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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
二章 魔女の復活
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二十九話 100に頭突く想い

投稿に結構日が空いてしまいました…。


今回の話しで、やっと二十一話のラストに追いついた形になります。


そういえば、感想、ユーザー以外は送れなくなってたんですね。

何が変わるわけでもないですが一応制限解除してみました。

「遅い」

「ミナの方がよほど長風呂だって」


風呂から上がるといきなりミナに怒られた。

いつもはすぐ終わる風呂だが流石に今日は鉱山に潜って汗だくだった為、念入りに体を流した結果だ。


ちなみに宿屋は意外とあっさり泊まらせてくれた。ケルベロスは外に繋いである。

ミナが自分は勇者で能力は魔獣を従える事だと嘘をついたら諸手を挙げて歓迎してくれたのだ。

お陰で少しいい部屋だったりする。


「この世界の人って本当に勇者が好きね」

「あぁ…だから勇者の事で嘘つかれるとは思ってもなかっただろうねぇ…」


まぁ、オレは別にそこまで勇者に興味はないけど、それでも思う所くらいはある。


「別にいいじゃない。そんなことより、ほら、リュート、ちょっとこっちきて」

「こっちって…」

「こ・こ!」


ミナは自分の寝る予定のベッドの横をポンポン手で叩いてる。


疑われるのも嫌だけど、これはもう少し警戒するべきなんじゃないかなぁ…。

まぁ…行くオレも駄目だな…。


ミナの傍に近寄りベッドに座る。するとふわっとどこからか甘い香りが漂ってきた。


「これ…ミナ…?」

「ん。気づいてくれた?」


甘い香りがどこから漂ってきてるか。心当たりは一つしかない。


「ミナ…良い匂いする」

「うっ…面と向かって言われると流石に困る」


どうしろってんだ。


「ていうか、どうやったんだ?これ」

「んー、どうやったっていうか…。シャボン!」


彼女が人差し指を立てて詠唱するとそこに小さな泡が少しだけ沸き立つ。

原理はよくわからないが虹色に反射していて綺麗だ。


「…また珍妙な魔法を」

「珍妙とは何よ。私が元いた世界ではこれで体を洗ってたのよ。普通に水で流すよりも綺麗になるんだから」

「…また珍妙な魔法を」

「ねぇ、なんで二回言ったのかな?」


笑顔だ。この笑顔はすごく怒ってる。


「まぁ、そんなに怒るな…にしても…ミナ、もう少し警戒した方がいいんじゃないか?」

「警戒?」


信用してくれるのは嬉しいけど万が一が起きないとも限らない。

ミナは少し童顔だけど十分年相応に可愛いし、何より…彼女は完全な黒髪。


勇者に対する憧れは、多少なりとも誰でも持ってる。

だから、勇者の子孫…ましてや先祖帰りを起こしたオレみたいな髪の色が違うヤツは、注目されやすい。

女性であれば、それだけで貴族に嫁げる事だって珍しくない。

そして、その感情は、この世界の色…つまり白や金と離れるほど強くなる。

ミナはその真逆…オレの目から見ても魅力的だ。

だからこそ…。


「襲うぞ?」

「…え?……ふあ!?」


ミナは一瞬何を言われたかわからなかったようだけど慌ててベッドの端まで後ずさる。


うん、そこまで大袈裟な反応されると、ちょっと傷つくなー。


「だから…ちゃんと警戒してくれな?なんなら今度から部屋も二つにしたっていいし…」


そこまで言った所で彼女は顔を赤くしてはいるが、キツイ視線で口を開く。


「じゃあ、襲え」


……はい?


「えーと…ミナさん?」

「絶対にリュートを警戒なんてしてやんない。だから好きにしたら?」


ミナはそういうと本当に警戒してないのか人が腰掛けてる後ろに寝転がる。


…完全にリラックスしてやがるな、コイツ。

本当に襲う事もできずに頭を抱えてるとミナから止めの一撃が飛んでくる。


「へたれ」

「そこまで言うか!?」


ていうか初めて言われた気がする。

普段は公爵令嬢を陥落させたとか言われてるからな…。


「襲われないってわかってやってるな…」

「ん。まぁね。今まで大丈夫だったんだから。安心して。他の人の傍でこんなに無警戒じゃないわ」

「それなら、まぁ、いいんだが…」


一応、オレ限定らしい。まぁ、悪い気は…ていうか素直に嬉しい。


「だけど…リュートを警戒するくらいなら好きにして貰ったほうがまだマシ」

「いや、言ってくれるのは嬉しいけど、それは度が過ぎてるだろ」

「んー、だってさ」


よいしょ。と体を起こし座り直して彼女は続ける。


「一人で暮らしててさ。学校と仕事で忙しくて友達もいなかったんだよ?そりゃちょっとお喋りするくらいの知り合いはいたけど…」

「聞いてると痛い子に聞こえるぞ」「うっさい。実際に生活が大変だったのー。で、そんな中、異世界に飛ばされて魔王を倒せ、と。ていうか、何なのよ、この傍迷惑な勇者システム」


オレも漠然とそういう物だと思ってたけど、自分が呼び出されてよくわかった。このシステム、呼び出される方はいい迷惑だ。王宮はどう対処してんだ?


「そして一年後。最悪な状況に陥ってるトコを一人のへたれに助けられたの」

「へたれ言うな」

「その人はお金が大好きで融通きかないし危険に自ら飛び込む考えなしだけど…私、その人だけは信用できるの」


…これ以上ないくらいに誉められてるはずなのに、なんか悪口が混じってる気がするのはなんでだろう。


「誰も信用できないのって寂しいのよ?」


…それは痛いほどによくわかる。

家を出てランディと会うまではオレもそうだった。


「はぁ…精々その信用に見合う様に心がけるよ…」

「ありがと、ご主人様」

「ごしゅっ!?」


綺麗な笑顔でいきなり何を言い出すんだ、コイツ。


「ほらほら、私、リュートの奴隷だし」

「そういやそんな話もあったな…」


ミナが笑って首輪を見せてくる。

王都に戻れば取る事もできるだろうから、その首輪は遠からずなくなるだろう。



「びっくりした?」

「ま、な。そんな事言う性格してないくせに」

「自分でももう二度と言わないと思う」


可愛いかったが心臓に悪すぎる。


「ま、そういうのは好きな人にとっておきな」


そういうと彼女はすごく驚いていた。

そして数秒かけた後にゆっくり近づいてきて…オレは胸ぐらを掴まれる。


「ね、リュート。好きな人に…って、どういう意味かな?」


いや、笑顔のわりに胸ぐらを掴む手にすごい力入ってんすけど。

深い意味はなかったけどそれを言って許して貰えるとも思えない。


「えーと…ミナさん?ちょっと落ち着いて…」

「まさか私が誰に恋い焦がれてるかわからないんですか?」


何故敬語。


「いや、大体の予想はつくけど間違ってたら恥ずかしいから…」


ただの自信過剰だったりしたらやるせなさ過ぎる。


「そう、あのね…」


今までの笑顔から一転真剣な表情になる。

そして思いっきり自分の額をオレの額にぶつけてくる。


…要は頭突きだ。

ちょっと洒落にならないくらい痛い。


ミナを見ると涙目になっている。


頭突かれた衝撃でベッドに押し倒されたけど額はくっついたままだ。

お互いの息が触れるほどに距離が近く、今更ながら失言だったかと思う。


「痛っ……散々生活に苦労して友達もいなくて…挙げ句に異世界で魔王を倒せって言われて負けて誘拐されて…奴隷になった私に、自由も生活もくれて…一緒に死のうとまでしてくれて…それから…えっと、声も足もくれた。そんな人に惚れない訳はないじゃない!」


いや、まぁ、手や足についてはよくわからないし、オレにとっては気に入った子を家に招待しただけだが彼女からみたらそうなるか…。


「好かれてるのは…気づいてた」

「だったら好きな人にとか言うな」

「ん。ごめん」


ボスッと音がするほど強めに拳を叩きつけられたがオレには当たらず枕に突き刺さった。外してくれたみたいだ。


「…もう寝る」


一応許してはくれたみたいだけど流石にまだ拗ねてるみたいだ。


これは明日くらいにご機嫌取りでもした方がいいかな。


幸いにも宿屋に入る前に、鉱山で取れたミスリルを一袋売ってきた為、お金はある。

今回の宿代もそこから出した物だしな。


よし、明日は街を出る前に少しミナとお店でも回るか。

そうと決めたらオレも早めに寝て明日に備えよう。


「おやすみ、ミナ。オレも自分のベッドで寝るよ。また明日…」

「檻」


ガシャーンと甲高い音が周囲に響く。


人の就寝の挨拶に割り込んで何を詠唱しやがった。


回りを見渡してみると四方を細い鉄の棒らしき物で囲われており丁寧に天井までついてる…何、この牢屋。


牢屋はオレとミナがいるベッドをぐるっと囲んでおり当然抜ける隙間なんてない。


「ミナさん…?えっと…これはなんですか?」

「寝る」

「いや、オレも寝ようと思ってな…」

「寝れば?」


…一緒にこのベッドで寝れとでも言ってるのか、この子は。


「魔剣で斬れる?この牢屋」

「斬れるわよ。魔力なら全部斬るから。好きにしたら?」


なら好きにできる雰囲気を作って欲しいです。


はぁ…選択肢ねぇよなぁ…また一緒のベッドで寝るのか。


思い返してみたらミナと泊まる日は毎回同じベッドな気がする。

これってあんまりよくないんじゃないかなぁ…。


とは思うが檻を斬るわけにもいかず今日も一緒に寝る事になった…。










オレが朝起きた時にはミナはまだ寝ていた。

あの後も随分寝付けなかったみたいだし、今起こしたとこで睡眠不足だろう。

一応馬車に乗れば寝る時間は幾らでもあるとはいえ、無理に起こす必要もないワケで…オレは一人でこれからの食料等を買ってきた。


で、今宿の前に来たんだが…そこにはケルベロスに向かって風の魔法を使ってる少女がいた。しかも何故か子供に囲まれている。


「何やってるんだ…?」

「あ、リュート。おかえりなさい。お買い物?」


オレの両手にぶら下げられた袋を見てミナが聞いてきた。


「あぁ。王都までは2~3日かかるからな。その間の食料」

「そっか。ありがと。私はこの子を洗ってたの」

「…洗って?」


ケルベロスを見ると確かに昨日よりも毛皮が綺麗になってるし砂や泥も見当たらない。


「王都までケルロンに乗って行こうかなって思ったんだけどちょっと汚れすぎてたから昨日のシャボンで洗って見たの」


確かに獸独特の臭いがほとんどしない。


シャボンすごいな…。

その前にケルベロスに乗って移動しようって発想もすごいけど。


「で、なんで風の魔法なんかケルロンに使ってるんだ?」

「お水いっぱいかけたんだから乾かさないと風邪引いちゃうじゃない」


少なくともオレは魔獸が風邪引いたなんて話聞いたことないが。

とはいえ見たところケルロンも風に吹かれて気持ちよさそうだしいいか…。


にしてもミナの機嫌はすっかり直ってるみたいだ。


これなら誘ったらすぐに承諾してもらえそうだなぁ。


「ミナ、出る時間まで少し余裕あるしちょっと買い物いかないか?」

「ん、いいけど買い忘れ?」


元々ミナと一緒に来て買おうと思ってたけど、そこは、まぁそんなトコだ。と適当に濁す。


そして彼女を連れてった場所は…小さな服屋。


「…なんで洋服?」

「ミナ、一着しか持ってないだろう?他にもあった方がよくないか?」

「一応、毎日洗ってる…」


その度にローブだけ羽織って歩かれるオレの身にもなれ。

一応魔法で即効乾燥させてるけど…。


「ま、いいじゃないか。服は嫌かな?」

「そんな事ないけど…これが気に入ってるっていうか…王都に戻ってからゆっくり決めよ?」


うーん、まぁ、確かにそれでもいいんだけど…ミスリルも大分安く買い叩かれたから言うほどの余裕はないし。


考えながらミナを見ると彼女の視線が一点で止まっている。

そこにあるのは…。


「帽子?」


緑色の大きな帽子。

鍔が大きく上が三角垂になった魔女がよく使ってる帽子だった。


「あ、うん…。この世界にきてすぐにあんな帽子を買って気に入ってたんだけど…誘拐された時に取られちゃったの」


彼女は言いながらもボーッとした表情で帽子を眺めてる。


服を買いに来るつもりだったけど…こりゃ思った以上にいい買い物ができるかな?


隣でミナを待っていると彼女がちらちらこっちを見てくるのがわかる。

言いたいことはわかるけど、ここは彼女の口から聞きたい。


随分悩んでいるんだろう。最悪、こっちで勝手に買ってやるかと思ったけど、彼女がついに口を開く。


「リュート…私、服よりも、この帽子を買って…欲しい…です」


少し困ったような顔で上目遣いでお願いしてくる彼女はとても可愛いかった。














「ありがと、買ってくれて」


黒い髪の少女ミナと灰色の髪の青年リュートが服屋から出てくる。ミナの頭には今、買ったばかりの、緑色の鍔の大きい三角のとんがり帽子が乗っている。


「いいさ、おねだりなんて二回目だからな」

青年の言葉にミナは赤面する。一度目のおねだりは彼女にとってすごく恥ずかしいものなのだ。


「…っ。馬鹿な事言ってないで早く行くわよ」


ミナはリュートの手を取り前を歩き引っ張る。


「ミナから手を握ってくるのも二回目だな」

「あら、私はリュートと手を繋ぐの好きよ?」


彼女にそういって貰えるのはすごく嬉しい。昨日、好意を伝えてくれた後だから尚更だ。


「ミナ、ごめんな」

「ん。気にしないの」


突然の謝罪に彼女は内容をわかってるかのように返してくれる。


「…何がかわかってるか?」

「リュートの言いたい事は大体わかる。昨日の返事くれてない事でしょう?」


図星だ。結局あの後オレは返事もしてないし自分の気持ちを伝えてない。

けど彼女はその理由すらわかっていた。


「リュートがこれから何をやりたいか…ううん、やろうとしてるか…かな?わかってるから、それが終わってからでいい」


…本当に…この子は優しいな。

すぐにでも返事が欲しいだろうに…。そしてオレが悪い返事をしないのもわかってるだろう。


だったら…オレもやらなきゃいけない事は終わらせよう。


「よし…!宿屋に戻って準備でき次第、王都に行こうか」




彼女は声を出さない代わりに手をギュッと握り、こくんっと頷いてくれた。





まるで、まだオレまだ彼女の手を引いて歩いてた頃の様に。






初めて3日投稿感覚空きましたねぇ…。


言い訳になりますが書いてはいたのですが、二回ほど書き直してました。

一回目はリュートがへたれすぎて没。

二回目はミナがヤンデレすぎて没。


一応三回目も半分くらい直して今の形になりますがどうだったでしょうか…orz



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