三十五話 100の考察
「……なんか面倒な事にしなったなぁ」
公爵家に帰ったオレは用意された部屋のベッドに正装のまま体を投げ出す。
結局、あの後レリックさんまで話に乗ってきて回りにいた貴族達も興味を持ってしまいオレとカムイさんの試合は一週間後に観客まで入れて行われる事になった。
お互いにライバル心でもあれば気合いが入るのかもしれないが、向こうはともかくオレにそんな気はない。
向こうはすごい気合い入ってたけど。
慣れないパーティーとこれからの試合の話に疲れ着替えるのも面倒になりベッドに仰向けになって転がる。
このまま寝てしまおうかとも思ったけど少し微睡んだ所で現実に引き戻された。
コンコン。
小さくドアをノックする音。
リズならいきなりドアをあけてくるだろうし公爵はこんな丁寧な性格はしてない。ならば、ノックの主は一人しかいない。
「……ミナ?」
「うん。リュート、ちょっと良い?」
「あぁ。入っておいで」
ギィーと小さい不協和音を奏でてドアが開く。そこにはまだドレス姿のままのミナが立っていた。
「まだ着替えてなかったのか」
「うん。こんな服着たの初めてだから、なんか脱ぐのが勿体無くて」
ミナはオレが寝ているベッドの横に腰を下ろす。
……なんだこのシチュエーション。
ドレス姿のミナは普段なら少しだけ感じられる子供っぽさが無くなり美人だ。
「やっぱり今日のミナは綺麗だ」
「なっ……!?う、ありがと……」
また殴られるかとも思ったけど彼女は頬を赤く染めて、こっちを睨んで来た。
一応は照れ隠しなんだろうけど……やっぱり少し引っかかる。
「ミナってさ、結構良く笑うんだな」
オレは気づけば、そんな事を口走っていた。
ミナがオレに笑いかけてくれる事は多いとは言えない。
でもパーティーの最中の彼女は沢山の人に話しかけられ笑顔で……すごく魅力的な笑顔で答えていた。
彼女はオレが何言ってるのかよくわからないようで首を傾げている。
「パーティーの時に、すごく沢山笑ってたからさ。あんなに笑ってるミナは初めて見たよ」
オレにも笑って欲しいと思うのは我が侭なのかどうか。
そんな想いを知ってかミナは機嫌良さそうに答える。
「嫉妬?」
「なっ……!?」
彼女は勝ち誇るような笑みを浮かべた。
笑顔は笑顔でもこれは嬉しくないっ。
「私ね、多分、プライドが高いんだと思う」
ベッドに寝転がり彼女は言葉を続ける。その声は先程までの機嫌の良さそうな物ではなく寂しそうなものだった。
「誰にも甘えないように生きてきた。自分の力で絶対に幸せになろうって……」
三年も前にそう決めて以来、一度も泣かず自立したいが一心で生きてきた。結果、上辺での人付き合いもうまくなっていた。
「でもね……。リュートが私を拾ってくれた時、私は誰かに頼らなきゃ歩く事すら大変だったの」
甘えざるを得ない状況。その環境は彼女を少しだけ変えて例外を作った。
「リュートには最初から甘えっぱなしで……リュート以外の人に甘える方法がわからないけど……リュートに甘えない方法もわからないの……」
ミナは恥ずかしそうにうつ向く。
「だから、ごめんね。リュートに愛想笑いは……」
「くくく……そっか。はは、なるほどな」
「な、なんで笑うの!?」
彼女が自分以外によく笑う理由。それを聞いてリュートの中で燻っていたものが消散していく。
考えてみたら、大勢に囲まれている時の彼女は、ずっと笑顔だった。
それに対してオレの隣にいる彼女は様々な表情を見せてくれる。なら笑顔の比率が減るのは考えてみれば当然だ。
「リュート、うるさい……」
少し笑いすぎたか。機嫌を損ねたミナが少し赤い顔で睨んでくる。
「ごめん、ごめん。ありがとな、ははは……」
「まだ笑うし……!」
少し安心しすぎた。不思議と笑いが止まらない。
「とりあえず、起きたらどうだ?せっかくのドレスがしわくちゃになっちまうぞ?」
「まだ、にやけてるし……。ていうかリュートだってまだ正装の癖に……」
ミナは文句をいいながらもベッドから立ち上がり扉に向かう。
「いいわ。せっかくリズが貸してくれたものだし、ちゃんと着替えてくる」
「あぁ。すごく似合ってたぞ」
「ばかっ!」
せっかく誉めたのに彼女は、そう言い残して少し強めにドアを閉めて出ていき、ガチャン!と大きな音がした。
「やれやれ。ドレスを着てもおしとやかにはならないか」
なんて言いながら自分がまだにやけているのがわかる。
さてオレも着替えるとしよう。流石にこんな堅苦しい恰好で寝たら逆に疲れそうだ。
重い正装を脱ぎ公爵が用意してくれた軽装に着替え再びベッドに体を投げ出す。
色々あったけどやっと少し落ち着いた。
これからの事を整理すべきだろう。
まずは先程のパーティーでいきなり決まった試合。気は乗らないが無闇に投げ出す訳にもいかないだろう。
オレの顧客の人まで乗り気だったしな……。
王との謁見もあるだろうが、これは向こうから言い出さない限り放っておいても問題ないだろう。オレの帰還は知られてるハズだしな。
この辺の事を全部終わらせたら……まずはクレアに会いに行かなきゃな。
五人の家族。そして唯一別居してるクレア。
他の四人がどこに逃げたかはわからないけど彼女だけは間違いなく西の街にいるだろう。
他の人から、もしかしたら彼女に連絡がいってるかもしれない。
そして後一つ。
これは明日にでも終わらせよう。多分、金も足り……。
と、そこまで考えた所で、ギィーと音を鳴らしてドアの開く音が聞こえてくる。
いきなりの来客に驚きながらも顔をあげると、そこには先程までドレス姿だった少女が寝間着姿になって立っていた。
「……ミナ?どうかしたか?」
彼女は無言でこちらに歩いて来てベッドに腰かけた。
ふわりと柔らかい香りがしくる。髪も多少濡れている。
「お風呂入ったんだな」
「うん、すごいわね、ここ。お風呂大きすぎて落ち着かなかった……」
なんか疲れた。と言い彼女は寝転がる。
貴族でもトップクラスの地位にいる公爵家だからな……。公爵は散財を好む人ではないが、金を使い循環させる事も貴族の仕事らしい。
「……って、ちょっと待てっ」
「うるさい」
「……なんでオレのベッドに一緒に寝てるんだ?」
話ながら自然に横になってきたせいで一瞬気づくのが遅れた。
こいつ、ここでも一緒に寝るつもりか!?
「嫌ならそっちが出てけ」
……まったくこの子は。
言っても無駄だろう。
「出ていったら怒るだろ?」
もう今日は諦める。なんとかしようとは思うが流石に疲れた。
ミナはオレの言葉に小さく肩をポスッと叩いて返す。恐らくは肯定の意。
「やれやれ……あぁ、そうだ。明日、出掛けるからミナも一緒に来てくれ」
「どこに?」
多分、嫌がるんだろうなぁ……。でも、これは早急に済ませなければいけない。
「闇市だ」
それを聞いた彼女は少し驚いたようだけど、すぐに今日他の人達に見せていた物なんかよりも綺麗な笑顔でこう言った。
「絶対嫌」
最初に携帯に書き溜めた数話以降はパソコンから投稿していたのですがパソコンが壊れましたorz
今日、やっと戻ってきたので少し短いですが投稿してみました。
これからの大雑把なあらすです。
そろそろまた魔王視点も書こうと思うけどどこらへんに入れようかな…。