二十四話 100の能力検証会
少し短いです。
一騒動終わり今回から新章といった感じになります。
これからは、怪我の治ったミナとの旅になります、よろしくお願いします。
「多分、ヒーリングだと思うの。それしか考えられない」
「ヒーリングって…カミナギのだよな?」
あれから少し休憩を挟みつつ町を目指して、やっと到着したのは夕方。
あれ以来ウェアウルフの襲撃もなかったしミナの体力も持たなかった為、予定よりも遅れた到着になった。
すぐに宿をとりお互い泥のように眠り今に至る。
酒場に来て遅い朝食を食べているとミナがオレの勇者としての能力について話出したんだ。
「治癒術じゃ自然回復しない傷は治せないし…多分、私の足と喉はその類いのものだったわ」
実際、ハンスさんが呼んでくれた治癒術師さんには治せなかったしね。とミナは続ける。
ヒーリング…初代勇者パーティーの巫女カミナギが使ったと伝えられるスキル。
治癒術とは根本的にに違いあらゆる怪我や状態異常を即座に治す神の御技と言われてる。
確かにオレの能力がそれならミナの足と喉が治ったのも不思議じゃない…けど…。
「どうして、あの時まで発動しなかったんだろうな?」
「あの時、初めて発動条件を満たしたんだと思う。リュート、いつも手袋してるでしょう?」
確かにいつも剣ダコや傷を隠す為に手袋はしてる。
「リュートの手に直接触れる…とかが発動条件なんじゃないかな。ちょっと試してみましょ」
彼女はそう言うと止める間もなく自分の指先に歯を立てた。
「こら!?…まったく、痛くないのかよ」
「痛いにきまってるじゃない。だから…早く治して?」
そう言って差し出される彼女の右手をオレは溜め息をつきながらギュッと握った。
遅めの朝食が終わり宿屋に戻ったオレ達は特にする事もなくベッドで寛いでいた。
隣のベッドには指に包帯を巻いた少女が一人。
「ひりひりする…」
…まぁ、オレの手を握ったとこで怪我は治らなかったわけです、はい。
「ばかりゅーと…」
「いや、えっと、オレ悪くないと思うんだけど」
「そうだけど…そうなんだけど…!」
ミナは枕をポスンッと殴る。近くにいたらオレが殴られてるんだろうなー。
本当はライフポーションを買ってあげたいけど、家に貨幣を全部置いてきたオレは文無しだったりする。
宿や食事の代金はどうしたかと言うと…情けない事にミナが払ってくれた。
うちに居たときに作ってたマフラーがそこそこの値段で売れていて、そのお金らしい。
絶対に返す…絶対にだ…!
考えてると泣きたくなってくる。
確かに金持ち出す余裕なんかなかったけど、どうして金貨数枚くらい身につけてなかったんだ…!
「ね、リュート。これからどうするの?」
枕への八つ当たりも飽きたのか今度は大事そうに抱きしめている。飴と鞭か。
「商会で馬でも借りて昔の鉱山に行こうと思うんだ。で、悪いけどミナはその間、この町で待ってて…」
「嫌。」
話してる最中に一刀両断された。
「えっと、ミナ…さん?」
「私も行く」
薄々そんな予感はしてたけど…。
「ミナ。君はまだ魔力だって回復しないんだし、今回は馬車もない。今だけを考えれば大丈夫かもしれないけど王都につくまではなるべく…」
「リュート。昨日はゆっくり寝れた?ご飯美味しかった?」
ミナは人の言葉をまた遮って満面の笑みで聞いてきた。
「…あぁ、ありがとう、ミナ」
「私も行っていいかな?」
文無しのオレには頷くしか選択肢はなかった。
「ありがと。でもね…今、私が持ってる分くらいはリュートの好きに使っちゃっていいんだよ?」
…まったく、この子は普段強気な癖に思慮深いというか優しいというか。
だからこそオレはこの言葉に甘えちゃいけない。
「ミナがオレの家に来て初めて稼いだお金だからな。それはミナが自由に使うべきさ」
必要最低限…鉱山から往復する為に必要な食料分は使わせて貰う事になるだろう。
でも、そこまでだ。後は自分でなんとかしよう。
「リュートは強い。強すぎて少しつまらない。私はそこが不服です!」
「なんだそりゃ。ミナだって十分強いじゃないか。声も出ないし歩けない奴隷に睨まれたのなんて初めてだぞ?それにミナが助けてくれなきゃオレは愛しの我が家と最後を共にしてたさ」
「最初から奴隷としてなんか扱ってないくせに。それに、あれは精一杯の強がり。今の私は…全部リュートがくれたもの。それくらいわかる」
リュートとしては気に入った子を家族として迎えようとしただけ…ミナにもそれはわかってるけど、それでもリュートには感謝しても感謝しきれない。
「ね、リュート。なんであんなに剣が使えるのに商人になったの?」
確かにオレの剣術はそこらの近衛騎士を上回る。王宮に勤めてたほうが楽だし権力も名誉もてに入る、けど…。
「お金が必要だったんだよ。途方もない額の」
簡単な返事にも関わらずミナは、そう、大変だったのね。とだけ言って追求はしなかった。
「私…元の世界に帰らなくていいかも」
「家族はいいのか?」
「いるけど…いいの。私、そんなに愛されてなかったみたいだし」
「そっか、大変だったんだな」
真似するな。と睨まれる。
ミナが近い未来どうするのかわからない。
けどこの世界にいるなら会えるだろう。特に彼女は伝説に残るくらいの魔女。居場所はすぐにわかりそうだ。
「悪くないな」
彼女が帰るのは寂しい。できるなら残って貰いたい。
「悪くないでしょ?」
彼女も立ち上がりながら微笑む。
最近のミナはよくオレにも笑いかけてくれるようになった。
「さて、先にお風呂入ってくるね。リュート、前に入らないんで寝たんだから今日は入りなさいよ!」
「そんな事もあったなぁ…」
ミナはすたすた歩いて扉の向こうに姿を消す。
前にここに来た時は部屋がいっぱいだったんだよなぁ…それで、高い部屋を取ったんだ。
流石に一ヶ月経てば落ち着いたらしく部屋はいつもどおり余っていた。
彼女と会ってから一ヶ月…状況は色々変わった。
「とりあえずは…王宮からの依頼をこなして、お金貰って…それからどうするかなぁ」
期間は残り二ヶ月。王都を出る前に受けた依頼。まとまった買取だから金額も多い。何をするにしてもお金はかかるから今は確実なお金が入るのはありがたい。
家族を探さなきゃいけない。新しい家を探さなきゃいけない。魔剣をずっと使って目立つのも嫌だから、これは切り札として…常用の武器も欲しいな。
そして何より…ミナの首輪を外さなくちゃいけない。
これから一緒に行くにしても別れるにしても危険はある。彼女の力がちゃんと機能すれば自身の危険は大きく減るだろう。
考える事に集中してたら隣からふわっと良い香りがしてきた。
「リュート?今度は起きてたね。早く入っておいで」
視線を上げるとミナが長い髪を拭きながら覗き込んできてる。
「…オレ、ミナの髪好きだな」
「な…なっ…!?早く行って来い!!」
蹴られたので素直に風呂に行く事にする。
元気になったものだ。
「検証だって」
「いや、ないとは言い切れないけどないだろう」
風呂を浴びて、さて寝ようって時にミナがまたよくわからない事を言い出した。
「リュートに触れること…これが発動条件の1つに間違いない」
「まぁ、それにはオレも同感だ」
「だったら、色々試してみるしかないじゃない?」
「一緒のベッドで寝るのは問題あるだろう!?」
そう、ミナが同じベッドで寝るといって聞かないんだ。
「前もこの宿屋で一緒に寝た!」
「嘘をつくな!…って、あれ?ちょっと待て…前って確か…」
風呂から上がったら眠くて一番近くにあったベッドで即効寝た気がする。
…そのベッドってミナが寝てなかったか?
「…あー、えーと、ごめん」
「うん、問題ないわ。だから問題ないわよね?」
「それとこれとは話が別だろ!?」
結局、最後まで反論してはいたけどベッドに潜ってくるミナを邪険にはできずに手を繋いで寝る事になった。
一応、二人とも狭いベッドの端に寄ってはいるけど…。
「おやすみなさい、リュート」
繋がれた手には小さく当たる指輪の感触があった。