二十八話 1と仲良し
鉱山後編です。
久しぶりのミナ視点!
なんか書くの難しかった…けど、今日中に書きあがりましたのでよければ読んでください。
「無茶言うな、そんな話聞いた事ねぇよ!?」
「可愛いし、大人しいじゃない。ね?」
もふもふした犬…首が3つあるし、やたら大きいけど犬は犬だろう。
私に擦り寄ってきてるのが、その証拠じゃないかな。
「この子に荷物持ってもらえば楽だし、普通の馬より強いよ?きっと」
「いや、確かにそうだけど…ケルベロスだぞ?」
「うん、だから大丈夫だよ。私、他の子にも会ったことあるもん」
まさか、二匹ともが偶然大人しいって事もないだろう。
「大人しいってケルベロスがか…?オレ、こいつに襲われたぞ?」
「リュートが剣なんか構えてるからだと思うんだけど…動物だって武器持たれたら怖いに決まってるでしょう?」
いや、うーん…と彼は言葉に詰まる。
実際に今、襲ってきてないんだからいいじゃないか。
私達が口論してるとケルベロスがいきなり立ち上がって近づく。
リュートは慌てて逃げようとするけど、それよりも早くケルベロスはリュートに近づいて顔をペロっとした。リュートのきょとんとした顔が面白い。
「ほら、この子もお願いって言ってる」
ケルベロスはリュートの前で尻尾を振ってちょこんと座ってる。以前会った時も懐いてくれたのに、その時はあんまり余裕なくて冷たくあしらっちゃったからなぁ…。
今回、襲ってくるって聞いて残念だったけど、そんな事なくてよかった。
「よくわからないけど、確かに襲ってこないらしいな…なんでだろう…」
「犬と人間は仲良しだもの」
ミナの魔力のせいか?ともリュートは思ったけど、今考えてもどうにもならないから王都に着いてから調べることにする。
「あぁ…わかった、わかった…。確かに荷物もちには便利そうだけど、危なそうだと思ったら斬るからな?」
「…リュートまだそんな事言うんだ」
本当は、リュート嫌い。と言いそうになったけど慌ててその言葉を飲み込む。
多分、私が一番言っちゃいけない言葉だ。
「前にいたウェアウルフは襲ってきたのになぁ…。ケルベロスの方が遥かに格上なのに」
リュートは目をつぶって自分の手を握るとゆっくりと魔剣が生成された。
私が出すほうが早いから私が消すこともできるんじゃないかなーって試してみた結果できたけど、やっぱり剣はもうリュートの物なんだなぁって実感する。
「あれは狼。こっちは犬。当たり前でしょう?」
「…その判断基準がオレにはいまいちわからない」
一応、ケルベロスに襲いかからないかだけ警戒してみたけど、すぐにミスリルをカツンカツンたたき出したからそんな心配もなさそう。
…まぁ、残念ながらリュート以上に信用できる人は私にはいない。
「リュート、私も手伝う」
「んー?じゃぁ、そこらに転がってるミスリルを袋に詰めといて欲しいな。後でどうやって運ぶか考えよう」
床一面に散らばってるミスリル。
さっきまですごく綺麗だったのに、なんだろう。こんなゴミみたく飛び散ってるとすごくありがたみが無い…。
拾ったミスリルは結構な大きさがあるにも関わらず私が持てるくらいに軽い。袋自体は沢山あるけど、一つ一つはそんなに大きく無い為にすぐに一つ目の袋は満杯になってしまった。
んー…この紐でケルベロスの毛皮に結んでそのまま運べないかな?
ケルベロスが怒ったり困った顔したらやめようと思いつつギュッと結んでみたけどケルベロスは大して気にしてなさそうに欠伸をしている。
うん、これなら運ぶのも楽なんじゃないかな?これだけ大きい子だから力も強いハズだし。
「リュートー、ちょっと結んでみたけど、このまま持ち帰れないかなー?」
相変わらずミスリルをカツンカツンしてるリュートに後ろから呼ぶとすぐに振り向いてくれる。
そして、何故か盛大に溜息を吐かれた。
「ミナは本当にケルベロスを魔獣と思ってないね…。ま、いいんじゃないか、これで。コイツもあまり気にしてなさそうだし」
なんだよー。魔獣だからってそんな毛嫌いする事ないじゃない。
魔獣は魔物の中でも人に強い害意があり強力な固体を指すためにリュートが警戒するのは当然なのだが、ミナはケルベロスに関してはまったく警戒心がない。
「ねぇ、リュート…。そんなに、この子、連れてくのが嫌かな…?」
ミナが不安そうな顔でリュートを見上げる。どんなに自分が気に入ってても、それでリュートに迷惑をかけるワケにはいかない。
けど、リュートはそんな彼女の頭をぽんぽんと優しく叩く。
「ま、いいさ。連れて行きたいんだろう?それに、確かに襲ってくる気配もないし…役に立ちそうだ」
頭を触られながらミナは俯く。
リュートが自分の言う事に耳を傾けてくれるのが嬉しい。リュートが我侭を許してくれるのが嬉しい。
元の世界では誰かに我侭を言うだなんてありえなかった為、なんてお礼を言っていいかわからない。
だから…。
「子供扱いするな!」
「だから、いきなり殴ってくるな!?」
照れ隠しにとりあえず殴っておいた。
「さて、リュート。全部、括り付け終わった」
「ん、ありがとうな。まったく…こいつミナ以外には気を許してるわけじゃないんだな…」
あの後、ある程度採掘と袋詰めが終わったリュートもケルベロスに袋を取り付けようとしたけど、ガウゥゥゥと唸られた為、断念した。
うーん、一応、ケルベロスから舐めたりするのに…不用意に体触られるのは嫌なのかなぁ?
ていうか、いい加減、ケルベロスって言いにくい。
「ね、この子に名前つけていいかな?」
「飼い主はミナだ。好きにするといいさ」
「本当!?」
元の世界ではどっちかといえば猫の方が好きだったけど、そんなの飼ってる余裕はなかった。
それで、こっちの世界に来てケルベロスが懐いてくれて、ちょっと犬も好きになってきた。
そして今、この子に名前をつけれるだなんて嬉しくて仕方が無い。
「んーとね…ケルロン」
「…。」
「リュート、なんか言え」
何、今のそんなに駄目?可愛いしわかりやすいじゃん。
「いや…好きにしたらいいんじゃないか…?」
すっごく歯切れ悪い…。
いいよ。好きにしろって言うならこれで行くもん。
「ケルロン、これからよろしくねー」
呼びかけるとケルロンはガウ!と大きな声で返事をしてくれる。
リュートが言うには魔獣は知能が高くて人間の言う事はほとんどわかるそうだ。
「さて、結構時間も経ってるだろうしとりあえず宿まで戻ろう」
…確かに何時間も潜ってたんだろうな。外は多分夕日が沈む暗いじゃないかと思う。
帰り道で魔物と戦いながら帰ったら…もう真っ暗じゃないか。
リュートが帰る準備をしてるとケルロンがその場でくるくる回りだしてガウ!と吼えると来た道とは反対の鉱山の奥へど進んでいく。そして曲がり角でこっちが見えなくなる前にお座りをしてガウゥ!と鳴いた。
「…どうしたんだ?」
「えっと…着いて来いって言ってるんじゃないかな…?」
勘だけど。
「荷物はどうせケルロンが持ってるんだし、着いていってみようよ」
私がケルロンに駆け寄るとリュートも、仕方ないか。といいつつ歩いてきてくれる。
私達が追いつくとケルロンはまた奥に進んで行って見えなくなる前にお座りして待つ。その繰り返しを何回続けたんだろう。
ふいに私の魔法で作った小さな太陽とは違う光が差し込んでくる。
「出口…こんなトコに…」
ケルロンは外に出て今度は伏せてまっていた。ここがゴールって事で良さそうだ。
来る最中一度も魔物に会わなかったお陰で早く外に出れた。多分、入った入り口よりも街に行くには少し遠いけど、ソレを差し引いても十分近道だろう。
だって、外は夕日が落ちきる直前だ。真っ暗には程遠い。
「ね、ケルロン、いい子だよ?」
「…確かにこれは認めなきゃいけないな…。普通に帰ってたら今頃中で戦ってただろうし」
ケルロンも嬉しそうに喉をグルルルゥと鳴らしている。
「入った洞窟の西側なのかな、ここは…。昔、鉱山として使われてた時の見取り図にはなかったから、落盤か何かで新しくできたのかな」
鉱山として使われてたのはすでに数十年前。先代魔王が出現する以前の話だ。
新しい道ができていてもなんら不思議ではない。
「さて、今回のお仕事終了かな?私、役に立った?」
「…悔しいけど、とっても」
やった。と私は小さく喜ぶ。
今まで迷惑かけてただけだったからなぁ。それに今回、ちゃんと役に立ったことで今度からもちゃんと連れてって貰えそうな気がする。
実際にミナの功績は洞窟内での灯りの確保、ケルベロスとの戦闘回避、荷物の運び出し、近道による帰還と多大な物でリュートとしても一人で来るよりも明らかに楽だったであろう事は容易に想像がつく。
「はぁ…わかったよ。ミナ、これからもよろしくな?それと、お前も」
私に続いてケルロンに向き直ってリュートが言うとケルロンもそれに答えるようにガウッ!と鳴いた。確かに、この子って頭いいなぁ…。
「…さて、街に戻るとして問題はケルベロスの事をどうやって説明するかだな」
ちゃんと宿取れるかなぁ。ってリュートは言ってるけど私にとってはそんな事よりも大きな問題がある。
「リュート、ケルロン」
「ん?ケルベロスがどうかしたか?」
「ケ・ル・ロ・ン!」
「…えーと、ケルロン?」
私はこくりと頷く。せっかく私が名前をつけたのに呼ばないだなんて失礼じゃないか。リュートも意味がわかったようで苦笑しながら、わかったわかった、ごめんな?って言ってくれてるのでとりあえず許すことにしよう。
「ほら、リュート、行こう?駄目だったら私とケルロン外で待ってるから買い物だけして野宿でいいじゃない」
ていうか、私はリュートが居てくれれば別に問題ない。
いないと流石に不安だけど。
「ま、そっか…。なるべく泊まれるといいんだけどなぁ…」
これが私の始めての仕入れ。リュートとした一番最初の仕事だった。