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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
三章 仲間を探して
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五十一話 1の手料理

新年初更新になります。

去年4月から始めた、この小説ですが、読んでくれてる皆様のお陰で細々と続き年を越すことができました。


本当にありがとうございます。



変わらずゆっくりとですが、更新していこうと思いますので、よろしくお願い致します。


「ここが……自由市……」


行き交う人々。王都が近い事もあるせいか、この街も活気がある。


この中からリュートを探す。

そう考えると少し嫌になる。

元々、人混みは好きじゃない。



朝、目を覚ますと隣で寝てたハズのリュートは、居なかった。


とりあえず部屋のドアを開けてみると美味しそうな朝御飯と……笑顔で怒ってるクレアさんが待っていた。



うぅ……。勝手にリュートの寝床に忍び込んだのは私が悪いけど朝から正座でお説教はきつかったなぁ。



怪我をしてた時よりも容赦がなくなってる。

……嬉しくもあるんだけどね。



まぁ、今はそれはいいや。


とりあえずクレアさんが起きた時にはリュートはもう居なかったらしい。


けど、多分ここで露店を出してるんじゃない?って言われたから探しに来たけど……。


「いらっしゃい!奥さん、どうですか?昨日、王都で捕れたのばかりで新鮮ですよ!」


……居た。

なんか入り口のすぐ傍のすごく目立つ所に居た。


「何やってるの?」

「いらっしゃ……って、ミナか。見ればわかるだろ?魚売ってるんだよ」

「こういうのって普通、業者に纏めて売るんじゃないの?」

「そりゃ飲食店に買って貰ったりはするけど、市場で自分で売るのが一番儲かるからな」


時代の差なのか世界の差なのかはよくわからないけど、私の知ってる物流とは随分違うみたいだ。


それにしても……。


「これ、王都を出る日に買ったお魚?」

「あぁ。ミナがいるお陰で冷やすのも凍らすのも楽だからな」

「でも全部じゃないわね」

「冷蔵保存してた奴だけだな。冷凍したのは、ミナが維持してくれたら、もっと日保ちするから遠くで売るよ」


海から離れたら魚介類の値段は当然上がる。

科学が余り発達してないこの世界なら、尚の事だろう。



だから、王都を旅立つ日の早朝に私を連れて港まで行ったのか。


有り金のほとんどを、お魚に注ぎ込むなんて何事かと思ったけど……。


「でも、なんでお魚?塩とかの方が楽なんじゃない?」

「楽だよ。楽だから同業者も沢山いる。それに比べて生魚は魔法が使えないとすぐ腐るからな」


そう言われてリュートからお魚を受け取った女の人が代わりに銀貨を一枚渡している。

渡したお魚は三匹。


「高くない!?」


仕入値の三倍ほどの値段だ。

たった一日運んだだけなのに。


「これでも相場よりは安いよ。今のも三匹買ってくれたから少しおまけしたし」


冷蔵庫ってすごいんだな。今更ながら、そんな事を実感する。


「でも魔法を使える人って、そんなに少ないの?」

「いや、半分以上の人は使えるよ。だけど戦闘に使える人となると、その半分になる。そして、そのレベルなら引く手は多いからリスクも高くて危険な行商に手を出す人は少ないよ」


なるほど、ね。

魔法の有無一つでも世界って結構変わるんだなぁ。


私の魔法……戦闘だけじゃなくって、色んな所でリュートの役に立てるんだな。


今までも、火を灯したり戦闘外の事も少しはしたけど、今回ほど日常で役に立ったのは始めてだった。


いつも殴ったりしてるけど、やっぱり女の子として役に立ちたいっていうのはあるし、戦闘は、それとは程遠い。


と、そこまで考えてから気づく。

確か私にも一応、女の子らしくて、それでいてリュートの役に立てる事があったハズ。


うん、ある。


「ねぇ、リュート。お腹空いてない?」

「もう昼過ぎだしなぁ。って言っても、こんな一等地を離れるのも勿体無いし……悪いけど何か買ってきて貰えるか?」

「あ、えっとね、それなら……私が作ってもいいかな?」
















指先に魔力を集中する。

そして、風に変換。


魔法による即席の不可視の刃。


長さは……10cmくらいかな。


そう意識すると魔力はより収束して短く切れ味の良いナイフが出来上がる。


えーと、トマトにポテトに黄色いピーマン……。


この世界には元の世界ではまったく見たこともない野菜も多いけど、似たような野菜も多い。

似たような野菜は味も似てる傾向にあるから今日使うのはそういう野菜。


次々と風のナイフで細かく切っていく。

お鍋には魔法で精製したお水。


フライパンの下も魔法で顕現した火。


「なんかもう、なんでもありですね、ミナさん」

「なによ、悪い?」


リュートが少し呆れ気味に言ってくる。

一応、この世界でも私ほど魔法を好き勝手に使える人は、ほとんどいないらしい。


切った野菜は軽く炒めて、お鍋の中に。


「鍋でかすぎないか?」

「沢山一気に作った方が美味しいのよ。自分で冷凍するから良いでしょ?」

「ま、いいけど……やっぱり馬車、もう少し広いのに買い替えたいなぁ」


確かに今の馬車は少し狭い。

これ以上荷物を積む事になるなら寝るスペースも危うい。


けど、食料はどうせ積まなきゃいけないから、リュートも何も言わないんだろう。


それにもう野菜は全部鍋に投入されてる。

後は塩とコショウで味を整えながら煮込むだけ。


鍋の下に強めの火を出し、蓋を魔法で固定したら後は待つだけ。


「一応、朝早くからここにいるから空腹ではあるんだけど」

「三十分くらいでできるわよ。少し待ってて」


それくらいなら。とリュートはまたお魚売りに戻る。

無理矢理蓋を固定して強度を上げて簡易圧力鍋にしたから、そんなに時間はかからないハズ。


……こんな良い場所取れるくらい朝早くからお店出してたの?


ふと思い付いたけど、そんな時間に人が歩いてるハズもない。

場所は確かに良いけど流石に非効率的な気がする。


うーん、リュートの考えてる事はよくわからない。


ぼーっとリュートがお客さんと話してるのを見てる。笑顔で結構楽しそうだ。


リュートは商人に向いてるのかなー。

位置的に目立つのもあるだろうけど、心なしか回りのお店よりもリュートの回りにいる人は多い気がする。


人を惹き付けるのも商才なのかな。

……って、よく見たら私も結構見られてない?


珍しい黒髪に魔法使いらしい恰好。

確かに目立つ容姿だ。

けど、ここは行商人や冒険者まで様々な人が集まる大きな市場。それだけで、ここまで人の視線が集中するのかな?

というか、人々の視線は少しだけ横にずれてる。


自分の横を見ると、そこにはぐつぐつと煮える鍋。


そういえば、この世界では煮るって調理法は珍しいんだっけ。


火は基本的に魔力を使って起こす。魔法にしろ魔具の補助を借りるにしても、使ってる間は魔力を消耗し続ける。

数十分の間、火を維持するのは難しいとリュートが言ってたのを思い出す。


っと、そろそろいいかな?蓋の固定を解除っと。


少しだけ飲んでみると、多少味は薄いけど美味しい。

火はまだ付けっぱなしにして置こう。そうしたら次食べる時は、もっと美味しいハズ。


「リュート、はい」

「できたのか?」

「ん」


丁度、お客さんが途切れたらしくリュートはすぐにスープの入ったお椀を受け取って、それを口に運ぶ。


「暖たまるなー。美味しいよ」

「そっか」


正直、人に手料理を食べて貰うのは緊張する。

相手がリュートなら尚更だ。


そのせいで私は素っ気ない返事を返したけど、リュートは機嫌良さそうにスープに口を付けている。


ま、リュートだもんね。


うん。美味しくできた。料理はやっぱり楽しい。


「あら、お魚屋さん、美味しそうね、それ」

「いらっしゃいー……って、これですか?」


お客さんに素早く反応するリュート。だけど、お客さんが見てるのはお魚ではなくて、リュートが持っているお椀。


「お幾らかしら?」


思わず顔を見合わせるリュートと私。


「えっと、どうする?」

「別に……いっぱいあるしいいけど」

「値段は?」


って、私が決めるの?

掛かった材料費と作った人数分を大雑把に計算する。


元の世界では料理の売価は原価の三倍くらいだっけ?

だから……。


「一人分、銅貨十二枚くらい?」


かなり適当だけど。


「あら、安いわね。うちには大飯ぐらいの旦那と息子がいてねぇ。五人前くらい頂こうかしら」


そう言って私に銀貨を一枚渡して来る。


「え!?ちょっと、リュート!どうしよう、これ!」

「落ち着け」


パニックになる私。

対して冷静にお釣りを渡すリュート。


なんかムカつく。


でも、そんな私の心境とは関係なく今のやり取りを見てたお客さんが、話かけてくる。


「へぇ、それも売って貰えるんだ?」

「ふゃい!?」

「そうだなぁ。二人分貰えるかい?」

「へ、あ、はいっ」


びっくりした。思わず変な声出た。


リュートが笑ってる。

後で燃やす!














「結局、無くなっちゃった」

「随分売れたな。銅貨十二枚なら確かに安いし作る手間考えたら買いたくなるのもわかるが」


帰り道、手に持った大鍋は見事にからっぽになっていた。


スーパーのお惣菜みたいな扱いなのかな。

私は余り買った事ないけど。高いし。


「でも、びっくりした。売れるんだね、料理」

「売ってる方は珍しいけどな。シャルの実みたいな果物が普通に売ってるんだし、売れない事はないだろ」

「そっか」


持ってる財布が重い。中には数枚の銀貨と大量の銅貨が入ってる。

今度、両替しないとな。


「また料理作ってもいいかな?」


そう聞くとリュートは、あー……。と少しいい難そうにした後、真面目な表情になる。


「今日帰ったらクレアに話を聞いてみる。ランディ達の居場所がわかったら、すぐに出ようかと思う」

「……あんまり、ゆっくりは、できないもんね」

「あぁ、悪い。けどミナは、この街に残っても……」

「うるさい。いいのよ、私がリュートと一緒にいるって決めたんだから」


少し寂しいけど……これくらいは覚悟できてる。


ポンと頭の上に手が乗せられた。

お返しに脇腹を軽くグーで殴る。


「帰るか」

「うん」





「旅立ちって、やっぱり寂しいからさ、ミナが居るってのは安心する」


「……バーカ」




私はさっきより少しだけ強くリュートの脇腹を叩いた。




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