三十九話 1の実力とその後の……。
またまたヒロイン視点です。
主人公空気だな……。
更新速度が少し落ちていますが、変わらずコツコツ更新していこうと思います。
「……信じられませんわ」
床を大剣で強打したリズが呟く。
「ちょっと反則な気もするけど……どうかしら?」
「これくらいなら問題ないのではないでしょうか。魔法禁止でない限り剣術大会で飛翔する方もいらっしゃいますし」
飛翔かぁ。流石に空を飛ぶのは考えてなかったなぁ。
リズが剣を降り下ろした直後、私は魔法を発動した。
空中で私の動きを補助できるような魔法を思い浮かべて……。
結果、私は地面から1Mほど離れた空中に立っていた。
「魔力の物質化……そして空中での停滞。どれだけ魔力を注ぎ込めばこんな真似ができますの?」
「大した量じゃないわ」
リズが呆れて溜め息をつく。
ミナが創造したのは小さな煉瓦のような足場。
これを空中に座標を固定化しただけの簡単な原理の魔法だ。
しかし原理自体は簡単でも使う魔力量は大魔法にも匹敵する。
魔力を物質化するほどの濃度で硬め、重力等の物理法則を無視して停滞させるにはそれほどの魔力を使わなければならず、一般の魔法使いには負担が大きすぎる。
もっとも魔法では魔王すら凌駕するミナにとっては微々たる消耗でしかない。
これなら勝てるかもしれない……!
力で押しきれない。技では圧倒される。
私が頼れたのは僅かな速度の差だけ……。
でも、この魔法があれば!
「行くわよ、リズ!」
叫ぶと同時に宙を翔る。
空中に次々と足場を生成して走る。
「そんな高度な魔法をよくポンポンと……!」
試合が始まって始めてリズが動揺した。
大魔法使いとは聞いていたけど、まさかこのレベルの魔法を事も無げに連発するだなんて誰も思わない。
「考え事とは……余裕ね!」
「…っ!?」
下にいるリズに剣を振り下ろす。
ちょっと攻撃しにくいけど下にいるリズはもっとやりにくいだろうから、我慢。
甲高い音がしてリズの剣が弾かれた。
上からの攻撃なら……リズの力に完全に勝てる!
下がるリズに対して再び足場を生成して駆け寄る。
「ふぅ……ミナ。貴女の魔法の発想には本当に驚かされますわ。でも……剣ではまだ致命的な弱点があります」
「なら、私を負かしてから言って貰う!」
「そうですわね」
リズはそういうと私と同じくらいの高さまで飛び上がり……そこから空中でもう一度何かを蹴って飛び上がった。
「なっ……私の足場を……!?」
ほぼ全力で駆け出した私はもう止まれない。
より高い場所にいるリズに愚直なまでに突っ込むしかなかった。
「相手が予想外の行動をとった時に咄嗟に行動できないのがミナの弱点ですわ」
リズはそういうと縦に回転しミナに斬りかかる。
上下を逆転し力関係が変わった私に受け止める術などあるはずもなかった。
「うぅ……悔しい」
「あらあら。でも正直、あそこまで素人にやられて泣き言を言いたいのは私も同じですわよ?」
リズが柔らかい笑みで微笑む。
剣を持ってからの時間が違いすぎるから負けて当然かもしれないけど……それでも、最後にあそこまであっさりやられるとは思わなかった。
「ミナは次の手を考えるのは本当にうまいのですけど、予想外の事には一瞬悩んでから行動してますわ。その一瞬の遅れが今回の負けに繋がってるのです」
「冷静になればあんなの足場を消すなり下に転がるなりすれば避けれるしな」
今まで黙ってたリュートが口を開く。
てか、コイツの言葉、試合を終えるときの合図くらいしか聞いてない気がする。
「ばか」
「なんでだよ!?」
うるさい。
「まぁいい。とりあえず手出せ。手」
手?
よくわからないけど私は黙って両手を差し出す。
「片方ずつな。まず右でいっか」
「そっち、左手」
「オレから見て右なんだよ」
リュートは私の手を両手で掴み、おもむろに……指でギュッと押した。
「ひゃん!?」
「落ち着け」
落ち着いてるわよ!てか、何やってるんだ、コイツ!?
「運動になれてないんだろう?ちゃんと筋肉を解しておかないと後ですごく痛くなるぞ?」
……痛いのはちょっと嫌だ。
リュートは黙って私の左手を押し続ける。
マッサージみたいなものかな……ちょっと気持ちいい。
「リュート様、私にはそんな事やってくれた事ありませんのに……」
「やって欲しければやるけど、リズは身体能力からして必要ないだろ……?」
そうですけれどやって欲しいですわ。と続ける彼女に、後でな。と笑うリュート。
……ちょっと気に食わない。後で燃やすか。
そんな物騒な事を考えながら四肢をリュートに預けていった。
……ちなみに背中はなんとなく恥ずかしいので断った。
「……いろいろ痛い」
「魔法使いがあんな激しく体を動かすからだ」
あれから数時間後。
私の体は激しい運動の反動に襲われていた。
今までも何度か軽い筋肉痛になった事はあるけど、今日の比ではない。
リュートがマッサージをしてくれたお陰で和らいでいるらしい……今回ばかりは感謝しとこう。
「私もリュート様に剣を習い始めた頃はよく動けないくらい体が軋んだものですわ」
多分、リズも当時は笑い事じゃなかったんだろう。
……今の私みたいに。
「今日一日大人しくしてれば治るさ。部屋まで送ろうか?」
「いい。一人で行……痛っ!……お願い」
立とうと思ったけど予想以上に体がうまく動かない。
……悔しいけどちょっと頼らせて貰おう。
差し出されるリュートの手を取り……。
「って、わ!?ばかっ!!」
久しぶりのお姫様抱っこか!?
「暴れんな。体痛いんだろ?」
「うるさい!」
とか言っても痛いものは痛くて殴れない。
「あらあら。リュート様、後で私にもお願いしますわ」
「リズも勝手な事言わない!」
リズは、あらあら。と優しく微笑む。
あの子は憎みきれないなぁ……。
私は自分の事を棚にあげてリュートが意外とモテる現実に納得いかないまま部屋まで運ばれていく。
「悪い。ドア開けてくれないか?」
「ん」
お姫様抱っこだと両手塞がるもんね。
それくらいなら今の私にもできるし。
「ふぁぅ……気持ち良い……」
ベッドに寝かされた途端、思わず声が漏れた。
相変わらず反則的な寝心地だ。
ベッド一つでどれくらいのお金が掛かっているのか想像したくもない。
でもお世話になりっぱなしって訳にもいかないよなぁ。
まぁ、それはまた後日考えよう。
「大丈夫か?」
「ん、横になってると大分、楽」
「そっか。ちょっとごめんな」
そう言ってリュートが手を私の額に当てる。
そこから少しずつ流れてくる魔力……。
治癒術ともまた違うけど柔らかい感覚。
「リュート……魔法使えたんだ」
「少しだけな」
戦ってる時にリュートが魔法を使った事はない。
恐らく本当に少しだけなんだろう。
「魔法ってよりは体の力を抜くおまじないに近い。まぁ、少しだけ治るのが早くなるだろ」
確かに体がリラックスして行くのがわかる。
こんな魔法もいいな……。
今度教えて貰おう。
そう思いながら私の意識は微睡んでいった。
「リュート様。レーナ王女が……あら?余程、疲れたのですわね」
扉が開き顔を覗かせたリズがミナを見て楽しそうに笑う。
「リズは王国の一般騎士より強いだろうからな。それなのに、あそこまで頑張ったんだ。疲れもするだろ」
「リュート様に誉められると嬉しいですわ。隊長クラスにはなれたでしょうか?」
「んー、小隊長クラスかな」
期待していたらしくリズは大きく肩を落とす。
日夜、剣を降っている王国騎士を凌ぐというのは、それなりにすごい事なのだがリズは納得いかないようだ。
「まぁ、いいですわ。リュート様、レーナ王女がお呼びですわ」
「王女が来たのか?」
恐らくは謁見かカムイとの試合の話だろう。或いは、その両方か。
リュートとリズは階段を降りていく。
その途中、リズがぽつりと話し出した。
「ミナが羨ましいですわ」
「どうしたんだ?いきなり」
まったく訳がわかってないリュートをリズが呆れ顔で見つめる。
「リュート様は今まで一人で、ずっと頑張っていましたのに……今はミナに心を開いてますわ」
うっ……。と小さく声をあげてリュートが怯む。
ミナはリュートに助けられたと言っているが、リュートからしても魔獣の件以来ミナには何度も助けられているのだ。
短い旅ではあるがお互いが信頼を築くには十分だった。
「リュート様はわかりやすいですから。でも……」
普段、大人っぽいリズが小さな子供が悪戯をする時のような笑みを浮かべる。
「もう少し先まで私も精一杯、リュート様には甘えさせて貰いますわ」
「はは……お手柔らかに頼むよ」
リュートとしても嫌ではない為、断れない。
……が、ミナに怒られるか拗ねられるかするのが容易に想像できて喜ぶ事もできなかったりしていた。
戦闘シーンを書くのが難しい事、難しい事。
一話から少しずつ加筆、修正してたりします。
ほとんど変わらないので読み返す価値はないと思いますが……(笑)
誤字脱字その他、御指摘頂けると嬉しいです。