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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
二章 魔女の復活
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三十七話 1は御機嫌

誤字脱字あれば御指摘して貰えると嬉しいです。

指先に小さな火を灯し徐々に魔力を加え圧縮する。

最初はマッチ程度の火だったソレは魔力を加えられ温度を上げて青白い炎となる。


「……綺麗。よしっ」


私は少し気合いを入れて属性を反転させる。

青白い炎は即座に固まり周囲の空気ですらパキパキッと音を立て凍る。


「うん、こんな感じかな」

「いいから、その物騒な魔力塊を消せ」

「いたっ」


隣を歩く灰色髪の成年が私の頭を軽く叩く。


なんだよー。


「……間違って魔力暴走したらどうする気?王都の夜は雪になるわよ?」

「だからそんな危険な魔力を歩きながら適当に込めるなよ!?」


む。それは一理ある。


口では暴走なんて言ったけど私にとってそんな危険はない。

あの程度の魔力量、私が持つ魔力総量に比べたら微々たるものなんだから。


かと言って回りから見たら危ない事なんだから歩きながらやる事でもない。


「わかったわ。とりあえず帰りましょ」

「当たり前だけど…機嫌良さそうだな」

「うん。リュートから選んでくれたプレゼント……嬉しかったから」


リュートがくれたネックレスを見る。意味合い的には奴隷の印だけどほとんど意味を成してないだろう。


「そっちかよ!?」


……もちろん魔法がちゃんと使えるようになったのも嬉しいけどね。



魔力がちゃんと回復するようになって幾つか分かった事がある。


まずは私が成長していた事。

肉体的にはほとんど変わりない……うるさい。けど魔力は一年前、ここにきた時よりも強くなっている。

ちゃんと回復したら一年前の私では、今の私には勝てないだろう。


そして魔法を使うのを楽しんでいる自分がいる。

リュートと一緒に入った洞窟で小さな太陽を作る。

焚火の変わりに火球を浮かせる。

元の世界の石鹸をイメージした魔法シャボン。


薄々気づいていたけど私はこんな下らなくも便利な魔法が大好きみたい。


前は魔王を倒す事だけを考えていたのに、いつの間にこんなに変わったんだろう。


まぁ……いつかはわからなくても誰のお陰かはわかるけど。


隣で歩く彼を見る。

……感謝なんて言葉じゃ表現しきれない。


今、高速で魔力が回復してるのもリュートがくれた指輪のお陰みたい。

今までは回復量が少なすぎて魔王戦以外は魔力を節約してたから、気軽に魔法を使えるってのは楽しみだったりする。

さっき魔力を圧縮してたのも自分に何ができるかの実験だし。




闇市から公爵家に帰るまで私はぼんやりと今までの事を考えていた。


行く時は恐怖心でいっぱいいっぱいだったけど、ちゃんと行って良かった。



行く時はあんなに長く感じた道も心が弾む帰り道になりすごく短く感じる。


新しい魔法をあれこれ考えながら帰ると大きなお屋敷の広い庭でニーズヘッグ公がどこか吹っ切れたような目で遠くを見つめていた。

彼の前にはケルロンが気持ち良さそうに寝転がって暢気に真ん中の口が欠伸をしている。


「公爵、今戻りました。……あのどうかしましたか?」


余りにも清々しく遠くを眺める公爵にリュートも心配そうに話しかける。


私も公爵の様子は気になるけど、話しかけるのは緊張するから助かる。

……王様とかにはイライラしてて失礼な態度だったけど。


公爵はちょっとだけ困った顔でリュートに笑いかける。


「ははは、うちの庭に、この子がいるのが未だに信じがたくてね」


そう言って彼はケルロンを見る。

ケルロンはパーティーの後に私が公爵に頼み込んでここに連れて来て貰った。


ケルロンも自分だけ王城にいるんじゃきっと寂しいだろうから。

でも、やっぱり迷惑だったかな……。


「魔獣の中でも上位のケルベロスが庭で呑気に寝てるのが不思議でね」

「……ごめんなさい。あの、私!」


迷惑なら街の外でケルロンと一緒に暮らそう。そう思って言おうとしたけど公爵に手で制される。


「迷惑ではないよ。慣れない事に少し驚いてはいるがね。ケルベロスとは言え……この子は大人しくて敵意もない。追い出す理由にはならないさ」


そう言って笑いかけてくれた。

流石リュートが信頼してるだけはある。


「それに今更ケルベロスを理由に追い出されたら私が拗ねますわ」


玄関のドアが開き金髪の美女がそう言いながらケルロンに歩いて行く。

その手に持っているのは……骨が付いたままのゴツイ肉の塊が乗った皿。


「この子の朝ごはんに……と思ったのですけれど大丈夫かしら?」


ケルロンが普段何食べてたかはわからないけど、ここまでの道中食べてた干し肉よりは余程良いと思う。


「ありがとう、リズさん。お礼はちゃんと……」

「構いませんわ。私、動物は大好きなのですけれど……お父様が許して下さらなかったので、すごく嬉しいですわ」


リズさんは本当に嬉しそうに笑う。

これで恋敵じゃなければ素直に好きになれるんだけどなぁ……とはいえ一方的にかもしれないけどリズさんを友達のように感じてるのも事実で少し悔しい。


「リ、リズ!別に儂は動物が駄目だと言ってるのではなくだな……!」

「ニーズヘッグ家は、その名のとおり龍族の血を色濃く継いでいる為、動物が怯えて可哀想……でしょう?頭では分かっていますわ」


必死に弁解するニーズヘッグ公をリズさんが溜め息を付きながら睨み付ける。頭では分かっても心では納得いかないのだろう。


でも昨日からケルロンに怯えた様子はない。

流石は魔獣というべきなのだろう。


……っていうか、すごい見てる。リズさんを。

正確にはリズさんが持ってるお皿を……かな?


リズさんもすぐにそれに気付いたようで嬉しそうにケルロンに近づく。


「あら、食べてくれるのかしら?」


そう言ってケルロンの前にお肉を置くとケルロンは私の方を見てくる。


えっと……?


「食べていいよ、ケルロン」

「あら、いい子ですわね」


いいよ。そう言った瞬間、ガウッと小さく吼えてケルロンは美味しそうにお肉に噛みつく。


うんうん、お肉は美味しいよね。


それにしても貰った物を勝手に食べないなんてリズさんの言う通りすごくいい子だ……。


「ほら、みんな!こっちもご飯にしようではないか!」


少し額に汗を浮かべ公爵が声を張り上げる。

きっと動物関連の話題で少し御機嫌斜めなリズさんをどうにかしたいんだろう。


普段は気さくながらも威厳ある公爵がリズさんの前では少し情けないお父さんといった感じだ。


「仕方ありませんわね……。拗ねてても仕方ありませんし行きましょうか、ミナ様」

「えっと……今日もお世話になります」


一応、宿借り身。私は頭を軽く下げる。


「いいですわよ。リュート様の家族は私にとっても他人ではありませんから」


そう言って彼女は先に歩き出す。


本当に……ありがとう。


あ、こら!感謝はしてるけどリュートの腕に抱きつくな!


先に行くリュートとリズさんの後を私は追う。


そして彼女はリュートにとっては致命的で私にとっても予想外の言葉を紡いだ。


「ところで、リュート。昨日はなんでミナ様と一緒に寝たのかしら?」


あ、バレてた。ま、いいけど。










「龍族の血は五感が常人より強くなりますから。ミナ様独特の柔らかい香りがリュート様からも香ってれば気づきます」


食事中、リュートはリズさんに詰問され公爵は笑ってる。

ちなみに私は自分は関係ないですみたいな顔で澄ましてるけど実は恥ずかしくて仕方ない。

幸いにもリズさんの批難はリュートに行ってるからボロはでないだろう。


リュートはいろいろ言い訳してるけどいつまで持つかな。


「その……ごめんなさい」


あ、意外と早く折れた。


「リュート、情けない」


とりあえず追い討ち。リュートはガクッと項垂れる。


「あらあら、ミナ様が自分からリュート様の寝室に行ったのでは?」

「うん、そのままリュートのベッドまで潜り込んだのも私」

「あら、大胆ですわ」


クスクスとリズさんが笑い私もそれに釣られて笑う。

リュートは隣で納得いかなさそうにしてるけど、どうやら私たちの嫉妬はリュートだけに向きそうだ。

王女はまだわからないけどリズさんとは仲良くできそうだ。


「ねぇ、リズって呼んでもいいかしら?」

「いいですわよ、ミナ」

「ありがと、リズ」


笑い合う私たちを見てリュートが驚いている。

後で聞いた話だけどリズが敬称に「様」をつけない事は非常に珍しいみたい。嬉しい。


「龍族ってリズの御先祖様ってもしかして勇者?」

「そうですわ。誇り高き龍人ニーズヘッグ。彼からニーズヘッグ家は生まれましたの。ちなみにリュート様も勇者の子孫ですわ」

「ん、聞いた事ある。リュートは先祖返り……だっけ?」

「あぁ。たまに先祖の勇者の血を色濃く継ぐ人がいるんだよ。オレがたまたまそうだった」


灰色の髪がその証拠らしい。


髪の色が金か白以外は憧れの対象なんだっけ。

リュートは灰色……なんか、気に入らない。


「前々から気になっていたんだがリュートは先祖返りの能力はもっておるのか?」


さっきまで笑っていたニーズヘッグ公爵がフェークを口に運びながら質問する……が、それはリュートにとっての地雷であり事情を知っているリズも固まる。


私は始めに王都で勉強した時の事を思い出す。


先祖返り……勇者の子孫が勇者の特徴を引き継ぎ生まれてくる事。その多くは髪の色が代わり、勇者の特殊能力を生まれつき使える。


こんな感じだったかな。

でもリュートがそれらしき能力を使ってるのを見たことがない。


「ごめんなさい、リュート様。お父様も悪気があるわけでは……」

「わかってるよ、リズ」


リュートはかなり凹みながら答える。


「使えないんだ?」


うん、ここで遠慮する私じゃない。別にいいじゃない。使えなくても。


「使えぬからと言って恥じるものでもない。生まれつきの事だからな」


公爵はやっぱりいい人だ。


だが、そんな二人の予想に反してリュートは白状する。


「能力はあります。けど……使い物にならないんです」


リュートが項垂れる。

んと、話を整理すると能力はある。けど使い物にならない。


つまり……役立たず。うわ、微妙だ。


いっそないほうが少しスッキリするだろう。

リュートが凹む理由が少しだけわかった。


「す、すまん。リュート」

「ほら、リュート様!そんなことより久しぶりに剣の相手をしてくださいませんか!?」


公爵の謝罪と共にリズが無理矢理話を反らす。

リズにとっても思いついた事を言ってみただけだったが意外にもそれは高い効果を出した。


「そうだな……今更気にしても仕方ないか。うん、久しぶりにリズの剣を見るのもいいな」

「見てくださいますの?嬉しいですわ……!」


リュートの快諾に掛け値なしの笑顔がリズに灯る。


剣の稽古を欠かした事はないけど剣を教えてくれたリュートに見て貰える事は稀である。

普段、父とばかり手合わせして負けているリズに嬉しくないはずがない。


そんなリズを見てると置いてきぼりにされたような心境で寂しがる少女が一人。


「……リュート、私には剣を教えてくれた事ない」

「いや、魔法使いだろ、ミナ」


そうだけど。


「剣があるんだしせっかくだからちゃんと使えるようになりたい」


ふむ。とリュートは考える。

リズに対抗心を燃やしたのもあるが、せっかくある魔剣を剣として使えるようになりたい。


「確かにミナは接近戦さえ凌げば負ける要素はないもんな……」


どうやら私の中遠距離での強さはリュートも評価してくれてるみたいで嬉しい。


今日は二人でリュートに剣を習うんだろう。

私はそうなると予想したし少し仲良くなったリズと剣を手に取るのは楽しみだった。

それはリズも同じ事を考えてくれてると思う。

その証拠にリズはこちらをみて片目を閉じた。


「あぁ、そうだ。ならリズ、君がミナに剣を教えてくれないか?」

「……なんでそうなるんですの!?」


……またリュートが変な事を言い出した。





3~4話あたりでふれたリュートの先祖返りについて改めて説明してみました。


補足として先祖返りで得れる能力は先祖の勇者の能力と全く同じか多少劣化したものになります。

リュートの御先祖様は能力を使い大活躍しましたがリュートにとっては相性が悪くてほぼ使えない能力になってるのが現状です(笑)


本文に入れるのも無駄に長いかと思い後書きにいれてみました。



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