにあるんだよ。余り気にしないでいい」


そう?とクレアは気にしてなさそうに地図を持って来てくれる。


多分、余り良い理由でできた町じゃない。

知らないなら、知らない方が良いだろう。


「でも、町の場所がわからないわよね。東にある街って言ったらコレかな?この近くにあるのかなぁ」

「歩いていける距離なら行ってみて探せばいいんじゃないの?」


台所から濡れた手をパタパタさせてミナが椅子につく。

話は聞いていたみたいだ。


だけど、町ができた理由を考えれば大体どこら辺にあるかは予想できる。


「ここから東、数日で行ける大きな街なら多分、ここだな。そうなると、クロウ達が居る町は多分……この辺り」


地図上の街より少し南西に位置する何もない場所を指で丸をつける。正確な場所はミナの言う通り行ってみるしかないが、すぐ見つかるだろう。


「この辺りって……川からも少し離れてるし山も森もない平原よ?」

「平原の方が住みやすいんじゃないの?」

「住むだけなら、そうよ。少なくても、大きな街は、そういった場所にある事も多いわ。けど、暮らすなら水場が近くて農業がしやすい川辺か、動物や木の実が多い森の方がいいの」


クレアの言い分は正しい。ミナの質問に対しても、ほぼ完璧な返答だ。

ただ、それでも例外はある。


水を汲むことはできても、水害に対応できない。

木の実を取る事はできても、狩猟はできない。


オレの予想が正しければ、この村には……本当に働けなくなった老人しかいないだろうから。

テーブルではクレアがミナに、この世界の事を教えている。

旅をしているオレよりもクレアの方が詳しい事も多いだろう。


「ちょっと馬車小屋に行ってくるよ」


何にしてもクレアの予想通り、居場所がわかったなら明日にでも旅立つ。ケルロンを預かってくれた所に話をつけて来た方が良い。


オレは二人の返事も聞かずに玄関の戸を開いた。


……気晴らしにもなるしな。


旅をしていれば、自分ではどうにもならない嫌な事なんて幾らでもある。

むしろ、そこを割りきれない自分は商人として甘い。


これから行く村。

ケルロンなら二日もあればつくかもしれない村。


そこは所謂……世捨て人の集落だろう。


「勇者様、どうかなさいましたか?」


馬車小屋の前には店主が居て心配そうに話しかけて来る。


「明日、街を出ようと思います。だから料金払っちゃおうかと思いまして」


落ち込んでても仕方ない、よな。

商売の基本は顔。いつも笑ってる必要はないが、ヘコンでいるのは論外だ。


「そうですか。いや、魔獣と聞いて驚きましたが下手な馬車馬より大人しくて、いい子でしたよ」

「ミナが居ないとどうなるか少し心配でしたが、それなら安心して、どこへでも預けれそうですね」


とは言っても預かってくれる場所を探すのは、これからも大変そうだ。

ここの店主は偶然、先週は王都にいたらしい。

だからオレが勇者だと知っていてケルロンを預かってくれたのだ。


「ありがとうございます。また、ここに来た時はお世話になると思います。では、また明日」

「はい、お待ちしております」


よし、これなら大丈夫だ。

帰って心配をかける事はない。


来るときよりは軽い足取りで、クレアの家に帰る。

そこには……仏頂面の魔女が玄関扉の横に立っていた。


「おかえり。出てった時とは比べて機嫌良さそうね?」

「悪かった。もう大丈夫だよ」


うん、やっぱり出る時の態度は良くなかった。これからは気をつけよう。


そう思いミナの頭に手を乗せる。


「触るな!!」


瞬間、何が起きたかわからない。

ミナはオレの手を払い、次いで胸の辺りを殴ってきた。


身体強化をした訳でもない拳は、ぽすんっ!と小さな音を鳴らすだけで大した痛くもなく止まる。


けど、それは、それだけミナは本気で殴ったからだろう。


「リュートが何かに落ち込んでる。そんな事、誰でもわかる。クレアさんだって心配してた」

「……ごめん」

「だから、謝るなっ。笑うなっ。……心配くらいさせて」


……どうしろと。

とりあえず、ミナの頭に再度、手をのせてみる。

今度は振り払われる事はなかった。


「リュートが出ていって……少し考えたらリュートが落ち込んでる理由がわかった」


殴って来た手で服を掴みながらミナが話す。


「余裕のない家庭が、どうするか。誰を最初に切るか。……そういう、お話でしょ?」

「……よくわかったな」

「元の世界でも昔はあったらしいから。確かに自分ではどうしようもないけど、割りきれないよね」


どこの世界でも考える事は同じか。


「私は実感がないからリュートが、どんな世界を見てどんな風に感じてるかわかんない。けど、隠すな」

「わかったわかった。隠して悪かった」


若干暴走気味な気がしないでもないが、ミナの言ってる事はほとんど合っている。


確かに……旅のパートナーに、こんな事隠しても仕方ないか。


「よろしい。ほら、クレアさんが、夕御飯作って、待ってるよ」

「本当にミナは食べ物の事、ばっかりだな」

「~!!だから私を食べてばかりいるみたいに言うな!」



オレとミナは、次の日に、また旅立つ事になる。


クロウ達がいるだろう村へ。


ただ、一つだけ気になる事があった。




村にある食料は恐らくギリギリか、それ以下。冬を越えれない人も多いだろう。

それなのに、クロウを受け入れた理由は多分彼の薬学が必要だったからだ。

だからこそ、そんな村にクロウと、その妻メリアは受け入れられた。


……なら、ランディとコレットも、そこにいるだろうか?


オレは、そんな疑問に答えを出せないでいた。




















「隊長!昼頃に、魔獣に引かれた馬車が東に走って行くのを見たと証言がありました!」

「魔獣……。恐らくは、それだろうな」


リュートとミナが旅立った、その日の夕方。

街には今しがた到着したばかりの騎士達が聞き込みをしていた。


本来なら近衛騎士団団長である男は騎士たちを引き連れて唸る。


「まったく……。人が父と母に報告をしに帰ってる隙に王都に来て、急いで王都に戻れば旅立った後……やっと追いついたと思えば、また入れ違いか」


ちなみに報告と言うのは、死亡報告だ。

紛いなりにも弟が死んだのだから、直接自分が実家に帰っていた。

しかし、当の弟はのうのうと生きており王都で武闘祭なんかに参加していたのだから、話にならない。


「コガ隊長、それで……どう伝えましょう?」

「今は隊長ではないよ。そうだな、それも頭の痛い問題だな」


近衛騎士団だったコガの鎧に付いてる紋章は今は近衛のソレではない。

そして彼は今の部隊の隊長でもなかった。


「とりあえず、俺から伝えとくよ。明日、早朝には出立になるかもしれないから覚悟しとけ」


休む間もないですね……。と騎士は項垂れる。

実際、移動と言うのは、かなりの体力を使うのだ。



けれど、リュートが扱う馬車はケルベロスが引いていると聞く。

少しくらい無茶をしなければ、馬では追い付けないだろう。況してや、こちらは大人数での行軍なのだ。



「逃げ切れると思うなよ、リュート」



意気消沈する騎士達の中、副隊長である彼だけが、足取りを強く、隊長と、もう一人の副隊長に報告へと行った。





忘れてる方もいるかもしれないので、追記するとコガはリュートの実兄です。

近衛騎士団の団長やってます。




話が少しシリアス方面に向かってる気がしますが、実際にはそんなシリアス報告にはまだまだ行かないと思います。


とりあえず次話は本編ではなく、少しだけ日にちを遡って、王都の、あの人の旅立ちの話になります。


こっちは早めに投稿して、本編をいつも通りの感覚で投稿しようなど企んでますが、どうなるか……。



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