四十話 100といる1の場合
前話を更新した時に始めて一日のユニークが千件超えてました。
これだけの人に読んで頂いて本当に嬉しいです。
これからもどうぞよろしくお願いします。
「んー、疲れたっ」
「オレの台詞だ……」
昨日のレーナ王女の訪問は、やはり謁見の日時を知らせるものだった。
その後、動けないミナの部屋でみんなで食事をしたりしてレーナ王女も公爵家に泊まり、今日謁見をしたわけだ。
内容はただの折角、王都に帰還したんだから顔を見せろ。と言う挨拶……のハズだった。
ミナが変なことを口走らなければ……。
王室に入った瞬間、いつもより空気がぴりぴりしてるのはすぐにわかった。
その時はまだ理由はわからなかったが、傾国の魔女がいるのが原因だとか。
多少の居心地の悪さを感じながらも王の前に片膝をつくとミナもそれに習い片膝をついた瞬間、室内がざわめいた。
どうやらミナは、これまでに相当無礼な態度だったらしい。
だけど強大な力を持つ故に誰も咎めれなかった。
その彼女がいきなり粗は多いが礼儀正しい態度を取ろうとした為、回りの貴族は驚いたようだ。
ここまでは問題ない。
問題はここからだ。
「ふむ……今日は随分とおしとやかだな、魔女よ」
と王が言い出したのだ。
前回までを知らないオレは咄嗟に意味が理解できず、知っている貴族達は、余計な波風を立てるな。と思い固まる。
唯一、発言したのは問われた彼女のみ。
「リュートを怒らせたくありませんから」
それからはもう凄かった。
まるで王室の中だけお祭りの様に騒いでいた。
勇気ある貴族がミナに話しかけると彼女も笑顔で対応し、それを見て次から次にと話しかける貴族達。
中には息子と結婚してくれと言い出す貴族もいる始末。
ちなみにミナは丁重に断っていた。
普通なら注意する側の王でさえ肩の荷が降りたかのように安心した顔で笑っていた。
そして出た結論が……。
「傾国の魔女をよろしくね、リュート」
ミナが機嫌良さそうに微笑む。
結局、魔女の手綱を握っているのはオレだと判断されミナについての事は一任されたのだ。
「……面倒」
「なによ、その言い草」
ミナが少し拗ねて上目遣いで見てくるが可愛いだけで怖くはない。
「私が暴れたらリュートの責任になるのかしら?」
「頼むからやめてくれ」
なんて事を考えるんだ。
というか、ミナが暴れたら城が全壊するんじゃないか?
「リュート次第かなー。私、お腹減った」
脅す気か。
いや、内容は可愛いが。
ま、どっちにしろ昼時か。
「港の方に行くか。城より北には行った事ないだろ?」
「北の方って……何があるの?」
王都の北は漁業が盛んで、行商人や冒険者で賑わう南門付近とは違い、酒場や市場など王都民向けの店が多い。
「それに港だからな。あそこの魚介類は中々の逸品だ」
「悪くないわね。連れてって貰える?」
「あぁ、オレの馴染みの店にでも行くか」
ミナの手を取り歩き出す。
さて、港に行くには西門から出るのが一番近いか。
などと考えていると前から魔法使いの団体さんがこちらに歩いてきた。
……嫌な予感しかしない。
「随分と仲が良さそうですね、魔女」
「……何?アンタ達」
……いきなり一触即発な雰囲気だし。
やれやれ、面倒な事ってのは連鎖して起きる物なのかな。
「私は魔術師隊隊長アリエス。一年前……私が不在の間に随分、勝手な真似をしてくれたようですね、魔女」
「……いきなり連れてきたのはアンタ達でしょ?今更、蒸し返すつもりなんてないけど、喧嘩売ってるの?」
「はい、その通りです」
……いやいやいや、その通りじゃねーよ。
魔術師隊隊長ともなれば国でもトップクラスの魔法使いではあるだろう。
それでも真っ正面からミナに喧嘩を売るのは正気の沙汰とは思えない。
「……いいわ。買ってあげる。ごめんね、リュート。すぐ終わらせるから一緒に来てね?」
「え、あ……はい」
ミナさん、笑顔がなんかすごく怖いです。
そんな笑顔で言われたら素直に頷く以外、選択肢はない。
「話が早くて助かります。ここでは狭いですから場所を移しましょうか」
そう言うと魔術師達は奥へと歩いて行きミナもソレについていく。
「リュート、行くわよ」
……どうなるんだ、これ。
「ここなら多少、派手にやっても問題ないでしょう。一応、使用許可も取ってあります」
連れてこられた場所は魔法演習場。
高度な魔法結界も張り巡らされているので、魔法使い同士の戦いには便利な場所だろう。
問題があるとしたらミナの魔法を防ぎきれるか……という点だけだ。
あれ、駄目じゃね?
結界が壊れたら魔法の威力はそのまま貫通する。
下手したら、また城に大穴が空くんじゃなかろうか。
「何でも良いけど……相手はここにいる全員?」
「貴女が手を出したのは国なのですよ、魔女」
演習場の中にはオレとミナを除いて六人。
恐らくは全員、名の知れた魔法使いのだろう。
まぁ、本当に危なくなればオレが助けに入ればいいか。
魔剣は魔法相手に絶対的な優位性を誇る。
相手が複数人で来てる以上、こちらが加勢しても文句は言わせないし、流石に向こうも、それくらい考えてるだろう。
ま……負けるハズないと思うけど。
「行くわよ、みんな!」
そうこうしてるうちに六人の魔法使いが戦闘体制に入る。
なるほど、確かに中々の魔力だ。
「冷気の精霊よ!全てを凍てつかせ、我が敵を……」
「うるさい、凍れ」
「なっ!?」
けれど、その程度ではミナに太刀打ちできない。
魔法使い達が一斉に氷の魔法を詠唱した次の瞬間、ミナは一言で六人を上回る氷の魔法を発動させた。
全員で同じ属性の魔法を使えばミナを越えれるとでも思ったのだろうか?
魔法使い達の顔はそれぞれ驚愕に歪んでいる。
まぁ、無理もない。
ミナはほとんど予備動作無しで演習場の全てを凍らせたのだから。
……てか、オレの靴まで凍りついて床に張り付いてるんですけど。
よく見るとそれは魔法使い達も同じで全員その場から動けずにいる。
「くっ……!怯むな!!氷の魔法が得意な相手には炎で応戦するんだ!」
うん、セオリー通りの良い手だ。
ただミナは別に氷魔法が得意って訳じゃない。
「紅蓮の炎よ!道を阻む全てを焼き尽くせ!」
「へぇ。上級魔法とはやるじゃない」
それぞれ別の方向から炎の上級魔法チェーンフレイムがミナに襲いかかる。
いける!!
魔法使い達は全員そう思った。
氷の魔法では咄嗟に炎に対抗できず、六方向から迫る炎に回避する術はない。
しかしミナの魔法は彼女達の予想よりも遥か高みにあった。
「風よ、跳ね返せ」
短くそう呟いた瞬間、ミナを中心に風が荒れ狂い炎を全て術者に向けて押し流す。
「……バカな」
自らに向かって押し流される炎を目の当たりにして隊長だけが、そう呟いた。
「で、まだやるの?」
靴が凍りついて地面から離れず、炎を浴びて風に転ばされた魔法使い達をミナが見下ろす。
誰が見ても実力差は明らかだろう。
……それでも戦意を失わない魔法使い達は無謀なのか勇敢なのか。
「私達の国を愚弄した罪は払って貰うわ」
隊長は地面から離れない靴を脱ぎ素足で立つ。
演習場全部凍ってるのに冷たくないのか……。
氷の床に立つ彼女はリュートから見ても痛々しい。
因みにリュートも動けないままな上に炎の余波を浴びてたりする。
ま、ミナはあれでいて優しいから火傷した所でも見せれば貴重な素直なミナが見れるだろうから良しとする。
さて、それよりどう決着をつける気だ?
魔術師達は全員覚悟を決めた目をしてる。
殺されようが和解はするつもりはない。と言っているかのようだ。
「もう私とリュートに構わないなら、これで終わりにする」
「人の国の城を壊して都合がいいですね」
「……わかったわ」
ミナが冷たく呟いた。
あぁ、これは彼女、キレたな。
「アンタ、言ったわよね?私が手を出したのは国だって。なら、私に喧嘩を売ってきたのは国の魔術師よね?」
「……?魔女、何を言って……」
ミナが両手を前に出して魔法を使い始める。
かざした手の先に現れたのは真っ黒な闇。
ミナは普段、その場の思いつきで魔法を使う。だから同じ様な魔法でも細部が変わっいたりする。
……けど、この魔法はどこかで見たことがある。
小さな闇は光が凝縮されて見えないからだ。
その魔法は膨大な光となり、地平の彼方まで焼き尽くす。
って、オレの家が魔獣に襲われた時に使った魔法じゃないか!?
視認外の魔獣の指揮を取っていたであろう何者かを一瞬で焼き払った魔法。
違う点があるとするなら、前はビー玉程度の大きさだった闇が、今回は人の頭くらいの大きさがあるって事くらいだ。
「待て、ミナ!それはシャレにならない!」
慌てるオレに彼女は綺麗な笑顔を向けてくれた。
「大丈夫よ、リュート。また城に穴が空くくらいだから」
……何を基準に大丈夫って言ってるんですか、貴女は。
「レーザー・カノン」
とても懐かしいフレーズと共に闇は暴虐な光となり天を貫いた。
そう貫いたのは天……すなわち上だ。
ミナは以前、地平の彼方を狙った光を今度は上に向けて打ったのだ。
ただし……前は数秒で終わった照射が今回はまだ続いている。
それはまるで数十kmの長さを持つ光の剣のようだ。
「魔法使い、アンタが国として私に喧嘩を売るって言うなら私はこの魔法を向こうに降り下ろすわ」
ミナは一点を指し示す。
その先にあるのは演習場の壁だが、さらに向こうに何があるのかに気づき魔法使い達は顔を青ざめる。
「魔法棟……!?」
そこは魔法使い達の寮であり研究室だ。
ここからはかなりの距離があるがミナのレーザー・カノンで薙ぎ払われれば跡形も無く消えるだろう。
「私達以外は関係ない!他を巻き込むな!」
「最初に国を持ち出したのは、そっち。私は本来、国に不利益を起こすつもりはないのに……ね」
「思いっきり天井に穴空けてるじゃないか」
「うるさい、これは別」
何が別なんだろう。
オレのツッコミを無視してミナは魔法使いに話しかける。
「アンタ達がまだ国として私とリュートに害を成すなら私はこれを降り下ろすわ」
魔法使い達は悔しそうな表情を浮かべる……が、何もしてない同士を巻き込む訳にもいかないようだ。
魔法隊隊長がゆっくりと口を開く。
「わかった……。今後一切、手は出さない。……けど、謝りもしないわよ」
「うん、わかってる。こっちにも事情があったとは言え、お城を壊したのは事実だもの。ありがと」
魔法使いはバツが悪そうに顔を背ける。
ミナとて本当に魔法棟を消し去るつもりなんてなかった。
やがて光の剣の照射はゆっくりと収まっていく。
「三十秒くらいか……燃費悪いなぁ」
「……あんな街の外から王城を直接消滅させれそうな魔法に燃費も何もないだろ」
使えるってだけで、戦争時の切札になりうる。
「傾国の魔女……まさか本当に国を滅ぼす程の力を持っているとは……一年前とは大違いです」
……あぁ、そっか。
一年前のミナは知らないけど、魔法使い達は一年前のミナを基準にして動いていたのか。
その頃の彼女になら勝てたのかもな。
そんな魔法使いに彼女は微笑む。
「大丈夫よ。リュートが望まない限りそんな事はしないから」
……いや、オレが望んだらするのかよ。
「お待たせ、リュート。ご飯食べに行こ?」
色々面倒くさい事も起きるけど……。
そう言ってきた彼女の少し寂しそうな顔を見ると、傍にいてやりたくなる当たり、オレは負けてるんだろうなぁ。
「はいはい。少し遅くなったし丁度空いてる時間だろ」
オレ達は港の方へと歩き出す。
「って、リュート火傷したの!?……ごめんなさい。でも、魔剣召還してれば私の魔法無効化できるよ……?」
……そういえばそうだった。
ヒロインがどうみても悪役っぽいですね(涙)
始めてミナのチートクラスの魔法が出てきた回かと思います。
あまり戦闘重視の無双物ではないのでミナが本気を出す機会は少なさそうです(笑)