二十七話 100と1と3つの首の大きな犬
本編に戻ります。
時系列が前後して非常に分かりにくいことになってるかもしれませんが二十六話よりも数日前の話です。
楽しんで貰えると嬉しいです。
旧セラ鉱山…1ヶ月以上前にミスリル結晶を取りに来て、何の因果か王宮に勇者として召喚された場所。
オレは再びそこに立っていた。隣に黒髪少女を連れて。
「リュート…あっちに煙が見えるんだけど…」
「ん?あぁ、街があるからな」
入口につくなりミナが怪訝な顔して遠くに立ち上る煙を指した。
昔、ここが現役の鉱山だった時に栄えた街…今はその時に培った鍛冶が盛んらしい。
「…普通こういうのって街で準備してからダンジョンに入るものなんじゃないの?」
…あぁ、煙が何か。じゃなくて街に寄らない事を疑問に思ったのか。
「寄ってもいいけどまだ昼過ぎだしお金もないからなぁ。先に鉱山に行って帰りは街で一泊して帰ろう?」
「…お金なら私の使っていいのに。ま、確かに野宿にしてもそこそこゆっくり休めたし休憩はいらないけど。毛布一枚で随分違うものなのね」
…一人旅の頃の野宿はどうしてたのか気になるな。
ミナはとことこ歩き洞窟の前で立ち止まる。
「ね、中に少し大きめの魔力があるけど何かいるの?」
大きめの魔力…?
下位の魔物ならうじゃうじゃいたが魔獸クラスの敵なんて……いた。
「ケルベロスがまだ倒されてないのかな」
一緒に来たエンブスとカリッツォが少し心配だ。
「ケルベロスなら心配ないわね」
「……待て。なんでそうなる」
ケルベロスは魔獸の中でもそこそこ上位にいる。ウェアウルフよりずっと強い。
「ケルベロスって、犬じゃないの?」
こいつすごい。パーティーが全滅してもおかしくない魔獸を犬と言い切った。
「火と水と雷のブレスを吹いて、鎧を着込んだ兵士を鎧ごと真っ二つに切り裂き、気性も荒い魔獸を犬と言うなら犬だな」
見た目以外犬っぽくない。
「…襲ってくるの?」
「もちろん」
ミナは、そっか…。と言って少し落ち込んだ。
…異世界のケルベロスは大人しいのか?
無論、ミナの居た世界にはケルベロスなんていない。
「ミナ、よくわからないけど、そう落ち込むな。早く言って宿でゆっくり休もう?ほら、シャルの実でも買ってさ」
「別に落ち込んでなんか…はぁ、そうね。早く終わらせよ…。リュート、魔剣出すわ」
「ん、頼んだ」
キィィィンと甲高い音が鳴り目の前に黒い柄、白銀の剣が出現し、これを握る。
ミナはこれをオレにくれているので自分でも出せるんだが、慣れてなくて時間がかかる。
「ありがとうな。さ、いこうか」
お礼に頭を撫でると拳を握り出したので慌てて離れる。いや、別に殴られても痛くはないんだけどね?
「ッチ。私も何か武器買おうかしら…」
舌打ちしやがった。
ついでに、その武器は何に使うのか聞きたいけど怖くて聞けない。
「何してるの?早く行くわよ。私が前歩いてもいいけど…いいの?」
「言い訳あるか!?」
魔法使いに前を歩かせるだなんて聞いたことない。まぁ、オレも商人だけどね!!
「日光、追従」
ミナがまたよくわからない言語で詠唱する。
途端に小さな光の玉が上にあがりパァと辺りが照らされた。
「なんて便利な…でも魔力使っていいのか?」
ミナの首にはまだ首輪が付いている。それがある限り彼女の魔力は自然回復はしない。
「使ったうちに入らないわよ、こんなの。無詠唱魔法さえ使わなければ大丈夫」
無詠唱魔法は魔力の消耗が異常に激しいらしく優れた魔法使いでも数発で弾切れになるらしい。
「前はソレばっかり使ってたんだろ?本当に規格外だなぁ…」
「誉め言葉と受け取っておくわ」
ミナは得意気な顔で長い髪をかきあげる。
彼女がトコトコ歩くと上の小さな太陽もふわふわ着いてきてる。
本当に便利だな、おい。
魔法ってここまで自由なものだっけ?
まぁ、異世界の発想なんだろう。
ミナの居た世界では魔法は無かったのに魔法という概念はあるらしい。
実際の魔法を知らなかったからこそ自由な想像ができるんだと思う。
「…リュート。何か来る。小さな魔力が沢山」
…それに加えて敵の魔力を察知する事もできるようだ。
「魔力回復するようになったらオレ、いらないんじゃないか、これ…」
「…?どうしたの、リュート」
ミナが落ち込むオレの顔を覗きこんで首を傾げる。
「いや、なんでもない…ミナは可愛いなぁって、痛っ!?」
言ってる最中に足に痛みが走る。
視線を下ろすとオレの足の上に誰かの足が乗っていた。ていうか、一人しかいないよね。
「リュート、人の話聞いてる?私、敵が来るって言ってるんだけど?」
「痛い、痛い!悪かったから足をどけろ!」
すぐに足はどけてもらえたけどバーカ!とか言われて、ついでに舌もベーッと出される。
そこまで怒らんでも…。
「敵っていっても、この辺のは多分…」
薄暗い奥の道を凝視する。洞窟や鉱山に出る魔物なんて大体決まってるよなぁ…。
バサッバサッと羽ばたく音が聞こえてくる。それも複数。
魔物は突然変異や新種やらが多すぎて名前が付けきれない。
だから大雑把に呼ばれてる。
「コウモリタイプか…」
前、来たときにも戦ったが正直そんなに強くない。ていうか噛まれても、痛い!ってだけだったりする。
「3、4、5、6…数だけはいるな。ミナ、ちょっと下がってろ」
「なんで?」
…魔剣を構え魔物を倒そうとしたら隣には魔剣を両手に一本ずつ持った女の子が立っていた。
「…え?あれ?戦う気?」
「うん?あんまり強くなさそうだし」
えーと…まぁ、こいつらくらいなら大丈夫か…。
「まぁ、いいか。弱いけど攻撃されたら痛いからな。気をつけろ」
はーい。と緩い返事をしてミナは両手に剣を持ち突っ込む。
オレにくれたしっかりと実体のある魔剣は一本だけらしいが、あの靄みたいな影みたいな魔剣は何本召喚できるんだろう…。
とりあえず自分に向かってきた2匹を無造作に切り払う。
ピギャ!と鳴き落ちる様は少し哀れにも思えるけど…。
「一応、害意は満点だしな…」
突っ込んだミナを見てみると意外に剣は使えている。
切り方こそただ振っているだけだが、剣を投げたり弾かれたりしても次々新しいのが召喚され実に厄介そうだ。
「あの子に剣を教えるのもいいかもなぁ」
そんな事を考えていたがあっという間に残りの敵を倒したミナが帰って来た。
「リュート、サボってたな」
彼女はちょっと頬を膨らませて怒っていた。
それから小さな戦闘か何回。前着たときにある程度間引いたせいか、今回の戦闘は楽なものだった。
一度、ゴーレムの大群に襲われた時は流石にミナの魔法を頼ったけどソレ以外はお互いの剣でなんとかなる程度の物。
そして、鉱山も中ほどにかかった辺り…目的の場所に辿りつく。
「すごい…綺麗…」
暗い洞窟でも尚、青白く輝く…壁一面に飾られたミスリル。
前に来た時から少しも量が減っているように見えないのはカリッツォ達だけでは大量に取りきれなかったのだろう。
それに未だケルベロスが徘徊してるとしたら危険極まりないため気軽にこれる場所でもない。
…ケルベロスと遭遇した時は流石にミナの魔法を頼るかぁ。
王都で採掘品を売れば首輪を外す代金くらいにはきっとなる。
そうすればミナの魔法を大幅に制限する事もないから今日少しくらい使ったって問題はないだろう。
「ミスリル…リュートの剣でしか見たことなかったけど…すごく綺麗…」
「あまり採掘できる鉱石じゃないからな。オレが知ってる限りじゃここくらいだよ、これだけ大量に残ってるのは」
国が持ってる鉱山はもうほとんど枯れてるしなぁ…取れてるだけまだマシだが。
「ミナ、もっと奥に行こう。もしかしたら結晶もあるかもしれない」
オレが彼女に手を差し出す。
ミナはちょっと拗ねたようにその手をとってくれた。
「私、もう一人で歩けるんですけど?」
「まぁ、いいじゃないか」
こういうのは雰囲気だ。
彼女の手を引っ張り奥へと進む、以前に結晶を採掘した場所。ケルベロスが居た場所だから警戒はしておくけど、魔力を察知できるミナが反応してないんだから大丈夫だろう。
「ミナ!!」
彼女の名前を呼ぶ。壁どころか天井までもミスリルで飾られた部屋。全てを持ち帰れば一生は遊んで暮らせるだろう。
「…リュートはずるい」
「なんで!?」
ミスリルの壁を見て綺麗だと喜んでたからもっと綺麗なものを見せたくて連れてきたらなんか怒られた。
「私、こっちにきて一年も何してたんだろ…そしてその間もリュートはこんなに楽しい事してたのね?」
「あー…えーと…ごめん?」
なんとなく謝ってみる。確かにこの仕事は命賭け…多分もう一回同じ人生を歩んできたら死ぬ自信がある。けど、まぁ…普通の生活をしてたら得れない感動があるのも確かで…。
綺麗な景色、新しい発見、未開の地域、それらは男の冒険心を十分に刺激するものだ。
商人でやってる人は珍しいかもしれないけど…この世界にいる冒険者の多くは、そんな楽しみの為に命を賭けてるヤツがほとんどだろう。
ミナはクスッと笑ってオレの手を強く握り返してくる。
「私、やっぱりリュートについていろんなトコ行きたい」
「はぁ…心配だけど、もう止めはしないよ…」
止めるだけ無駄だろうしなぁ…。
「ね、持ち帰るにしてもどうするの?これ。ツルハシ?」
「いや、普通のツルハシじゃ硬すぎて採掘できん。前はミスリル結晶剣で叩き斬って持って帰ってたんだけど…魔剣で斬れないものかな」
剣を抜いて鉱石に叩き付けて見るとキィンと高い音がしてミスリルの塊がゴロっと落ちてきた。どうやらいけそうだ。ミナが、剣使い荒いなぁ…とか言ってるけど、とりあえずこの方法しかない。
オレはミスリルに向かって何度も剣を振り下ろして塊を袋に詰めてく。
そんな作業をしばらく繰り返してると座り込んで作業を見てたミナが声をかけてきた。
「ねぇ、リュートぉ」
「うん?」
「一応、言っとくけど…大きい魔力がさっきから近づいて来てて、今、そこの角を曲がったトコにいるから」
…は?
向こうの曲がり角を見てみると、黒いお犬様が顔を出してくる。
ただし、その体躯は3Mを超え首は3つある。
「えーと…一応聞くけど今気づいたのか?それ」
「んーん、ずっと場所はわかってたけど。まぁ、大丈夫かなぁって。でも、ほら、見える前に言っておかないとびっくりするでしょ?」
「このタイミングまで黙ってた事に驚いたよ!?」
慌てて魔剣を構えてケルベロスに対峙する。いや、もっと余裕を持って教えて欲しかった。
ていうか、なんで冷静なんだ、この子。ていうか…。
「いや、せめて立って!?ブレスくるよ!?」
「ん?いや、そんな気配ないし大丈夫じゃないかな?」
は!?
ケルベロスの方をみてみると確かに前回と違いブレスを吹く気配もない。
というか、唸り声すらあげてない。ただこっちの様子をジーッとみているだけだ。
…どういうことだ?
「ほら、ね?ケルベロスなら心配いらないじゃない」
「んな、バカな…」
正直何がかんだかわからないがミナは楽しそうに壁やケルベロスを見て笑っている。
とりあえずオレとしては気が気じゃないんだが…。
そうこうしてるうちにケルベロスはノソノソとこっちに歩き出す。歩くといっても大きさが大きさなので結構早い。
「ミナ、近づかれる前に魔法で…」
「うん、嫌」
…まぁ、予想はしてたけどね。
となると…頼りになるのは剣だけか…。
「召還解除」
「な、ちょ、そんな事できるの!?」
剣を構えた瞬間、オレの手の中から剣が消える。え?これ、オレの剣なんじゃないの?
ミナはミナで人の話を聞かないで、危ないでしょー。なんていいながらこっちをジト目で睨んでくる。
…ケルベロス相手に素手のほうがよほど危ないんですが。
てワケでオレとミナの前には今すっごい大きいわんちゃんがいます。
オレの武器、無し。隣の彼女、やる気無し。どうしようか、これ。ミスリルで殴りかかってみる?剣で斬るのも一苦労な相手に?
そして目の前に来たケルベロスはついに行動をはじめる。
鋭い爪を引っ込め、牙のある口から舌を出し、足を折りたたみ、寝転がって、腹を天井に向け…って、あれ?
隣ではミナがクスクス笑っている。とりあえず何がなんだかわからないけど、これは…。
「ね?これって犬の服従のポーズでしょ?ケルベロスってそんなに凶暴じゃないのよ」
ミナはケルベロスに近づくと無防備なお腹を撫でだす。多分、こいつ以前にオレを襲って来たヤツだと思うんだけど…なんでこんな事になってるんだ?
ミナはヨシヨシと機嫌良さそうにケルベロスを撫で回してるし、ケルベロスもクゥーンとか鳴いて気持ち良さそうにしてる。以前、オレを殺そうとしたヤツとはとても思えない。
そして、オレが戸惑っているとミナはさらにとんでもない事を言い出した。
「リュート、私、この子、連れて行きたい!」
…え?何だろう、この…え?
あらすじちょっと変えてみました。
前の方が良かった等の意見があれば、教えて貰えると嬉しいです。