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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
二章 魔女の復活
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三十四話 100番目と3番目

お待たせしました。

一週間ぶりの投稿です。


きっと待っててくれた人もいるはずだと信じたい作者心。


いつもより少し長くなっております。


多くの光が灯る会場を彼女の手を引いて早足で歩く。

パーティーは徐々に盛り上がり流れる音楽と共に踊る男女もちらほらと出てくる。


「綺麗……」


後ろで手を引かれる彼女がぽつりと呟く。

その視線の先にはダンスの為に儲けられた光輝く広場があり、すでに何組かのカップルが踊っている。


「一緒に……踊るか?」


騎士の家系として恥をかかない為にダンスも多少仕込まれている。


正直、あまり気は乗らないけどミナが望むなら踊るのも悪くないかと思う…が、彼女は首を横に振る。


「ダンスなんてしたことない。踊るのは無理よ。リュートは踊れるの?」

「あまりうまくはないけど……少しはな」


今度、躍り方教えてね。と彼女は言う。

まぁ、この世界の大半の人はダンスなんか踊れない。

貴族やソレを相手に商売する人々だけだろう。

彼女がこういったパーティーと無縁でも不思議ではない。


「落ち着いたら幾らでも教えるさ。さて……これからどうする?」


実を言うとパーティーなんて実際に来たのは初めてでまったくどうしていいかわからない。

ミナのしたい事をさせた方がスムーズだろう。


「……リュートが案内してくれるんじゃないの?」


どうやらオレの考えは甘かったみたいだ。


「ちょっと憧れてたけど実際に来てみたらどうしたらいいかわからないものね」


オレは憧れてもないししたい事もないんだが……。


はぁ、とりあえず一緒に回る事くらいか。オレにできるのは。


「オレもあまり詳しくないからな。それでも良ければ」


そう言いながら手を差し出す。


「ん、ありがと」


彼女は短くお礼を言いながら手を取ってくれた。








「で、これはどういう意味かな?」


ミナはオレの前で笑ってくれてる。

ただし、オレは彼女に胸ぐらを掴まれているが。


「リュートは私をそんなに食べてばかりいるキャラにしたいんだ?」

「な、違っ!?」


とりあえず連れてきたのが立食を主とした場所。

パーティーなんて偉い方と会話するか食うか踊るかしかオレの頭にはない。

偉い人と話しても楽しいと思えないし、彼女は踊れない。

だったら食べるかと思ったんだが……。


さっき貴族の前で食べ物で誘ったの……気にしてたんだなぁ……。


彼女の表情は笑顔からジト目に変わっている。というか、胸ぐらは放して欲しい。


「いや、昼に移動しながら軽食食べてから何も口にしてないだろ?流石にオレがお腹減ったんだよ」


とりあえず必死に言ってみる。だが、それは意外にも効果が高かった。


「……それもそうだけど」


彼女の手が降ろされ少しイジケタ顔で上目遣いをしてくる。


うわ、この顔ちょっと可愛い。

口に出したら殴られそうだが。


「確かに……お腹減ったけど……」


そりゃそうだ。昼だって軽食。

それが今まで持つハズない。



「そうね、いいわ。ご飯食べる」

「な?ここにある食事は普段は食べれないものも多いしさ」


なんとか機嫌を直してくれた事に安堵しながらミナに料理の説明し、テーブルからテーブルへと回っていく。


ミナは初めて見る料理を口にしては喜んでいる。

あまり好き嫌いがないのか基本的に美味しいようだ。


んー、パーティーを楽しむって趣旨からはズレてる気がするけど……まぁ、いいか。ミナ、楽しそうだし。


「はは、噂道り仲がいいんですな、リュートさん」

「はい?あー……えーと」

「…?」


適当に美味しそうな物を摘まみながらふらふらしてると、ふくよかな明るいおじさんに話かけられた。


見覚えは……うん、ないな。


ミナも串に刺さった牛肉を手に持ち、口にしたまま首を傾げているのを見ると知らないようだ。


身なりからするに貴族ではなさそうだが……勇者か、同業者といった所か?


「おっと、すいません。リュートさんの事は前々から知っていたので、つい知り合いのつもりで話かけてしまいました。私、ストロノー牧場のレリック=ストロノーと申します」

「ス、ストロノー!?」


ミナは今度は反対側に首を傾げているが、王都処か、この世界でストロノーの名前を知らない人は少ない。


王都の南、国の中央に位置するストロノー牧場は、世界各国に食物を輸出している大牧場だ。


恐らくはこの料理にもストロノー産の肉が多く使われているだろう。


「失礼しました。レリックさん。ストロノー産の食材はうちでもよく使わせて頂いてました」


もうないけど、うち。


「それはそれは、ありがとうございます」


レリックさんは笑顔でお辞儀をしてくる。商人は貴族と違い偉くなるほど腰が低い人が多い。

単純に多くの利益を産み出すためには敵はいない方が圧倒的に楽だからだ。


「んと……牧場の経営者さん……って事?」


ミナが袖を引っ張りながら聞いてくる。

まぁ、大体その通りだがオレの代わりにレリックさんが答えてくれる。


「はい、ここよりずっと南で牧場を拓かせて貰っています。そのお肉もうちの牧場の物なんですよ」


といいながらレリックさんはミナが手に持っている串焼きを指差す。


「これですか?あの……すごく美味しいです」

「ははは、そう言って貰えると嬉しいです」


ふむ……。確かにレリックさんは陽気な腰の低い商人のようだ。……けど、商人たるものそれだけではやっていけない。


さて……彼はオレか……又はミナにどんな話を持ちかけてくるだろう。


商人とは頭の隅ではどうやって儲けるかを考えているものなのだ。


そしてレリックは大きく息を吐き気を引き締め改めて二人に話しかける。


「実は……お二人に折り入って味見して貰いたいものがあるんです」


……やっぱり何かあったか……って味見?


てっきり希少アイテムか貴族でも紹介して欲しがるのかと思っていたリュートには予想外の頼みである。


そしてリュートが一瞬硬直してる間に特に難しい事は考えてないミナが即答する。




「味見ですか……?それくらい良いですよ」


と可愛い笑顔で。


……まぁ、味見くらいなら問題ないけどさ、確かに。


警戒してた自分が馬鹿らしくなってくる。


レリックは少し離れたテーブルに走って行き小皿にそのテーブルに乗っていた料理を一つ乗せてくる。


「どうぞ。うちの牧場で新たに出荷しようと思っている物なんですよ。ただ……あまり知名度が高い物ではなくて……ささ、リュートさんも」

「お、ありがとうございます」


ミナに続いてオレも皿を受け取る。


ふむ……見た目は鶏肉みたいだが……?


皿の上に乗っているのはサイコロ型に斬られた鶏肉っぽい物。どこかで見たことあるような気がするけど…。


「頂きます」


隣のミナはそういうとパクっとフォークで指して口にした。


「ま、食べてみりゃわかるか。頂きますっと」


彼女を習いとりあえず食べてみる。

ここに並べられてる料理に警戒する必要なんてないだろうしな。


お……これは……。


肉を噛むとシャリッと凍ったフルーツを食べたような歯ごたえが返ってくる。

この特徴的な歯ごたえは覚えていた。過去に何度か口にしたことがある。


「わ……美味しい」

「これは吹雪の精ですか?」


雪山に住む魔獸「吹雪の精」。精とは言っても立派な鳥だ。

雪山で人を襲う魔獸な為、たまに討伐され、その肉が市場に流れる。魔獸の肉は珍味として知られているのだ。


「おぉ、流石リュートさん。ご明察です」

「でも、これ……オレが食べた事ある奴で一番美味しいですよ」


食感こそ同じだが旨味が段違いだ。


「実は卵から、うちの牧場で育てた吹雪の精なんですよ!味に自信にあります。ただ、その……魔獸の肉は珍味扱いですから……」


……あー、読めた。

魔獸の肉なんてよほどの物好きか冒険者しか食べない。

新たに美味しい商品はあるけど買って貰えなきゃ食べても貰えない。

だからミナとオレに食べさせて回りへの宣伝にするつもりか。


この世界は貴族ですら勇者大好きな人が多いからなぁ。

勇者の好物にでもなれば影響される人は多い。


「リュート!これ、美味しいっ」

「や、うん、うまいな」


……隣には思いきり策略にハマってる魔女がいた。

レリックさんも上機嫌で追加の鶏肉を持ってきてる。


ま、いっか。これで誰が損するワケでもない。

レリックさんは良い宣伝になりそうだしミナも楽しそうだ。


「お、レリック!」

「これはこれは男爵、お久しぶりです」

「いつも世話になってる。おや、そちらのお嬢さんは……」


ふらりと貴族風の男が寄ってきてレリックさんに話しかける。彼なら貴族の顧客も沢山いるだろう。


貴族はミナが勇者だと気づき彼女が食べてる物に興味を示して口にし絶讚する。


はは、レリックさんの思惑通りになってるな。


こんな利用のされ方なら悪くはない。


もう一切れ鶏肉を口に運ぶ。


うん、うまいな。










「リュート!リュート!」

「お?」


しばらく適当に食べ物を摘まみながらふらふらしてたら不意に後ろから声をかけられた。


「レーナ王女。こんばんわ」


白銀の髪をなびかせてこの国の第一王女が駆け寄ってくる。


「何やら人が集まっていたのでな。何かと思って来てみたらリュートもいるとは運がいい」

「あー、アレですか……」


オレから少し離れた位置にかなりの数の人が集まっている。

そしてその中心で……ミナが回りに笑顔を振り撒いていた。


……オレ、あんな風にずっと笑顔で話して貰った記憶ないんすけど。


「どうした?リュート。泣きそうな顔をして」

「な、泣いてなんかないです!」


ならよい!と王女は頷いてくれる。


「ところでリュート。あの人だかりはなんです?」

「勇者を愛でる会?」

「……なんです、それは」


王女が怪訝な顔をする。まぁ、言ってるオレとしてもよくわからないんだがな。


あの後すぐにミナの回りにわらわら人が集まって来た。

どうやら皆、ミナに話しかけたかったが、何を話せばいいかわからず様子を伺っていたトコにレリックさんが来て、それをきっかけに話かけ始めたようだ。


今日のミナはいつもより美人だし……話をしてみたいと思うのも当然だろう。


「えっと、魔王には逃げられちゃって……」


彼女に意識を集中してるからか声が聞き取れる。


「好きなもの……?シャルの実とか」


どうやら回りからの質問に律儀に答えてるようだ。


「いえ、リュートとはそんな関係じゃ!?」


ていうかさ…。


「今は……特定の人はいないです。でも……っ」


オレと居るときより明らかに笑顔で……。


「可愛いって……その……ありがとうございます……」


顔を赤らめてすごい可愛いんだけど…。


えー……オレが可愛いなんて言ったら理不尽に殴られるぞ。

痛くはないけど。


「……リュート、やっぱり泣きそうになってない?」

「そんな事……ないさ……」


泣いてたまるか。


ずっとミナの方を見ていたせいか彼女もオレに気づき続いて隣の王女に視線を移す……そして、ジト目。


オレにも笑顔をください。


「すいません、ちょっと失礼します」


ミナはそういうとこっちに歩いて来る。

……明らかに彼女の声の温度が下がった為、それを止める人など居ず人の固まりは徐々に解散していった。


「リュート……やっぱりもてるのね」

「ん?いや、え……ええー?」


明らかにモテモテだったのはそっちじゃねぇ!?


「リュートは今や話題の勇者ですから同然です」


王女もしれっと何を言ってる。


「とりあえず落ち着け。さっき王女と会ったばかりだ」

「……それならいいけど」


なんて言いつつ目が笑ってないです、ミナさん。


「そういえば王女……一人でここに……?」


せっかくのパーティー。王女を誘おうなんて人は山ほどいるはずだ。


「殿方に囲まれてては楽しめないですから……逃げて来ましたわ」

「逃げてって……」


一応、そういったのを相手にするのも王族の勤めではないのかと思う。


「普段なら適当にあしらうんですが、一人厄介なのがいて、その方に」

「レーナ王女ー!!」

「今、見つかったトコです。最悪……」


王女が落ち込み具合が端から見てもわかりやすかった。

王女ー!!と叫びながらこちらに走ってくる黒髪の成年……って、見覚えあるな、あの人……確か……。


「えっと……勇者?」

「バカ勇者」


二番目の発言はミナである。王女の嫌がりかたといい随分酷い扱い受けてる勇者だな。


「おっと、これは失礼。俺は三番目の勇者カムイだ。魔王を倒し、レーナ王女と結婚する者だ」

「勝手に決めないでください!勇者は100人いるんです!」


そういや魔王を倒した勇者は王女と結婚できるとか言ってたな。


「初めまして。オレはリュート。しがない商人さ」

「久しぶりね。バカ勇者。王女を幸せにしてあげてね?」

「よろしくな、リュート殿!そして、ありがとう、ミヅキ殿」


バカと呼ばれてるが本人は気にしてないようだ。

まさか慣れてる?


「てか、知り合いか?ミナ」

「一番最初に召喚された五人のうちの一人よ。番号は強い順」


三番目って事は中間か。てか、ミナが一番かよ…。

流石は傾国の魔女。


「ミヅキ殿の強さは反則だ……」


カムイさんがぐったり項垂れている。


「刀を使えば自信はあるが近づけすらしないからな……」


まぁ、ミナの魔法は反則だと思う、素直に。


「剣の腕もリュートの方が上ですけど」

「はは、王女も冗談が過ぎる。幾らなんでも商人に……」

「そこは私も同意かな。アンタ、近衛に負けたじゃない。リュートは勝ったみたいだし」


王女の発言にミナの援護でカムイさんが凍る。


「近衛に負けたと言っても……あれは剣だからであって刀さえ使えば……」

「カムイ。言い訳は見苦しいですわ。リュートは魔法を使った近衛騎士に勝ったのですわよ?」

「な、本当か!?リュート殿!」


なんか前にミナとオレ以外は近衛騎士に勝てなかったとかいう話があったな……て、事は負けたのか。この人。


「えっと……一応」

「商人ではなかったのか!?」

「よく物資の調達に魔獸を斬ったりするんで……自然と剣は」


カムイさんがガクッと膝をつき両手を地につける。なんかすごく凹んでるようだ。


「俺は……また負けたのか……」

「ちょ、どうしたんですか!?」

「前に居た世界じゃ一番強かったらしいわよ、彼。それがこの世界で私と二番目の勇者と近衛騎士。おまけに商人に負けてショックなんでしょ」


ミナはさらっと止めを刺す。

ミナの一言の度にカムイさんの心に剣が刺さっている気がするのは気のせいではないだろう。


「カムイさん、大丈夫ですか?」

「放っておけばいいのよ、そんなバカ」

「また、結婚の話かと思って嫌気が刺しましたけど予想外に静かになって助かりましたわ」


女って酷い。


しかしカムイも約一年の冒険でバカなりに多少は成長していた。

なんとかふらふら立つ姿は見てて可哀想になるが、それでもしっかりと立った。


「リュート殿……俺と勝負をしてくれ!」

「……は?」


え、なんでいきなり勝負?


「近衛に負けたのは一年前の俺……。今の俺なら勝てる!そしてリュート殿にも勝ちたい!」


カムイは根っからの戦闘好きであり強い敵がいるなら勝ちたくなるタイプだ。

リュートには迷惑以外の何物でもないが。


「いや、いきなりそんな……場所とかもないですし」


リュートは苦し紛れの言い訳をするが、この発言は更に状況を悪化させる。


「あら、それなら王城の訓練場を貸しきって盛大にやりましょう。勇者同士の戦いをみたい人も多いでしょうから」

「あの……レーナ王女!?」

「別にいいんじゃない?私もリュートがどれくらい強いかちゃんと見てみたいし」

「……ミナまで」


どうやらこの場にオレの味方はいないようだ。カムイさんに至っては、燃えてきたああ!と声を張り上げている。


「ではレーナ王女!俺が勝てばちゃんと婚約者候補として見てくれるか!?」

「負けたらリュートを婚約者候補として見ますよ?」

「構わん!!絶対に勝つ!!」


ちょっと、そこ二人は何を勝手に話を進めてんだ!?


あまりの出来事に動揺するが、そのオレの肩をポンと叩かれて振り向くと…なんか不機嫌になってるミナがいた。


多分……婚約者云々って話のせいだと思う。



「リュート……試合には出て欲しいけど、あまり無理して勝たなくてもいいからね?」





……最近、理不尽が多い気がする。





最後が少し展開早かったかなー…。


文章にするのはやはり難しいですね。


リュートvsカムイな流れですが実際に戦うのはまだ少し先のお話になりそうです。


今回も読んでくれてありがとうございました。



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