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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
三章 仲間を探して
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四十九話 魔界の陰謀





天使は魔人の天敵。

個々の強さは魔人が上回るだろうけど、天使達は群れて襲いかかってくる。


基本的に自分勝手に行動する魔人にとって複数の天使に襲われては逃げる事も難しい。


そして何より……天使は魔人を察知する能力に長けている。

丸一日歩くような距離から補足できるみたいだ。



だから、僕はルーシーの言葉を疑ったりはしなかった。

けど、間違いなく……油断していた。


ここまで近くに来たら僕にも同族の気配はわかる。

特に、これほど強い魔力を持っていれば。



「それに、随分覚えのある魔力だなぁ」


ガチガチに近接能力に特化したタイプだ。

このタイプの魔人とは何度も戦った事があるけど、正直強い魔人は少ない。


みんな大なり小なり肉体強化はしてるから、それを極めるより攻撃魔法や防御魔法を磨いた方が強くなれるのが理由だけど……。


この魔力量を全部、強化に回してるとしたら話は別。


「ていうか、これ、四天王の魔人だろうな」


厄介だ。僕の方が強いけど、油断はできない。

ルーシーについてきて貰えば良かったかもしれない。



とは思うものの、すでに手遅れ。


四天王ガルフスと呼ばれる魔人は、もう視認できる位置まで来ている。


……そういえば、四天王のイライザがやられたって話があったけど、今は三人しかいないのかな?


なんて無駄な事を考えているうちにガルフスはハッキリと見える位置まで来ている。



どんな用件かはわからないけど、覚悟はしたほうがいいかなぁ。















「久しぶりだな。魔王」



目の前に来たガルフスは、いきなり襲いかかる事はなくそう言う。

ちょっと前に気付いたけど少し後ろに人間の男もいた。

あまり魔力を感じない所を見ると魔法使いでもなさそうだけど……なんでガルフスと一緒に?


「うん、久しぶり。その様子だと魔王の地位を掛けて戦いに来た訳じゃなさそうだね」


ガルフスの腕はただでさえ人間の胴体ほどの太さがあるけど魔力を全開にした戦闘状態の彼はもう一回り巨大化する。


上級魔法にも匹敵する威力を持つ拳がガルフスの最大の武器だけど、今はソレを使う様子もない。

彼自信も余裕そうにニタニタ笑っているし僕に喧嘩を売りに来たわけじゃなさそうだ。


「あぁ、今日は警告と嫌がらせに来ただけだ」


ガルフスは嫌な笑いを浮かべながら続ける。


「俺たちは、アンタを魔王とは認めない」


僕は、その言葉を少しの間、理解する事ができなかった。

魔族の間では力こそが全てで、一番強い者が王となる。


彼自身が僕を認めないなら、わかるけど彼の言い分ではまるで、魔界全体の意思のようだ。


「フン、もっと簡単に言ってやる。元魔王のケーファー。アンタより強い奴がいるんだよ」

「なんだって……?」


僕だって自分の力に自惚れるつもりはない。現に勇者の一人に圧倒され逃げ出している。

けど魔界の強者はことごとく倒した。


だからこその魔王の称号。


それなのに、戦いもしないで僕より強い魔人がいると聞いても、簡単には信じられない。


「って、まさか、そこの人間?」


正直、余り気にしてなかったけど、フードを目深に被った彼は怪しすぎる。

……男の人だよね?


「無関係、とは言えないがコイツじゃない」


だよね。幾ら切羽詰まっても人間を王に仕立てるとは考えずらい。


本人は一言も聞かず、見えている口は笑っている。

なんか怖い。


「俺たちは魔王の指揮の元、人間達に戦争を吹っ掛ける。魔界に来い、ケーファー」

「…………嫌だ」


戦争が始まれば人との共存なんて夢の又夢だろう。

けど、魔界がルーシーを受け入れるとも思えない!


そして……。


「今代の魔王は、この僕、ケーファーだ!戦争なんてさせやしない!!」


僕は、二枚の翼を大きく広げ魔力を解放する。

争い事は余り好きじゃないし、訳もわからないけど……目の前のガルフスと人間を野放しにしちゃいけないと本能が叫んでいる。


「そうこなくっちゃ、面白れぇ!!」


ズドォン!!と爆音を響かせガルフスが地面を踏みしめる。

その四肢は先ほどよりもさらに巨大化していてアンバランスだ。



ガルフスは近距離戦では無類の強さを発揮する身体強化に全てを注いだタイプ。

僕は距離を置こうと翼を羽ばたかせ飛ぼうとするが、それを人間が静止する。


「あぁ、周りを良く見て」


罠かとも思ったけどガルフスも不意打ちしてくる気配はない。

一応、警戒はしつつも僕は辺りに意識を向ける。


何か動いてる?

いや、これは……。


「魔獣!?」


魔獣なら多大な魔力を持っているから感知できないハズがない。

でも現に僕は魔獣に囲まれているようで、魔力も感じない。


「アハハ。君が空から安全に攻撃するつもりなら……コイツらが街を襲うよ?」

「なっ……!?」


街は無関係だ。そう言った所で意味なんてないだろう。

ていうか、なんで魔獣が人間に従っているのさ!!


「言っただろう?警告と……嫌がらせに来たってよぉ!!」


ガルフスは数Mの距離をたった一歩で詰め、巨大な拳を振りかぶる。

ただ僕だって彼の強さは知っているし、そうやすやすと当たってはやらない。


「野郎、逃げんな!!」

「くっ……火竜顕現!!」


大きく翼を羽ばたかせバックステップ。

そして人間相手に使えばオーバーキル必至の魔法。


体中から炎が溢れでて形成されたのは燃え盛る竜の頭部。

それはガルフスに向かい一直線に突っ込んで行く。


「ウオオオオオオ!!」


咆哮をあげ両の拳をガルフスは竜頭に叩きつける。

竜頭は弾けガルフスは炎の竜巻に包み込まれる。


けど……ガルフスの魔力で強化された体は攻撃力は元より防御力も高い。

これくらいでやれるとは思わない!


「火竜……」

「遅えぇ!!」


炎の竜巻の中から巨体が飛び出てくる。

同時に降り降ろされる拳を僕は両腕で受け止め後ろに吹っ飛ばされる……けど!


「顕現!!」


お返しとばかりに先ほどと同じ魔法を吹っ飛ばされながらも放つ。


ガルフスも、これを迎え撃つ事はできず、直撃するが、吹き荒れる炎の竜巻から、何事もなかったかのように歩いて出てきた。


「へへ、流石に痛いが……アンタの方が深刻そうだな?」

「くっ……。」


攻撃を防いだ両腕が痛む。


空から攻撃すればガルフスはただの的だけど、それをしたら町が襲われる。

かと言って、このまま戦っても……。


「逃げる?ケーファー」

「って、びっくりした!?」


悩んでいたら、いつのまにか僕の隣にはルーシーが立っていた。


傍には転移魔法セラフィック・ゲート。

これを使って来たんだろう。


いきなりの天使という天敵の登場にガルフスも固まっている。


でも……助かった。


「ううん、ごめん。今回は逃げれないんだ。ルーシー、少しだけ時間を稼いでくれないかな?」


端から見たら無茶なお願い。

か弱い女の子を盾にするような最低の言葉。


でも彼女は笑ってこう言ってくれる。


「戦うの?珍しいね、うん、いいよ!」


そして、ガルフスの前に立ち塞がる。


「いいの?ガルフス」

「フン、一瞬で叩き潰してやる。身の程知らずの魔王様に……いや、元魔王に後悔させてやらないとな」


これで、また町を襲うという話になったら困ったけど、どうやら受けてくれるようだ。


確かにガルフスなら並みの天使の一人ならすぐに倒せるだろう。

そしてルーシーも、そこまで強い天使じゃない。


けれど……。


「いつまで避けれるかな?」

「避けないもん!」


ガルフスが巨拳を降り降ろすとルーシーも手に小型のセラフィック・ゲートを出現させる。


次の瞬間、彼女の手に握られていたのは大きな盾。

それはガルフスの拳を正面から受け止めた。


彼女自身は確かに、そこまで強くない。

しかし、彼女の扱う武具は、どれも強力無比な物だった。


「まさか、戦女神の盾?数年前に天界で起きた混乱で行方不明だったんじゃねぇのか!?」

「行方不明っていうか……ルーシーが嫁入り道具として貰ってきたんだよ?」


ルーシーの答えにガルフスがあんぐりと口をあける。

これは僕もたまに頭が痛くなる問題なんだけど、ルーシーは数年前に僕と駆け落ちする時に、天界の武具を多数、嫁入り道具くらい貰っていいよね。と言って盗んで……いやいや、借りて来ている。


次にルーシーの手の中に現れたのは古い本。


魔法を記録する魔導書。


一度、魔法を記録させたら術者の技量も関係なく詠唱の必要もなく魔法を呼び出せる。


その本は記録者であり、使い手だった少女の名前を取り、こう呼ばれている。



アリスの魔導書。



勢い良く本のページがバラバラと捲られ、ある所で静止する。


魔法の発動条件は二つ。


多大な魔力を注ぎ込む事と、魔法の名前を唱える事。


「アイシクルバインド!」

「ぬ……おおお!?」


突如、ガルフスの体が氷に包まれていく。

並み以下の魔族なら、凍死はせずとも、氷に封印される程の魔法だ。


「この程度で俺の動きを封じたつもりかあぁ!!」


ガルフスを覆う氷がひび割れる。

アリスの魔導書は、通常よりも数倍の魔力を消費する為、ルーシーには連発できない。


「ルーシー、ありがとう!後は任せて。雷竜の嘆き!!」

「なっ、お前、自分の女ごと……!?」


任せて。と言った直後にルーシーとガルフスを無数の雷が襲う。

ケーファーが恋人を自分の魔法で攻撃するなんてありえないと思い込んでいたガルフスは、ルーシーが近くにいる事で油断していた為、迎撃が間に合うハズもない。


そして次に目にしたのは、雷の豪雨の中、平気な顔で下がって行くルーシーの姿だった。


「天使に雷は効かないのね!」


ルーシーは楽しそうにそう言ってケーファーの後ろまで下がって行った。



「ガルフス、終わりだよ」


僕の手の中にあるのは小さなナイフのような形をした魔力。

ルーシーが稼いでくれた時間で作り上げた魔法。


それを上から斜めに降り降ろす。


「古竜の咆撃」


僕が振り下ろした小さなナイフの軌跡そのままに大地が切断される。

それは距離を無視して遥か遠くに見える山にすら亀裂を入れ一呼吸置いて……爆発した。



「グ……あ、うおおおお!?」



斬った軌跡の途中には当然ガルフスも含まれており、強靭なその体に一筋の真っ赤な亀裂が走っている。

ていうか、正直、切断できなかったのが予想外だ。それだけ肉体強化をすればアレに耐えれるんだろう?



「ガルフス!何やってるんだよ!!」



傍らに居たフードの男が初めて狼狽した様子を見せる。

魔力を余り感じないトコからも彼はそんなに強くはないんだろう。


「う、うるせぇ……!くっそ、あの小娘がまさか神器級の武具を持ち出してくるとは……」

「もういい!こんなトコでやられる訳にはいかないっ!逃げるよ!」


フードの彼が、そう言うと先程まで距離をとって囲んで来ていた魔獣が僕に襲いかかってくる……けど、何か遅い?


「風竜の息吹」


両サイドから飛び掛ってきたガルーダを風の剣で難なく切り落とす。

本来なら翼を用いる事によって僕のように高い移動能力を有する固体のハズだけど、その動きは野生動物のソレを大して変わらない。

けど、今はそんな事気にしてもいられないか。


「逃がすと思ってるの?」


今、ここで、ガルフスとフードの男を逃がすと後々非常に厄介な事になりそうだ。

フードの男は人間。早さには限界がある。ガルフスも優れた身体能力を持っているけど、それでも僕より早くはない。翼を持つ魔人に速さで勝てるのなんて、最上位の天使くらいだろう。


「そうだね。君の事は聞いてる。だから、どうすれば君が追ってこないかも、知ってる」

「……?まさか!!」


フードの男がにやりと笑って、声を張り上げる。


「行ってこい!魔獣達、町を襲うんだ!!」


途端動き出す当たりの影。そして、影の一つが彼の元に高速で近寄り彼はそれに跨った。

彼の傍に来たのは漆黒の様な巨大な馬に乗った騎士。デュラハン。


彼はデュラハンの馬に跨り騎士の前に座っている。これを倒すとなると少し時間がかかるだろう。


「じゃぁね。追いかけて来たかったら来てもいいけど……町がどうなっても知らないよ?ガルフスも行くよ!!」


彼とガルフスはそういって走り出す。その拍子にフードが取れて見えた後ろ姿の髪の色は……緑。


「まさか……勇者!?」


魔物を操ってるように見えるのは勇者の能力。そう考えれば納得もいくけど、なんで勇者が魔人と手を組んでるんだよ!!


「あぁ、でも考えてる時間なんてない!急いで戻ろう!」

「うん!!」


ルーシーのセラフィック・ゲートは使うのに簡単な条件がある。

なんで、あの町で使えるようにしておかなかったんだ、僕は!!


「ケーファー。急いで帰るけど、多分、大丈夫だと思う」

「……?」


ルーシーはにっこり笑ってスピードを上げる。

僕は頭に疑問符を浮かべつつも彼女に追いつこうと大きく翼を羽ばたかせて滑空していった。




















「よう、遅かったな。天使の姉ちゃん」

「あはは、みんな、ありがとー!」


町の入り口についた僕が見たのは動かなくなった無数の魔物と武装した十数人の男性……数人は見覚えがある。この町が雇った傭兵の人達だ。


「あのね、ケーファー。ケーファーのところに行く前に、みんなに魔物がいっぱい来てるから一緒に戦ってってお願いしたの」


ルーシーは僕に笑顔で話しかける。

そしてルーシーの後ろにいる、この戦いで指揮を執っているだろう人が僕の目の前に来た。


「魔人。アンタを信用した訳じゃない。けど、俺達は、この町に雇われたからには、この町を守る。だが、敵の数が多すぎる。頼む、手伝ってくれ」


傭兵の人は決して頭を下げはしないが、その言葉は僕を頼りにしてくれていた。

魔獣の先頭集団は鎮圧していれど、まだまだ魔獣の数は多い。何故か動きは少し鈍いけど、あの男はかなりの数の魔獣を動員していたようで、たった十数人の人間で戦うのは辛いだろう。


しかも、傭兵は数人。後は町の腕に覚えのある男の人だと思う。


「うん。僕の方からもお願いする。一緒にこの町を守ろう!」


そう言うと傭兵の彼は、少しだけ笑って、僕の肩を叩いてすれ違いざまにこう言った。


「ありがとな。ここには、妹も連れてきてるんだ。絶対に魔獣を町に入れさせたりはしない」


自分の士気が高揚してるのがわかる。どうやら僕は頼られてすごく嬉しいらしい。

こうして、僕と人間との始めての共同戦が始まった。




よくよく見てみたら次で50話。

それにしても最近、投稿感覚が伸びすぎてる気がする。


もうちょっと早く投稿できるように……って毎回言ってる気がします;;




さて、1話王都の人々の話も混ぜようかとも思いましたけど、もう少し後にして本編に戻ろうかと思います。


やっと王都から出てまともな旅らしくなってきたので、リュートの商人としての暮らしを書いたりミナがリュート相手に八つ当たりしたり、甘えたりしつつ、ストーリーを進めていく感じになるかなー、と予想。


書いてみないと自分でもわからないってどうなんだろうorz



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