二十二話 1の剣
19話の後、20話21話の前の話になります。
少し時系列が前後してますが、よろしくお願いします。
天井からズドン…ズドン…と何かが上からぶつかる音が聞こえる。
下から狼の遠吠えが聞こえる。
そんな中、私達は短い口付けを終えた。
「ミナ…声が…!!」
「うん…出た…ね…」
しばらく使っていなかったからか少し喋りにくい。
「あ…あー、リュート。…リュート。…うん、大丈夫。ちゃんと話せる」
少しだけ発声練習をするとすぐに喉の違和感はなくなった。
前と同じように喋れる。
今までまったく声が出なかったのにどうして…?
治りそうだったなんて事もないと思う。昨日まで…いや、さっきまではまったく喉から音が出なかったんだから。
でも、これで…詠唱ができる…。
「リュート…首輪はずしちゃ駄目かな?」
リュートの言う通りなら首輪さえ外せば魔力は少しずつでも回復していく。
魔力が0の今の私じゃ勇者としての能力さえ使えないけど、少しでも回復すれば私の能力…魔剣召喚と下級魔法くらいなら使える。
まだ抗えるなら…リュートと一緒に戦いたい。
「…それは駄目だ。勝手に外したら何があるかわからない。下手をすれば仕掛けられた下級魔法が発動する可能性もある」
…流石に何もしなければ死ぬ状況でも首元でファイアボール発動とかはちょっと嫌だな。
「でもどうして首輪を?」
「…私、実はちょっとすごい魔法使い」
リュートはぽかんとしている。まぁ、私だって突拍子もない事言ってる自覚はあるけど。
「首輪外したら少しずつ魔力回復するでしょう!?そうしたら、私も戦える!リュートと一緒に戦える!」
「そんな雀の涙ほどの魔力でどうするんだよ!?それにミナ…足が使えなくちゃ標的になるだけだ」
うっ…。それを言われるとどうしようもない。魔力が全快した状態の私なら動かなくても殲滅できるだろうけど、下級魔法と魔剣だけでは不可能。せめて足が使えれば状況は………って、あれ?
「えっと…リュート。転んだら支えてね?」
言った後に気づいた。私、すっかりリュートに甘え癖がついてる…。
とりあえず右足に力を入れて体重をかける。
うん、よくわからないけど右足の感覚がちゃんとある。
リュートは心配そうな顔で見てるけど多分大丈夫。立てる…と思う。
ゆっくりと足に力を入れて立ち上がる。久しぶりに動かす足は動き方を忘れてるけど、それでも少しずつ立ち上がる。
「きゃん!!」
「おっと」
バランスを崩したトコをリュートに支えられる。
ポスンッ!
「前々から思ってたんだけど、なんで殴るの!?」
「うるさい」
ただの照れ隠しだなんて言えるかっ。
リュートはため息をつくけど笑ってくれてる。
うん、大丈夫…立てる。
リュートを支えにして完全に立って…リュートから手を話す。
「うん…立てる…」
リュートが驚いてる。私だって理由はわからないけど、これなら希望があるかもしれない。
「リュート。私は戦える。もう少し慣れたら走る事もできると思う」
体が急速に動かし方を思い出してるのがわかる。
「首輪を外したら魔法でリュートの援護もできる。…私たち、逃げれないかな?」
私は外の状況を知らないから言えるのかもしれない。だから、それでも無理だって言うなら素直に諦めよう。
でも、どうやら彼も諦めは悪いようだ。
「援護を貰えれば…なんとかなるかもしれない。魔獸のほとんどは、西の街には行ってるだろうから、もうこの一帯には、そこまでの数はいないハズ…。でも首輪は…」
やっぱり首輪…。でも何もしないなら、死ぬんだ。賭けてみるしかないじゃない。
「リュート…私の魔力はまったくないの。少しでも回復したら必ず力になるから…」
「魔力…そうか、魔力があればいいのか!」
リュートは、ちょっと待ってろ。って言って引き出しの中を漁って、三本の瓶を持ってくる。
「首輪を外すのは許さない。だからミナ、これを飲むんだ」
瓶の中には青い液体の中にうっすら光る草が浮いてる。
正直言って美味しそうだとは思えない。
「リュート、これ…怒る所かな?」
そう言った私は多分すごく笑顔。
何、あの得体のしれない液体!!
「な、違っ。これはマジックポーションだよ!わかるだろ!?」
「…?」
まったくわからない。そしてリュートは私がわかってない事に絶句してる。
「魔力を回復する薬だよ。いいから一本飲むんだ」
名前から大体想像ついたけど、その通りのものらしい。
ほら、早く。とリュートに急かされ仕方なく一本飲んでみる。
「けほっ……美味しくない…」
「竜の血とか入ってるからな。美味しいハズない」
血って…なんて物を飲ませるんだ、コイツ。
でもポワッと体の中に懐かしい感覚が戻るのがわかる。
「魔力が…少しだけ回復した…」
「…少し?いや、全回復するはずだけど」
そんな事言われても少しは少しだ。
とはいえ首輪を外して回復を待つよりはよほど多い。
「大丈夫。これならちゃんと魔法使える」
「ふむ…とは言え馬も逃しちまった。長期戦になるだろうから、もう一本飲んでちゃんと回復させとこう」
気は進まない…けど効果は本物のようだし、魔力はできる限り沢山欲しい。自然回復しないし。
「またちょっと回復したわ」
「なんで竜の血を使った最高級のマジックポーションが少しなんだ…」
仕方ないからもう、残った一本も飲んどけ。ってリュートが言うから飲んだ。
何回飲んでも美味しくない…。
けど…。
「1割くらい…魔力戻ったかな…?」
「1割…1割って…クロウ、何かミスったのかなぁ…」
クロウさんが作ってくれたんだ。このポーション。
リュートは不思議に思ってるけど私には心当たりがある。
多分…普通の、いや、かなりレベルの高い魔法使いでも全回復する薬なんだと思う。
けど…それでも私の多すぎる魔力には追いつかないんだ。城を半壊させても減った気がしなかったし、それから約1年もの間使いっぱなしで、おまけに魔王と戦ってやっと枯渇したレベルの魔力。
寝てもそんなに回復しなかったし…。
「リュート、大丈夫。信じて?私はリュートの予想よりずっと強い」
「ハァ…ミナがそういうなら…。実際にオレ、一人じゃもうどうしようもないしなぁ…後はオレの武器か…。二階に置いてあるのは普通のミスリルソードが数本…ちょっと物足りないけど仕方ないか…」
ミスリルって結構高くなかったっけ?それを物足りないって普段何使ってるんだろう…。
リュートに私の魔剣を使わせてあげれたらいいのに…。
そんな事を考えて、ふと思い出す。この世界に来たばかりの時に教え込まれた勇者について。
その中でも、未だ最強と名高い初代勇者パーティーと魔王の戦いの最後。
魔剣士…アウル…。もしかしたら私にもできるんじゃないかな?少なくとも魔剣を扱うことは下手かもしれないけど魔剣を召還する事そのものは私は魔剣士アウルも超えてると思う。
「リュート、試してみたい事があるの。手伝ってくれる?」
「ん?この状況だ。やれる事はなんでもやっておこう」
唯一、不安なのはこれをしたアウルが帰ってこなかったって事だけ。
私がどうなるか。それだけはちょっとわからないけど、リュートには伏せておく。
リュートの後ろに回って抱きしめるように彼の手に自分の手を重ねる。
「これから、召還をするから…召還された物をちゃんと掴んでね?」
「お、おう」
さて…どうやっていいかはまったくわからない。でも、昔できた人がいるんだからやれない事もないハズだ。
自分の魔力の…その中心に意識を集中すると剣が何百…何千本とあるのがわかる。きっと、これは私が召還できる剣だろう。
でも…こんなものじゃない…もっと奥深く…もっと集中して…。
こんな靄みたいな物じゃなくて…この中にきっと、ある私そのもの。
そして奥深くに…小さな、何も見えない闇があるのをやっと見つけ、私は躊躇わずにソレに意識を潜らせる。
「あった…!」
思わず声が出る。リュートの手が一瞬ビクッてしたけど、これからもっと驚いて貰うことになると思うと、ちょっといい気味。
ゆっくりゆっくりと闇の中にあった剣を引っ張り出し、同時に私にではなくてリュートに魔力を通して召還する。
体の一部を他の人に持っていかれるような気がしてすごく怖い…けど、リュートにならそれもいいかと思えてくる。
…他の人に同じ事は絶対できないな、これ。
「これは…?」
リュートの声が聞こえる。やっぱり驚いてる。でも、これが…リュートの新しい剣。
私が創ったリュートの為の剣。
「リュートに…私をあげる…!」
そして、私の真ん中にある私自身。
ゆっくりと召還された剣はやがてリュートの手に収まる。
「すごい…今までいろんな剣を使って来たけど…これほどの剣は見たことない…っと、ミナ!?」
「あはは…ごめんね…ちょっと疲れた…」
召還が終わった瞬間、力が抜けてリュートに寄りかかる。魔力はほとんど使ってないのに体力をごっそり持っていかれた。
「ん、大丈夫。いきなり力抜けてびっくりしただけ」
気を取り直して一人で立つ。少しだるいけど、問題は無い。
リュートの手を見ると真っ黒な柄と白銀の刃を持つ剣が握られてる。
「…綺麗。うまくいってよかった」
「ミナ…これは…?」
「んー…魔剣アウルと同程度の剣だとは思うんだけど」
「アウッ!?…え、いや。…え?」
言葉を喋れてないリュートに思わず笑いがこぼれる。
でも、もうそんなにゆっくりしてる暇はなさそうだ。
天井が崩れてきてる。
「ミナ、とりあえずよくわからない事の連続だけど話は後にしよう!外に逃げる!」
「きゃ…ちょ、ちょっと!?」
リュートは私をまたお姫様抱っこしだす。もう一人で走れるって!
「少し痛いかもしれないけど我慢してな?」
…へ?
そういうとリュートはいきなり部屋を出て廊下の窓から飛び降りた。
急にかかってくる重力。急いでるのはわかるけど、一言くらい相談しろ!
「上昇気流!」
言ってくれれば…ちゃんと、私がリュートを助けるから。
足元から強い風が吹き落下の速度が軽減される。彼は少し驚いたようだけどちゃんと着地してくれる。流石に運動神経いいなぁ…私だったら転んでる。そういう意味ではお姫様抱っこには感謝だけど…恥ずかしい。
やれやれ…私にも随分と余裕が出てきたものだ。
「…今の風…ミナが?」
どうしていきなり、喉と足が治ったのかもわからないけど、とりあえず今は戦える事に感謝する。
そう、私はこの世界に来た時から力があった、当初は元の世界に帰る為だけに使ってたけど、今はリュートを助けれるこの力に感謝する。
辺りには多数の魔獣。後ろで崩れ落ちる我が家。絶望的な状況なのにも関わらず、負ける気なんてしない。
「私は、勇者ミナ=ミヅキ。傾国の魔女ミヅキって言った方がわかりやすいかな?よろしくね、リュート」
ちなみに、ヒロインの名前は漢字で「美月 水奈」です。
本編ではカタカナでしか書かないとは思いますが。