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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
二章 魔女の復活
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三十一話 1と彼女達のすれ違い

本編でここまでリュートの出番がない話は初めてな気がします。


少し投稿間隔空いてきてますが、なるべく早く更新するように致しますorz



夕暮れの王都大通りは、帰り支度をする者、最後に売り切りを目指して声をあげる者、これから商売をする酒場などの活気が入り交じり賑わっている。


そんな中、夕陽に照らされながら一際目立つ二人組がいた。


「ねぇ、なんか見られてない?」

「そりゃケルベロスなんて乗ってればな…」


道を行く私たちは明らかに人目を集めていた。

でもケルロンも馬も大した違わないと思うんだけど。


回りを見ると馬に乗ってる人は沢山いる。

あ、向こうにユニコーンに乗ってる人もいた。どう考えても、あっちの方が目立ってるじゃないかな。なんか淡く光ってるし。


ユニコーンは幻獣種であり人懐っこい。確かに見た目自体はケルベロスより目立つが、危険が無いため人々の意識は魔獸であるケルベロスに集中する。


「とりあえず、そろそろ降りとけ。乗ってるのが一番目立つんだ」

「ん…わかった」


ちょっと不服だけど目立ち続けるのも嫌だから素直に降りる事にする。


「よしよし、ありがとね」


頭を撫でるとケルロンはグゥゥと喉を鳴らす。

その姿を見て回りの人も心なしか安心したような空気になる。


「それにしても…ケルロンは闇市には連れていけないな。どんな騒ぎになることやら…」


何より恐ろしいのは、馬鹿な貴族に目をつけられる事。

あいつらは欲しいものは力ずくで手に入れようとしてくるからな。とリュートは悩むけどミナは別の理由で足を運びたくなかったりする。


「闇市って…私がいた場所だよね?あまり近づきたくないんだけど…」


自分が奴隷として売られてた場所になんて誰が近寄りたいものか。リュートもそれがわかるからミナをどこかで待たせようかと思ったけど、ケルベロス連れで目立つ彼女を一人にするのも心配だ。


「だよなぁ。どうしたものか…宿をとるにしても、金がいるから闇市には行っときたいし…そうか。ミナ、王宮に行っててくれないか?」

「王宮って…一人で?」


器物破損の前科もあるし、ちょっと不安なんだけど。


「すぐにオレも行く。ニーズヘッグ公爵にオレの名前を出しとけば安心だから」


…確かに王宮ならケルロンが一緒でも勇者の私が連れて来たならそうそう無下にもしないと思うしリュートが信用できる人もいるなら安心かもしれない。


「はぁ…気は乗らないけどそれが一番良さそうね。わかったわ」

「あぁ、頼んだよ。オレもすぐに王宮に行くから」

「ん。待っている」


んじゃ、頼んだな!って言ってリュークは人通りの少ない道を歩いていく。闇市っていうくらいだから表通りみたいな賑わいはないんだろう。


「まぁ…中には結構、人いたっけ?いこっか、ケルロン」

「クゥゥゥゥ」


うん、一人はちょっと不安だったけどこの子がいれば大丈夫かな。ていうか、私、久しぶりにリュートと離れた…。駄目だなぁ、こんなんじゃ。


よし…!リュートがいなくても私はちゃんとやれる!王宮いこ!










「あの、すいません」

「ん、なんだお前は?」


王宮の前に立ってる兵士さんに話かけた瞬間、睨みつけられる。

…前は勇者だなんだって大喜びされたのに一般人には偉そうって兵士としてどうなんだろう。

こほん、まぁいいや。私が用事あるのはこの人じゃない。


「ニーズヘッグ公爵様にリュート様からのお使いなんですが、取り次いで頂けないでしょうか?」


うん、現代人の私は大人の対応だ。


「リュート…?知らん知らん。公爵様はお前に構ってる暇などない。帰れ」


………。


「いいからさっさと中に行って来てくれない?」

「しつこいな。いい加減にしないと…ヒッ!?」


流石に今のは酷いと思う。私、ちゃんとやった!


ミナの手には燃え上がる炎。立ち上る高さは数メートル。

笑顔で右手から炎を噴出される彼女はまさに魔女に相応しい。その姿に流石の兵士も気づいた。


「ゆ、勇者…傾国の魔女!?」

「あら、光栄ね。覚えていてくれたの?で、早く公爵のトコに案内して貰える?」

「魔女…死んだんじゃ…!?」


もう一回、城に大穴あけようかしら…一瞬そんな考えが過ぎるけど昔みたいに一人の責任じゃなくなるからなんとか抑える。

ニーズヘッグ公爵の名前出しちゃってるしね…どんな人か知らないけど。

私はわざと冷酷な笑みを浮かべて兵士に話しかける。


「ねぇ、燃える?それとも、さっさと行ってくる?」

「ヒ…すぐに…お呼びしてきます…!」


兵士は気丈に振舞おうとするけどその足はよたよたと頼りない。


まぁ、ここまでしたら流石にすぐに呼んできてくれるだろう。

私はケルロンと戯れながらちょっと待つとする。







「グルルルルルゥゥ…」


ケルロンの喉を撫でながら時間を潰していると王宮から沢山の人が出てくる。ケルロンはどうやら警戒してるようで唸り声をあげている。


「大丈夫だよ、安心して」

ケルロンの頭をぽんぽんするととりあえずは追いついてくれたみたいだ。睨んではいるけど。


それにしても…あの人は確か…。


先頭を歩いてる人には見覚えがある。

王の傍に控えていた人。強くは無いだろうけど…恐らくは油断できない人種。


「大臣…」

「傾国の魔女…よくぞ、ご無事で!ささ、こんなところではなんです。まずは中でお話しようではありませんか。聞けば魔王と戦ったとも…」


…気に入らない。

何を考えてるかわからない。けど、とりあえずは王宮の中についてくしかないだろう。


「お久しぶりです。いろいろありましたが、とりあえずここに戻ってくることくらいはできました。できれば公爵様に取り次いで頂きたいのですが」

「公爵…ふむ。ニーズヘッグ公ですかな?えぇ、問題はありませんとも。しかし、公爵は今、自宅にいまして…彼をお呼びしますので、まずは王に挨拶をお願いしてよろしいか」


はぁ…ニーズヘッグ公爵を出してくれる以上、ここは引き受けるしかないかな…。

正直言えばちょっと面倒くさい事になったなぁと思う。


「…手短にお願いします。私は…気が短い」


再び手に炎を灯す。正直、魔力残量もそんなに多いわけではないから使いまくるわけにはいかないけど、ここで強気に出ておかないで済し崩しにされても困る。


「はは…存じておりますよ」


流石の大臣も城に大穴を穿たれた時を思い出して冷や汗を流す。

彼らにとって傾国の魔女とは今でも全軍が束になっても敵わないであろう化け物なのだ。


事実、一年前のミナはそれほどまでに強かった。



ま、魔力使い放題使ってどんどん少なくなって今じゃ底に残ってる魔力をかき集めて使ってるようなものなんだけどね。

だから、リュート…早く来てね。










「貴様…王の前だぞ!」

「私には関係ない」


何が王だ。私を勝手にこの世界に呼び出した癖に。

…今じゃちょっとだけ感謝してるけど。


私は一年前、王の前で取った態度を変えずに今、王座の前に居る。

王の御前であるそこではいろんな人が頭を下げているけど私は絶対にそんな事はしない。


「まぁ、良い。勇者にとってこの世界の権威など関係ないからな。珍しい事でもない。それにしても傾国の魔女ミヅキよ。良くぞ無事帰ってくれた。大きな希望が尽きずにいてくれて嬉しいぞ」

「別に…運が良かっただけよ」


一歩違えば今私はここにはいれない。本当に…運よく助けられただけだ。


「はは、相変わらずの反応だな。まぁ仕方あるまい。いきなり此方に呼び出したのは我々だ」

「へぇ、ちょっとは話がわかるのね。少し見直したわ」

「貴様…!」

詰め寄ろうとする騎士を王が、よい。といって下がらせる。

…この王様は少しは話が分かる人のようだ。


まともに話し合えば少しは前向きな答えが見つかるかもしれない。そういえば元の世界に帰す代わりに魔王を…って条件もこの人が出してきたものだった気がする。


はぁ…一年前の私、本当に余裕なかったんだなぁ…仕方ないとも思うけど。


ただ今、意地を張っていても意味はなさそうに思える。


自分にはもう帰るつもりもないし、少しくらいちゃんと話し合おう。


「まぁ、久しぶりに王都に戻って来たのだ。暫しの間の休んでいくといい。部屋は…ふむ、今から用意するとなると夜になるか。そうだ!今夜は丁度、パーティーが開かれるのだ。良ければソレに参加してくれ。その間に部屋は用意しよう」


まぁ…もう夕方だし部屋についてどうこう言えはしないけど…。


「パーティーって…そんなの私が出てもいいの?」


勇者と言えど私は悪名高いと思うんだけど。


王はミナの心配を笑い飛ばす。

今回のパーティーは昨日の急遽開催が決まった物でミナが参加する理由も十分あるパーティーなのだ。


「ハッハッハ。今日のパーティーは昨日、帰還した勇者「聖者カムイ」達の為のでな。傾国の魔女が加わっても不自然でもなんでもない」


隣にいる大臣も頷いている。


「そういう事なら参加させて貰うわ」


どうせリュートが来るまで暇だし。

ちょっと元の世界とは体験できないパーティーとやらも少し興味がある。


「あぁ、それと私をここまで助けてくれた人がいるの。同じ部屋でいいから、その人も泊めていいかしら?」

「ほう。まぁ、構わない。部屋は広い。好きに使ってくれ」

「ありがと」


後でリュートが困る姿が思い浮かんだけど気にしない。


二言三言、義務的な会話をして私は外に出る。


ふぅ…わざと敬語使わなかったけど逆に疲れたな。


「失礼。傾国の魔女とやら、私に用があると聞いたが?」


いきなり声をかけられて、びくっとした。ちょっと恥ずかしい。


ぼんやり歩いてたら前から人が来るのにも気がつかなかったみたい。


「えっと…あの…ニーズヘッグ公爵?」

「あぁ、如何にも。今日は外に出るつもりなんてさらさら無かったんだがね」


普段は自分を訪ねてきた客にこんな態度は絶対に取らない公爵だが、今日はリュートの死を悲しむ愛娘にずっと付いてようと決めてた為、機嫌が悪かったりする。

呼び出した相手が勇者でなければ断っていた所だろう。


ミナは公爵の迫力に気をされるが、なんとか用件を口に出す。


「私を助けてくれた商人が…ここに来てニーズヘッグ公爵を頼れと言ってくれたんです」


その言葉を聞いてきたニーズヘッグ公爵の目が見開く。


「商人…?名前はなんという…?」

「リュート」


ミナが慣れ親しんだ名前を呼ぶと公爵は目を閉じて語りかける。


「彼は私の娘が病気の時に助けてくれてな…。それからも、貴重で手に入りにくい物を色々持ってきてくれた…。今はもう頼めないが彼は良い商人だったよ…」


別にリュートは今でも頼めば取りに行きそうだけど。やっぱり公爵って立場上、勇者になったリュートには頼めないんだなぁ。なんて私は思った。


「彼は最後にニーズヘッグ公爵に頼れと言ってくれたんです。…おやすみなのに…来てくださって」

「いや、彼の頼みだ。来てよかったよ」


せっかくのお休みにいきなり呼び出した私に公爵は柔らかい笑みを浮かべてくれる。


リュートが信用するだけはある。

この人…いい人だ。


「まぁ、こんな所ではなんだろう。時間があるならうちにこないか?なんなら王都にいる間はうちに泊まっていくといい。リュートもそれを望んでいるだろう」


んー、王宮で待ってろとは言われたけど確かに公爵家の方が王宮よりいいんじゃないかな?


「はい、お言葉に甘えさせて貰います。彼も、そちらの方がいいでしょうから」


公爵は軽く頷いて歩き出す。

私が少し後ろを歩くようにして公爵家に案内して貰った。










「お父様、お客様ですか?」


公爵家に入るといりなり、すごいスタイルのいい金髪のお嬢様が迎え出てくれる。

自分のスタイルと比べて少し悲しくなる。


…でも、ちょっと元気なさそう?


「あぁ、彼女もリュートに助けられた一人だ」

「そうですか…此処まで大変だったでしょう。私、リズ=ニーズヘッグですわ」

「あ、ミナ=ミヅキです。よろしくお願いしますね」


差し出された手を握り返す。

彼女の顔は何処か疲れたような表情をしてるのが気にかかる。


リズさんの手を話すと今度は奥の扉がカチャッと音を立て開き白銀の髪をした少女が顔を覗かせる。その少女にはミナも見覚えがある。


「王女…レーナ…?」


でも、なんで目が充血してるの?


レーナは昨晩リズの屋敷にいきなり来て一晩中泣いていた為、本来なら可愛らしいその容姿は些か繊細さを欠いている。


…公爵家で何が起きてるんだろう。


「傾国の魔女…生きてたのね。ま、良かったわ。これ以上…誰にも死んで欲しくないですから」


レーナの言葉にミナは首を傾げる。

一年前は自分を嫌ってたハズだ。


王宮で誰か死んだのかなー。

マズイ時期に来ちゃったかも。


「レーナ様。夜はパーティーに出席するのでしょう?そろそろ泣き止まないとファンの方々が心配してしまいますわ」

「…そうですね。皆に心配をかけるわけにはいきません。ありがとう、リズ」


王女は少し何か吹っ切ったようだが寂しげに呟いた言葉はミナにとって無視できるものではなかった。


「できれば…リュートにも参加して欲しかったです」


…む。


まるで恋人の名前を呼ぶかのようにレーナがリュートの名前を口にする。


…リュート、まさか王女と?


少しだけ真剣に考えたけど、そんなハズない。と馬鹿な考えを一蹴する。


「はぁ…きっとリュートも来てくれますよ」


私が出席するならリュートも来るだろう。ていうか引っ張ってく。


「そうですわ、レーナ様。リュート様ですもの。きっと見守っててくれますわ」

「…そうね。リュート様ですからどこからでも来てくれそうです」


寂しげな笑顔でリズとレーナが笑う。


…なんだろう。何かおかしい!


さっきから会話に違和感を感じずにはいられない。けど、その違和感が何なのかがミナにはわからなかった。


しかし次の瞬間、その疑問が氷解する事になる。


「三人供、リュートはいろいろな物を残して死んでいった。なら、それを無駄にしないように生きるのが残された者のすべき事だろう」


黙って成り行きを見守ってた公爵がとんでもない事を言い出した。


へ…?リュートが死んだ…?

…あ、あぁ、そういう事ね。


思い返して見れば私とリュートは魔獸に襲われ本気で死にかけながらなんとか逃げて来たんだ。

もし、あの後に半壊した家と戦いの後を見たら死んだと思われて当然かもしれない。


「そうですわね、お父様…」

「ニーズヘッグ公…私はリュートの分まで強く生きます!」


あぁもう、そんなゆっくりと考えてる場合じゃない!ちゃんと言わないとどんどん誤解されちゃう!


「あ、あの…!」


私が声をあげると公爵が、いいんだよ。と言わんばかりに肩に手を置いて微笑んできた。

だから…違うの!


「リュート…ちゃんと生きてます!」

「…む?」

「ふぇ?」

「えーと…?」


上からニーズヘッグ公爵、レーナ王女、リズの反応。いきなり言われて頭が回ってないみたい。


そりゃ死んだハズの人が生きてるとか言われてもね…。でもリュートはまだ生きてる。


ミナの発言によって固まる公爵家の一室。


そして、全員の考えが纏まらないまま沈黙を打ち破ったのは屋敷に務める侍女であった。


「お話の最中に失礼します。ニーズヘッグ様、いつもの商人様が訪ねて来てますが、ご案内してよろしいですか?」






多分、リュートが来たんだと思うけど…レーナ王女とリズさんのあの反応…嫌な予感がする…。






次回からリュートが非常に大変そうです。


女性陣だけではなく男にも目をつけられていきます(笑)


あぁ、やっとコメディー分が増えていきそうだ…。

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