十三話 100の家にようこそ!
昨日のうちに投稿しようと思っていましたが時間が過ぎてしましましたorz
少し短いですが、良ければ読んでください。
「落ち着いたか?」
新しく頼んだシャーベットがテーブルに置かれる。
ミナはそれを手に取りスプーンで食べはじめる……けど、なんでずっとオレは睨まれてるんですか?
あの後、しばらくして彼女は顔を上げてそのまま、オレをポスンッと殴ってきた。
そして……よくわからないけど、怒ってる。
シャーベットはとりあえず機嫌取りに頼んでみたものだ。
ミナは怒ってるのではなく、ただ泣き顔を見られてどうしていいかわからないだけだったりするが、そんな事この時のオレにわかるはずがなく、彼女はものすごく不機嫌に見えるだけだった。
乱暴な事しすぎたかなぁ、と考えているとミナにスプーンを突きつけられる。
上にのってる一欠けらのシャーベットを見てちょっと安心する。
本当に彼女が何をしたいかわからない時はあるけど、彼女なりにオレの事は信用してくれてるみたいだ。
「ありがと、いただきます」
自然に笑いがこみ上げてくる。
口の中に入ってきたシャーベットは冷たくて美味しかった。
ちなみに、ぶっ飛ばした三人は他の貴族がせっせとどっかに運んでくれてた。感謝感謝。
◆
「さて、行こうか」
予想外に時間を食ったが予定通りに今日には家に行こう。
ミナをお姫様抱っこで馬車に乗せるが、やっと観念したのか今回は暴れなかった。
少し顔が赤くなってた気はするけど。ははは、可愛いヤツめ。
「リュートさん、王都で見かけた時は是非よろしくお願いします」
酒場で出会った冒険者や商人が次々と声をかけてくれる。あれから酒場はさらに盛り上がった。
オレの素性がばれたせいでギルドに勧誘されたり一緒に商売をしないかと誘われたりで大変だったが、それも酒場の醍醐味だろう。
ここからほとんどの人は王都に行く。
中には隣国へ行ったりする人もいてそっちの道に行く人も多数いるけど、オレの行く道はミナとオレを乗せた馬車一台だけだ。
ミナは他の商人に貰ったシャーベットに使っていた黄色い果実を食べてる。
……なんか、この子、食べてばかりじゃないか?
うん、でも言ったらまた叩かれる気がする。黙っておこう。
とりあえず何事もなく着きそうだなー。
オレの家の周りって何もないし。
リュートの家は王都から離れた場所にある大きな一軒家だ。
周りには本当に何もなく町どころか村ですらない。
ただデカイ家がポツンとある。
大きい家が欲しかったけど、当時そこまで金銭的に余裕がなかったから土地代のまったくかからない辺境に家を建てたのだ。
ちなみに、1時間ほど馬で西にいくとそこそこの規模の街がある為、一応生活には困らない。
馬車を走らせて数時間、ようやく地平線には我が家が見えてきた。
「ミナ、あそこがオレの家だ。見えるか?」
遥か遠くに見える我が家を指出す。
ミナはちょっと驚いた顔でこっちを見る。
まぁ、かなりでかいからな。下級貴族の屋敷並みの広さはある。流石にニーズヘッグ公の城みたいな屋敷には負けるが。
当時、自分の精一杯の金を出したからなー。と昔を懐かしむ。数年間住んできた愛すべき我が家だ。
ちょっと驚かれて気分がいい。
「…………!」
「おっと」
またポスン!と殴ってきたのを受け止める。自分の顔がにやついてるのがわかったからな。
なんか拳が飛んでくる気がする。ミナはちょっと驚いた顔をしてて非常に可愛い。
「そうそう殴られないさ」
殴られても痛くないけど……。彼女がとても納得いかなさそうだ。またぷいっとそっぽをむかれる。
ま、もう少しだ。流石に腰が痛い。どれだけ移動しても馬車の疲労っていうのは慣れない。ミナはよく我慢してると思う。顔には出してないけど、彼女も座りっぱなしで大分疲れてるハズだ。
一度、荷台で楽にしててもいいと言ったんだが首を振られたし、随分と我慢強い子だと思う。
他のヤツはオレと初めて馬車にのってオレの家に来るとき、みんな荷台で休んでたからなぁ。
ミナがずっと隣に居てくれたお陰で退屈を感じる事なく、楽しく帰ってこれた。
ハンスからミナを引き取って本当に良かったと思う。彼女ならきっと、オレの家でも……。
「……なんだ、あれ?」
いよいよ家の前に来ると庭に何やら不思議なオブジェを見つける。
2Mくらいの大きさの木で作られた十字架が地面に思いっきりささっているのだ。
家の誰かが作ったのか……?つか、なんだ、これ。まるで墓みたいな……ん、待て、墓?
「ミナ、ちょっとまっててくれ!」
ミナは首を傾げるけど、嫌な予感がする。とりあえず、玄関のドアを勢い良く開く。
「誰かいるか……って」
全員いた。
普段は西の街に暮らしてるクレアまでいる。で、全員こっちをとっても驚いた顔で見てる。
……予想通りか。恐らくはカリッツォか?多分、オレの行方不明……いや、雰囲気的にはむしろ、オレの死を知らせたんだろう。
一番小さい子、コレットが一番最初にオレに駆け寄ってくる。
「リュート!!」
「おっとっ……。ただいま、コレット」
「リュート、お前、よく無事で……!」
コレットが勢い良く抱きついてきて、ついでランディが駆け寄ってくる。
「クレア、久しぶり。こっちにきてたんだな」
「リュートが死んだって聞いて慌ててきたのよ……。びっくりさせないで、もう」
クレアは隣街で魔具屋で働いている魔法使い。1年前までウチにいたけど毎日隣街に往復するのはかなりの時間を要するから家を出てそこで暮らしている。たまに戻ってきてくれてるけど、オレも仕入れにいったりで会う時間は一番少ない。
後は奥で泣いてる女性とそれを慰める男……メリアとクロウ。メリア、よほど心配してくれたんだなぁ。
さて、勇者云々は他の人には隠しておきたいけど、この家の住人みんなにはちゃんと説明しないとな。
王都から一緒にきた、この子の事もある。
ミナが玄関からひょこっと顔を出してこっちを見ている。
「リュート、そのおねえちゃん、誰?」
「ミナ、こっちにおいで」
ミナはこくんと頷くとオレのトコによたよたと歩いてきて手を握る。
クレアが少し顔をしかめるけど、事情を話せば納得してくれるだろう。
「まずはミナに紹介しよう。彼らはオレの家族。ここで一緒に暮らしてる」
一番幼いコレット。活発な女の子で家族のマスコット的存在。
「コレットです!よろしくおねがいすます、ミナお姉さん!」
オレと同じ年のランディ。剣士をやっていて街で依頼を受けたり獣を狩ったり、時には近辺の魔獣と戦いこの家を守ってくれてる。
「ランディだ。まぁ、緊張する気持ちはわかるけど、気楽にしてくれ。ここにいる人はみんな、君と同じだ」
ランディの言葉にミナは首を傾げる。まぁ、追々説明しよう。
次にクレア。街の魔具屋で働く魔法使い。自分の魔法をみんなの役に立てたくて初めた仕事だが中々性に合ってるらしく経営者にも気に入られてる。
「リュート。その子、なんでリュートと手を繋いでるのかな?」
「あー、まぁ、事情は後で説明するから次に進ませてくれ」
ミナはオレの手を離そうとするがギュっと力を入れて握ってやる。もう!とクレアの声が聞こえるけど後回しだ。
クロウ。薬剤師だ。薬草を取ってきたり薬を調合したり知識と器用さはそこらの医者を上回る。
軽い怪我や病気なら街までいかなくても彼がなんとかしてくれる為、心強い。
「僕はクロウ。まぁ、薬の調合なんてものをしてる。何かあったら気軽に聞いてきてね」
最後にメリア。クロウの奥さんでランディの妹。少し前までうちの家事を全般的に受け持ってくれてたけど今はクロウの子供を身篭っているから、他の人と分担してやっている。もう少ししたらお腹も目立つようになるだろう。
「よろしくね、ミナちゃん。で、リュート、この子。もしかして……?」
「あぁ、うん。まぁ、大体予想はついてると思う。みんなに紹介させて貰うよ」
オレは彼女の手を握ったまま肩に手を置く。
「彼女はミナ。王都でハンスから引き取ってきたんだ。右足が動かなくて声も出せないから、何かあれば手伝ってやって欲しい、そして……」
少し深呼吸をする。うちの家族たちは一応もう何が言いたいかわかってるのだろう。歓迎ムードで迎えてくれてる。
意を決して口を開く。ミナ、怒らないかなぁ……。
「ミナさえ、良ければ…君もオレの家族の一員になって欲しいと思ってる」
彼女の顔は今までで一番驚いていた。
新キャラ一気に登場です。
そろそろ1章的なものが中盤に差し掛かってきたあたりだと思います。
まだまだ続きますがよろしくお願いします。