四十一話 100のお勧めする酒場にて
長らく更新に間が空きましたorz
これに慣れて更新が滞る事ないように注意いたします…。
それでは四十一話になります。
「こんばんわ、お姉さん」
「あら、リュートじゃないか!久しぶりだね!そっちの娘は彼女かい?」
行きつけの酒場のドアを開きカウンター席に座る。
テーブルの方が良かったんだが、今日はいつもより混んでいた為、二人で座るのは申し訳ない。
「今、一緒に旅してるんだよ。ミナ、この人はソフィアお姉さん。ここの酒場の看板女優さ」
ちなみにお姉さんと呼ばないと怒る。
会計に響くので客は素直に従うしかない。
ギリギリお姉さんと呼べる程度の歳なので間違っても看板娘だなんて言わないけど。
「私は彼女でもいいんだけど。……こほん、ミナです。よろしくお願いします、ソフィアさん」
「あらあら!リュートは相変わらずモテるわねー。私の事はお姉さんって呼んでね、ミナちゃん!」
はい、ソフィア姉さん。と返事をするミナ。
よしよし、ここの会計はソフィアさんをどれだけ若く扱うかに掛かっている。いいぞ、ミナ。
ミナの発言に不穏な部分があった気もするけど気にしないようにする。
「それで、今日はどうするんだい?」
「予算は気にしないでいいからお勧めと良いネタがあればそれを。彼女にここの美味い物を食べさせてやりたい」
「あら、太っ腹。いいわ、期待に添えるよう旦那に張り切ってもらうわ」
ソフィアさんは飲み物にシャルのジュースだけ置いて奥へと消えていく。
ちなみに旦那さんが厨房で料理の担当をしている。
この混み具合だと料理が来るのにも少し時間がかかるだろう。
ま、一騒動あった後だし、ミナとゆっくりするには丁度良い時間だ。
「ね、リュート」
ミナがオレの名前を予備ながらふとももに手を置いてくる。
……ミナの力があれば多少腕が良い程度の魔法使いなんて敵じゃない。でも……人に嫌われるのは精神的にキツイ。彼女も甘える対象が欲しいのだろう。
ミナは少し潤んだ目で見上げて口を開く。
「やっぱり……モテるんだ?」
……え、そこ?
ミナはふとももに置いた手の人差し指と親指にだけ力を入れ…………って、痛い!痛い!つねるな!!
ふとももに手を置かれた理由を勝手に妄想したのが非常に恥ずかしかった。
「わっ……すごい!」
運ばれてきた料理を見てミナが歓声をあげる。
正直に言うとオレも驚いた。
普段、ふらりと食事にきた時とは出された物が違いすぎる。
貴族御用達の店にも匹敵するんじゃないか、これ。
「ね、リュート。食べていい?」
ミナが期待に満ちた目を向けてくる。
どうやらさっきまでのご機嫌斜めはどこかに消し飛んだようだ。
「あぁ、食べようか」
「うん、頂きます!」
ミナが両手を合わせながら言ってフォークを取る。
なんでも元の世界での作法だそうだ。
そのままムニエルにフォークを刺して口に運ぶ。
「…………」
沈黙。
口に合わなかったか?と一瞬思ったけれど、またフォークをムニエルに刺して口に入れ……を繰り返す。
オレも適当に摘まみながらミナが止まるのを待っていると彼女は結局一皿を無言で完食した。
「私……こんなに美味しい料理、初めて食べた」
「そこまでか!?」
リュートにとっても非常に美味な品々だが、ミナはそれ以上の感銘を受けていた。
そもそも仕送りとアルバイトで必死に暮らしていたミナには金銭的にも時間的にも外食なんてしてる余裕はなかった。
彼女にとって一番美味しい物とは練習に練習を重ねた自分の手料理で自分より料理が上手な人との出会い等、皆無だったのである。
「あはは!ミナちゃんみたいな可愛い娘に誉められるなら旦那も喜ぶよ!」
いつの間にかカウンターに戻ってきたソフィアお姉さんがミナに話しかける。
「あの、ありがとうございます。こんな美味しいもの……ホントに」
「お礼ならリュートに言うんだね。今回の料理はどれもそれなりの値段だからねぇ。旦那も良い素材を存分に使えて楽しそうだよ!」
ミナが喜んでくれたから問題はないが会計は覚悟を決めておいた方が良さそうだ。
「それにしても今日はすごく混んでますね」
「あぁ、明日からお祭りだろう?みんな待ちきれずに騒ぎにきたのさ」
「お祭り……あるんですか?」
そう聞くと何故かソフィアお姉さんはすごく驚いて目を丸くした。
「リュートが知らないってどういう事だい?ちょっと待ってな!」
そして少し離れた席で騒いでる連中にビラを一枚貰って戻ってきた。
これだよ!とバンッと置かれたチラシを手に取ってみるとミナも横から覗きこんできた。
「王都武道祭、急遽開催……?へぇ、いきなりですけど、面白そうですね」
なるほど。
血の気の多い奴なんかは抑えきれずに前日の今日から騒ぐ訳だ。
「いいから、全部読みなさいって」
「……?」
ソフィアさんに言われ視点を下へと流して行く。
祭りは三日間にかけて行われて王城の中庭まで一般開放され、そこで行われるらしい。
出店なんかも出てさぞかし盛り上がるだろう。
変わった所と言えば普通こういった大会はトーナメントかリーグ戦なのだが、今回は最初から相手が決まっているマッチ式らしい。
ようは決まった相手一人に勝てばいいのだ。
まぁ、マッチ式なら確かに国が対戦相手を決める訳だから一方的な戦いにな成りにくいし盛り上がるか。
事前に全ての対戦カードがわかっている分、どちらが勝つかといった賭けもやりやすいだろう。
下に羅列してある対戦カードを見ていくと中々の大物もいる。
お、旧鉱山で一緒になったエンブスさんじゃないか。
対戦相手は知らない人だが、あの人の戦いを見るのは面白そうだ。
有名ギルドの冒険者や名高い傭兵までいるあたり国は今回の祭りに相当力を入れているらしい。
これは最後のメインカードの人は責任重大だろうなぁ……。
一番盛り上がる最終試合が一方的な展開では興醒めも良いとこだろう。負ける側も善戦くらいはする必要がある。
オレは軽い気持ちでシャルの実ジュースを口に含み最終カードを見てみた。
聖者カムイ VS 剣王フェトム
「ぶっ!?」
「ちょっと、汚いわよ」
余りに予想外の事態に盛大に吹き出してしまった。
ジュースなんか飲みながら見るんじゃなかった。
「す、すいません」
「まぁ、酒場だし慣れてるけどねぇ」
あー、そりゃ吐く奴とかも多いだろうしな。
ソフィアさんはサッと手早くテーブルを綺麗にしてくれる。
ちなみに隣の黒髪はというと……。
「……ぷっ、くくく……あは……ケホッ!……くく……」
とかむせるほどの爆笑を我慢している。
なんだ、そこまで面白かったか。
確かに当事者でなければオレも笑いたい。
「リュート……本当に知らなかったのかい?」
「いえ、戦う事は知っていたんですけど……」
まさか盛大な祭りになってるとは予想すらしていなかった。
日付を見てみると確かにカムイさんとの試合予定だった三日後が最終日だ。
ちなみに発行日をみてみると二日前。
試合が決まってからたった二日間で、あれだけの猛者を集めてチラシを撒いたってのか?
ありえないだろ……。
今までは余り意識はしていなかったけど、国の権力ってやっぱりすごいんだなぁと頭の片隅で考える。
別に不都合は無いけど物凄く面倒だ。
「ま、良いじゃない。やる事は同じなんだし……ん、美味し」
目の前の魔女は笑いを堪えるのから回復して料理を楽しそうに食べている。
「はぁ……確かにそうか。難しい事考えても仕方ないか」
「うんうん、それにこんなに美味しい料理を前にして余計な事を考えるのは勿体無いよ」
あぁ、確かにそうだ。
こんなにも楽しそうにしてるミナを前に余計な事を考えるのは勿体無い。
どうせオレがやる事はカムイさんと全力で戦うだけだ。
「よし、気を取り直して食べるか」
「私、一人じゃこんなに食べれないから頑張ってよ?」
テーブルの上にはまだまだ頼んだ量の半分くらいの料理が残っている。
ちょっと頼み過ぎた気がしないでもないが、これくらいなら食べれるだろう。
「ミナ、ありがとな」
「どういたしまして」
あぁ、今日の彼女は良く笑ってくれる。
酒場で過ごす夜はとても早く時間が過ぎていった。
「ごちそうさまです。ソフィアお姉さん」
「あいよ。王都を出る前にまた一度くらいは来るんだよ、その子も一緒にね」
酒場を出ると潮の香りの風が頬を撫でる。
お祭り騒ぎで熱気に包まれた場所から出てきたばかりで、心地よく涼しい。
「んー、お腹いっぱい。幸せ」
「はは、ミナが幸せとか言うのも珍しいな」
何気なく返した言葉だったがミナは少し真剣な表情を浮かべる。
「そうかも。ていうか、初めてかな」
「えーと、ごめん」
「あはは、大丈夫。リュートのお陰よ、謝らないで?」
思い出したくない事に触れてしまったかと思ったけど、ミナは上機嫌のままだ。
心の中で安堵してると彼女は腕に抱きついて来た。
「おっと……今日は大胆だな」
「んー、酔った勢い、かな」
何に酔ったんだ。
「あれ、シャルの実のカクテル?美味しかったなぁ」
いや、あれはシャルの実の果汁を天然水で割ったジュースだ。
「お酒って初めて飲んだけど体ぽかぽかして気持ち良いね」
体が暖まってるのは料理に入ってた魔香草のせいだと思うが……なるほど、大体わかった。
酒場で出されたからお酒だと勘違いして、飲んだ事がないから、そのままお酒だと思い込んでるのか。
「酔ってなきゃこんな事できないもの」
ミナはオレの腕を力入れて抱きしめ。
いや、間違いなく酔ってないんだけどな、ミナ。
なんていう無粋な言葉は心の中にしまっておこう。
こんなに甘えてくれるミナを自分から手放す気なんてないっ!
「じゃ、掴まってていいから足元気をつけろよ?」
「うん。帰ろ、リュート」
暗い夜道、僅かに照らす民家の光を頼りに歩くとミナが口を開く。
「リュート、あのバカとの試合が終わったら……行くの?」
「バカって……まぁ、そうだな。そうしようと思う」
手持ちの資金に不安はあるけど、そんな長々放って置く訳にも行くまい。
「まずは、クレアに会いに行く。他の家族の手掛かりもあるかもしれないしな」
それにクレアは家を持っているから簡単に会えるだろう。
「クレアさん、リュートが知らない女の子連れてきたら驚くんじゃない?」
「知らない女の子……?って、あぁ」
確かに今のミナはクレアからしたら知らない女の子同然か。
クレアの知ってる彼女は怪我をしてる頃のミナだ。
「今更、置いて行くなんて言わないでよ?」
ミナがジト目で見上げる。
さっきまではあんなに機嫌良さそうだったのに感情豊かな子だ。
「言わないよ。ていうか……」
女の子相手に言うのは少し恥ずかしいけど……オレも意思表明をするべきだろう。
「ミナに一緒に来て欲しい」
オレがそう言うとミナは驚いて顔を赤くした後、直ぐに……。
「うん!」
笑顔で頷いてくれた。
さて、もう少しで王都での生活も終わりミナとリュートは行動範囲を大きく広げ世界へと旅立ちます。
一応ながらも、この小説にもプロットはありましてエンディングまでの大まかな流れはすでにできているのですが……ここまで書いていると作者の頭の中で勝手にミナとリュートが動いて、新しい話も出来てきたりします。
最近、この全く本編には関係ないミナとリュートの冒険譚を書くかストーリーに関係ある部分のみを書くか少し迷っております。
良ければ、いつも読んで下さってる読者様方のご意見も聞かせて頂けると嬉しいです。