三話 100人目の勇者
やっと本編です。
拙い文章ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。
「リュート!こっちだ!すげぇよ、予想通りじゃねぇか!」
金色の髪の若い青年が興奮したように話しかけてくる。
「あぁ、このあたりは魔物が出るようになって数十年。絶対にあると思ったよ」
予想通りの成果にオレ自身も喜びを隠せず口元がつり上がる。
オレの名前はリュート。
武具の材料を扱う商人だ。
ただしオレの扱う材料は供給が余りにも少ない。
魔法金属や魔獣の一部等、普通のギルドを組んだ冒険者でさえも滅多に手に出来ない物を扱っている。
正直、売れない事も多いけど単価は高い。
他に変わった所と言えば……髪の色が灰色だって事くらいか。この世界ではわりと珍しい。
「さて、ここまで案内したんだ。契約通り、オレの見つけた物は持てるだけ独占させてもらうよ」
「あぁ、好きなだけ持って行ってくれ!これだけのミスリル原石の山は初めて見たよ……」
二人のいる周囲の壁はうっすらと輝いている。
ミスリルは知名度こそ高いが市場に出回る事は少ない。
年に二度、王国の管理するミスリル鉱山に発掘隊が組まれるが、半数が参加税として王国に接収される上、取れる量もそれほど多くはない。
冒険者達が稀に鉱脈を見つけるが魔獣の嫌がる魔力を放出し続けるミスリルは冒険者達に大人気な為、ほとんど自分達の装備になるだけだ。
そんな中、お得意様からの依頼にオレは旧鉱山に目をつけた。
昔は鉱石や少量のミスリルが取れたらしいが数十年前の魔王との戦争により魔物や魔獣が住み着いてしまい閉鎖された旧セラ鉱山。
商人であれば普通は近寄らない魔物の巣窟だが、生憎オレは騎士の家系の生まれだった。
小さい頃より人や魔物と戦う訓練を積み剣を学んだオレは自身の強さを利用して冒険者しか立ち入らない危険地域に自ら商品を仕入れに行く。
今回は念のため商人仲間に声をかけ十二人程のパーティーでミスリルを探しにきた。
結果は上々。近年希に見るミスリルを発見できた。
さて、これだけのミスリル鉱山なら依頼品もあると思うんだが。
更に奥に進んでいると後ろから屈強な体をした白髪の男に話しかけてくる。
「よぉ、リュート!お前強いなぁ!どうだ?うちのギルド入らないか?」
一緒にきた十二人のうち自分以外の商人は三名。
後はギルドから雇った傭兵である。彼はそのギルドのリーダーであるエンブス。
オレは歩きながらエンブスに答える。
「ありがたい話だがやめとくよ。気楽に商人やってる方がオレには合ってる」
お前がいれば心強いんだがなぁ。とエンブスは嘆く。
エンブスのギルドは商人三人がお金を出し合い雇っただけあってかなりの大手である。
そんな中でも選りすぐりの八人にきて貰ったようだ。
その強さはかなりのもので途中遭遇した魔物を見事な連携で圧倒するほどだった。
「一人で魔物の群れに突っ込んだ時は肝を冷やしたが、慌てて助けようとしたら一瞬で五体もいる魔物を倒してるんだもんなぁ。まったく商人の技じゃねぇぜ」
そんなエンブスにこうまで褒められるのは正直嬉しい。
魔法が使えないうえに商人と聞き前情報で強いとは聞いていたが全くアテにしていなかった青年が剣だけで自分達八人と同じ様な戦果をあげている姿に戦慄を隠せなかった。しかもリュートの使う剣技にエンブスは見覚えがあった。
魔法が使えないうえに商人と言われたら大体の人は戦力としてアテにはしない。けれど、オレは剣だけで他の人に勝るとも劣らない成果を挙げてる自信はある。
何故、騎士のオレはそこまで剣を扱えるか?それには一つの理由がある。
隠すつもりもないけど、自分から話す事でもない。が、エンブスはその理由に気づいたみたいで小声になって耳打ちをしてくる。
「なぁ、話したくなかったらいいんだけどよ……お前の技、王宮剣術だろ?」
「あー、バレたか。いやな、騎士の家系なんだよ、うち」
「いや、おかしいだろ。なんで商人やってるんだ!?」
「金が欲しかったからさ!」
自分でも最高の笑顔で言ったと思う。流石のエンブスも絶句している。
「ま、商人になるって言ったら勘当されてな。今じゃ名字無しの商人さ」
王宮剣術を使う騎士の家系という事はそこそこの規模のだ。実際にウチはかなり有名な家系である。
その家名を捨ててまで商人となったオレを大体の人は理解し難いみたいだ。
「お、エンブス!これだよ、オレの本命は!」
しばらく歩いただろうか。その場所には明らかに他の場所よりも輝きを放つ鉱石があった。
「こ、これは……まさかミスリルの結晶?天然の結晶を見るのは初めてだ……」
ミスリルは大体は鉱物が魔力を帯びて変化する金属だ。
中にはミスリル原石自体が結合し大量の魔力を浴びて天然の結晶ができる。
普通のミスリルよりも硬度、魔力、美しさを大きく上回るソレは破格の値がつくが金があれば買えるものでもない。
ミスリルは探せばまだあるが結晶ともなると市場は愚か発見されることですら珍しい。
「とある貴族様が娘への誕生日にこれでアクセサリーを作りたいんだとさ」
全く、お偉いさんの考えることはすごい。
でも、一欠片でも見つかればいいと思ったが……わりとあるな。
袋に入りきらなさそうだ。
「よし、オレはこれを袋に入るだけ貰うよ。後はエンブス達と商人で適当にやってくれ」
「おい!?余った結晶とか貰っていいのか!?」
エンブスが驚いた声をあげるが一人ではそんな大量には持てない。
「構わないよ。昔はミスリルが採掘されてたらしいし魔獣が出るなら魔力も充満してる。結晶があるとは思ってたが、これだけの量があるとは思わなかったからな。大儲けさ」
ミスリルの結晶は巨大な氷柱のように天井から生えている。
剣にすれば10本は作れるだろう。
これを一人で持ち帰るのは無茶な話だ。
オレはミスリルの結晶を腰にある剣を抜き切り落とす。
「おいおい……今気づいたが、その剣もミスリルの結晶じゃねぇのか?」
オレの腰には3本の剣が架かっているがいずれもミスリルの結晶で作られた剣だ。
「頑丈だし魔物相手に良く効くからなー。ま、今回一本折れちまったけど」
耐久性からミスリル結晶剣を好んで使うが、それでもたまに折れる。その為、数本持ち歩いている。
実戦で武器無しなんて想像したくもないからな。
「なんて贅沢な装備だよ……」
エンブスが呆れてため息をつく。
商会に所属こそしているが一人で危険地域に行き高額な商品を仕入れるオレはギルドやギルドから物資を仕入れる商人とは桁違いに稼いでいる。
稼がなければならなかった昔はともかく今は取って来たものを自分で使える上、今回みたいなレアアイテムの依頼は高額を一人で受け取れる為、生き残る為に装備やアイテムへの投資は惜しまない。
「ほら、余りだ。商人連中と分けるなり隠して持ち帰るなり好きにしな」
袋には7割ほどの結晶を積め終わった。残りの結晶をエンブスに投げ渡す。
「おっと!ふむ……商人と相談させてもらおう。これだけのものをこっそり持ち帰る度胸、オレには……リュート!!」
エンブスが慌てて叫ぶ。
「リュート……魔獣だ」
エンブスの視線の先には頭が三つあり巨大な体躯を持つ犬のような魔獣がいた。
向こうもこちらに気づいているようだが距離があるため急に襲いかかってくるような事はなかった。
「……食い止める。他の人たちを呼んできてくれ」
リュートの声にエンブスは頷くと来た道を走って戻っていった。
魔物と魔獣は元は同じ魔力を帯びて生物である。
魔物にもいろいろいるが強大な力を持ち人類に大して害を成す魔物は魔獣と呼ばれる。
ケルベロス……。目の前にいるのはとても特徴的でわかりやすく強力な魔獣だ
リュートはケルベロスより凶悪な魔物を倒して事もあるが今回は相性が悪い。
ケルベロスは接近戦も強いが何より三つの頭から繰り出されるブレスが厄介な魔物だ。
援護もなく一本道の洞窟内では近寄れもしないだろう。
ゆらりと右側の首が持ち上がり口を開ける。
ズドォン!と大きな音とともにケルベロスの口からは電撃が放たれ咄嗟にガードしたリュートの腕を貫く。
「っ!びっくりしたな……龍毛で編まれた籠手じゃなきゃしばらく動かなくなってたぞ」
右腕をぷらぷらさせる。少し痺れたがオレの防具は軽くて魔力をほとんど通さないドラゴンの毛皮で編まれた物で魔獣であろうと魔法でダメージを与えるのは難しい。
だけど遠距離から一方的に好き放題されたら持たないかもな……。
洞窟内を見渡すと来たときには気がつかなかった横道があった。
ケルベロスを見ると今度は真ん中の頭の口が空いている。
「それはまずい!!」
慌てて横道に逃げ込むと入口付近を炎の波が通り過ぎてく。
「ハァ……狭いとこの戦いじゃ強えーなぁ…ケルベロス」
横道の先は小部屋になっていた。
オレはため息をついたまま立ち上がると、ふと変な物があるのに気づく
「これは……召喚ゲート?」
昔、王宮で見たことがある。
数十年に一度、魔王が現れた時に異世界の勇者を召喚する為の魔術門。
え?異世界から勇者を呼ぶ門がなんであんの??
頭が追いつかない。自分が勇者?いやいや、ここは異世界じゃない。あるはずがない。行き先は恐らく王宮の儀式場だろう。
「ガルルルル」
考えていたらいつのまにか入口にケルベロスが立っている。
……真ん中の頭が口をあけて。
「炎はまずいって!?ああ、もう、とりあえず考えるのは後で逃げる!」
せっかくケルベロスの方から接近して倒すチャンスだったのに!
不意をつかれて召喚ゲートへ飛び込んで行った。
行き先は恐らく王宮!よくわからないが焼かれるよりマシだ!
体が浮遊感に包まれ視界が真っ白に染まる。
あぁ、召喚される人ってこんな風に呼ばれるのか。とか思っていると急に重力がのし掛かる。
「痛っ!」
体制を整えきれず前のめりに転ぶと目の前に手が差しされた。
『来てくださってありがとうございます。私は門を開く者、セシアと申します』
手を取り顔をあげるとそこには……召喚者であろう女性に、第一王女レーナ様、多数の近衛騎士……それに驚きの表情を浮かべる近衛騎士団長である兄の姿があった。
『貴方は100人目の勇者として召喚させて頂きました。私たちは貴方を歓迎します』
召喚者はすごく綺麗な笑顔を浮かべてそんな事を言っていた。
ミスリルや魔獣の設定はこの小説の中の物です。とは言えよくあるような設定ですが。
誤字脱字あれば指摘して下さると嬉しいです。