十四話 100家家族会議
総合PV1万人、総合ユニーク1000人と突破しました。
すごいのかどうかよくわかりませんが嬉しいです。
読んでくださってありがとうございます。
騎士になる事を定められた家。騎士として国に仕える事が当然の家。
オレが生まれたのはそんな家だった。幼い頃から訓練を必死でこなして年上の兄と互角の腕を持つオレに父さんはとても期待していた。
オレも父さんの期待に答えるべくさらに修行を積んだ。痛かったし疲れたけど……剣を使うのは大好きだった。
だけど、オレにとってソレは……父さんが、母さんが、兄さんが、妹が好きで頑張ってただけで騎士になるとかはどうでもよかったんだ。その事に気づいたのは14才の誕生日だった。
うちにはかなり大きな借金があったのだ。別に父さんが作ったワケではない……いや、正確には父さんも作ってたいた。だけど、それは先祖代々から積み重なる借金。うちは騎士の家系のため学校に通わず国に仕え子供が生まれたら惜しみない騎士としての教育をしていた。
その結果……金銭に疎くなったのだ。オレの上の兄も国の役に立てれば我が家の抱える借金など関係ないといっていた。
しかし、現実問題として払う宛がない借金を抱え、家はそう遠くないうちに取り潰されそうになっている。オレはその事に我慢ができなかった。騎士として修行しながらどうすればいいか必死で考えた。
その結果、金を稼ぐのに一番最適である職業、商人になると決めたんだ。
そして父さんは激怒してオレを勘当した。それでもオレは家族を救うために必死で頑張って金を稼いだ。
今は家の借金も全て払い終えたワケだが、その話はまた今度にしよう。
剣の腕もありお金は順調に溜まっていったけど……オレは寂しかったのだ。
元々、家族が大好きだった少年。それがいきなり世間に出て一人で馬車に乗り野宿をして暮らすのはとても辛い事だった。
どんなに仕事がうまくいってもオレは寂しい夜をすごしていた。
そんな時に出会ったのがハンスだ。最初は奴隷商人などまったく信用していなかったけど、彼が無理やりお前の為でもあると二人の奴隷をオレに買わせてきた。
オレが買わないと酷い貴族に買われると脅されては当時、甘かったオレには逆らうことはできなかった。まぁ、結果的にこの事には感謝している。
オレは良く危険な場所に赴きアイテムを仕入れてくる。そんな物に奴隷二人がいては間違いなく足手まといだ。だから王都の端に小さな家を借りてそこに二人を住まわせておいた。
そしてオレはまた仕入れに行く。一週間ほど経って王都に帰ってきたんだっけか?一応、自分の所有物である二人が気になり部屋を訪ねてみる。
……そこには三人分の食事があって、彼らはオレにお帰りといってきてくれた。
二人はオレに感謝してオレが紹介した商店で働いてソレが終わると毎日三人分……自分たちとオレがいつ帰ってきてもいいように食事を作ってくれてた。
王都に3日ほど滞在してまた出る時、いってらっしゃいと言ってくれた。
それ以来、オレは、二人の待つ家に帰るのが楽しみになっていた。
まぁ、それがランディとメリアだったりする。
それからしばらくしてオレはこの家を建てて自分たちの家として二人に家族になって欲しいと頼んだ。
まぁ、結果は今こうして一緒に暮らしてる通り。それから三人家族が増えた。みんな、元々ミナと同じ奴隷だ。
コレットだけは奴隷にされそうなトコを金銭で買い取った為違ったりするけど、まぁ、同じような流れだ。
血はつながってなくてもオレはこの家族を本当に大事に思ってる。
今回、心配をかけた事は本当に申し訳ない。だから包み隠さず起こった事を話そう。
◆
「まぁ、それならカリッツォさんが死んだと思うのも無理ないわね……。でも、生きてて本当に良かった」
居間の大テーブルに座ってみんなに今までの事を話終わったらクレアが一番に口を開いてくれた。わざわざ隣街からきてもらって申し訳ない……仕事もあっただろう。
ふと隣の席を見るとミナもちょっとびっくりしてる。まぁ、勇者云々の話を聞けば驚くか。
この世界の人が召還された事なんて今回が始めてらしいし。
「で、リュートの勇者としての能力ってなんなんだ?」
ランディの発言に場が凍りつく。ていうか、オレが凍ったから場が動かないのか……。
「いや……ない……」
「は?」
「いや、召還される前とされた後で変わったトコは見当たらない……」
レーナ様は類稀なる剣技とか言ってたけど、あれはオレが元々持ってたものだし……。
勇者ってのは召還された時点で一つの特殊能力が身につく。それがあるからこそ、魔物や魔獣……そして魔王相手に常人より有利に戦えるのだ。
初代勇者達もシグルドは近辺の魔物の動きなら見えなくても全て把握できたらしいし、大魔法使いアリスは魔法を使っても魔力が減らなかった。魔剣士アウルはその名の通り全ての魔力を打ち消す魔剣の召還。巫女カミナギは治癒術とは根本的に効果の異なるヒーリング。ファルスは自分や味方の姿を消せたそうだ。
「でも、あれから3日たつけど、まったく変わった事はない」
「あははは……リュートさん……らしいです」
メリアが気を使ってくれる。ちょっと泣きたくなるけど、いいじゃないか!勇者としての能力なんてなくったって!
「まぁ、かなり限定された能力って事もありますしね。例えば魔王相手に絶対無敵。とか」
クロウはクロウで気軽そうにとんでもない事を言ってくれる。まぁ、ありえない話ではないけど、魔王と会うまで一般人かよ。
「リュートが危ない事するのに、私は反対だなぁ……能力なんてなかったほうがいいよ、うん」
あぁ、コレット!一番年下なのになんてしっかりしたいい子なんだ!
ありがとうなぁ、コレット。と彼女の頭を撫でると嬉しそうに笑ってくれる。この素直さばかりはミナも上回る可愛さだ。
「ところで……リュート。私はそんなことよりも、そっちの彼女が気になるんだけど?」
あー……クレアさん、やっぱりそこで突っかかってきますか?クレアは家族の一員ではあるけど、ちょっと嫉妬深い。多分、付きっ切りで手を握って一緒に歩いてたのが気に食わないんだろう。
「言っただろう?ミナは右足が動かないんだ。一応、杖を使えば歩けるけど何かあった時の為に手を貸して歩いた方が安全だから手伝ってるんだ」
まぁ……そういう事なら。とクレアも一応納得してくれる。
「ミナの事は良ければみんなも手伝って欲しい。本人の意思もあるけど、家族の一員として迎えようと思ってるから……ミナも遠慮せずに自分の家だと思って寛いでくれ」
ミナはあの後、家族になる事を承諾してはくれなかった。とはいっても、家族の話を即決してくれたのはランディとメリアの二人だけだ。これからどうなるかはわからないけど、彼女がここに居たいと思ってくれる限り一緒に暮らして行く事になるだろう。
「よろしくね、ミナお姉ちゃん」
コレットがミナの傍までいってにっこり笑う。
うん、コレット可愛いぞ!……てミナも笑ってる!?うわー……オレに笑顔見せてくれた事なんてないよ、あの子。
シャルの実やお肉を食べる時、嬉しそうな顔を見たことは見たことあるけど、オレ自身に笑いかけてくれたことなんて一度もない。
コレットに続いて、みんなも歓迎してくれてる。部屋を用意しなくちゃな、どこが空いてたっけ?、ご飯の量一人当たり多く作る事になりますねー、もう少し大きいおなべ欲しいなぁ……。怪我したり具合悪くなったら遠慮なく言って欲しいな、僕ができるのなんてそれくらいだから。等々オレが加わらずとも勝手に話合ってくれる。
事実ここは全員の家だがオレが買った家である為、最初はランディやメリアでさえも遠慮がちであった。今では本当に各自自由に使ってくれて嬉しい限りだ。
「一応、ミナの部屋はオレの隣にしようと思うんだ」
なんか合った時に誰かが傍に居たほうがいい。クレアが不服そうだけど他の4人が納得してくれたし、それで決定でいいだろう。
「ミナ、おいで。こっちだよ」
またミナの手をとるとクレアがジト目で見てくる。睨まない分、ミナより優しいなぁとか思いつつ階段をあがっていく。ちなみに、うちは三階建てだ。
自分の部屋を通り過ぎ1個先……2階の端っこの部屋の扉をあける。
「ミナ、君の部屋だ。まぁ、自由に使ってくれ」
扉を開くとミナが中に入る。まぁ、部屋とはいっても何もない。多少質のいいベッドと簡単な棚があるくらいだ。
家族の食事代や生活費はオレが全額出している。というか、まぁ、家を守ってもらってるからそれくらい当然って言えば当然だけど。
ただし、それ以外は自分で稼いで貰ってたりする。ミナはちょっと事情が事情だし、どうしたらいいか迷う部分はあるけど、仕事を探す手伝いはオレもしよう。考えるのはそれでも駄目だった時からでいいだろう。
流石に右足と声のハンデはでかいからなぁ……。仕事といえば、なんか王宮からミスリルとってこいって言われてたか。
期限まではまだまだあるし、久しぶりに家でのんびりしてそれから終わらせてもいいだろう。
ミナはよたよた部屋の中まで入りベッドに腰をかける。そして……。
大きくオレに頭を下げてくる。
ありがとう。てことなのかな。
◆
いきなり奴隷として扱われ買われた先でこんなに普通に扱われるのは彼女はまったく予想していなかった。
それに……リュート達は気づいていないが、自分を家族として迎えてくれると聞いた時は本当に嬉しかった。
ここにいる人たちは多分、誰もがそれなりの過去を背負っているであろう。
父は消え母は逃げた。そんな自分と同じような過去を持っていてきっと、新しい家族を大切に思ってる。自分が家族になっても大事にしてもらえる。いや……多分、現時点ですでに大切に思われてるんだろう。
リュートは酒場でミナが泣いた時、何も聞かずに私に絡んできた人たちを殴り飛ばした。
その理由が、ここにきて彼女にもわかった。
リュートは……ハンスから私を買った時に、すでに私を家族と同等の扱いをしてくれてたんだ。
そう理解するのは彼女にとっても難しい事ではない。
短い旅だったけど、ミナはすごく優しくしてもらったのを実感している。
だから、今、自分にできる最大限の感謝をリュートに示したんだ。
「ようこそ、オレの……そして新しい君の家へ」
リュートは彼女の前に立ち頭をちょっと強めにくしゃくしゃ撫でる。少し迷惑そうな目をされたが振り払いもせずミナは大人しく頭を撫でさせてくれていた。