三十話 100と旅する道中での出来事
道すがらの会話になります。
この後の展開にちょっと絡んでくる話ではありますが、中身薄い…orz
夕焼けの平原を2つの影が走っていく。
一つはオレの乗る馬。もう一つはミナを乗せたケルベロス。
オレの馬は無理のない程度に速度を出させているのにも関わらず彼女の乗るケルベロスは小走りをしている程度にしか感じてないようで機嫌よさそうな顔で気持ちよさそうにかけている。
流石は魔獣といったところか。基本値からして馬とは比べ物にならない。
この調子で走れば夜中には王都に到着するだろう。
…ま、そんな急ぐこともないし今日はもういいか。
「ミナー!今日はこの辺で火を焚いて寝よう!」
走りながらの為少し大きめの声をあげると彼女は手を振って返してくれそのままケルベロスを減速させてくれる。
「ふぅ…今日は疲れただろう?ゆっくり休んでくれ。明日も走ってもらわなきゃいけないから」
乗ってきた馬の頬を撫でる。まだいけそうではあるけど、明らかにのんびり馬車を引っ張ってきた時よりは疲労しているようだ。
…隣に魔獣が走っているって緊張感もありそうだけどなぁ。
ちなみに馬車は街の組合に帰してきて馬だけそのまま借りてきた形になる。
ミナがケルベロスに乗るなら荷物だってそんな多い訳ではないし、のんびり走る必要もないため、邪魔になるだけだと判断した為だ。
ま、置いてきて良かったな。いつもの半分の期間で王都にいけそうだ。
「リュート。火、付けようか?」
馬から下りて考え事をしてるとケルベロスを連れたミナが駆け寄ってそんな事を言ってきた。
何もない空中に炎が揺らぐ。
オレが火を焚こうとしたらミナがぽんっと作り出した火球だ。物自体はただのファイアボールだから不思議と消える事がなくその場に留まり続けてる。
「…本当なんでもありっすね、ミナさん」
「この世界の人たちは魔法の形を決めすぎなのよ」
いや、火球っていったらもう飛ばすしかないじゃん。一托じゃん。
まさか空中に留めるだなんて考えない。
「ていうか、ずっと魔力消費してるんだろう?これ。燃費悪すぎる」
「まぁね。私からしたら微々たるものだけど」
一般的に使えないような魔法が普及なんてするものか。
彼女の発想は彼女が持つ魔力故の物だろう。
ミナは、ふぁ。と欠伸をしながら丸まってるケルベロスにもたれかかる
ケルベロスもあまり気にしてないようだ。
…本当に魔獣か、こいつ。
見た目は本当に首が増えてるだけの犬でしかない。
本当に警戒する必要ないのかもなぁ…この犬は。ミナほどとはいかなくてもケルベロス以上の魔力を持った人は歴代にいくらかいるハズだ。
王都に着いたらその資料を集めてみるのもいいかもしれない。
オレの能力、ケルベロス…調べるのはこの二つか。
後は城にいってミスリルを渡してお金を受け取って…余ったミスリルは市にでも出すか。
次は急いで王都から出る事もないだろうから、買い叩かれる事もないだろう。
そして王都でお金を貯めたら…家族を探さなきゃなぁ。
とはいっても手がかりなんてないし、どうするべきか…。
「考え事かな?」
「ん、これからどうする事を頭の中で整理」
ミナがこっちにきて隣に座る。その目は少し眠そうだ。
馬車と違ってケルベロスに乗るのは馬に乗ってるのとそんなに変わらないハズだ。慣れてない彼女にとって体力の消耗は大きいだろう。
「寝ていいぞ。毛布は馬の横にくくりつけてあるから」
「んー…もうちょっと話す」
眠そうな目を擦りながらミナは口を開く。
「王都か…久しぶりだね。一ヶ月ぶりくらい?」
「そんなもんだな…。これだけ王都から離れてたのも久しぶりか」
商売のほとんどの売りは王都で行う為に一ヶ月離れているのは珍しい。
つまり仕事を一ヶ月してないって事だし。
リズ寂しがってるだろうなぁ…。戻ったらレーナ様にも顔を出さないと。王都による約束してたしな。
その二人は現在、部屋でリュートの死を悲しんでいるとは知らずに呑気な事を考える。
王都では、傾国の魔女と救国の剣王はすでに死亡と同じ扱いを受けており魔王を倒す希望は聖者パーティだけになっている。
まさか、その二人が一緒に行動しているとは誰も予想していないし、すごい騒ぎになるのだが今の彼と彼女にはそんな事知る術もない。
「王都かぁ…ちゃんと行くのは初めてだなぁ…」
「そっか。召還されてすぐに城壊して飛び出したんだっけ?」
「う…その話はいいじゃない。一ヶ月くらいはいたけどね。流石に言葉が分からないのは困るもの」
文字は覚える前に飛び出したからずっとパスタ食べることになったけど。と彼女は苦笑する。
てことは他の勇者は一応文字も覚えてると思っていいのか。
ミナはわりと深く考えないで突っ切る事があるからな…。
「…なんか失礼な事考えてない?」
「や、そんな事はない。勇敢だなって思っただけさ。そういえば魔王とは戦ったのか?」
「うん、戦ったわよ。逃げられたけど」
「逃げられた…?」
魔王が逃げるって…どんな状況だ?
「今はもう興味ないからどうでもいいけど、当時は悔しかったわよ。倒したら帰れる、って思ってたから…」
「倒したら…帰れる?」
「うん。魔王を倒したら元の世界に帰してくれるって条件で旅に出たから」
…そんな話聞いたことない。異世界なんて星の数ほどある。それなのに、どうやってミナのいた世界に帰そうと言うのか。
異世界に飛ばすことはできる…けど、そこがどこかなんてわからないハズだ。
「どうしたの、リュート?難しい顔しちゃって」
「いや…なんだかきな臭くなってきたなぁ、と思ってさ」
ミナは、ん?と首を傾げてる。この話はミナには言わない方がいいだろう。
まったく…調べることが一つ増えたな。今度の王都での滞在時間は長そうだ…。
住むトコ…どうしよう。
もちろん、そんな金も無い。
「うにゅ…リュー…ト…?」
「ん、おはよう。ミナ」
「む…私、いつの間にか寝てた?」
彼女はあの後、すぐに寝息をたててた。まぁ、疲れてたんだろう。変に今日に疲れを残すワケにもいかないしな。
「ま、気にするな。ほら、朝ごはん。昨日の夜食べてないだろ?」
「うん、ありがと」
そう、考えてみれば昨日はご飯を用意するのを忘れていた。一人だと元々食べてなかったからなぁ…。
今までは馬車で移動だったからずっと暇つぶしに何か摘んでたし。
ミナは昨日から出っ放しの火球であぶった干し肉を美味しそうに齧っている。
ただの干し肉なんだけど、よほど肉に飢えていたんだな…。
「明後日には王都につくのかな?」
「いや…予想以上に早く走ってきたから今日の夕方くらいにはつけると思うよ」
そっか。とミナは背筋を伸ばす。
きっと彼女も疲れてるんだろうなぁ…。今日で移動が終わって本当に良かった。
「よし、んじゃ、そろそろいくよ、ミナ」
「うん。今日もよろしくね、ケルロン」
彼女の呼びかけにケルベロスは嬉しそうにワフッ!と吠えた。
次回から王都編になりますー。
リズとレーナの再出演…彼女達も魅力的に写るように書きたいです。