四十八話 魔王の陰謀
お久しぶりです。
少しのんびりしてたらいつの間にか1ヶ月ほど過ぎていました。驚きです。
流石に寒くなってきましたね……(涙)
さて1ヶ月ぶりの更新なのに本編じゃありません。久しぶりの登場の魔王様です。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
そこでは至る所で木々が燃えていた。
凡そ人族では近寄る事も叶わないだろう。
さらに最悪な事に其所は王国でも最も南……辺境の山であった。
魔族の支配する領域に最も近きその山に山火事に対応できるだけの人がいるハズもない。
そして炎の中心には燃えさかる体を持つ獣と黒き翼の魔人が対峙していた。
「サラマンダー……なんで魔界の火山にしか棲息してないハズなのにいるんだろう?」
黒い翼の魔人……今代の魔王ケーファーは、不思議そうに呟く。
サラマンダーは魔界のとある火山にしか棲息していない。その為、人類にはほとんど認知されていない魔獣である。魔界で生まれ魔界で育ったケーファーには、少し珍しいくらいの感覚しかないが。
「ま、コイツが居たんじゃ傭兵団が壊滅したのも当然かな」
人は炎に弱い。多少の冷気や打撃には耐えれるけど、ちょっとした炎でも火傷をしてしまう。
でも……サラマンダー程度の炎は僕には効かない。
「ギャルルルル!!」
突如サラマンダーが雄叫びを上げケーファーに攻撃を仕掛ける。
中距離から放つパンチ。普通なら届くはずがないソレは、まるで腕が伸びたかのように炎の弾丸を放つ。
「おっと!!」
ちょっと不意をつかれたけど避けれない程じゃない。
適当に撒き散らした炎ならともかく指向性を持った攻撃は流石に熱いんだ。
「風竜の息吹」
僕の手の中に不可視の風が渦巻き刃となる。
普段なら魔獣に関してはスルーだけど今回は討伐が目的だ。
「ギャル!!」
ドコンッ!!と鈍い音が響き炎のパンチが再び遅いかかってきた。
僕はそれをくぐり抜け横腹を風の剣で切り抜ける。
「ギュウッ……ギャルルルル!!」
激情したかのように雄叫びをあげるサラマンダー。
痛いんだろう。ごめんね、でも。
「今の僕は人の味方だから」
なるべく苦しまないようにだけしてあげる。
ストンッと軽く胸を突くとジャリっと何かが削れる音がしてサラマンダーの体から溢れる炎がとたんに弱くなり消えた。
サラマンダーの体の中にある炎のコアを貫いたんだ。
これがある限りサラマンダーは炎を触媒にして再生する。
情報を持たない傭兵が勝てるハズがなかったのだ。
反面、炎のコアはサラマンダーの心臓と言っても良い。弱点を貫かれたサラマンダーはもう動かない。
「ハァ……あんまり気持ちの良い事じゃないなぁ。ルーシーも待ってるし帰るかな」
そして僕はルーシーが待っている辺境の村にサラマンダーを担いで帰る。
これで少しでも人達と仲良くなれれば、と期待をして。
「おっと、その前に……水竜の悲哀」
山火事も消しておくべきだろう。
辺り一面に竜が号泣してるかのような雨を降らせる魔法を使っておいた。
「追い出されたら今日のご飯どうしよ……」
「おかえり!!ケーファー!!」
サラマンダーを背負って村まで帰ると入口には沢山の人が立っていた。
その中の一人、純白の翼を持つ少女が僕に駆け寄ってくる。
「ただいま。ルーシーって、うわ!?」
「えへへー」
駆け寄って来たルーシーはそのまま僕に抱き付いてきてサラマンダーなんて錘を持っている僕はそのまま転んでしまった。
転ばせた本人はすごく楽しそうだ。
この子はルーシー。
恥ずかしながら僕の彼女であり天使だ。
別に天使の様な女の子と言う意味ではなく本物の天使なのだ。
「流石、天使様……傭兵の人たちですら歯が立たなかった魔獣を一人で倒すような魔人を使役してるとは」
「うん!ルーシーとケーファーは仲良しなんだよ!」
ルーシーの返答が少しずれてるけど気にしない。
彼女はどこか頭のネジが外れているのだ。
可愛いいから良いんだけどね。
今回、僕はこの村の人たちから依頼を受けてサラマンダーの退治に赴いたんだ。
なんで今まで話もしてくれなかった人間相手にそんな交渉ができたかと言うと……そこにはルーシーの存在がある。
人間の間では天使の存在はあまり知られていない。
事実、ルーシーを見た人もまさか彼女が天使だなんて思わず翼のある亜人程度の扱いだった。天使は魔人を狩る時以外は空の上にある浮き島に引きこもってるから人には姿なんて見せないのだ。
ところがここは魔界に最も近き場所。
魔獣に悩まされた事は数知れず。
そして……天使に助けられる事も稀にだがあったらしい。
結果、この村では天使を祀っている。
そして村で金を出し合い雇った傭兵団が魔獣に負けて途方に暮れた時にルーシーが現れたから、それはもう救世主と持て囃された。
そして僕はルーシーの使い魔扱い……ま、いいんだけどさ。
今までと比べたら大きな前進だ。
「魔人殿……少々よろしいですかな?」
「はい?」
振り向くとそこには初老の男性が立っていた。確か、この人は……。
「えっと、どうかしましたか?村長」
答えると彼は少し嬉しそうに笑う。
「少しお時間を頂いてもよろしいかな?」
とても柔らかい笑みだが、声は真面目だ。
恐らく他の人には聞かれたくない話なんだろう。
「いいですよ。どちらで?」
「私の自宅でよろしいですかな?」
別に断る理由はない。
最悪、追い出されるだけだ。
僕は覚悟を決めて彼の家について行く。
「失礼ですが……貴方は魔王ですな?」
席に着くや否やそう問いかけられて少しビクッとする。
まぁ、隠す事じゃない。
「はい。今代の魔王……ケーファーと申します」
また今夜も野宿かな、これは。
でも、彼は僕の予想を裏切る。
「はは、やはりそうでしたか。どうりでお強い訳です」
村長は軽く笑うだけだった。
「え、いや……魔王ですよ?僕」
追い出されたい訳じゃない。
でも、今まで逃げられるだけだったから困惑する。
「ふむ。なんといいますか……よく黒い翼の魔王に襲われた。と話は聞くのです」
……別に襲った覚えはないのにな。
ちょっと凹む。
「しかしですね。ちょっと襲われた……って話が多すぎるんですよ」
…………?
「なのに、魔王に殺された……とは滅多に聞かないんです」
「……あ」
普通に考えたら魔王に襲われて生き残る方が難しい。
街単位ならまだしも個人が魔王に襲われて無事はハズがないのだ。
「兼ねてから不思議に思っていたんですが……ケーファーさんを見て納得しました。今の魔王は、無闇に人を襲ってなんかいない」
僕が今まで我慢してきた物が報われた。
そんな気持ちになる。まだ終わってなんかいないけど、本当に、やっと一歩だけ進めた。
感謝したいけど言葉がでない。
「ははは。どんな事情があるかはわかりませんが、私達にって都合が悪いものではありません。さて……すみませんが、本題に入ってよろしいですかな?」
どうやら村長にとって僕が魔王かどうかは本当に重要な事ではなかったらしく、さっきよりも真剣な顔で、じっと見てくる。
なんだろう……緊張してきたな。
「はい、なんでしょう?」
「実は、あの魔獣を譲って頂きたいのです」
「……へ?」
魔獣って、サラマンダー?
どうして?
少し不思議に思った後に、何かしらの見せしめや、生け贄に使われるんなら……嫌だ。
なんて深読みするけど、村長は真剣な顔で事情を説明してくれた。
「見ての通り、この村は辺境。資源は豊富なのですが人が少ないので、とても裕福とは言えません。普通に暮らして行くのに問題はないのですが……。此度は魔獣退治の為に、傭兵を雇うのに村から金をかき集めたのです」
「えっと、そこまではわかります」
むしろ傭兵を雇えるお金を出せるだけ、そこらの田舎よりは不自由ないだろう。危険だけど。
「それで、何故、サラマンダーが?」
サラマンダーと言う魔獣ですか。と村長は呟き、続けた。
「これからの冬の食料にしたいのです!」
えー。
思わず心の中でそう言った。
しかし彼の演説は続く。
「冬の食料の備蓄はありますが、余りにも少ない。越せない事はないでしょうが、辛く長い冬になるでしょう。しかし!あのように巨大なサラマンダーならそれも解決できましょうぞ!」
確かに熊の三倍ほどの体躯のサラマンダーならかなりの食料だと思う。
魔力を持つ事以外は動物とそんなに変わらないから食べれもするだろう。
でも人間は魔獣を珍味やゲテモノ扱いしてたと思ったけど……なんていうか。
強い。
田舎強い。
見境無しだ。
「はは、そういうことなら良いですよ」
「本当ですか!?」
意味もなく無体に扱われるなら絶対に譲らない。
けど、食料なら自然の摂理だと僕は思う。
だから、僕は彼の頼みに頷いた。
「ありがとうございます。では、食料に大分余裕ができましたし、今宵は少し贅沢に村で晩餐を開きましょう!ケーファーさんも良かったら食べてください!」
そういうと村長は嬉しそうに外へ出ていく。
背に腹は変えれないから傭兵を雇ったけど、やっぱり冬越しは悩みの種だったんだろう。
ていうか、僕、置いてかれたんだけど外出て良いのかな?
「良いよね、きっと」
ここに居ても仕方ないし。
村長の家と言っても他の家と大して変わらない。強いて言うなら村の真ん中の広場に一番近いくらいだろう。
ドアを開けると、目の前は広場で、さっきよりも随分賑やかになってる気がする。
現に慌ただし走り回ってる人や遊んでる子供の姿が見える。
辺境の村なのに若い人が多いなぁ。
ケーファーはそんな感想を抱いた。
普通なら若者は王都や大きな街に出るが、この村は魔界に近い事を除けば資源も豊富で暮らしやすいのだ。
魔獣にしても、討伐が必要なほど魔界から来るなんて稀なのである。
魔獣には魔獣のテリトリーがある。
少し広場を散歩していると、それに気付いた子供達の一人が駆け寄ってくる。
「魔人のお兄さん、魔獣退治してくれてありがとう」
女の子は、そう言って無邪気に笑う。
僕は思わず、その頭に手を乗せて撫でる。
「傭兵の人達は魔人なんて信用しちゃ駄目だ~って言ってるけど、魔人のお兄さんは良い人だよね?」
「あはは、そう言われると少し困るけど……。人に危害を加えるつもりなんてないよ」
僕はルーシーとの未来の為に人と仲良く暮らしたいだけで、特別に人が好きって訳じゃないから良い人かと聞かれたら困る。
けど、彼女は気にした様子もなく嬉しそうに話し出した。
「私のお兄さんもね、傭兵なの。炎の怪物がでてきて、逃げて来たんだって。戦った人は誰も帰って来なくて……残った傭兵さんと村の男の人で、もう一度戦おうって相談しと時に魔人のお兄さんと天使のお姉さんが来たの」
傭兵は全滅。
そう聞いてたけど、一応逃げれた人は居たらしい。
最も部隊として機能しなくなった以上、全滅は全滅だけど。
「それでね。傭兵さん達がまた戦いにいったら……多分帰ってこなかったと思うの」
……まだ小さいのに鋭い子だ。
人族全てがこんな小さな頃から察しがいいなかと考えたけど、他の子が無邪気にはしゃいでる所を見ると、この子は人一倍敏感なんだろうな。
「大丈夫だよ。炎の怪物は僕が倒したから」
「うん!だからね、魔人のお兄さんにコレあげる!」
そういうと彼女は自分の首に巻いていた物を、ふわりと僕の首にかけた。
「お姉ちゃんに教えて貰ったの!マフラーって言うんだって。これから寒いから暖かいの!」
魔力で包まれてる僕は多少の寒さなんて感じないのに、ふわふわした糸で紡がれたソレは確かに暖かく感じた。
これは……かなり嬉しい。
なんか作りが歪なのは作り慣れてないのに一生懸命作ったんだと思う。
「ありがとう、大事にするね」
僕がそう言うと彼女は、あはっ。と声をあげて笑ってくれた。
「おーい!お嬢ちゃん!これからちょっとした宴会をやるみたいだから、料理手伝ってくれんか!?」
「あ、はーい!ごめんね、魔人のお兄さん。私お手伝い行ってくる!」
そう言うと彼女はパタパタと走っていく。
あの年で料理の手伝いとかしてるんだ……。
その日の夜ご飯は久しぶりに豪華だった。
ルーシーも喜んでくれたし村の人とも仲良くなれたと思う。
傭兵の人達はまだ気を許してくれてないみたいだけど、頑張ればなんとかなる気がしてくる。
だって、今日はこんなに楽しい日だったから。
ご飯も終わって、みんなが酔いつぶれ始めた頃、ルーシーと二人で散歩に出た。
でも、ご飯の時はあんなに楽しそうにしてたのに何か困ったような顔をしている。
「ねぇ、ケーファー」
「ん?」
「すごく遠いからね、気にしてなかったんだけど……どんどん近寄ってくるから言うね?」
「どうしたの?」
「ケーファー以外の……魔人の気配が近寄って来てるの」
ルーシーは僕の手をギュッと握りしめて、そう言った。
さて、次も魔王様のお話になると思います。
そしたら……うーん、王都に残った人たちのSSを一話使って書くか、さっさと本編に行くかどうしよう……。
また、こつこつと更新していきますので御愛読よろしくお願いします<m(__)m>
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