四十四話 100の能力全開
お待たせしましたorz
前回に続きカムイvsリュート戦の続きになっております。
戦闘シーンを書くのはやっぱり難しいですね(汗)
それでは楽しんでいただけたら嬉しいです。
魔剣。
初代勇者パーティーの一人、アウルの能力にして不死の力を持つ最初の魔王にダメージを与えれた唯一の武器。
その能力は魔力の消滅。
その刃で斬られたものは魔法も能力も消滅する。
その能力は本来の持ち主であるミナですら魔剣を手にしたままでは、攻撃魔法は使えなくなる程に強力だ。
しかし……聖殿の盾って斬れるのか?
如何なる能力も無効化する剣。
如何なる能力も通さない盾。
これって見事な矛盾じゃないか?
「名前まで付けて、あれだけ盛り上がったのに、あっさり負けたら恥ずかしいな……」
今のオレのコンディションで聖殿の盾を破る事はできない。
完全に魔剣頼りだ。
考えても仕方ないかぁ……ぶつけてみればわかるし。
相変わらず重みをまるで感じない魔剣を構え直す。
すると正面のカムイさんは待っていたかのように左手をこちらに突き出した。
……ていうか、待ってたのか?オレが構えるまで。
大歓声の中、彼の声事態は掻き消されて聞こえない。
だけど、はっきりと、叫んだ内容はわかった。
「来い!!」
それを理解した瞬間、反射的に地面を蹴った。
魔剣を肩に担いで真っ直ぐに突進する。
恐らくは向こうも魔剣は警戒してるハズ。
だからこそ!!
リュートの予想通りカムイは左手を前に出す。
どちらの能力が勝つか、は大事だよなっ。
リュートは力任せに剣を降り下ろす。
結果、リュートは確かに剣を振り抜いた。
まるでガラスを引っ掻いたような甲高い音が響く。
耳を塞ぎたくなるような音だが闘技場の人々はそれすらも掻き消す程の喚声をあげる。
……っ、盾は斬れないか。
いや、盾は斬れたハズだ。確実に手応えはあった。
なら……突破する前に再生した?
魔剣は確かに聖殿の盾をも無効化した。が、聖殿の盾は消された瞬間、次の盾が出現したのだ。
何十何百と無効化された事だろう。しかし、それでも刃を通さず持ち主を守りきった。
魔剣すら通用しない最悪の状態は回避できたが盾は健在。その状況にリュートは多少悔しさを覚えたがソレはカムイも同じ……いや、カムイの方が大きかった。
今まで聖殿の盾は全ての攻撃を完全に防いできた。
しかし、今のリュートの攻撃……盾は刃こそ通しはしなかったが、斬られた衝撃でカムイは数歩後ろに歩かされた。
盾は斬れないが……無敵の壁はなくなった。
それだけでも、ありがたいか。
それだけでも勝てる兆しは見える。
オレは先程と同じ様に剣を構える。
カムイさんは大きく目を見開いて驚いていたようだが、オレが構えたのに気づくと直ぐに刀を正眼に構えた。
盾を使っても吹っ飛ばされる以上、迂闊には頼れないだろう。
とは言え、オレも右手は気軽に使えないか……。
さっき斬られた時に剣を盾にしたとは言え、かなり強打され脇腹を痛めた。もし真剣だったらと思うと背筋が寒くなる。
やれやれ、魔剣を召還したのにまったく有利になった気がしないな。
リュートはそう考えたが、カムイとて先の一撃を入れる為にわざと頭部に攻撃を食らっていて、決して無視できるダメージではなかった。
互いにまったく余裕がない状態で徐々に距離を詰める。
長期戦になると不利……なら、下手に待たずにこちらから……って!?
リュートが斬りかかろうとした瞬間カムイが先に動く。
予備動作が少なく素早い攻撃。しかし、今度は多少の余裕を持って防御する。
危なっ!?魔剣じゃなかったら間に合わなかったかもなぁ。
カムイさんは自分の方が速さは上だと思っている。考えてみれば先手をとり一気に決めたかったのは向こうのほうが強いだろう。
もっとも、それは魔剣に持ち変えた事によりある程度差が埋まってるハズ。
重さを感じなければ速くなる。速くなれば攻撃力もあがる。
模擬剣であった先程よりもリュートは強くなっている。
切り返し降ってくる刀をリュートは全て受け流し、一太刀ごとにカムイの攻撃がぶれていく。
よし、カムイさんの剣筋は全部見える。
このまま行けば勝てるのも時間の問題……。リュートがそう考えた時がカムイは突如攻撃を辞め後ろに下がった。
む……逃げられた。
本来なら相手が下がった時は追撃のチャンスだが、先程のカウンターで痛い目を見たためリュートは迂闊に動けなかった。
カムイは下がると同時に反撃の準備をしていたから結果的にそれは正解だったのだが、その時のリュートはカムイが何をしているのか理解ができずにいた。
刀を……鞘に戻した?
一応、柄に手をかけてるとはいえどう見ても無防備。
鞘のまま戦う気か?
リュートの考えが纏まらない間にカムイは一気に間合いを詰める。
その時にリュートが危機感を感じて後ろに大きく跳んだのは、ただの感でしかなかった。
キィンッ!!
ヤバイ。そう感じてバックステップを踏んだ直後、そんな短い金属音が聞こえた。
次にオレが目にしたのは、すでに刀を振りきっているカムイさんだった。
――な、な、な、なっ!?
今、斬ったのか?
鞘から抜いた瞬間がまったく見えなかったぞ!?
聖殿の盾がある以上、能力ではなくカムイさん自身の技なんだろう。
カムイは再び納刀する。
……あの構えからじゃなきゃ今の技は使えないのか?
そして、あんな構えから他の技があるとも思えない。
けど、見えもしない攻撃相手にどうする?
体が痛い。勝てる気もしない。面倒くさい。
勝ったらもっと面倒くさい。
勝負は十分楽しんだ。正直、そろそろ負けてもいいかと思い始めてる。
「けど、そういう訳にもいかないか」
少し視線を上げたら、心配そうに見てる魔女がいる。試合中は意識の外に出しているがずっと応援してくれてるんだろう。
「はいはい、ちゃんと勝ちますよ」
切札の魔剣を使って……コレも使う事になるなんてなぁ。
オレに灰色の髪をくれた御先祖様に感謝を――。
一呼吸、対峙した後、カムイさんが再び間合いを詰めて来た。
流石にあの見えない斬撃に自分から突っ込む気にはなれないから有難い。
そこから放たれる見えない斬撃。
受けようと思っても振り遅れるから避ける事しかできないだろう。
だが、同程度の早さを持っているなら話は別だ。
リュートはタイミングを合わせて剣を振り上げる。
彼の目にオレの剣はどう見えただろうか?
いや、きっと見えなかっただろう。
同じ見えない斬撃を軽々と捉え上に、弾いたのだから。
「なんだとっ!?」
「……っ!!」
カムイさんが驚愕している。まさか、あの攻撃を弾かれるとは思っていなかったのだろう。
しかし、オレにも余裕なんて微塵もない。
弾いた手は何時間も錘を乗せられていたかのように痺れている。
速攻で決める為にオレは、よろけるカムイさんに詰め寄る。
「聖殿の盾!!」
「邪魔だああぁ!!」
鈍い手応えと共に力任せに剣を叩きつけると自分の腕が軋んだ。
リュートの能力は人間には強力すぎる。
故に――使えない。
彼の祖先は獣人……そのしなやかさと強靭さは人のソレとは比べ物にならない。
だからこその能力。
自身の身体性能を極限まで引き出す力。
だが、短時間なら竜族も上回る力が手に入る!
昔、ドラゴンを倒した力を発現させカムイさんに斬りかかる。
如何なる盾とはいえ、扱うのが人間であれば、竜の鱗すら貫く力の前では防ぎきれない。
何度か盾で防がれ、その度に腕の痺れは増して行く。
しかし、その甲斐もあり、カムイさんの左腕を盾ごと上に弾くのに成功する。
これでノーガードっ!!
狙うは足。
魔剣では殺しかねない為、ローキックで動きを封じる。
思いっきり放った蹴りは敵よりも自身に大きな衝撃を返す。恐らく骨にヒビが入っただろう。
だけど……まだ立てるっ!!
引き替え痛みを覚悟できたオレとは違いカムイさんはバランスを崩して尻餅をついている。
彼の身を守るのは最強の盾のみ。
オレは剣を逆手に持ち構えた。
「せ、聖殿の盾ぇ!」
「突き破れえええぇぇ!!」
地面に剣を刺す勢いで盾を突き破ろうと降り下ろす!
魔剣で盾は無効化できるなら再生する前に全て突き破るのみ!
ガガガガッと轟音と共に自分の右腕から鈍い音が聞こえた。
折れたか……けど、左腕が残ってる!!
「うおおお!?」
「これで……終わりだぁ!!」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
これ以上、能力を行使すれば治癒術で治らない後遺症が残るかもしれない。
しかし……その一歩手前でオレは盾を突き破っていた。
下には大の字になり寝転がるカムイさん……そして、その顔の十数センチ横に突き刺さる魔剣。
いや、殺すわけにはいかないからわざと外したんですよ?
「く、くくく、ははは!悔しいな!」
カムイは自分の敗北を悟り笑う。悔しいと口では言っているが実に楽しそうだ。
会場はまるで彼の言葉を待っているかのように静まり帰っている。
「悔しい、が無念はない!有難う、リュート殿。オレの……敗けだ」
――ワアアアアアア
カムイが自ら敗北を宣言した瞬間、会場は熱狂と拍手に包まれた。
恐らくはリュートが負けても観客の反応は同じだっただろう。
「ははは、疲れたな」
まだ勝者宣言も終わらぬうちにオレはカムイさんの横に寝転がる。
自然、嬉しそうに身を乗り出して笑っている魔女と目があったが、プイッと顔を背けられてしまう。
ミナのお陰で……随分強くなったもんだな、オレも。
以前のオレなら途中で投げていた試合だろう。
カムイさんは強すぎた。
この試合は、この直後に起こるもう一つの騒動と共に歴史に語られる事になる。
そして、オレ自身もこの試合をきっかけにして自分の最後の能力を大体知ることななった。
そう、試合が終わった後、疲れてはいたが体の痛みは全くなくなっていたのだ……。
戦闘がぐだぐだになってないか説明がくどくなってないか非常に心配な話でしたが、どうでしたでしょうか?
次回は久しぶりのミナ視点になる予定です!
感想誤字指摘頂ければ嬉しいです。
では、以下にリュートの先祖帰りの能力の補足説明をつらつらと。
本編に影響ないので読み飛ばしてくださっても問題ありません。
四話(だっけな?)くらいにはった伏線をまさかこんな遅くまで引っ張る事になろうとは……orz
勇者の血を引く者は希に髪の色が先祖の色と近く生まれます。そしてそんな先祖帰りを起こした者は先祖の勇者の能力を使える事が多いのです。
リュートもソレですね。
そしてリュートの祖先は素晴らしい体を持った獣人でした。
彼の能力は体を壊さないように無意識のうちにかけてるリミッターを解除する物でした。
彼は元々優れた運動能力に勇者能力を掛け合わせて素晴らしい戦果を残しました。
ただ獣人の体でも反動で体が痛くなる能力だったので、子孫の人間には使いこなせないようです。
リュートも昔、ドラゴンを退治した時に一度だけ使いましたが、竜の鱗を折れた剣で貫いた反面、ボロボロになってなんとか帰還したそうです。
勇者本人には強力な力が与えられますが、子孫まで使いこなせるとは限らないようです。
それでは、ここまで読んでくれてありがとうございます。
蛇足失礼しました。