二十話 魔王の思惑と現実
久しぶりの魔王さん登場……ていうか魔王視点です。
二十話まで来てなんか感慨深いです……ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
それでは、楽しんでください。
ある日、僕は天使と魔人を敵に回した。
それでも、一緒になりたい女性がいたからだ。
幸いにも僕の力は強いらしく他の魔人や天使に遅れを取ることがなく大好きな彼女と二人で歩いてこれた。
魔王を名乗ったのはいつからだっただろう。
魔人は魔王に従い天使も魔王に迂闊に手出しはしないと聞き、その称号を欲したんだ。
意義を唱える者と戦い勝ち続けて、遂に僕は自他共に魔王と認められる存在になった。
……けど、人間相手に戦争をしない魔王に威厳はなく誰も僕の言う事は聞きもしないし、魔人の軍勢を従えてない魔王なんて警戒に値しないらしく、相変わらず天使も襲撃してくる。
だから僕は人間と手を組もうと思った。
代々、人と魔王は血塗られた歴史を歩んできたけど、それは魔王による一方的な戦争行為から。
こちらから歩み寄ればきっとわかってくれる!
……なんて思ってました。
「ケーファー、ずっと南西にある街が魔王に滅ぼされたって~」
「どうしてそんな事になってるんだー!?」
一応言っとく。僕は何もしてない。
いや、一応その付近で戦った結果、魔獸を呼び寄せたかもしれないけど襲ってきたのは勇者だし。
「後ねー、イライザさんが人間にやられたみたい」
「……え?イライザって急進派のイライザ?」
うんー、と呑気な返事を返してくれる。
「魔獸の軍隊で街を襲って遊んでんだけど、やられたみたい」
イライザは結構、力のある魔族だったハズだけど……。
「まぁ、勇者も規格外な強さだしなぁ」
つい1ヶ月ほど前に戦った女の子を思い出す。
僕すら凌ぐ魔力。
僕の魔法すら消す剣。
反則的な強さだった。
「痛てっ!?」
「ケーファー、他の女の子の事考えてる!」
あまりにも強かった魔女の事を考えてたら隣にいる女の子に殴られた。妙なトコで勘がいい。
彼女はルーシー。
少しへっぽこだけど、天界に住んでいた天使で……僕の恋人だ。
魔人と天使は本来とても仲が悪いから絶賛駆け落ち中だったりする。
それを反対して襲ってくる魔人や天使を相手にて逃げ回ってるってわけさ。
……いいじゃないか、魔人と天使が恋したって!
ルーシーは僕のそんな気持ちも知らず膝の上に座って寛いでる。いつものスタイルだ。
ルーシーと僕は小さい頃から魔人と天使の領土の境界線付近で一緒に遊びにいってた。
魔天の境界線なんて普段は誰もこない。二人で思いきり走り回って遊んだもんだ。
その為、僕らは互いの常識がまざり合っている。
僕は魔人にしては闘争心が薄いしルーシーは天使としては魔人以外の種族を傷つけるのに抵抗が薄い。
ちなみに天使さんは魔人に対しては容赦ないです、はい……。
同種よりよほど怖い。
「ねぇねぇ、お腹減ったよー」
「あぁ、そうだねー。今日のご飯はどうしようか」
ルーシーの訴えに即答できないのが悲しいけど、そこは普通の駆け落ち中の男女なんだ。
食料もなければお金もない。
完全にその日暮らしである。
僕って歴代で一番貧乏な魔王なんだろうなぁ……。
◆
「美味しいねぇ、ケーファー。ケーファーはやっぱりすごいよぉ~」
ルーシーは焼魚を美味しそうに頬張ってる。
近くに川があったから試しに電力を流してみたら浮いてきた魚だ。
ハァ……塩も少なくなってきたなぁ。
魔人にも色々種族がいるが僕は運が良いのか悪いのか黒翼族と呼ばれる魔人の中でも強い魔力と黒い翼を持つ種族だ。
お陰で街に出ると「わぁ、魔人だ!」と言われて物すら売ってくれないしギルドで稼ぐ事も不可能。
最近では噂が広まってきたのか「わぁ、黒い翼の魔王だ!」とまで言われる始末。
ルーシーは焼魚にご満悦の様子でパクパク食べてるけど、もう少し良い物を食べさせてやりたい。
「どうにかして稼げないかなー、お金」
「んー、稼ぐのは難しいけど、いつもご飯は食べれてるからいいんじゃないかな?」
……へっぽこで抜けてても、僕はやっぱりルーシーが大好きだ。
小さい袋の中を見るとまだ小銭が幾らか残ってる。
明日、村で塩くらいルーシーに買って来て貰うか……。
◆
「ルーシーはお肉が食べたいです」
「……え?」
翌日、昼食にまた魚を食べた後、塩を買ってきて欲しい。と頼んだらそんな事を言われた。
「ルーシーはとってもケーファーに感謝してるよ。でも最後にお肉を食べたのはいつですか?」
……確か2ヶ月くらい前に罠にかかってた猪を見つけた時だ。猟師さん、ごめんなさい。
「確かに結構前だね……」
僕がそう言うとルーシーは笑顔になる。
「だからね……!無理だったら仕方ないけど、今日はお肉を探して欲しいなって。私もお塩買ってくるから」
「う~ん……わかったよ。見つかるかわからないけど、探して見るよ」
「本当!?ありがとう、ケーファー大好き!」
ルーシーは喜んで町のある方向に駆けて行った。
ルーシーが喜んでくれるならいっか。
少し大変かもしれないけど肉を探してみよう。運が良ければ野生の動物くらいは見つかるハズさ。
気を取り直して森の奥に進んでみる。川辺に水を飲みに来る動物もいるかもしれないけど、森の中の方が居る気がするじゃないか?
草を掻き分け耳を済ませて見る……あれ?何かの音が聞こえる……足音。……それも結構大きいのが複数!!
僕は獲物に向かって素早く滑空する。
無駄な殺生はよくない。近づいてちゃんと食べれそうか確認して仕留める!
翼を大きく動かし獲物の前に飛び出る。森は途切れていて、そこにあったのは街道。
……がっかりした。
目の前には驚いている男女が二人……計四人の人間。
……いくらお肉でも人間じゃなぁ。
僕は項垂れて森にまた入ろうとするけど人間達に呼び止められた。
「ま、待て、お前……!」
「あ、ごめんね。びっくりした?気にしないで。僕は森に戻るから」
「いや、その翼……お前、魔王だろ!?こんなトコに普通の魔物みたく飛び出してきたのにもびっくりしたけど、何より何事もなく森に帰るトコにびっくりしてるぞ!!」
……魔王だって生活してるんだ。そりゃばったり会う事もあるよ。
でも、やっぱり広まっるんだなぁ。魔王は黒い翼を持ってるって……ますます行動しにくいなぁ。
「魔王、貴方にとって私達は無視できない存在のハズです。そして、それは私達も同じ……貴方を見過ごす訳には行きません」
四人のうち女性の片方がそんな事を言ってくる。
……なんか嫌な予感しかしない。
「そうだ。魔王、オレは聖者カムイ。召喚されし勇者が一人!」
……また面倒くさいことになった。他の三人も次々と自己紹介をしてくれるけど、あまり聞く気はない。
「僕は魔王ケーファー。それじゃ、ごめんね。今、ちょっと忙しいから」
「ま、待て!魔王だろう!?オレ達は勇者だぞ!?」
森に入ろうとするとまたカムイさんが僕を呼び止める。
「魔王だって暇じゃないんだよ!!」
「な!?うむ……確かにそうかもしれん、すまん」
あれ?なんかカムイさん他の勇者と違って話せばわかってくれるタイプなのかもしれない。
……他の三人はカムイさんに、何納得してるんだ、お前。って詰めってるけど。
「ええい、うるさい!魔王を倒すのはこちらの都合!ならば、こちらが合わせるのが常識であろう!」
初めてだよ、僕の事をちゃんと考えてくれる人間は!!
「それで、魔王殿。何を急いでおられるのだ?」
「えっと、肉が必要なんだよ。今日の夜までに欲しいんだ」
夜か、なるほど、それは急だ。とカムイさんは、頷いてくれてる。
「よし!わかった!魔王殿、勝負は預けておく!またお会いしよう!さ、皆、村へ戻ろう」
あ~、やっと行ってくれたよ……。他の人は、カムイさんに抗議してるけどどうやら彼がリーダーらしくしぶしぶついていってる。
話のわかる人で良かった。
◆
あ~、駄目だ。お肉なんてやっぱり簡単には取れない。
そもそも村の近くだから動物少ないんだよなー、きっと。
食べるには小さすぎる動物なら何回か見たけど……。
ハァ……。ルーシー、笑顔で許してくれるだろうけど内心楽しみしてるんだろうなぁ…。
もう時間的に町から帰ってきてる途中であろうルーシーの期待を裏切るのは辛い。
「……う……の……ま…うど……!」
何か微かに聞き覚えのある声が聞こえる。
この声は……カムイさん?
僕は声の聞こえる方に翼を大きく広げ滑空する。さっきの街道のようだ。
「おぉ、魔王殿!探したぞ!」
「カムイさん?まだ肉が採れなくて今日は……」
カムイさんは僕の言葉を片手で遮りもう片手に持った物を手渡してくる。
「魔王殿、これでどうであろうか?町の人に譲ってもらったんだが……」
そこにあったのは肉の塊……それも三種類も……!
「な、カムイさん、これは……!?」
「良い良い、困った時はお互い様だ。しかし魔王殿、こちらは魔王殿の都合を叶えたつもりだが……?」
カムイさんの後ろを見ると他の三人も呆れた表情で立っている。
確か、戦いたいんだっけ?
手元にある肉をみる。
これならルーシーも大喜びしてくれるだろう。
彼は僕の都合に合わせて助けてくれた。なら、今度は僕が彼等に合わせるのは当然の礼儀じゃないか?
「わかりました……」
「おぉ!それでは一戦交えて貰えるかか!?」
僕は体中の魔力を解放し応える。なるべく殺さないようにはする…けど…。
「僕は魔王ケーファー。全ての魔人を超えた魔王。全力で相手になるよ」
僕の魔力を浴びて他の三人の目に少しだけ恐怖の色が見える。でも彼にはそんなものは欠片もなかった。
「はは……すごい魔力だ……すごいぞ、ケーファー殿!」
そして彼が高らかに宣言し戦いは始まる。
「オレは聖者カムイ!魔王を倒し、この国の王となる者だ!」
なるべく早く投稿しようとは思うのですが、これから少しペースが落ちるかもしれません。
一応、二日に一話…できれば一日一話くらいは出そうとは思いますが…orz